今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、内藤貞夫さんです。
ワイルドライフアートの第一人者・内藤貞夫さんは、大自然の中で生きるオオカミやクマなどの野生動物から、身近にいる野鳥などの絵をリアルなタッチとイマジネーションで描いてらっしゃいます。そんな内藤さんに、銀座の画廊にお邪魔して、お話をうかがってきました。今週はそのときの模様をお届けします。
●今週のゲストは、ワイルドライフアートの第一人者・内藤貞夫さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
●今回は、内藤さんの個展が開催されている銀座の画廊でお話をうかがっていきます。どの作品も今にも動き出しそうな絵ばかりなんですが、まずはワイルドライフアートとはどんなアートなのか教えてください。
「アメリカやカナダで発展してきたアートなんですね。アメリカ人やカナダ人は野生動物に対する郷愁の気持ちがあるんじゃないでしょうか。大草原にバッファローが走って、それを追うオオカミという様子が開拓時代から彼らの生活の中に入っていて、それが彼らにとって郷愁となって、動物をテーマにした絵ができたんじゃないかと思います。だから、日本人が持っているワイルドライフとは世界が少し違うかもしれませんが、日本人には日本人らしいワイルドライフがあってもいいんじゃないかと思います。日本人のワイルドライフアートは、生態系そのものを描くアートだと思うんですね」
●ワイルドライフアートはいつごろ生まれたんですか?
「1900年初頭ぐらいにはあったと思います。1960年代にアメリカやカナダで自然保護に対する活動が盛んになったんですが、そのときからワイルドライフアートが発展していったと思うんですね」
●ということは、かなり昔からあったんですね。
「そうですね。日本でも1960年代後半ぐらいから徐々に知られるようになりましたね」
●内藤さんは、いつごろワイルドライフアートに出会ったんですか?
「25年ぐらい前だと思います。“ニュートン”という科学雑誌やユナイテッド航空の自然シリーズの広告を描き出したころから、自然や野生動物に対して意識するようになって、元からそういったものが好きだったこともあって、描き始めましたね。絵を描いていると、その動物の現状が分かってくるんですね。例えば、トラを描いていると、昔はインドには5000頭いたのに、今では3000頭しかいないということが分かってくるんですよ。そういったことが描く度に分かってくるので、余計に野生動物に対しての想いが強くなっていくんだと思いますね」
●どの作品もリアリティがあって、動物たちの毛並みがすごく細かく描かれていて、柔らかそうで、思わず触りたくなるような作品ばかりなんですが、絵を描くときには写真をモチーフにしているんですか?
「初めに『何を描こうか』と考えているときは、全体のイメージをスケッチブックにざっと描いてから、情景などはしっかり描きたいので情景を描いて、それに合う動物を探すので、動物は一番最後ですね。すごくキレイな情景を見ると感動するじゃないですか。その情景にどういった動物を入れたらいいのかを考えて、ピッタリな動物を入れられたらすごく素晴らしい絵になると思うんですよね」
●まさに“素晴らしい舞台にいる主人公”ですね! その舞台があるからこそ、動物が活きてくるんだなって伝わってきます。今回展示されている作品の中で“アイスバーグ”というタイトルが付けられた絵がステキだなと思ったんですが、この絵に描かれている動物はザトウクジラですよね?
「そうですね。ザトウクジラの親子が飛んでいるような絵ですね」
●内藤さんの動物の絵って、すごくリアルで写真のようなんですけど、これはクジラが氷河の上を飛んでいる絵なので、ファンタジーのような感じがして、そのバランスが素晴らしいと思ったんですよね。
「これも突然閃いた感じですね。これは『親子の愛情をどうやったら表現できるか』ということを考えながら描いたものなんですが、同時に氷が崩れる瞬間も表現したかったんですね。なので、氷河が崩れる瞬間とクジラを合わせました」
●氷河が崩れる瞬間を描きたいと思ったのはなぜですか?
「アラスカで見てきたんです。何万年か分からないですが、海に突き出ている氷河が長い年月をかけて後ろに押されて崩れていく瞬間を目の当たりにしたので、そういう情景にザトウクジラはピッタリじゃないかと思って描きました」
●もう一つ“ランチタイム”というタイトルの作品が気になるんですね。これはヒグマが水辺で鮭を尻尾からワイルドに食べているような絵なんですが、これも非常にリアルな作品ですね!
「これはアラスカに“カトマイ国立公園”というところがあるんですけど、ヒグマが多く生息しているんですね。そこには水上飛行機じゃないと行けないんですが、行くときにバッグの中にある食料などをレンジャーに預けてから島に上がったんですけど、その状態で見たヒグマと川の情景を絵にしたものですね」
●その島はどんなところなんですか?
