今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンは、アフリカ・タンザニアで生まれた絵画“ティンガティンガ”にフォーカスします。サバンナの野生動物や豊かな自然が色鮮やかな原色で描かれる“ティンガティンガ”。先日、横浜のギャルリーパリで開催されていたティンガティンガ・アートの原画展の主催者・島岡強さん、奥様の由美子さん、そしてアーティストのアバースさんに色々お話をうかがってきました。
●今回は、横浜市中区にある画廊“ギャルリーパリ”で開催されていたアフリカを代表する現代アート“ティンガティンガ原画展”の主催者・島岡強さん、奥様の由美子さん、そして、ティンガティンガ・アーティストのアバースさんにお話をうかがっていきたいと思います。早速ですが、“ティンガティンガ”というアートは1960年代にタンザニアで生まれた絵画だということですが、その特徴を教えてください。
アバースさん「まず“ティンガティンガ”という名前は“エドワード・サイディ・ティンガティンガ”という方が描き始めたから、そう呼ばれるようになりました。エドワード・サイディ・ティンガティンガさんは6色のペンキを使って描いたんですが、その6色とは“黒”・“白”・“緑”・“黄色”・“青”・“赤”です。今でも、その6色のペンキを使って、混ぜ合わせながら描いています。赤と白を混ぜればピンクが出るので、ピンクを使いたいときはそれで出して描いていくといった感じで、自分たちの好きな色を作って描いていきます。それがティンガティンガの特徴ですね。
ティンガティンガさんは早くに亡くなってしまったんですが、その弟子であるアーティストたちが引き継いで、それをさらに下の世代に教えていってくれたおかげで、たくさんのティンガティンガ・アーティストが育ち、今でもタンザニアのことを描いて、その絵を世界中の人に見せています。」
●元々はティンガティンガさんが始めたアートがどんどんと広がって、今では総称して“ティンガティンガ”と呼んでいるんですね。
アバースさん「そうですね。ティンガティンガさんの流れを汲んで6色のペンキを使い、タンザニアの自然や動物、人々の生活などを描いて、世界中の人に知らせていくという気持ちを持って描いている人たちがティンガティンガ・アーティストです。」
●使うのは絵の具ではなく、ペンキなんですか?
由美子さん「そうですね。エドワード・サイディ・ティンガティンガさんは建築作業員だったので、『絵を描きたい』と思ったときに、身近にあったのが天井の板だったんですね。そして、身近にあった色がペンキだったんです。そこで、そのペンキを使って建築資材に絵を描いたのが始まりなんですね。」
●6色から生まれているとは思えないぐらいカラフルですよね。アバースさんみたいに淡い色を出す人もいれば、原色のままを使う人もいたりと、色々なタイプのティンガティンガがあるんだと感じたんですが、それもティンガティンガの特徴なんですか?
由美子さん「そうですね。ティンガティンガさん自身が絵を習って描き始めた人ではなく、描きたいと思って描き始めているので、遠近法を習っていないし、配色を習っていないので、誰かに教えるときも『まずは自分の絵を模倣してみろ。その絵が描けるようになったら、好きなように描いていけ。ただ、その中でタンザニアのものを描き、見てくれる人たちにタンザニアのことを知らせていくという気持ちで描くんだ』ということを教えていたんですね。最初に鳥の描き方などを教えてもらって、描けるようになったら自分の作風を決めていくというのが、ティンガティンガ・アートの大きな特徴ですね。」
※今回、ティンガティンガ原画展を主催された島岡強さん・由美子さんご夫妻は、1987年にアフリカへ渡り、タンザニアのザンジバルを拠点に“地元の人たちの雇用を増やし、経済的にも精神的にも真の独立が出来るように手助けをする”という志のもと活動されています。ティンガティンガも、おみやげ物として売られていたものを、アートとして世界に広めるためのサポートをしています。そんな島岡さんは、他にどんなことをしているのでしょうか?
島岡さん「主にやっている仕事は、漁業とタンザニアの製品を日本に輸出する貿易ですね。タンザニアに限らず、アフリカの製品は原材料として先進国に売られるんです。例えば、タンザニアだと、コーヒーの生豆を先進国に売って、先進国で加工されたコーヒーを何倍もの金額で買うんですよね。綿花も原材料のまま売って、先進国で作られた洋服を何倍もの金額で買ってるんですよ。そういったところを根本から変えていかないといけないと思って、13年ぐらい前にバラカ”という会社を作って、タンザニア製品の輸出、そして日本での販売を行なっています。」
●漁業というのも気になるんですが、具体的にはどういったことをやっているんですか?
島岡さん「今から26年前に“アフリカ独立革命”の拠点を見つけようと思って、タンザニアのザンジバルに行ったんですけど、そのときに俺の周りに集まってきた地元の漁師たちから『船が無いから漁に出られない。船を作ってくれないか?』と頼まれたから始めたんですよね。そういった感じで、漁業や運送業をやって、地元の人たちの雇用を増やして、今では両方合わせて200人ぐらい雇っています。“自分たちで働いて家族を食べさせていき、自分たちの周りの環境を考えてもらうようにすることで、村や町、そして最終的には国を変えていく”のが“アフリカ独立革命”なんですよね。」
●ザンジバルでの暮らしについて、由美子さん教えていただけますか?
