今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、雨宮国広さんです。
石斧は、縄文時代の人たちが木を倒したり加工したりするときに使っていたとされる道具。大工さんである雨宮国広さんは、その石斧で家をつくっています。便利な道具がたくさんある今の世の中、なぜ雨宮さんは石斧にこだわるのか、どうして手間も時間をかかる石斧で家をつくろうとするのかをお聞きしたくて、先日、山梨県甲州市にある雨宮さんの作業場を訪ね、近くの雑木林の中で色々お話をうかがってきました。
●今週のゲストは、大工さんの雨宮国広さんです。よろしくお願いいたします。
「よろしくお願いします」
●私たちは今回、山梨県甲州市にある雨宮さんの作業場がある雑木林にお邪魔しています。雨宮さんは今、石斧を使って大工作業をされているそうですが、なぜ石斧を極めようと思ったんですか?
「最初から石斧に興味を持ったわけじゃなく、電気道具を使って大工仕事をスタートさせました。仕事をしていくうちに、古い建物と出会ったときに、加工された材木に刻まれた手道具の跡を見たら、すごく感動して鳥肌が立ったんです。その跡は、今の機械を使った加工方法では絶対に出ない跡なんですよ。“人を感動させる仕事というのは、心をこめて自然や木と対峙して、じっくり時間をかけて作ることだ”ということを25年ぐらい前に感じて、そこから古い道具を手にして、先生がいないので、古い道具と古い建物から学びつつやってみました。すると、次第に石斧の素晴らしさに魅了されていった感じですね」
●やっぱり、全然違いますか?
「そうですね。まず、気持ちがすごく入り込むんですよ。今のものづくりの工程って、電話一本で材料が角材として加工された状態で自分に届くんですね。中には、さらに刻まれていて、あとは組み立てるだけという状態になっているときもあります。それに対して、手道具だと、斧を担いで山に入って何百年も生きた木と向き合って、拝んでから斧を入れて木を伐り倒すことになるんですね。そうなると、その木と向き合う時間がたくさんあって、『この木の枝の先まで無駄なく使おう』という気持ちになってくるんですよ。
そこから“鉞(まさかり)”などで角材にしたり、“まいびきノコギリ”で板にしたり、“ちょうな”で削って滑らかにしたりすることで、木と友達になれたり、“大切に使おう”という気持ちが芽生えるんですね。仕事にもそういう気持ちや汗が入り込んだりするので、出来上がりが機械とは明らかに違うと思います。そういうものが昔の民家だったり、みんなの拠り所になる建物になると思うんです。それは、ものづくりの過程で込められた人々の想いや祈りを感じるからだと思います」
●木はただの材料じゃなくて、友達なんですね!
「友達と言ったら大げさかもしれないですけど、お互い欠かせない存在ですね」
●そこから石斧と出会いましたが、石斧は別格ですか?
「そうですね。どこが別格かというと、仕事をしてて、最高に気持ちいいんですよ! 電気道具との違いは、電気道具だと『僕はこうしたい』という無理・強引が利くんですね。それに対して石斧だと、相手の気持ちになって寄り添っていかないと、跳ね返されるんですよ。絶対に無理・強引が利かないんです。木が割りたい方向とかを読み取らないと伐れないんですよね。それが人間が本来持っている体内時計や感覚全てに一致してきて、電気道具で作業するより時間はかかりますが、それが相手を理解することに繋がって、相手に寄り添うことで一体になれるかを分からせてくれるんです。そして、木だけじゃなく、周りの風や色々な動物の鳴き声など全てと一体となって、仕事ができるんですよ」
※人間は石斧をいつ頃から使っていたんでしょうか?
「3万年ぐらい前ですね。ナウマン像がいるころから使われていましたし、12000年前の縄文時代から本格的に石斧を使って、木を伐り倒すということを始めたと思われます」
●では、いつ頃まで使われていたんですか?
「古墳時代から鉄の道具が現れてくるんですが、すごく高価なので、庶民はとても買えるものじゃなかったんです。だから、つい最近まで使われていたんじゃないかと思います。つい最近というのは、地球の歴史でいえば1000年前もつい最近のことなんですよね」
●じゃあ、私たちが普段使っている道具って、超最近使われ始めたものなんですね!
「鉄から石に変わっただけで、使い方は何も変わらなくて、人間も変わってないと思うんですね。変わっているのは世の中の流行に左右されるものだけで、本質的なところは何も変わっていないと思います」
●その石斧を実際に見せていただけないですか?
「これがそうです。惚れ惚れする感じですね」
●アニメで見たことあります! 先端が少し鋭利になっている石がありまして、それが持ち手となる木に差し込まれています。触ってみてもいいですか?
「どうぞ」
●黒くてツルツルの石なんですけど、鋭利な部分を触っても痛くないし、手も切れないですね。
「本当に優しいですよね。鉄の道具は少しでも触れると切れてしまいますけど、石だと人のぬくもりが伝わってきて、懐に入れたくなるような気持ちになります」
●分かります! フォルムがコロンとしているので、可愛いですよね! この斧の大きさはどのぐらいなんですか?
