2015年6月27日

プランクトンも笑うんです!?

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、平井明夫さんです。

平井明夫さん

 水産学博士の平井明夫さんの専門は“プランクトン時代の稚魚や魚卵の研究”ということで、日々、お仕事として顕微鏡を覗き、小さなプランクトンを見ていらっしゃいます。そんな平井さんがこの春に出版された図鑑『わらうプランクトン』が大変話題になっています。今回はそんな平井さんに、プランクトンの不思議なお話をうかがいます。

そもそも“プランクトン”って何ですか?

●今回のゲストは、水産学博士の平井明夫さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●平井さんは『わらうプランクトン』という図鑑を出版されていますが、平井さんは魚の卵や魚の子供を研究されているんですよね。そこから、なぜプランクトンにいったんですか?

「皆さん多分ご存知ないと思いますが、日本の周辺で毎月1回、プランクトンを採取して、その中にどのぐらいの魚の卵があるのか調べているんですね。その調査の最初の仕事として“プランクトンの中から魚の卵と魚の子供を選り分ける作業”があるんです。顕微鏡で1粒1粒分けるんですが、そのときに他のプランクトンも一緒に目に入ってくるんです。卵を取ると残りは捨てるんですが、プランクトンを転がしたりすると、たまに目が合ったりするんですよ。そのプランクトンの中には笑っていたり怒っていたりするものがいて、“面白いな”と思ったのがキッカケです」

●それで“わらうプランクトン”なんですね。でも、プランクトンの中から魚の卵を取る作業って、相当大変じゃないですか? 私がイメージしているプランクトンって小さい生き物で、水の中をフワフワ浮いているイメージがあるんですが、そもそもプランクトンって何ですか?

「皆さん言葉はご存知で、ミジンコなど小さな生物を思い浮かべると思いますが、プランクトンという言葉の元々の意味は“浮遊生物(水に漂う生物)”なんですね。なので、波間で漂っている生物も含めてプランクトンといいます。“プランクトン・ネット”という網目が0.5ミリという、プランクトンを採取する道具があるんですが、それを海に敷いて、ゆっくり引くんです。その網の中に入っている生物は全てプランクトンなんです。魚の卵はもちろん泳げないので、その網の中に当然入ってきます。なので、魚の卵もプランクトンの一種といえるわけです」

●ということは、イクラやキャビアも大きな枠でくくるとプランクトンなんですか?

「イクラは鮭の卵ですが、石の下に産みますし、キャビアは海藻にくっつくので浮いてないんですね。プカプカ浮かないとプランクトンじゃないので、残念ながらイクラやキャビアはプランクトンじゃないです。それとは別に鯛やヒラメといった魚の卵はプカプカ浮いているので、プランクトンといえるんですね。なので、卵の中にもプランクトンのものとプランクトンじゃないものがあります」

●大きさは関係ないんですね。

「そうなりますね。例えば、1メートルぐらいあるクラゲとかいると思いますが、あれは自分では泳げずプカプカ浮いているので、プランクトンの一種といえます」

●そうなんですね! プランクトンといえば、小さい生物のことをいうと思っていました。

「大きさは関係ありません。ただ、プランクトン・ネットに入ってしまうものは小さくて泳げないものが入ってきますので、ほとんどのプランクトンは1センチ未満の小さなものになりますね」

顕微鏡の世界!?

わらうプランクトン

※この図鑑の表紙はまるでスマイルマークのようにニッコリと笑ったプラクトンの写真なんですが、これは一体何という種類のプランクトンなんでしょうか?

「“ヨコエビ”というプランクトンの仲間なんですが、正面を見ないと笑った顔にならないんですね。この図鑑には横からの姿も載せていますが、それでは笑っていないです。転がしたとき、たまたま正面を向いてくれて、笑ってくれたんですよ」

●それは、顕微鏡で見つけるんですよね?

「倍率の低い顕微鏡で見てます。ピンセットを持って、見ながら卵だけを選ぶというのが本来の仕事です」

●撮影するときは高倍率の顕微鏡を使うんですか?

「はい。高倍率にして、動かないようにして撮影します」

●私も小学生のときに顕微鏡で生き物を観察したことがあるんですが、顕微鏡で見ると、違った世界が広がって面白いですよね!

「拡大すると、新しい世界が広がりますよね」

●そんな顕微鏡の世界で色々と発見されているんですね。

「そうですね。一日のほとんどは顕微鏡を見てますね」

●ヨコエビはどのぐらいの大きさなんですか?

「これで2ミリぐらいですね。大きくなっても5ミリいかないと思います」

●それだけ小さいと、撮影するのが大変だったんじゃないですか?

「正面向いてもらわないとダメなので、色々と工夫して動かして撮影しようとすると、(プランクトンが)転んでしまって撮影できなかったりするんですよね。色々と考えた結果、シャーレの中に寒天を敷き詰めて、その寒天に切れ目を入れて、そこに水を入れてヨコエビも入れます。そして針先で調整して笑顔に見えるようにして撮影しました。このときは思ったようなポーズを取ってくれました」

●その思ったようなポーズが取れたときは嬉しかったんじゃないですか?

