今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、小野庄一さんです。
初夢に見ると縁起がいいとされている“一富士、二鷹、三茄子”。そんな縁起物の富士山に魅せられてしまった写真家・小野庄一さんは、富士山の頂上から写真を撮ることをライフワークにされていて、約10年に渡って撮った、素晴らしい絶景写真を1冊の本にまとめ、昨年出版されました。写真集のタイトルは『テッペン! 死ぬまでに見たい、富士山頂からの絶景』。今回はそんな小野さんに、絶景写真や富士山への想いをうかがいます。
●今回のゲストは、写真家の小野庄一さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
●富士山を撮影した写真集は何冊か見たことがあるんですが、富士山の山頂から写真を撮っている写真集は初めてだったので、見たときに鳥肌が立ちました。小野さんは頂上からの撮影にこだわっているんですよね?
「そうですね。今おっしゃったように、写真家の大先輩たちが富士山のすごい写真集をたくさん出していたので、『僕の出番はもうない』と思っていたんですね。ところが、仕事で富士山の頂上に登ったときに見たご来光がすごくて、日焼けや登山の疲れとかが吹っ飛んで、またすぐ登りたくなりました。そして、1週間後には登ってましたね」
●そこで富士山にハマってしまったんですね。
「そうですね。運がよければ、小さな子供からお年寄りまで見られる風景だから面白いと思ったんです」
●「私もいつか登ったら、こんな景色が見られるんじゃないか」という景色を撮っているんですね。それって目標になりますよね?
「僕は2ヶ月のシーズン中に合計10日ぐらい登っているんですが、残り50日ぐらい登っていないときがあるんですね。だから、僕の本の5倍は素晴らしい風景がまだ残っているということになるので、この本よりもすごい星空や雲、ご来光などに出会えると思うんですよね。今、ライヴカメラでもいいものがあるので、下にいるときにそれを見て『こんな雲出てるー!』と思って、ソワソワしながら指をくわえて見てます(笑)」
●(笑)。登って、写真を撮って、すぐに下山する方が多いかと思いますが、小野さんはこれだけたくさんの頂上の風景の写真を撮影されているということは、それだけ頂上に長時間滞在するんですか?
「そうですね。頂上には宿泊可能な山小屋がいくつかあるということがまずひとつとしてあります。そして、皆さんが富士山に登る目的として“日本一の山のテッペンに登りたい”“ご来光が見たい”というふたつがあると思うんですね。
確かにご来光も素晴らしいですが、昼間の雲がわくところとか、見たことない青空を見ることができたり、夕方になるとみんな降りていってしまうので、日本一の夕陽をひとりで見ることができたりするんですよ。そこは富士山だから、何もさえぎるものがないので、夕陽が降りていって金色の世界になり、そこから赤く染まっていって、星が少しずつ見えてきます。そうなると、今度は星空がすごいんですよ! そういうことがあるので、24時間360度油断できない場所なんですよね」
●だから、富士山の頂上にこだわってるんですね!
※小野さんの写真集『テッペン! 死ぬまでに見たい、富士山頂からの絶景』の表紙の写真は一見、富士山のように見えますが、実は山頂から見た雲の写真なんです。どうやって撮ったんでしょうか?
「目の前に(富士山の形のような)こういう雲が現れて、僕も非常に驚きました。富士山って、平らなところにあるので、風下側に乱気流が起きて、“つるし雲”ができるんですね。よく絵葉書などで、提灯が浮いてるような雲があると思いますが、それは富士山でもときどき現れるし、小さいものだとよく現れるんですね。この写真の雲も小さなつるし雲の一種だと思いますが、最初はクジラやイルカみたいな形をしていたんです。それがゆっくりと縮んできて、富士山のような三角形の雲がそれほど遠くない距離のところに出てきたんですね。これほどキレイな富士山の雲をもう一度撮ってこいと言われても、絶対に撮れないですね(笑)」
●この写真集には“これは富士山の写真集ではありません”と注意書きがあるのに、表紙だけ富士山の写真だと思ったんですが、よく見たら、富士山の形をした雲の写真だと気づいて驚きました!(笑)
そして、今回の写真集に掲載されている写真でぜひお聞きしたい作品が “メトロポリス”というタイトルの写真なんですが、これは富士山から下の街の景色を撮っていて、ネオンの輝きがよく分かるんですね。上から見ると、こういう風に見えるんだと思いました。
「ふもとの街は真ん中にある雲の下に見えて、その雲の向こう側に金色の海原みたいに、横浜や東京の光が広がっているんですね。そこには2,000万人ぐらいの人生がそこに広がっていると思いますが、その部分は薄く写っているんですよ。
そして、写真では見えないんですが、この写真の画面の外は“星空”なんです。人間が暮らしている部分は本当に薄くて、そこから上には満天の星空が広がっているんですよ。それこそ、天の川が流れ、目の錯覚かと思うぐらい流れ星もたくさん流れていて、すごくキレイなんです。それがあるから、人間の小ささが見えてきますし、気がつかないけど“宇宙”という大きなものが近くにあって、その大きなものに抱かれながら人間は生活しているんだなと感じますね」
●富士山から見ると、街が星に囲まれているように見えるんですね。それって、下にいると気づかないですね!上から見るからこそ、見えることってたくさんあるんですね!ちなみに、ここの注意書きとして“この巨大都市の輝きは、世界に類を見ない絶景だ”とあるんですが、これは富士山だからこその景色なんですか?
