今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、梅崎靖志さんです。
「風と土の自然学校」は、環境教育のスペシャリストとして多方面で活躍されている梅崎靖志さんが2011年に立ち上げた自然学校で、その拠点は山梨県都留市にある古民家なんです。その古民家にご家族3人で暮らしてらっしゃる梅崎さんは、お米や野菜づくりなども行ない、循環型の田舎暮らしを実践してらっしゃいます。今回と次回は、そんな「風と土の自然学校」の取材リポートをお送りします。今回はその第1弾ということで、自然学校と田舎暮らしについてのお話ほか、種まきの体験リポートもお届けします。
●私は今、山梨県都留市にある「風と土の自然学校」に来ています。ここはのどかな自然がある農村集落の一角にあって、お寺や大きな杉があります。今回色々とお話をうかがうのは、風と土の自然学校の代表の梅崎靖志さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●今目の前にあるこの建物は、風と土の自然学校の事務所なんですか?
「ここは自宅で自然学校をやっていますので、住まい兼事務所ですね。」
●素敵な古民家なんですよね。この家の築年数はどのぐらいになるんですか?
「築年数は50年ぐらいなので、比較的新しいです。2階はワークショップができるスペースになっているので、自宅を拠点に自然学校の活動をやっています。」
●なぜこの場所で自然学校をやろうと思ったんですか?
「僕はずっと自然学校をしてきて、『自分の自然学校を作りたい』と思っていて、色々な場所を探していたんですね。そんな中、この山梨県都留市に空き家があることを友達が教えてくれて、見にきたら、『これはすごくいいところだな。ここなら僕がやりたいと思っていることができそうだ』と思って、決めました。」
●その“自分がやりたいと思ったこと”って何だったんですか?
「野菜を自分で作ったりして、“自分の手で暮らしを作ること”が僕のテーマなんですね。例えば、自分の畑や田んぼができて、自然の色々な恵みをいただいたり、集落の人たちから色々と教えていただいたりしながら、昔から人々がやってきた暮らしの知恵をみんなで学ぶ場所を作りたかったんですね。」
●今回はそういった自然暮らしのことやプログラムのことなど、色々とうかがっていこうと思っているんですけど、ここの自然暮らしといえば“食べるものを自分で作ること”が大きなポイントの一つですよね?
「私の場合は、耕さない・草や虫を敵としない“自然農”というやり方でやっています。そこで、今日はせっかくなので、“自然農”の紹介を兼ねて、種まきをしてみましょう!」
●それは楽しみです! よろしくお願いします!
※長澤は自然学校から畑に移動しました。
●私たちは自然学校の裏手に移動してきました。こちらが畑ですか?
「そうです。草むらのように見えますよね?」
●そうなんですよ! 私がイメージしていた畑とは違いました。
「これは川口由一さんという方が提唱している“自然農”という耕さない方法で作物を作っています。なので、一見、草むらなのか畑なのかよく分からないんですけど、畝があるので、なんとなく畑かもって思うかとしれないですね(笑)」
●畑っていう感じには見えないですよね(笑)。
「特に今は冬なので、春頃に収穫する豆類や小麦などがあるんですけど、緑がほとんど目立たないんですよね。」
●結構広いですね!
「これでおよそ300坪ですね。」
●今、何種類の種を植えているんですか?
「数えたことがないので分からないんですが、20~30種類じゃないかと思います。撒いているものはピーマンやナス、トマトといったおなじみなものもあれば、スイカやカボチャなどのツルもの、豆類などがあります。」
●「この植物とこの植物は一緒に育てた方がいい」とか「これとこれはダメ」ってよく聞くんですけど、自然農では関係ないんですか?
「“コンパニオンプランツ”というお互いに協力しながら育てる組み合わせがありますけど、それを意識しながら植えることも有効だと思いますね。あと、普通なら目的とする作物以外の植物は全部排除するかと思いますが、自然農の場合は色々な草が畑の中に生えているので、本当に邪魔にならない限り、雑草も残すんですね。なぜかというと、光を浴びることで、雑草が養分を作ってくれるんですよね。ということは、草はなるべく生やしておいた方が養分を作ってくれるんで、なるべく生やしておいた方がいいということになりますよね。それに、強い雨が降ったりしたとき、普通の畑だと土が流れてしまったりしますけど、草を生やしておくと土が流れないので、どんなに雨が降っても、翌日にはいつもと同じように作業ができるんですね。
私たちは、川口由一さんのやり方を参考にやっているんですけど、“耕さない・草や虫を敵としない・持ち込まない、持ち出さない”という考え方を基本しているんですが、実は森を育てるときと同じやり方なんですね。森って耕していないですよね?」
●確かに! 管理されている森もありますけど、土を耕したりしていないですね。
「普通はしないですよね。でもそうなると、土が固くなる感じがしますよね。でも、森の土ってフカフカじゃないですか。じゃあ、誰が耕してるんでしょうか?」
●そういわれて見れば確かにそうですよね!
