今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、酒井麻衣さんです。
イルカの研究をされている東海大学の研究員・酒井麻衣さんは主に伊豆諸島・御蔵島のイルカを観察し、イルカ同士でどんな行動をしているのか、そんな研究をされています。今回はそんなイルカのことをたっぷりお聞きします。
*イルカの写真協力:酒井麻衣
●イルカの研究をされている東海大学の研究員・酒井麻衣さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
●酒井さんは、イルカの行動を研究されているということですが、具体的にはどんな研究なんですか?
「イルカ同士が、触り合ったり、こすり合ったりする“イルカのふれあい行動”と、イルカが動きを合わせる“イルカの同調行動”をメイン・テーマに研究しています」
●もともとイルカが好きだったんですか?
「物心ついたときからイルカが好きで、『イルカに関わる仕事がしたい』とずっと思っていました」
●実際にイルカの研究をしてみて、どうですか?
「イルカって人気の動物ですし、色々なことが分かっているのかなと思っていたんですが、いざ研究を始めてみると、まだまだ分からないことだらけで、やることがたくさんあるんだなと知って、驚きました。イルカの行動研究の分野では、音声の研究がすごく盛んに行なわれているんですが、私がテーマにしている分野は研究が進んでいないんです。なぜなら、イルカは基本的に海の中にいるので、海の中で行動を観察するのはすごく難しいんですよ。なので、船の上から音を録音する研究がどんどん発展していっている感じなんですね。
でも、イルカって私たちと同じ哺乳類なので、人に置き換えてみると、ふれあいって嘘がつけないし、近距離なので、大事なコミュニケーションじゃないですか。イルカにとってもふれあいは大事なんじゃないかと思って、そこに注目して研究を始めました」
●確かに、人間でも親しい人同士じゃないと触らないじゃないですか。イルカでもそういったことがあったりするんですか?
「そうなんじゃないかと思います」
●水の中だと観察が難しいということですが、どういう風に研究されているんですか?
「私は伊豆諸島の御蔵島というところで主に研究しているんですが、そこではシュノーケリングでイルカを間近で観察できるんですよ。そこで、ビデオ・カメラを持ってイルカたちの行動を記録して、1頭1頭見分けるところから始めます。まずは誰と誰がふれあっているのか知らないと、ふれあいの意味などを調べることができないんです。その1頭1頭を見分ける調査は、御蔵島観光協会と東京都がずっとやっていて、その調査に私たちも関わらせていただいています。
こういった調査はずっと続けることに意味があるんですね。“誰がいつ子供を産んだか”とか、“誰が何歳になったのか”という情報を蓄積していくことが大事なので、そういう情報がある上に、間近で観察できる御蔵島はすごくいいフィールドなんです」
●それってすごいことですよね?
「それだけ好条件に恵まれたフィールドは世界にもほとんどないと思います。御蔵島は周囲が16キロしかなくて、1週するのに1時間もかからない小さな島で、島に住んでいる個体群は1年を通じて島の周りに住んでいるので、遭遇率がすごく高いんですよ」
●どこかに行ってしまったりしないんですか?
「中には他の島に引っ越す者もいますが、大半は御蔵島の周りに1年中住んでいますね」
●それだけいい環境なんですね。
「イルカにとって住みやすいんだと思います」
※イルカといえば、群れ同士で仲よく暮らしているイメージがありますが、彼らはどんな一生を送るのでしょうか?
「種類によって少しずつ違うんですが、私が主に研究しているミナミハンドウイルカは生まれてから5年ぐらいの間はお母さんと一緒にいて、お母さんからお乳をもらって、守ってもらいながら大事に育てられます。その後、親離れをしますが、親離れをしてもお母さんがいる個体群から出ていくことはなくて、一生を過ごします。イルカはつがいを作ったりしないので、お母さんだけが子育てをします。お父さんは誰か分からないんです。だから、ゆくゆくはイルカの血縁関係も調べていきたいと思っています」
●イルカの1日の行動はどんな感じなんですか?
