今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、村山司さんです。
東海大学・海洋学部教授の村山司さんは、主に飼育しているイルカの知能を研究している先生で、鴨川シーワールドの人気者“ナック”と名付けられたシロイルカ(英語名:ベルーガ)に人間の言葉を教え、ついには世界で初めて、人間の言葉を理解するシロイルカの能力を証明しました。今回はそんなイルカの研究者・村山さんに、20年以上にもわたる研究について、色々お話をうかがいます。
●今回のゲストは、東海大学・海洋学部教授の村山司さんです。よろしくお願いします!
「よろしくお願いします」
●村山さんはイルカの認知機能の研究をされていて、鴨川シーワールドで飼育されている“ナック”と名付けられたシロイルカに言葉を教えていることで、大変注目されています。早速ですが、シロイルカってしゃべるんですか?
「実はしゃべります。先日、国際比較心理学会の学会誌に紹介していただきましたが、それには音声があるので、聴いてみてください。最初に人の声が再生され、その後にナックの声が再生されます」
※ここで放送では、その音声を聴いていただきました。
●ピヨピヨとか、先生の名前も呼んでましたね!
「実はあれ、ナックに急に言わせてみたんです。その場で思いついて、トレーナーに『すみません。“ツカサ”って呼ばせてみてもらっていいですか?』ってお願いをしたら、やってくれたんですね。実は、1回目は失敗しているんですね。なぜなら、聴いたこともないような音をいきなり言うように指示されたので、失敗してしまったんです。でも、もう一度やらせてみたら、今度はできたんですよ! つまり、ナックは一度失敗すると、自分で一生懸命考えて、軌道修正して、リベンジするんですね。なので、二回目はちゃんと言ってくれました。その学習能力がナックの素晴らしいところですね!」
●イルカがしゃべるということを証明したのが世界初のことなんですよね?
「そうですね。前から“イルカが音声を真似ている”ということは言われていましたが、それを科学的に検証して、数字として出して証明したのは世界初となります。先ほど聴いていただいたのは“オウム返し”として、言われた言葉をそのまま返したというのが現段階ですが、これから色々とやってみて、いずれは人とイルカが人の言葉で会話できるようになるんじゃないかというところを目指しています」
※ナックがどういう風に人間の言葉を覚えたのか聞いてみました。
「私がナックに教えている方法は、人が英語を覚えたりするのと同じやり方なんですね。例えば英語だと、リンゴを見て“アップル”と言いますし、文字でも書くじゃないですか。それと同じように、物を見せて、その物の呼び方を教えます。そして、その物を見たときにその物を表す記号みたいなものを教えます。イルカにもこちら側の単語の真似をさせて、物の名前を教えるというやり方です」
●それが最終的に結びつくんですか?
「そうです。これも人と同じで、ナックなりの物の名前を呼んで、それと物を表す記号を結びつけます。そうすれば、その物を見せたときにナックの呼び方でも呼べるし、それを表す記号も分かるようになるんですね。だから、人が英単語を覚えるときと同じようなことをやっています。それがいずれ物の名前だけじゃなくて、動詞や形容詞などを教えていけば、文を作ることができて、最終的には会話ができるかなと考えています」
●最初に覚えさせた言葉は何だったんですか?
「いきなり変わったものを教えても仕方ないので、ナックが普段から見慣れているものを教えるということで、“フィン”と“ゴーグル”“バケツ”“長靴”を教えました。鴨川シーワールドでは水中ショーをやっているので、そのときにダイバーがよく身につけているものだったり、エサを入れているバケツ、長靴などはナックにとって普段見慣れているものなので、その名前を教えようということで、まずは呼び方を教えました。私たちが“バケツ”や“フィン”と呼ぶように、それらを見たら、ナックなりの言葉で呼ばせました。それはもう覚えました」
●例えば、「バケツが欲しい」というときは、そうやって覚えた言葉で鳴くんですね?
「“欲しい”という言葉はまだ教えてないので分からないんですが、『これ何?』っていうことでバケツやフィンを見せたら覚えた言葉で鳴きますね。今ではその逆もできて、スピーカーでナックが覚えた言葉を鳴らすと、それに応じた物を選ぶことができるんですよね。そういう風に物の名前を音で表せることを理解しているので、そういうことができるんですね」
●一つの単語を覚えるのに、どのぐらいの時間がかかるんですか?
「1つだったら1ヶ月ぐらいで覚えますね」
●そんな短期間で覚えられるんですね!
「非常に優秀な個体でもありますし、鴨川シーワールドの訓練の技術もありますので、そのぐらいの時間で覚えます。ナックは非常に賢いので、『1つ覚えてしまえば、2つ目3つ目も同じような覚え方をすればいい』ということで、その後は早いんですよね。なので、2つ目は2週間ぐらいで覚えて、3つ目4つ目ぐらいになると数日で覚えましたね」
●1ヶ月でかなりの単語を覚えられそうですね!
「やれば、短期間で色々な単語を教えることができるかもしれないですね。ただ、水族館の事情もあって、秋に実験が終わると、お正月があったり、年度初めがあったりするので、次に実験をするのが5月~6月ぐらいになってしまうんですね。なので、半年ぐらい間が空いてしまうのですよ。その状態で覚えた物を見せると、すぐ鳴けるんですよ」
●優秀ですね!
「自分の生活の中で使っていて常に接しているのであれば分かるんですが、私が実験で行くとき以外にそういったものの名前を呼ぶことがないのに覚えてるんですよね」
●これからもすごく期待できますね!