「橋みたいになっているところがあって、そこからヒグマの親子を見るんですが、3、4メートルぐらいしか離れていないところにヒグマの親子が歩いていったりするんですよ。こっちがすごくビックリするんですが、彼らは人間から受けるストレスが無くて、川に上がってくる食べ物が十分あったりすると、人とのトラブルが無いんですよね。向こうではヒグマやシロクマたちが出てくると、邪魔しないように遠回りするという考えなんですよ。そして彼らがいなくなると、元の道に戻るんですね。そういった大らかな気持ちを向こうの人たちは持っているんじゃないでしょうか」
●内藤さんはバードウォッチングにもハマっているそうですが、最近は行ってますか?
「よく行きます(笑)」
●(笑)。どんなところに行きますか?
「うちの近所でよく見えるんですよ。9月の初めぐらいまではカワセミがよく見られて、ダイビングして小魚を取るところとかをすごく近くで撮影してましたね。それもいずれ絵にしてみようと思っています」
●今回もカワセミの作品がありまして、色合いがすごくキレイで美しいなと思いました。あれも内藤さんが実際に見た風景なんですか?
「そうですね。あれは写真を撮ったものをアレンジしたものなんですが、うちの近所に荒川の土手があって、そこにオオタカといった猛禽類がよく来るので、それも入れました」
●荒川の土手にも結構いるんですね!
「いるんですよ。人がいじめなくなったせいなのか、都会の方が食べ物がよく取れるのか分からないですけど、里山よりも都会の方が生活しやすいんじゃないでしょうか。ビルの中に巣を作るオオタカとかいますからね」
●ということは、野鳥たちも都会の方が住みやすいんですね! そう考えると、鳥たちって順応性が高いんですね。
「それもあると思いますし、人が鳥をいじめなくなったのもあるかもしれないですね」
●もしかしたら、これからは近所でバードウォッチングを楽しむことができるかもしれないですね! 今回、フクロウの作品もありますよね。これも内藤さんが実際に見たフクロウがモチーフなんですか?
「これは埼玉県にある秋ヶ瀬公園、そこでヒナが孵ったので、写真に撮って、それを元に描きました」
●これを実際に見たら可愛くて、情が移ったんじゃないですか?
「確かにヒナは可愛かったですが、それ以上に親がヒナを一生懸命守っているという情景も見られるんですよ。カラスが何羽か来てヒナを襲ったりすると、すぐにカラスを追い払ったりするところも見られたりします」
●やっぱり、動物たちの親子関係は密接なんですね。
「人間も本来はそうなんだと思いますが、濃密ですよね」
※最後に、ワイルドライフアートのどんな所を一番見てほしいか聞いてみました。
「生き物のいいところってたくさんあるので、それを見てほしいですし、中には世界で100頭もいないような絶滅危惧種もいるので、そういう動物も見ていただいて、関心を持っていただければと思います。例えば、今回の作品にシマフクロウの作品もありますが、これは本当に数が少ない鳥なので、そんな鳥の絵も見ていただけたらありがたいなと思います」
●そういう絵を見ることで、興味もわきますし、愛着も出てきますよね。
「そうですね。動物カメラマンが動物の写真を皆さんに見てもらうのと同じように、絵描きは自分の絵を見てもらって、その絵に関心を持ってもらうことしかできないんですよ。特にワイルドライフ系の作家は動物に関心を持ってもらうことも絵を見てもらうのと同じぐらい大事なことなので、そういったところにも興味を持ってもらえたらと思います」
※この他の内藤貞夫さんのトークもご覧下さい。
ワイルドライフアートと聞くと野生動物そのもののイメージが強かったんですが、内藤さんはまず初めに情景を、その後にそこにイメージする野生動物を描かれるんですね。でもこれって、実際の自然界と同じですよね。野生動物の生きる環境があって、初めてそこに生き物が生息することが出来る。生態系そのものを意識することの大切さをワイルドライフアートから改めて学んだ気がします。
内藤さんの素晴らしい作品はぜひオフィシャル・サイトでご覧ください。リアルさとイマジネーションの世界は本当に素晴らしいです。また、サイト内の「ダイアリー」にご自身が撮ったフクロウやスズメなどの写真も掲載しています。
内藤さんは11月1日(土)と2日(日)に千葉県我孫子市にある我孫子市生涯教育センター「アビスタ」で開催される「ワイルドライフアート展」に数点出品される予定です。この展覧会は「ジャパンバードフェスティバル2014」の一環として開かれます。詳しくは、日本ワイルドライフアート協会のサイトをご覧ください。