今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、矢口史靖さんです。
現在大ヒット上映中の映画「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」。この映画には、染谷将太さん、長澤まさみさん、伊藤英明さんといった、人気も実力もある俳優さんが出演してらっしゃるのも話題になっていますが、自然や環境をテーマにお送りしているこの番組としては、「林業をテーマにしたエンターテインメント映画がついに登場したのか!」という驚きがあり、是非とも監督の矢口史靖さんにお話をうかがいたいと思いました。というわけで、今回はそんな矢口監督に、映画の撮影秘話や、今だから話せる監督自身の体験談などをたっぷりうかがいます。
●今週のゲストは、先日全国公開されたばかりの映画「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」の監督・脚本を手がけられた矢口史靖さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●今回の映画のテーマは“林業”ですが、なぜ、林業をテーマにした映画を撮ろうと思ったんですか?
「今回、初めて原作モノにチャレンジしました。原作は三浦しをんさんがお書きになっているんですが、都会の若者がなぜだか林業の世界に入ることになってしまい、色々と厳しい環境の中で仕事を覚えていき、成長していくという物語なんですね。その小説を読んで、『これをどうしても映画化したい』と思って、初めて小説を原作にした映画を作りました。」
●初めてのことだったんですね。
「そうなんです。今まではずっとオリジナルでやってきました。色々と調べたり、あちこちに取材をして集めた面白いエピソードをシナリオ化するというやり方でずっとやってきたんですが、今回の小説は、驚くほどに僕のハートにきたんですよね。そこで『他の監督には絶対に渡さないでください!』と強くお願いをして実現しました。」
●まさに“運命の女性に出会った”感じですね!
「だから、それまで色々なお見合い写真を見てきてもはぐらかしてきましたが、今回開いた瞬間に『結婚を決めました』と突然言ったような感じですね。」
●私も映画を拝見しましたが、ただ面白いというだけではなくて、今まで知らなかった林業のことがすごく丁寧に描かれているということを感じたんです。どんな風に取材したんですか?
「今回、小説を読んで『まず取材に行こう』と思いました。その取材をするための目的地なんですが、小説の中に出てくる神去村って、実在するんです。三浦さんのおじいさんが林業をやられていて、おじいさんたちが住んでいたのが三重県津市の美杉町なんです。そこに取材に行こうと思って、9ヶ月間ほど取材をしました。そこで出会った林業家の方々のお話を聞いたり、作業風景を見たり、新卒の研修制度で(新人が)入ってきたりしていたときには、その若い人たちにお話を聞いたり、僕自身が体験した変な事件を面白い順にして、脚本作りをしました。」
●監督自身が取材を通して体験したことが、今回の映画の中に盛り込まれているんですね?
「かなり盛り込んでいます。」
●そうなんですね! その体験をネタバレしない程度に教えていただけないですか?
「まず、村に入ってすぐに携帯をトイレに落としてダメにしたりしたんですけど、映画の中で一番分かりやすく描かれているのが、主人公の勇気君がヒルに股をやられるというシーンが出てくるんですが、あれも僕の実体験なんですね。
ここからが核心部分なんですが、実際はヒルじゃなくてマダニでした。マダニが僕の御神木に刺さりました。知っている方も多いと思いますが、マダニからの感染症で死に至ることもあるという危険なものなんですが、マダニはハチみたいに刺したらすぐいなくなるというものではなく、ずっと噛み続けて居座るんです。
最初の3日間ぐらいは違和感があったんですが、見えない場所にいたせいで気づかなかったんですよ。しばらくしてマダニが刺さってることが分かって『焼けば死んで取れるんじゃないか』という曖昧な知識があったので、泊まっているホテルのロビーからマッチを一箱借りて自分の部屋に持っていって、マッチを一度擦ってから火を吹き消し、燃えた軸でマダニを焼こうと思ったんですね。一箱全部使って焼いたら、真っ黒に焦げて死んだんですよ。でも、死んだまま取れなくなってしまったので、東京に帰って病院に行ったら『感染症にかかっていると危ないので、血液検査をしましょう』と言われてしまったんです。採血されて、その後、2針縫いました。結果は問題がなかったんですが『このエピソードを使わないのはもったいない』と思いまして、映画の中でヒルに置き換えて使っています(笑)」
●その事件がどんな風に生かされているのか、是非とも劇場でチェックしていただけたらと思います(笑)。
「今日聴いていただいた方は、この話を思い出しながら、そのシーンを見てもらえたらと思います。」
●今回、キャストの方々が作業をやっているシーンもすごく印象的だったんですが、あれを撮影するのって大変だったんじゃないですか?