「今までは名詞を教えてきましたが、これから動詞を教えたりしていくのが楽しみなんですよね!」
※村山さんがイルカと話したいと思ったキッカケはなんだったのでしょうか?
「高校1年生のときなんですけど、ある日テレビをつけたら、“イルカの日”という映画がたまたまやってたんですね。それがキッカケでした。その映画を見ていると、南の島で研究者とイルカが仲睦まじく会話してるんですよ。それを見て『将来はこれをやろう』と思ったんですよね。そのころは高校1年生だったので、『研究すれば、イルカと話ができるんだ!』って思って、研究者になろうと思ったんですね」
●それからずっと、今に至るまで夢は変わらずといった感じですね?
「そうですね! そもそも、ちょっと変わってる目標なので、大学に入ったときも大学院に入ったときも、当時の日本のイルカ研究からすれば、感覚や知能、ましてや言葉なんてとんでもないといった考えの先生ばかりだったんですよね。『それだったら自分でやります』ということで始めたんです」
●素人感覚ですけど、そういう研究って“面白そう!”って、思うんですけどね。
「今はそう思う人が多いかもしれないんですが、イルカと一緒に泳ぐ人も増えてきましたし、中には私と同じように話したいと思っている人もいるんじゃないかと思いますけど、当時はいなくて、私だけでしたね」
※村山さんとナックの出会いについて聞いてみました。
「本当に偶然な出会いでした。ナックというシロイルカに出会って、そこから本格的に研究を始めたんですけど、今では相棒のような関係になりましたね」
●たまたまって、どういった出会いだったんですか?
「先ほども話した通り、“イルカと会話がしたい”という研究をやりたいと思っていたんですけど、『どこでやろう?』と水槽を色々と探していたんですね。すると、鴨川シーワールドで全面ガラス張りの大きな水槽があって、『ここいいなぁ』と思っていたときにいたイルカがナックだったんですよね。偶然でしたけど、それが運命的な出会いになって、今や“戦友”ですね」
●どのぐらいの付き合いになるんですか?
「最初に会ったのが1991年でしたので、23年ですね。もう息も合う仲だと思うんですが、どうやらそうでもなさそうなんですよ。どうも、私は今ナックに嫌われてるみたいなんです。どうしてそう思うかというと、まず私に威嚇をしてくるんですよ。トレーナーの方からも『空気中に顔を出して、空気中にいる人に向かって威嚇したのは村山さんが初めてです』と言ったんですよね。それに、大きな口を開けて水をかける仕草があるんですが、口からピューっと出すような可愛い感じのものではなくて、口を開けたまま水を掻い出すように思いっきりかけてくるんですよ。それはトレーナーの人もビックリしてて『村山さんが来ると目が変わりますね』って言うんですよね(笑)」
●(笑)。どうしてそうなっちゃったんですか?
「多分“何もしないから”じゃないですか。実験で動物を動かすのはトレーナーの人なんですけど、私はいつも横で立って見ているだけなので、『いつも横に立ってるけど、いつも面倒くさいことをさせるよなぁ』って思ってるんじゃないでしょうか。それ以外考えられないんですよね」
●でも、村山さんをちゃんと認識しているということですから、それだけ知能が発達しているということですよね。
「そうですね。普通のお客さんがイルカに触ったりするイベントとかがあるんですが、そのときにはそういうことはせずに、私に対してだけするというのは、トレーナーの人曰く『村山さんのことは分かってるんだと思います。それだけ人の印象を理解して、記憶して、ときには感情も出します。そうやって、知能が高いところがナックのいいところなんですよね」
※ナックは実験をどういう風に感じているのでしょうか?
「実験になると、それが楽しいのか、次の物をねだるような顔をするんですよね」
●楽しんでるんですね。
「エサをあげなくても実験をするんですよ。実験するときにエサをあげるんですけど、エサがほしくて実験をやっているのではなくて、それが正解か不正解か教えるためにエサをあげるんですね。でも、エサをあげると、それがヒントになるときがあるんです。例えば、正解の方を選んだとき、エサをあげようとして人の手が動いたりするといったヒントを無くすために、実験の本番のときにはエサをあげません。それでも一生懸命やるんですよ。それで次の物をねだるように首を振るので、考えて物を選ぶといった実験自体が楽しくて仕方ないんだと思います」
●それは、学習する喜びを得ているということですよね。
「そうですね。人でもこういう人なかなかいないんじゃないかというぐらい、ものすごく意欲的ですね」
●今後がものすごく楽しみですが、もしナックと自由に会話ができるようになったら、どんな話をしたいですか?
「今、言葉を教えていますが、その訓練である程度話せるようになって一番聞いてみたいのは“何したい?”ですね。そのときにナックは何と答えるか、それを聞きたいですね。『エサ』と答えるか、『ボール』なのか、『一人にして』なのか分からないですが、『ナック、何したい?』って聞いたときの答えを聞くのが、この実験のゴールかなと思います」
村山さんはこの実験を通して、人間の言葉が通じない生き物とのコミュニケーション方法も考えているそうです。アニメや映画では動物と自由に話せる物語も多くありますが、それが現実となったら、一体どんな世界が待っているのでしょうか。いつか来るかもしないその日が今から楽しみです。
講談社/本体価格1,200円
村山さんの新刊となるこの本は、村山さんの研究のパートナー“ナック”との20年以上にもわたる奮闘の日々がつづられています。ナックがどうやって人間の言葉を理解するようになったのか、興味のある方はぜひ読んでみてください。