「石の部分が18センチぐらいで、持ち手の部分が60センチぐらいです」
●この大きさで、木を伐り倒せるんですか?
「簡単に気持ちよく伐れますよ」
●どんな太さでもいけるんですか?
「30センチぐらいの木だったら、1時間ぐらいで伐れますね」
●ちなみに、この石の種類は何ですか?
「“蛇紋岩(じゃもんがん)”という非常に固い石です」
●この石でそれだけの木をこれで伐れるというのが驚きです! 伐っているときの感触って、鉄と全然違いますか?
「そうですね。石で伐っていると柔らかい感じがしますし、道具を通してより木の質感を感じますね。鉄の道具もそれを感じることができますが、伐れすぎるが故に固さが石と比べて分かりにくいんですよ。今、長澤さんもちょっと引いたと思いますが、鉄だと向けられたら人間も恐怖を感じると思うんですね。木もそれを感じているんじゃないでしょうか」
●もしよければ、伐るときの音を聴いてみたいんですが、実際に伐ってみてもいいですか?
「大丈夫ですよ。上から叩けばいいだけなので」
●では、鉄斧からやってみます・・・(鉄斧を木に当てる)・・・木にさくっと入りますね。では、石斧で伐ってみます・・・(石斧を当てる)・・・あ、全然違います! 柔らかく入っていきます! 同じ木を伐っているはずなんですけど、もう少し柔らかくて、水分を含んでいる木を伐っている感じがします。こんなにも違うんですね!
「伝わってくるものが違いますよね」
●確かに違います。鉄だとスパッと入っていく感じなんですけど、石だと木を撫でてる感じですね。鉄と石ではこんなにも違うんですね!
※木を伐った時の音も感触もまったく違う石斧と鉄斧。作業時間はどのぐらい違うのでしょうか?
「長さ3メートルの10センチ角の柱を作る場合、鉄の斧だと1時間ぐらいでできますが、石の斧だと半日ぐらいかかりますね」
●かなり作業時間に差がありますね。
「でも、時間をかけると色々なことが分かるので、いいことに繋がることが多いんですよ。人間関係もそうじゃないですか。時間をかけて接することでその人を理解すると思うので、その点は木と同じですね」
●時間をかけて木と接することで、雨宮さんが感じていることって何ですか?
「今のものづくりって、機械が一瞬にして作り出してくれるので、そういうところを全く感じないのは悲しいことだと思うんですね。“命をつなげるものづくり”をしていくには、“相手のことを知ること”が大事なんですよね。それに尽きると思います」
●雨宮さんは今、森づくりにも力を入れているんですよね?
「命をつなげていくには、持続可能な暮らしが前提となってくると思うんですね。例えば、日本の木だけで家を作るとしたら、チェーンソーで伐って大型製材機で製材していったら、あっという間に日本の山から木がなくなってしまうんですよ。でも、石斧で伐れば、自然の持続可能な流れに沿って、持続可能な暮らしが送れると思うんですね。今はまだかけ離れていて夢のようなことかもしれないですけど、今できる人ができることを少しずつ取り組んでいくことが大切だと思うんです」
●確かに、森が作られるスピードと、今消費しているスピードとのバランスがあまりにも悪いのかもしれないですね。
「全てのバランスがいいときに初めて素晴らしい文化が生まれると思っていて、縄文時代や古墳時代もそうですが、素晴らしいものを生み出している背景には、必ず素晴らしい環境があると思っているんですね。当時は素晴らしい巨木が並んだ森があって、そういうものがあって初めて素晴らしい文化が生まれると思っているんですが、今の時代にそういう素晴らしい環境を作り上げていって、何十年後にバランスが取れたら、新しくて素晴らしい文化が生まれると思っています」
●これから石斧でどんなものを作っていきたいですか?
「人を豊かにして、長く受け継がれる家を作りたいですね」
●家だとどのぐらいかかりますか?
「1年はかけて作りたいと思います。木の伐り旬や土を塗る時期、乾かす時期など、自然のリズムに沿って家を作ると、最低でも1年はかかりますね」
●自然のリズムに沿った家づくりですか! それはステキですね! でも、本来の家づくりってそういうものなのかもしれないですよね。
「食べることもそうじゃないですか。木も同じで、いちばんいいときに命をいただいて、使わせてもらうのがいちばんですね」
●石斧で作った家って、どんな家になりそうですか?
「土があったり、藁があったり、石があったりと、身近にある自然のものに囲まれてる家ですかね。まさに“森の中にいるような感じ”ですね。その空間に入ると、今日のようなさわやかな風や木の葉からこぼれる光を感じられる家を作りたいですね」
●この雑木林の中、すごく気持ちいいんですよね。この感覚を味わえるような家を作りたいんですね。その家が完成したときには、またお話を聞かせてください!
木が育つスピードは何十年、何百年。その時間を考えると、今私たちが消費しているスピードはあまりにも早いですよね。そういった中で自然と向き合い、自然に感謝しながら作業する石斧での物づくりは、本来の自然の流れにすごくマッチしていると感じました。
雨宮さんが実際にどんな建物や家具を作っているのか気になる方は、是非オフィシャルサイトをご覧ください。