「富士山って独立峰で、“東京”という大都市がそこにある。それこそ、10万人規模の小さな街であれば、他のところでもあるかもしれませんが、4,000メートルぐらいの高さから見下ろしたときに、あれだけの人の暮らしが見渡せるのは、ほとんどないみたいです。星の専門家である大学の先生に聞いてみたところ、思いつかないと言っていたので、間違いないと思います。とはいえ、実際に探したとしても、どこにでもある風景ではないと思います」
※小野さんには、もうひとつライフワークにしていることがあります。それはどんなことなんでしょうか?
「もうひとつのライフワークとして、満100歳以上のお年寄りを200人ぐらい撮影しています。現在、100歳以上のお年寄りは6万人ぐらいいると発表されていますが、人間で100まで生きるというのは、命の象徴的存在だと思うんですね。僕が富士山に登っているときも、富士山に登っているというより“命の源である太陽に近づくこと”を目的に登っているんです。だから“100歳のお年寄り”と“富士山の頂上”というのは、全く関係ないように思えるんですが、実は“命の源に近づく冒険”だと思うんですよ。
でも、最初はそのことが分からなかったんです。100歳(のお年寄り)はずっと前から撮っていて、『命の象徴的な存在だな』と思っていたんですが、10年前に富士山に登ったとき、なぜこんなにもドキドキワクワクさせられるのか、うまく説明できなかったんです。ところが、『命の源である太陽に近づいているからなんだ』と気づいたんですね。それで、『100歳のお年寄りと太陽って、実は同じものを撮っているんだ』ということに気づきました。それが一番大きな発見ですね」
●確かに、富士山の頂上は日本で一番太陽に近い場所ですよね。そこにいるとエナジーをたくさん感じるんですね。お年寄りからもらうパワーと太陽からもらうパワーって自分を元気にしてくれると思いますが、そのパワーも写真に込めているんですか?
「込めるといっても僕にはそんな力はないので、目の前にある大きいものから力を少し分けていただくようなことで、僕はそれの橋渡しのお手伝いを少ししているだけなんですよ。やっぱり、すごいのはカメラの向こう側にある太陽であり、お年寄りなんですよ」
●私たちも山頂で写真を撮るとき、「おさめてやろう!」という気持ちよりも、「分けていただく」という気持ちで撮る方がいいんですか?
「難しく考えず、正面から撮影すればいいと思います。ただ、太陽はすごく明るいので、“PLフィルター”という偏光フィルターを使うと、雲の白さや空の青さがすごくキレイに撮れます。今回の写真集の中にもあるんですが、真っ青に晴れたときにときどき現れる現象<彩雲(さいうん)>があって、太陽の周りを虹色の光が包む瞬間があるんですね。これは、山の稜線を流れるような雲が出て、真っ青に晴れたときだったら、この現象がかなりの頻度で出るんですね。ところが、あまりにもまぶしいので、山小屋の人たちが指を指して『キレイだね!』って言っても、登山客は何を指しているのか分からないんですね。そういうときはサングラスをかけたり、指で太陽の核だけ隠してしまえば周りを観察できるようになりますので、まさに“仏様と出会ったような瞬間”を味わえると思います。そういうものを見てもらえると、ビックリするような風景が撮影できると思います」
富士山の山頂。そう聞くと、どうしても厳しい山道を登った後に待っているゴール。そんなイメージがありましたが、実はそこでしか見ることができない雲や太陽、そして宇宙を堪能出来るスタート地点なのかもしれません。日本一高い場所では、何が起こっていて、何を感じることができるのか。是非、小野さんの写真集で確認してください。きっと富士山に登りたくなると思います。
講談社/本体価格1,500円
小野さんの新刊となるこの写真集は、ご来光や雲海、様々な形の雲、下界の大パノラマ、星空など、絶景写真が満載です。巻末には初心者に向けた富士登山の10の心得や、2泊3日のモデル・プランも掲載されています。
絶景写真は小野さんのオフィシャルサイトでも見ることができます。是非ご覧ください。