「お昼前後は寝ていることが多いです」
●夜行性なんですか?
「夜行性かどうかは分からないですが、夜にエサを獲ってるんじゃないかと推測しています」
●イルカって、どんな感じで寝てるんですか?
「野生のミナミハンドウイルカは泳ぎながら寝ます」
●泳ぎながら寝るんですか!?
「イルカ数頭が横並びになって、海の底近くをゆっくり進みながら寝ています。イルカは右目と左目を交互に閉じて寝ていて、それはそれぞれの目に繋がっている脳を休めているんです。それを“半球睡眠”といいます。そういう風にすることで、寝ながらでも溺れないし、何かにぶつかることもなくなります」
●それって、人間でもできたらいいですよね!
「そうなんですよ! すごく羨ましいです!」
●(笑)。水族館で飼育されているイルカは違った寝方をするんですか?
「そうですね。水族館にいるミナミハンドウイルカは3パターンの寝方があります。1つ目は野生のミナミハンドウイルカと同じで“ゆっくり泳ぎながら寝る方法”、2つ目は“浮いたまま寝る方法”、3つ目は“プールの底で寝転がりながら寝る方法”です」
●やっぱり、環境によって行動も変わってくるんですね。
「そうかもしれないですね。飼育されている状況だったら、外敵がいないので、その心配もいらないですし、波もないので、浮いたまま寝ることも可能なのかもしれないですね。ただ、ミナミハンドウイルカよりも大きい“コビレゴンドウ”という6メートルぐらいあるクジラの仲間は、野生でも浮きながら寝ますし、さらに大きいマッコウクジラは茶柱のように、縦に浮いて寝ます」
●あの大きいマッコウクジラがそういう風に寝るんですか!?
「それがなぜ分かったかというと、“バイオロギング”というマッコウクジラやペンギン、アザラシなどに記録計を付けて、クジラの行動を記録する手法があるんですが、それによって、マッコウクジラの寝方が分かるようになりました」
※イルカは実際に、どういったふれあい行動をするのでしょうか?
「1つは“ラビング”といって、 胸ビレで相手をこする行動なんですが、それをミナミハンドウイルカやハンドウイルカは頻繁にやります」
●その様子を水族館で見たことあるかもしれないです。なぜそういう行動をとるんですか?
「実は、まだ明確には分かっていません。私の研究結果では、お母さんが子供に対してよくこすっているのと、御蔵島のイルカたちは、メスはメス同士、オスはオス同士でこすり合うことが多いことが分かったんですね。水族館の研究では、ケンカの後によくこするということが分かりました。なので、恐らく仲直りの役割があるんじゃないかと思われます」
●ということは、私が見かけたのは、仲直りしてたんですかね?(笑)
「そうかもしれないですね(笑)。ただ、1つの意味だけではないと思うので、一概にそれだと限定することができないです。例えば、陸の哺乳類がお互いに毛繕いをしあうと思うんですが、イルカもこすり合うことで、体をキレイにしているんじゃないかと思われます。こすっているところをよく見ていると、イルカのあかがポロポロと落ちるんですね」
●他にも、人間と同じような行動を取ったりするんですか?
「例えば、人間のお母さんと子供で言ったら、だっこするということがありますね。イルカはああいう形をしているので、だっこできないんじゃないかと思われていましたが、イルカの親子を見ていると、子供があまり尾ビレを振っていないときがあるんですよ。それはどういうことかというと、流体力学的に考えると、お母さんが作り出す水の流れに子供が乗っかって、楽をしているんですよ」
●まるでだっこしている感じなんですね。そういったことを聞くと、イルカにますます親近感を覚えますね! イルカの子育てって人間の子育てに近いんですか?
「そうですね。イルカは1回の出産に1頭しか産まなくて、その赤ちゃんを数年かけて大事に育てるという面では、似ていると思います」
●イルカのお母さんが子供におっぱいをあげるときって、どんな感じであげるんですか?