「クランクイン前に、染谷将太さんと伊藤英明さん、マキタスポーツさんにはチェーンソーと斧の使い方と高い木に登ることを習ってもらい、ほぼ無理なくこなせる状態になってから撮影に入りました。でも、高い木に登ることに対して、伊藤英明さんが渋ってましたね。」
●そうなんですか!?
「海猿シリーズでヒロイックな人命救助の活動をしていましたけど、『深く潜るのはいいけど、高いところに登るのがちょっとね・・・』っていって、意外と高いところが苦手みたいなんですね。今回、30メートルぐらいある杉の木に登るシーンがありますが、染谷将太さんの方が早く登ってしまったんですよ。映画で伊藤さんは、新人である彼を懲らしめる先輩の役なので、登るしかないんですよね。なので、登ってくれましたけど、登ったら登ったでカッコいいので、『伊藤さんすみません、そこで片手でブラーンってしてみてください』っていうキツイ要求をしてしまったんですよ(笑)。ですが、お芝居の上では怖そうな表情とか見せないので、“役者根性はすごいな”と思いましたね。」
●そうなんですよね! このシーンも是非皆さんに見ていただきたいと思いますが、そんなことを全く感じないですよね。
「あのシーンは俳優さんも大変でしたが、撮影するカメラマンさんも大変だったんですよ。伊藤さんと染谷さんが登っている木を下から見上げて撮ってしまうと、林業家の人を見学している人の目線になってしまうんですよ。そうではなく、『林業家の方は、仕事では普段どういう景色が見えているのか』というものを見せるために、カメラも同じ高さまで上がることにしました。でも、それがとても怖かったんですよね。僕、実は高所恐怖症で、高いところが苦手なんですが、そこに行かないといけないので、人が乗れるゴンドラがついたクレーン車に僕とカメラマンとカメラを乗せて30メートルの高さまで上げてもらって、あの景色を撮影しました。僕は死ぬかと思いましたが、俳優さんたちにさせてるのも僕だし、この映画を撮ろうといったのも僕なので、我慢しました。結果的には、ああいう素晴らしいシーンになったので、よかったなと思います。」
●そのシーンは、見てて鳥肌が立ちました! 「あの高さから森を見ると、あんな世界が広がっているのか」と思いましたね。
「身近にいそうだけど、その実態を全く知らなかった林業家の普段の仕事がどういうものなのか、ちゃんと見えるように撮れた気がしています。そして、樹齢105年の杉を切るシーンがあります。それは伊藤さんが中村林業という会社の中でリーダー的な存在で、その大木を切るんですけど、実は撮影のときに、切ってもいいと言われていた杉が1本だけだったんですね。撮影のとき、普通は俳優さんがNGを出したらTAKE2があるんですが、そのときは本番1発勝負でした。なので、伊藤さんも非常に緊張していました。その緊張感が顔に表れていたんですが、だからこそ、半分ドキュメンタリーのような張り詰めた空気が映像に残っていて、木もちゃんと切り倒せたので、素晴らしいシーンになったと思います。」
●実際に林業をやっている方もそれだけの木を切るときはおそらく緊張するでしょうし、気合が入りますよね。
「だから、林業家さんがそういう大木を切るときはお塩とお酒を必ずお供えして、頭を垂れてから切るそうです。自分の年齢よりも長く生きている木の命を絶つことに対して、とても神聖なものを感じているらしく、僕らも撮影のとき、お塩とお酒をお供えしてから切りました。
林業家の方たちが普段切っている木は自然林ではなく、代々受け継いできた樹齢100年以上の杉やヒノキなんですが、自然の一部の命を切ることになるので、山に入るときには小さな石のほこらのようなものに手を合わせたり、大木を切るときは、お塩とお酒をお供えすることを欠かさないでやっているようです。」
※映画「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」のクライマックスにお祭りのシーンがあるんです。そのシーンについて、矢口監督にうかがいました。
「ネタバレしない程度にお話しますが、いくら話しても、聴いた人の想像を超える映像が出てくると思います。物語上では“千年ヒノキ”という設定の木なんですが、それを切って倒して削って、あんな形にしてあんなものにぶつけるということを、CGを使わずにやりたかったので、苦労も多かったですが、お祭りシーンだけで1週間かけて撮影しました。その結果、あんなことになりました(笑)」
●どんなことになっているのか、これを是非、映画館で確かめていただけたらと思います(笑)。あのシーンを見ていて、“お祭り”というものに対する山の男たちの熱い想いが、男らしくてカッコいいなと思いました。
「日本のお祭りって、地方で色々なものがあって、それぞれバラバラなはずなんですけど、“五穀豊穣・子孫繁栄”という目的のおかげでもあると思いますが、男性のシンボルや女性のシンボルが祭られているお祭りって結構あるんですよね。今回はそれを超巨大にしました。なぜなら、中途半端な大きさだと、逆にいやらしいかなと思って、『ここまで大きかったら笑うしかないよ』っていうぐらいの大きさにしました。そのせいで、スタッフはとても苦労したんですけど、それをCGを使わずに、ふんどし姿の裸の男たちが重たいやつを押して、筋肉が隆起して汗が吹き出るというお祭りの臨場感が出せたので、その迫力が観ている方にも伝わると思います。」
●美杉村で過ごしてみてどうでしたか?
