今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、塚谷裕一さんです。
東京大学大学院教授・塚谷裕一さんは、アスファルトのひび割れやコンクリートの割れ目など“スキマ”に生える植物のスペシャリスト! 去年出された『スキマの植物図鑑』が大変話題になりました。そして今年、その続編ともいえる『スキマの植物の世界』を出されたということで、先日、塚谷さんと一緒に都内の住宅街で“スキマ植物”を探しながら、色々お話をうかがいました。今回はそのときの模様をお送りします。
●今週のゲストは、東京大学大学院教授・塚谷裕一さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
●私たちは今、都内の住宅街のある一角に来ているんですが、なぜここに来たかというと、先日『スキマの植物の世界』という本を出された塚谷さんと一緒に“スキマの植物”を探すためなんです。今、左右に建物がありますが、こういったところにもスキマの植物はたくさんありますか?
「たくさんありますね。ちょっとしたコンクリートの割れ目やアスファルトのひび割れ、石垣の間を見ていただくと見つかると思いますよ」
●右側の電信柱の辺りにありますね。
「あれはドクダミですね。電信柱はアスファルトやコンクリートのところに、はめる際に隙間ができるので、そこをうまく利用した感じですね」
●ここから見ると、アスファルトしか見えなくて、土なんて全く見えないので「どうやって生えてきたのかな?」って不思議に思うんですよね。
「ドクダミは地下茎を延ばすんですね。地下を潜っていったら電信柱に当たって“電信柱があるということは隙間があるな”ということで出てきたんだと思います」
●そんな風に考えて出てきてるんですね!
「電信柱にぶつかって“どこか出られるところがあるに違いない”と探した結果じゃないでしょうか」
●すごく賢いですね! 他にあるかもしれないですから、もう少し散策してみましょう。
※少し散策してみました。
●この排水溝の網の下にありますよね! これは何という植物ですか?
「これはサルビアの子供ですね。向こうに親株らしいものがあるので、あそこから種が落ちて雨のときか何かで転がってきて、ここに入ったんじゃないですかね」
●3メートルぐらい先に紫色のキレイな花が咲いていますが、あのサルビアの種がここまで来たんですね。結構な距離ありますよ!?
「坂になっていますからね。ここはいいところですね」
●いいところですか!?
「誰も手を出さないところですからね。それに、ここだと雨が降ったら水がここに来るので、水には困りませんよね(笑)」
●(笑)。私が見ると「窮屈そうだな」と思ったんですが、植物たちにとってはいい環境なんですね。
「植物は水があって空気がきて光が当たれば暮らしていけるんですよ」
●ちょっと歩いただけでもたくさんあるんですね。
「よく見ると、今まで見逃していたけど小さいのがたくさん生えているんですよ」
●歩いていると通り過ぎてしまいますが、しゃがんで見たり立ち止まって見たりするだけでも違った世界が見えてきますね。
「何もないように見えますが、実際には色々な植物が生えているんですよ。植物がいるということは、その植物に依存している色々な生き物がそこに暮らしているということです」
※なぜ植物たちはスキマに生えるようになったのでしょうか?
「植物は動物と違って、一度そこに生えたら動けないんですね。なので、環境に対する適応力は動物よりも遥かに高いんですよ。そういった能力を使っているんだと思います」
●だから、スキマ植物は増えていけるんですね。
「理由の1つとして“隙間の利点”というのもありますが、それに加えて植物が元から持っている“与えられた環境の中で自分の能力を最大限発揮する”という力があるんだと思います」
●そんなスキマ植物に、いつ頃からハマったんですか?
「昔から道を歩きながら植物を見るのが好きだったんですが、写真を撮るようになったのは10年くらい前に“ど根性大根”が話題になったときからですね。あれはまさに“スキマ大根”ですよ(笑)」
●確かに、言い方を変えればそうですね(笑)。
「あれほど大きなものがスキマに生えるのは珍しいので注目を集めたのは分かるんですが、そのあと各地から色々な“ど根性野菜”が出てきたじゃないですか。それを見てから“それを言い出したらキリがないんじゃないか?”と思って、そこから写真を撮り溜めてみようと思ったのがキッカケですね」
●そういう風に撮り溜めて、再発見ってありましたか?
「どこにでも普通に生えていると思っていたものに加えて、花屋さんで売っているような園芸植物も隙間に結構生えているんだなと思いましたね」
●例えばどんなものがあるんですか?
「日本では今“ペチュニア”の仲間の品種改良が盛んで、毎年のように新しい品種が出てくるんですが、それが1年後には隙間に出てきたりしています」
●今回の本にもそれが掲載されていますが、アサガオのような形ですね。
「花の大きさも色々なものがあって、夏の花壇に人気の植物ですね」
●人間が品種改良してこれだけ美しい花を何年もかけて作っているわけじゃないですか。それが、あっという間に隙間に出てきてしまうんですね。
「鉢に植えられているのもハッピーな暮らし方だと思いますが、彼らは近くに隙間があって自由の身になれるとなったら、そっちはそっちでいいですよね。あと、先ほど“隙間に植物がいるということは、その植物に依存している色々な生き物がそこに暮らしている”と話しました。それまでは都市部にいるチョウやハチなどは花壇に植えられている花などに依存していると思っていたんですが、よく見てみるとスキマ植物にチョウや幼虫が付いていたりするんですよね。それを見て、彼らはスキマ植物に頼っていたということが分かったんですね」
●花壇の植物だけではまかなえないようなところをスキマ植物が支えてくれているんですね。
「都市部の生態系はスキマ植物が大きな役割を果たしているんじゃないかと思っています。なので、都市部に生活している人にとって、最も身近な生態系じゃないでしょうか」
※塚谷さんは普段どんな研究をされているのでしょうか?