「泳ぎながらおっぱいをあげないといけないので、お母さんのおっぱいはお腹の溝の中に閉まわれています。そこに子供は泳ぎながら口を付けて、下をストローのように丸めて、おっぱいを吸うといわれています」
●それを実際に見たら可愛いんじゃないですか?
「お母さんも子供が飲みやすいように、ヒレを振るのを止めたりして、子供が一生懸命おっぱいを飲んでる様子は、微笑ましくて可愛いですね」
●イルカの研究を通じて、仲良くなったイルカっているんですか?
「それは御蔵島に行く船に乗り合わせたお客さんによく聞かれるんですけど、実はいないんですよ。私たちはイルカを1頭1頭見分けることができていますが、イルカが私たちを見分けているのかは分からないです。
私はむしろ(イルカから)その辺にいるクラゲだと思ってもらえたらいいなと思っているんですね。なぜなら、私の存在を気にしないで、自然な行動をしてほしいからなんですね。なので、観察するときも、彼らに自然な行動をとってもらうために、なるべく邪魔にならないように、こっそり見守りたいと思っています。
イルカ同士の仲良し関係は知りたいんですが、人とイルカの仲良し関係は別によくて、むしろ気にしないでもらいたいですね。私たちは透明なクラゲといった感じで、彼らの生き様や世界をこっそりと覗かせてもらればすごく幸せですね」
●そこから酒井さんが感じたり学んだことってありますか?
「イルカって“平和的な動物”っていわれていますが、実はそうでもなくて、子供を連れたメスのイルカをオスのイルカが追い掛け回したりすることもありますし、ケンカもしたりすることもあるので、結構荒々しい面を持っていたりします。でも、そういう面も含めて動物なので、イルカの世界を美化しすぎないようにしていただいて、できれば、イルカの社会を見ることで、人間の社会で(彼らに)見習うところを見つけてもらって、もっと平和になってくれればいいなと思います。
まだ分かっていないことがたくさんあるので、イルカを研究する人がもっとたくさん増えて、みんなで調べていけたらいいなと思っています。イルカって海で生活する動物ですが、御蔵島のようなところで生息しているので、意外と近くにいるんですよね。そして、すごく好奇心が旺盛な動物なので、これからもイルカの面白い生き方や能力などを調べて、たくさんの人に知ってもらえるように活動していきたいと思っています」
酒井さんはほかにも「海の哺乳類は“音の世界”に生きています。その中でイルカが“ふれあい行動”をとるということは、私たち哺乳類にとっていかに“ふれあうことが大切か”を教えてくれているのではないでしょうか」とおっしゃっていました。私たち人間は今や簡単に誰かと連絡が取れる便利な時代にはなりましたが、やはり直接触れ合わなければ伝わらないことってたくさんありますよね。イルカたちの可愛いらしいふれあい行動のお話をうかがって、そんなことを思いました。
酒井さんたちが行なっている伊豆諸島・御蔵島のイルカの調査は 「アイサーチ・ジャパン」という、イルカやクジラ、そして自然の素晴らしさや大切さを伝える環境教育団体が協力しています。そんなアイサーチ・ジャパンでは常時、活動を支援してくださるサポート・メンバーを募集中です。年会費は5千円からとなっています。
また、アイサーチ・ジャパンでは定期的にレクチャーを行なっていて、次回は12月20日(土)の午後1時半から3時まで、表参道の環境パートナーシッププラザで開催されます。講師は今年設立された“日本クジライルカウォッチング協議会”の初代会長・笹森琴絵さん。参加費は1000円。定員は50名となっています。
◎詳しい情報:アイサーチ・ジャパンのオフィシャル・サイト
酒井さんも応援されているこの会は、クジラ・イルカの“研究活動の育成・発展”を目的に、情報共有などを行なっている会です。11月29日(土)30日(日)に京都大学で勇魚会シンポジウムが開催されます。詳しくは勇魚会のホームページをご覧ください。