「そうですね! これは2ミリほどありましたが、中には1ミリに満たないプランクトンもいたので、それをいいポーズにさせるには針の先で少しずつ動かして、いいポーズになったときに撮影します。ただ、近くで車とか通ってしまうとブレて元に戻ったりしてしまうので、撮影するときは車の通りが少ない深夜にやってますね(笑)」

●真夜中に少しずつ動かして撮影しているんですね(笑)。

「息を殺してやってました。正直言って、プランクトンで表情を撮った写真って見つからなかったんですよね。虫や魚、動物とかは結構あるんですよ。“なら、プランクトンでも(表情は)出るはず”だと思って、撮り始めたんです。すると、結構(表情が)出るんですよね。それに、種類を変えると面白いもので、調子に乗って撮影していったら、結構溜まりました」

●他にも気になるプランクトンがありまして、リーゼントのプランクトンがいるんですよね。これはどういう種類のプランクトンなんですか?

「これは“ササウシノシタ”というカレイの仲間です。カレイの仲間なので、親は片方に目が2つ付いていますが、卵が泳ぎだしたときは左右に付いています。それが段々と左目が右の方に移動してくるんですが、リーゼントのように突き出ている背ビレと頭の間をすり抜けて寄ってくるんですね」

●プランクトンって、大人と子供の間のようですね。

「一生プランクトンっていう生物もたくさんいますし、子供のときだけプランクトンという生物もたくさんいます」

●なかなか面白い時期だったりするんですね。

「そうですね。エビやカニ、貝、魚のほとんどは子供のころはプランクトンで、親になるとプランクトンの分類から外れてしまいます」

小さな友達

※平井さんが“面白い!”と思ったプランクトンはどんな種類のものなのでしょうか?

「ゴカイの仲間で“ウキゴカイ”というのも(この図鑑には)載っているんですが、あれを撮影したときは、長崎の蛇踊りのドラゴンみたいなイメージで撮影しました。撮影した瞬間にその表情が出たので、“これは面白い!”と思いました」

●こんなにも愛嬌のある表情を見ることができたので、プランクトンに対して親しみがすごくわいてきました。平井さんもプランクトンに対して親しみを持っているんですか?

「今までは標本でしか見ていなかったんですが、そういう表情を見せられると親しみがわきますね。例えば、ミジンコを図鑑で見ると横向きで普通の感じがしますが、正面から見ると目が1つに見えるんですよ。角度によって見え方が全然違うんですよね。図鑑は名前を調べるために特徴的な形にしてありますが、これは違います。普通は顔のアップを撮影しても図鑑にはなりませんが、表情としてはすごく面白いんですよね」

●同じ種類でも個体によって表情が違ったりするんですか?

「全然違いますね。少しずつ角度を変えて撮影したりすると、ある角度までは笑ってたのに、ある角度からは悲しい顔になったりするので、1匹撮影するときも少しずつ角度を変えて撮影していました。1種類200枚ぐらい撮影して、その中からいい表情になった写真だけを選んだという感じですね。また成長していく段階で目つきが変わったりするので、穏やかな顔だったのが険しい顔になったりするんですよ」

平井明夫さん

●プランクトンって普段見落としてしまいがちで、いて当たり前な感じだったので、ここまで注目することがなかったんですが、こういう風に改めて見てみると、すごく面白いですね。

「そうですね。プランクトンはどこにでもいるんですよ。でも、小さいのが多いので、目に入らないことが多いんですよ。実際に水を汲んで顕微鏡で見てみると、たくさんのプランクトンがいると思います。それをさらにアップして顔を見てみると、そこに表情があったりしますよ」

●私たちでもそれを見ることができますか?

「肉眼では見えないので、顕微鏡がどうしても必要になってきます。網目が小さいネットとかで海水を漉したりすると、結構いると思います。それを観察するために、顕微鏡が置いてあるところにいって、見るということをやると、たくさんのプランクトンが身近にいるということを実感すると思いますよ」

●虫メガネでは見ることができないですか?

「大きいプランクトンはなかなか採取できないですけど、田んぼにいるミジンコとかだと目までは見えないですが、動いているのは見えますよね。それを学校に持っていって顕微鏡で見ると、目が1つだということが改めて分かると思います」

●今度観察してみます! 面白そうですね!

「観察する機会があったら、上から見るだけじゃなく針先で調整して横に向かせたり上を向かせたりすると、そのプランクトンの表情が分かると思います」

●是非やってみたいと思います! 平井さんにとって“プランクトン”とは、どんな存在ですか?

「そんなことは考えたこともないです(笑)。表情を見て、向こうが笑ったり悲しんだりしていたので“友達”という感覚がありましたね。いわば“小さい友達”ですね」

YUKI'S MONOLOGUE ~ゆきちゃんのひと言~

 どこにでもいるプランクトンですが、笑っていたり、リーゼントだったり、宇宙人みたいだったりと、顕微鏡で覗いてみるとユニークで楽しい新たな世界が広がっていたんですね。近くの川や海、あの学校のプールにも、もしかしたら笑顔のプランクトンがいるかも。そう思うと、ちょっと幸せな気持ちになりました。

INFORMATION

「わらうプランクトン」

新刊『わらうプランクトン

 小学館の図鑑NEOの科学絵本シリーズ/本体価格1,200円

 平井さんがこの春出版されたこの新刊は表紙の、笑っているヨコエビに始まり、ゆるキャラやエイリアンのように見えるクラゲノミの仲間等、ページをめくるたびに驚きがあり、新しい発見があります。

 詳細は以下のサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. SMILE / ELVIS COSTELLO

M2. OCEAN / ROSIE BROWN

M3. SMILE / ASWAD

M4. I LOVE YOUR SMILE / SHANICE

M5. 福笑い / 高橋優

M6. TODAY TODAY TODAY / JAMES TAYLOR

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」