「植物の体って色々な形をしているじゃないですか。大きさも種類によって随分違いますよね。それってどんな遺伝子がどんな風に決めているのかを調べています」
●あれは遺伝子が決めているんですか?
「はい。だからこそ、ヒマワリは大きな花を咲かせるし、ツメクサみたいなものは小さな花しか咲かせないですよね」
●その研究が進むと、どんなことができるようになるんですか?
「遠い将来のことになりますが、食べるための植物や森に植える木の大きさや形をデザインすることが可能になると思います」
●ということは、ヒマワリだけど、花はもう少し大きくして、葉っぱはもう少し小さくするといった、人間が思い描く植物を作ることができるようになるということですか?
「実際にそれをみんなが欲しがるかどうかは別ですが、技術的には可能になると思います」
●塚谷さんはなぜそういったことを研究しようと思ったんですか?
「小さいころから植物が好きで、植物の多様性も好きだったので、“なんでこんなに色々な植物がいるのかな?”というのが発端でした。そこから遺伝子と見た目との関係がつながりそうだったので、“つながりそうなら、つなげたい”という気持ちから、研究しようと思いました」
●今“多様性が大事”だといわれていますが、それは“遺伝子が大事”だということですか?
「そうですね。生き物の一番大事なところというのは“個性が多様だ”ということだと思うんです。1つルールが決まったらそこから全てが生まれてくるのとは違って、個性ごとに調べないと、それぞれのことが分からないというのが生き物の本質だと思うんですよ。
例えば、食虫植物の葉っぱが壷になって、水を溜めて虫を食べるのはどうしてなのかは、他の植物では調べられないし、水陸両用の植物の中で水中にいるときと陸に出てきたときとで葉っぱの形を変えるものがいるんですが、どうしてそういうことができるのかを調べようとしたら、他の植物じゃできないんですよね。なので、それぞれ自分が調べたいターゲットごとに研究してもらう感じになりますね」
●水陸両用の植物って、なんという名前なんですか?
「種類が結構あるんですが、僕らの研究室でやっているのは“ミズハコベ”という植物です。陸にいるときは丸い葉っぱをしているんですが、水中にいるときは細くて長めの葉っぱを作るんですね」
●どうして変えることができるんですか?
「その研究を今進めているので、まだ分かりません(笑)」
●(笑)。それは気になりますね!
※最後に、改めてスキマ植物の世界の魅力をうかがいました。
「1つは“植物は他の生き物と違って1人で暮らしていくことができるので、隙間をうまく使っている”ということですね。人はよく擬人法を使いますが、そこは擬人法では見ることができない植物ならではの世界だと思います。そういったところだからこそ、世の中にこれだけ身近に、色々なスキマ植物がいるんだと思いますね」
●私はその中から生きるためのヒントだったり、メッセージを感じたりします。
「人間も擬人法じゃなくて、植物になぞらえて見てみたらちょうどいいんじゃないかと思います」
●最後に、今夏休みで、子供たちにスキマ植物を見つけてもらったら楽しいんじゃないかと思うんですが、見つけるためのアドバイスやメッセージをお願いします。
「この本を出してから読者の方から“気づいたら、すごくたくさんの植物があるんですね”というメッセージをよくもらいます。例えば、犬の散歩のときにふと見てみると、すごくあることに気が付いたそうなんですね。多分、今までは見逃していたと思うので、身近なところでどれだけあるのか一度探してみると、思いがけない発見が色々と出てくると思うので、是非試してみていただけたらと思います」
●塚谷さんみたいに写真を撮っていくと面白いかもしれないですね!
「そうですね。例えば、地域やクラスの間で“どれだけ変わったところで見つけたのか”とか、“100メートルの間でどれだけ見つけたのか”といったコンテストみたいなのをやってみるのもいいですよね」
●私も、帰り道にスキマ植物を探してみます。何種類見つけられるかなぁ?(笑)
「あと、季節によって違いますよ。同じ場所でも夏と冬では違った植物が見つかりますよ」
ちょっとしたアスファルトの割れ目や排水溝の下、家の壁にまで、よく注目してみると、あらゆる隙間にスキマ植物が見つかりました。そして、このスキマ植物に都会の自然は支えられていたんですね。身近な自然“スキマ植物”。今日の帰り道も探してみようと思います。
中央公論新社/本体価格1,000円
塚谷さんの新刊となるこの本は、スキマ植物を網羅。都会だけでなく、海辺や山のスキマ植物も掲載されていて、奥深さに圧倒されます。“どうしてそんな場所に生えるの?”と突っ込みたくなるような写真が満載なので、是非ご覧ください。