「実は、人間が耕さないだけで、ミミズや色々な虫たち、細菌類などが土を柔らかくしてくれるのと同時に、草や木の根っこが伸びることによって、土が耕されるんですよ。例えば、草や木が枯れると根っこも枯れますよね。そうなると、そこが空間になって水や空気の通り道になります。それによってフカフカになるんですね。そのやり方を畑でやろうとしているのが自然農だと思っています。」
●そう考えると、自然ってよくできてますよね!
※実際に種まき体験をしました。
●これから種まきをしますが、私は今、鍬を持って準備をしています。どうすればいいんでしょうか?
「自然農の場合、鍬と鋸鎌と軍手があれば大体のことができます。あと剣先スコップという大きなスコップと移植ゴテという小さなスコップがあれば、ほぼ道具が揃ったことになります。」
●そうなんですか! その道具を使って今から種を撒くんですね。どうすればいいんでしょうか?
「それでは、畑の中に入ってください。今、畝の上に草が寝ている状態ですけど、この畝の上にある草の上に種を撒いてください。」
●今、土の上に草が覆っている状態なんですけど、この上に撒いちゃっていいんですか?
「はい。撒き方があるんですけど、目的とする作物と雑草が競争すると雑草の方が勝ってしまうので、雑草の芽が出ずに作物の芽を出したい場合、雑草の種を避けさせます。で、ここは耕していないじゃないですか。耕していなくて雑草が実をつけた種はどこにあるでしょうか?」
●この雑草の下ですか?
「そうです! 地面の上にありますよね。なので、地面の上に撒くと雑草の種も一緒に出てくるかもしれないじゃないですか。なので、この土を表面1センチぐらい剥ぎます。」
●草を掻き分けると、中から土が出てきたんですけど、土のいい匂いがしてきますね! 私、土の匂いが好きなので、落ち着きます。
「それでは草を掻き分けます。掻き分けて土を出します。表面の草を少し刈ってください。草を刈るときに鎌を差し込み気味にすると、綺麗に刈れます。」
●掻き分けると、ブチブチっていう音がして気持ちいいですね!
「種を撒くところだけ草を綺麗に取ります。そして、土の上に雑草の種が落ちているので、1センチぐらい削ってあげます。」
●見えないんですけど、あるんですよね?
「ありますね。」
●今土を削っているんですけど、小さい石とかあって結構大変ですね。
「それに、今は冬なので少し凍ってますね(笑)。土の表面を削ったら、表面の土を手で避けます。そして種も避けましょう。そして、鎌を3~5センチぐらい差し込んで、耕す感じで柔らかくしてあげます。これは何をしているのかというと、雑草の根っこの根切りをしています。それをすることによって根っこが切れて、作物の根が張れる準備ができました。
基本は草を抜きません。草を刈って、地面の上のものは上で腐らせ、地面の下のものは下で腐らせます。なぜそうするかというと、自然界ってみんなそうなっていますよね? 根っこが表に出てくるのって、がけ崩れとかが起きない限りないじゃないですか。地面の上に落ちた葉っぱとかは地表面で腐葉土となって腐りますよね。それと同じで、上に生えた草は刈ってそこに伏せてあげることで、養分が土に還っていくんですね。なので、抜いたりするのではなくて、刈ったり根切りをしたりして整えてあげます。」
●ここで自然界を再現しているんですね!
「“自然の営みをなるべく邪魔しないようにする”のが大切ですね。」
※「自然農は自然の営みを邪魔しないのが大切」だと教えていただきましたが、実際の種まきはどのように行なうのでしょうか?
「それでは、種を植えましょうか。」
●今回は何の種ですか?
「絹さやえんどうですね。」
●絹さやえんどうですか! 大好きです!