由美子さん「家から20分ぐらいのところにある市場に毎日買い物に行きます。そこからザンジバルは世界遺産になっているんです。なので、私は毎日世界遺産の中で買い物をしていることになります(笑)。住んでいるのは公団のアパートなんですけど、そこの4階に26年間住んでいます。そこに住み始めたときから今も変わらずなんですが、水がほとんど出ません。水がすごく不足しているので、水道から水がほとんど出ないので、1階にポンプを付けて、1階にある水道管に水が来たときに汲み上げて、家の中にあるバケツやドラム缶に溜めておいて、それを日々使っています。
でも、それは驚くことではなくて、ザンジバルの主婦はみんなそうやっているんですね。だから、水汲みが生活の中で一番時間がとられることですね。5日から1週間、酷いときは10日以上、水道管にも水が来ないので、その場合は売りにくる水を買ったりしています。」
●日本にいると、蛇口をひねればすぐに水が出てくるじゃないですか。そういう状況だと、水のありがたみってすごく感じますよね。
島岡さん「あとは停電ですね。なんの前触れもなくいきなり電気が切れるので、パソコンなどが使えなくなるので、仕事ができなくなるんですよね。でも、電気があるのが街中だけなので、現地の人たちはそれほど苦にしていないんですよね。」
●そういったところが、日本での生活と違うところなんですね。
由美子さん「そういった地域がたくさんあるので、日本では何でもあることが当たり前になっていますけど、日本以外のところは、そういった生活をしているところがたくさんあるんだなと思いましたね。」
●ザンジバルに住んでいてよかったと思ったときは、どんなときですか?
由美子さん「それはやっぱり“海の青さ”ですね。そのときにしか見られない色合いがあるので、あんなにキレイな海は見たことがないです。」
●私は写真でしか見たことがないんですけど、言葉では表現しづらい色ですよね。強いて言えば、エメラルドグリーンですかね。
由美子さん「そうですね。それに濃いブルーのところもあるので、今まで写真でしか見たことがない美しい海がいつも見られるという幸せをいつも感じています。」
※ザンジバルに26年間生活している由美子さんは、日々の生活でどんなことを感じているのでしょうか?
由美子さん「今の日本と大きく違うのが“人々の挨拶”だと思うんですね。向こうはスワヒリ語で“ジャンボ!(こんにちは)”っていうんですけど、知らない人同士なのに挨拶をしたり、子供たちも大人を見れば挨拶をします。でも、今の日本だと『知らない人に挨拶したら、危ないからダメ!』って教えてるじゃないですか。ザンジバルでは、『誰にでも必ず挨拶をしなさい。挨拶をしない人はよくない』と教えてるんですよね。なぜそう教えるのかというと、“今会ったら、明日会えるかどうか分からないから”なんですよね。実際に『お腹を壊している』と聞いただけでも、翌日には亡くなっていたりしていることがたくさんあるので、誰にでも挨拶するんだと思いましたね。」
●アバースさんも必ず挨拶をするんですか?
アバースさん「そうですね。いつ会えるのか分からないので、挨拶は一番大事だと思います。タンザニアの人は朝起きたら必ず“おはようございます”から始まります。それが知らない人でも必ず言います。」
●今、こうやってお話をうかがっているときにもアバースさんと目が合うと、必ず笑顔で微笑んでくれるんですよね(笑)。そういったところも、タンザニアの方の心の温かさなんですね。
由美子さん「人懐っこいし、笑顔がたくさんありますね。」
●最後に、番組を聴いてくださっているリスナーの方、そして日本の方にメッセージをお願いします。
島岡さん「アフリカは日本から遠いですが、タンザニアにもこういった素晴らしいアートがありますし、キリマンジャロや色々な動物公園、そして、ザンジバルのキレイな海があります。それに、日本からの飛行機の便も増えていて、今日の夜に出たら、明日の夕方には着くんですよね。だから、思ったより遠いところじゃないので、気軽に来ていただいても楽しめると思います。実際にアフリカに来て『価値観が変わった』っていう人も結構いるので、是非ともたくさんの人に訪れてほしいと思います」
由美子さん「“ジャンボ!”という挨拶の言葉と“アサンテサーナ!”というお礼の言葉を覚えれば、アフリカで友達ができると思うので、アフリカは遠いところだと思わずに、“いつか行ってみたいところ”だと思っていただけたらいいなと思います」
アバースさん「タンザニアにいても、日本の方が一番ティンガティンガのことを好きになってくれているような感じが伝わってきているので、これからもティンガティンガ・アートをたくさん見て、好きになってほしいです。そして、是非タンザニアに来てください。アサンテサーナ!」
今回、初めて生でティンガティンガを見たんですが、見ただけでハッピーになれるアートでした。これはきっと、その色使いがカラフルなこと。そしてたくさんのアフリカに生きる動物や植物がモチーフになっていること。さらに、描き手であるティンガティンガ・アーティストの方の、温かい気持ちが込められているからなのかもれません。是非一度、皆さんもティンガティンガ・アートの世界をのぞいてみて下さい。
ティンガティンガがどんなアートなのか、そして、ティンガティンガ・アーティストのアバースさんの描いた絵を見たいという方は、是非、ティンガティンガ原画展の主催者・島岡強さんの会社「バラカ」のオフィシャル・サイトを見てください。アバースさんの絵はもちろん、他のティンガティンガ・アーティストのプロフィールや作品がたくさん載っています。ティンガティンガの歴史も分かります。また、島岡さんご夫妻の活動の記録も掲載されていますし、ご夫妻のタンザニア・ザンジバルでの活動や暮らしぶりを書かれた由美子さんの本「我が志アフリカにあり」の購入方法もチェックすることができます。なお、この本は同じタイトルで続編も含め、2冊出ています。