「キャスト、スタッフ全員が“美杉リゾート”というホテルに合宿状態で宿泊して撮影に挑んでいました。朝、ホテルを出発し、車で1時間ぐらいかかるロケ地に行って撮影を始めるんですが、ロケ地には携帯の電波が届かないので、暇な時間があると、スマホで何かを調べるとかtwitterをチェックするといったことが一切できないんですよ。その結果、村人とキャスト、スタッフが話をするようになって、仲良くなっていたんですね。少し前の日本ではそれが当たり前の光景だったはずなんですけど、本当の神去村がそこに存在していて、気づいたらみんなが仲良くなっている場所に行けてしまった気がしたんですよ。」
※映画「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」の取材を通じて、林業の色々な面に触れた矢口監督は、林業に対するある想いを、登場人物のセリフに込めたそうです。
「中村林業の親方の清一さんが車の中で勇気君に『自分たちが普段切ってる大木は、自分たちのおじいさん、ひいおじいさん辺りの人たちが植えた木で、植えた人たちの顔も知らないんだ。それを切って、市場に出して、生活の糧にしている。そして、自分たちが普段植えている小さな苗が大きくなって、切られるときには自分たちが死んでいて、子や孫、さらにその先の世代の人間たちが切る。でも、その成果を見ることはできない。だから、過去を受け継いで、未来を作っていく一部分しか自分は担当できないんだ』という話をするシーンがあるんですね。その話は、実は取材のときに林業家さんから聞いた話をそのままセリフにしました。
だから、林業って、自分の人生の中だけでは完結しない仕事をしているという壮大な一面と、チェーンソーで切ったり高いところに登ったりというパワフルな一面の二面性がある不思議でカッコいい神聖な仕事なんだと思っています。」
●そのセリフは私も一番心に残っています。そう考えると、すごい仕事ですよね。
「土に苗を植えるという作業が一見すると農家に似ているので、農業に見えなくもないんですけど、農業だと、植えて収穫できた野菜を自分で食べても美味しいですし、食べていただいた方からの『美味しい』というリアクションがモチベーションになるじゃないですか。でも林業は、自分が死んだ後にそれが実現するという不思議な一面があるんですよ。それを言われた勇気君が生返事をします(笑)。でも勇気君は、子供が生まれたりして、それを受け継いでいく先の世代ができたときに初めて清一さんの言葉の意味が分かると思うんですね。でも彼はまだ独り身なので、生返事しかできないんですけど、それでいいんじゃないかなと思って、描きました。」
●現代社会だと、すぐに結果を求められるじゃないですか。そういう仕事が多い中で、100年先の自分の子孫のために仕事をするって、すごいなと思いました。
「やろうとしても、そういうのってなかなかできないじゃないですか。その辺りを、難しくなく、笑いいっぱいに描きました。」
●最後にリスナーの皆さんにメッセージをお願いします。
「この映画は、里山を舞台に、そこに暮らす人々との交流があったり、村での淡い恋もあり、怖い先輩にしごかれての仕事もあって、クライマックスにはとんでもなく壮絶なふんどし祭りがあります。それらを通して、都会からやってきた主人公が少年から男になっていく姿を描いています。笑いはもちろん、最後には感動して涙が流れるエンターテイメント作品に仕上がっています。是非、劇場で壮絶なふんどし祭りにみんなで参加してほしいと思います。」
実はこの映画、100年先の観客にも観てもらえるように、都会編以外はフィルムで撮影されたそうです。もしかしたら、今植えられた苗が100年後に大木になった時に、その木を切る林業家の方たちがこの映画を観るかもしれないですよね。その時その方たちはどんなことを感じるのでしょうか。そんなことを考えながら、映画を観るとさらにワクワクするかもしれません。
現在大ヒット上映中! 染谷将太さん、長澤まさみさん、伊藤英明さんといった、人気も実力もある俳優さんが出演されている青春林業エンターテインメント作品。非常に面白いので、是非とも映画館でご覧ください。