「これは秋か2月の中旬以降に撒くんですけど、実は今の時期だとちょっと早いですけど、撒いても問題ないので、これを撒いていただきたいと思います。今回は1ヶ所に3粒撒いていきます。」
●1粒がBB弾ぐらいで大きいですね。
「この3粒が入るぐらいの大きさの穴を開けます。そのときの土の厚さは種の厚みの3倍ぐらいの土がかかるようにします。なぜ3粒撒くかというと、一粒は大地に、一粒は鳥に、そして一粒は私に対して撒きます。もし、種が古かったりして、芽の出が悪かったりするかもしれないと思ったら、保険としてもう一粒撒きます(笑)」
●(笑)。保険かけなくても大丈夫ですかね?
「大丈夫です!」
●分かりました! 3粒ってどういう意味があるのかな?と思っていたんですが、そういう意味があったんですね! 三角形の頂点のようなところに穴を3つ開けました。ちょっと緊張しますね。では、一粒ずつ撒かせていただきます。一つは大地に。一つは鳥たちに。最後は私に。はい、撒きました!
「そして、土をかけてあげます。そのときになるべくしっかりと押さえてあげます。柔らかい方がいい気がすると思いますが、しっかりと押さえてあげることによって、乾燥しにくくなりますし、毛管現象で地面の中の水分が上がってくるんですよね。なので、しっかりと押さえて、土と密着させてあげた方が、種にとってはいいんですね。」
●芽が出るときに固すぎたりすることによって、出にくかったりしないんですか?
「大丈夫です。土が多少固くても芽はちゃんと出てきますし、根も張ります。」
●分かりました。ではしっかりと押さえます。
「絹さやえんどうはツルが出るので、支柱を立ててあげないといけないんですけど、今回は支柱の代わりに小麦の種を用意しましたので、小麦も一緒に撒きます。この小麦が伸びてきて、そこにツルが巻きついてくれると思うので、5・6粒撒いてあげます。小麦は土をたくさんかけなくても大丈夫です。少し隠れるぐらいでいいです。そして、その上に先ほど避けた草をかけてあげます。
なぜ草をかけるのかというと、色々な意味があって、一つは自然界においてがけ崩れなどが起きたとき以外に裸のところってないじゃないですか。だから草をかけておいてあげることで、自然に近い状態になるので、雨がたくさん降ったとしても土が流れていくことがないし、鳥たちが来たときに草をかけておいておくと見つけにくいので、食べられることを防げるんですね。よく豆を撒くときに『ハトに見つからないように撒く』ということをよく言われるんですけど、草をかけてあげることでそれを防げるんですね。そういった色々な意味があって、草をかけてあげます。」
※順調に豆まきを進めていきます。
●これぐらいで大丈夫ですか?
「はい、大丈夫です。上手にできましたね!」
●できたー! これで終わりですか?
「これで終わりです。」
●いつごろ芽が出てくるんですか?
「5月の半ばぐらいから収穫ができるんじゃないかと思います。自然農の場合、水やりとか特にしないんですね。」
●そうなんですか!? このままでいいんですか?
「いいんです。普通は水をやったりしますよね。でもそれをしてしまうと、作物も水がくるのを期待しちゃうんですよ。そうすると、水を自分で探しにいかなくなるんですよね。なので、あえて水を与えず、今、土の中にある水だけでやりなさいという風にしておくと、根が伸びるんです。だから、根を伸ばすためにも、水を与えません。そうすると、日照りが多少続いても自分で水を集めることができるので、かえっていい方向に行くんですよね。」
●夏場に雑草などを刈ったりしないんですか?
「確かに夏場になると草がかなり生えてきます。主役は作物なので、雑草と作物が競争すると作物が負けてしまうので、競争になってしまうところの草は刈ります。そのときは全部刈らずに、半分だけ刈ります。なぜ半分だけなのかというと、虫の居場所を作るためなんです。」
●虫を避けるんじゃなくて、虫の居場所を作るんですか?
「そうなんです。虫も、害虫と益虫とただの虫の3つに分かれますけど、害虫ばかりが増えるとすごく困りますが、大体は虫が増えることで、害虫以外の虫も増えるんですね。生態系のバランス的に考えても、色々な種類の虫がいる方がバランスを取りやすいですよね。」
●虫がいたら全部避けないといけないって思っていたんですが、そんなことないんですね。
「そうですね。種まきは丁寧にやりますけど、大きくなったら自立できるようにサポートをします。これって子育てと一緒ですよね。」
●甘やかしすぎちゃダメってことですね?
「小さいときには大事に、ある程度大きくなったら自分で色々なことにチャレンジしていけるようにしますね。」
●種まきを無事終えまして、学校に戻ってきました。実際に土を触って、幸せな気持ちになりました。
「土を触ると、すごくリラックスしたり、大地に足がつく感じがしますよね。」
●それは私にすごく必要です!(笑) 田舎暮らしをしていると、畑仕事があったり、一年間にやることが色々とあるんじゃないですか?
「そうですね。よく田舎暮らしを“スローライフ”といわれますけど、スローライフは忙しいんです。田舎暮らしって、自分の手で自分の暮らしを作らないといけないじゃないですか。そうすると、種を撒いたり草を刈ったりするだけじゃなく、僕の奥さんがやっていることですけど、自分で使う酢を柿で作ったり、大根を刻んで干すと切干大根ができるので、干したりしています。そうすると、買ってくることもできますが、買う代わりに自分で作るんですね。そうなると、やることがたくさんあるんですね。ただ、それは『忙しくて大変!』ということではなくて、“自分の手で自分の生活に必要なものを作る”ということが楽しいことだと思うので、忙しさと同時に楽しさもあるんですね。」
●そうですよね。季節毎に楽しみがあるんですね。例えば、春はどのようなことをするんですか?
「春は種まきの時期なので、種まきをします。その時期は花が咲いてきますし、僕は趣味でハチを飼っていますので、ミツバチがミツを一生懸命集めだすんですよね。そこからもう少しすると、梅が咲いてきますので、梅ジュースや梅酒を作ったり、田植えもありますので、日程を決めて田植えをすると、その時期はすごく忙しくなりますね。」
●そこから夏に向けてはどうですか?
「草の勢いが強くなってきますので、畑の野菜が草に埋もれないようにしないといけないので、7月の上旬ぐらいまで草の管理をしっかりとしてあげないといい芽が育たないので、草とのやり取りをします。そして秋になってくると、稲刈りもありますし、柿がなってくるので、柿を取って干し柿や柿酢を作ったりします。そうやって、季節の実りに応じて仕事が出てくるんですよね。」
●季節の実りに応じてやっていくのって素敵ですよね!
「自然の営みに応じてやっていくというのがいいですよね。逆をいえば、一年に一回しかできないんですよね。お米も一年に一回しか作れないじゃないですか。だから、米作りのプロの方でも、今60歳で20歳のころからやっていたとしても40回しか作ったことがないっていうことになりますよね。そういう意味で、梅干を作るとなったとき、80歳まで生きるとしても30~40回ぐらいしかできないんですよ。
だから、毎年の出来事を大切にしながら生きていくことで、暮らしの質も豊かに楽しくしてくれるんじゃないかと思いますね。その楽しさを自分で体感するのはもちろん、そういうことに興味があるけど、どこから手をつければいいのか分からないという方がたくさんいらっしゃるので、そういう方たちのための取り組みも自然学校でしています。」
●自然学校のプログラムはどんなものがあるんですか?
「今の時期だと、4月から年間12回の連続講座があるんですけど、それは自然農をベースにしながら、自分の手で循環する暮らしを作ることをやっていきます。例えば、畑のことだけじゃなくて田んぼのこともそうだし、木で暮らしに必要な道具を作ったり、糸を紡いだりすることをそれぞれの専門の先生と一緒に体験しながら学んでいきます。その体験会が3月8日(土)と23日(日)にありますので、自然農や田舎暮らしに興味がある方には、そのときに色々な体験をしていただくことができます。」
「自分の手で自分の暮らしに必要なものを作るのは楽しい」とおっしゃっていた梅崎さんのお言葉と、その時のキラキラとした表情が、とても印象的でした。自分の生活を振り返ってみると、今自分の暮らしに必要なもののほとんどが買ってきたもの。今までその事に疑問を感じたことはなかったのですが、出来るところから自分の手で作ることが出来たら、これまでとは違う豊かな生活を送れるのかなと、梅崎さんの素敵な笑顔を見ていると強く感じました。
風と土の自然学校では「自然農と手づくり循環生活」の実践講座を、年間を通して行なっていますが、3月に自然農の基本がわかるミニ講座と年間講座の紹介を兼ねた体験会が行なわれます。
◎開催日時:3月8日(土)と23日(日)のいずれも午前10時から午後3時半まで
◎定員:12名
◎参加費:1,500円
◎アクセス方法:新宿駅から高速バスで90分、車の場合は中央道・都留インターからすぐ、電車の場合は富士急行の都留市駅から徒歩18分
◎詳しい情報:風と土の自然学校のブログ