今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、木原浩さんです。
植物写真家の木原浩さんは、今年『世界植物記~アフリカ・南アメリカ編~』という写真集を出されています。この本にはケニアやマダガスカル、パタゴニアなど、世界の辺境の地で撮った珍しい植物の写真が満載です。そんな植物の写真を撮ってらっしゃる木原さんに是非お話をうかがいたいと思い、先日、都内にある写真事務所にお邪魔して、世界最大の奇妙な花や標高5,000メートルに咲く青い花のことなどうかがってきました。
※日本の花の写真をたくさん撮っていた木原さんは、今度は世界の花を見に行きたいと思ったそうですが、最初はどんな花を見たいと思ったのでしょうか?
「スマトラにある“ラフレシア”を見たいと思ったんですね。子供のころに読んだ絵本などによく出てきたかと思いますが、それを見てみたいと思ったのが最初でした。花の直径が1メートルぐらいで、寄生植物なので、葉っぱが出ないんですね。花だけが地面に出ているような変わった姿をしています」
●色は赤で白い水玉模様があるような感じですよね?
「それで肉厚でゴムみたいな花なんですが、咲いたら肉が腐ったような、傍にいるだけでも我慢できないぐらいの悪臭がします。どうしてそんな臭いを発するかというと、虫を集めるためだそうです」
●写真を撮るのも大変ですね!
「傍にいるだけでも嫌なので大変です(笑)」
●いつごろ咲くんですか?
「僕が行っているほとんどのところは四季がないですね」
●じゃあ、常に咲いているんですか?
「ラフレシアは常に咲いているみたいですね」
●育ち方もかなり違うんですね。
「そうですね。咲いている場所はジャングルの中なんですが、乾燥していたり、ものすごく標高が高かったり、すごく湿ってたりして、植物にとってすごく暮らしにくい環境なんですね。それに対応させるために、そういう形になったみたいなんですね。他の植物でも、やたら大きくなったり、奇妙な形になったりするのは、大体そういうことなんです。そういう環境なので、そこに行くのも結構大変なんですよね」
●行くのも大変なのに、見に行きたいんですね?
「そうですね。僕は“見たい!”と思ったら、つい行ってしまうんですよね(笑)」
●(笑)。見たときの感動はすごいんじゃないですか?
「実は“こんなものか”って思うことが多かったりするんですけどね(笑)」
●そうなんですか!? 写真を見ると“すごいな!”って思いますが、実物を見るとそうでもないと思うことが多いんですか?
「結構ありますね。実際に大きかったりすることもありますが、写真って強調されてたりすることが結構あるんですよね。なので、僕が写真を撮るときは、そういうようにならないように撮影します。僕の本を見て読者の方が“これを見にいこう!”と思って行ったとき、“写真で見た通りだ”と思ってくれるように撮るのが、この本での基本スタイルでした」
●この本には、リアルな植物が写っているんですね。
「そうですね。ワイドレンズを使って形を変えたり、テクニックを使ったりしないで、そのままを撮ることを心がけています」
●木原さんはなぜ植物写真家になろうと思ったんですか?
「元々は植物が好きではなかったんです。自然の中で遊ぶのが好きで、小学3年生ぐらいまで東京に住んでいたんですね。そのときから近くの池に行ったりトンボを獲ったり魚を捕ったりしていたんですが、父親の転勤で高知に行ったんですよ。そこは僕にとって桃源郷のような場所でしたね」
●どんな世界が広がっていたんですか?
「近くの堤防に魚を釣りにいくと、フナがバケツ一杯に釣れたり、ウナギも釣れたりしましたね。色々な遊びをしましたが、東京から高知というギャップがものすごくて、高知にいた間は放課後は自然の中で遊んで、今考えたら危ない遊びばっかりしてましたね(笑)。そのころの経験が今に活きていると思います。なので、僕は植物に限定しているわけではないんですよね」
●植物だけじゃなく、そこを取り巻く自然に興味があるということなんですね。
「自然の中にいて生活できればいいと思っていたので、それができれば何でもよかったんですよね(笑)。僕は日本中で植物の写真を撮っていますが、“その場所にいって、その植物を見たい”というのが先なんですよ。そういう植物がある場所は素晴らしい自然が残っていて気持ちがいい場所なんですよね。僕はそういうところでテントを張って、たった一人でいるのは苦痛じゃないし、全然平気です。
こんなこと言うとみんなに怒られるんですが、それのついでに写真を撮っている感じなんですよね(笑)。今回の本にも書きましたが、元々社会性は無いし、会社勤めは自分の性格的に無理だと諦めていたし、そういうところに行くのが人一倍好きだったので、自然とその中に出かけていくわけですよ。その中で思わず写真を撮るわけじゃないですか。そうすると、種類がものすごく増えていくんですよ。なので、図鑑用の写真はすごくたくさん持っていて、それが仕事に繋がっているんですよね」
※木原さんはどんな写真を撮りたいと思うのでしょうか?
「同じ植物でも、環境によって咲き方が違うじゃないですか。その中で一番いい咲き方をしている植物を撮りたいですね。それは典型的ともいえるんですが、一番その花らしい環境でその花らしく咲いているのを撮りたいんですよね」
●そういう風に意識して見たことがないです!
「ないですよね! 例えば、スミレも色々なところで咲くじゃないですか。彼らはコンクリートの淵とかが好きなんですよ。なので、畑の中でキレイに咲いてたりしてもスミレらしくないんですよね。スミレはスミレらしく、スミレが咲きたい場所を選んで咲いているので、その環境と一緒に撮影すると、スミレ本来の姿が映るわけですよ。ところが、違う場所で栄養を与えたりすると、咲いても花が大きくなったり葉っぱが大きくなったりして、本来の姿とは違ったりするんですね。野菜もそうだと思いますが、肥料をやると全てそうじゃないですか。本来咲いている場所に咲いてないとおかしいんですよ。それに、僕にとっては“キレイに咲いている”っていうのもおかしいんですよね。
たまに“(遠くまで行かなくても)植物園で撮っても一緒じゃないか”と言われるんですが、それは違うんですよね。やっぱり野生の植物じゃないとダメなんですよ。なので、僕は園芸植物はほとんど撮りません。この仕事始めて3年ぐらい経ったときに“ひまわりの写真を貸してほしい”と頼まれたことがあるんですが、ひまわりの写真が無くてビックリされたことがありましたね(笑)。なので、園芸種のストックはものすごく少なくて、野生植物の写真がほとんどですね。だって、森の中にいた方が気持ちいいじゃないですか(笑)」
●世界には知らない植物がまだたくさんあると思いますが、これから見にいってみたい植物ってありますか?
「今回の本は売れたということもあって、『アジア・オセアニア編』という続編が出るんですね。僕は“アジア”というと“ヒマラヤ”をイメージします。僕は山登りが好きで、ヒマラヤやブータンには10回ぐらい行ってます。高いところだと5,000メートルは超えてますね」
●そういうところにも植物って咲いているんですか?
「5,000メートルのところに青いケシが咲いているんです。それは僕にとってロマンなんですよね。ただ、中国とかだと車やバスで行くツアーがあったりして、見ることができるんですよ。そこは4,000メートルぐらいのところなんですが、僕は5,000メートルのヒマラヤで見たかったんです。4,000メートルぐらいのところで咲いているのを見ると、丈が大きくてキレイな花が咲くんですね。多分、そっちの方がいい写真が撮れると思うんですが、僕が見たい5,000メートルのところだと、高さが10センチぐらいしかなくて、溶けるような青で散々な姿をしているんですが、僕はそっちの方が好きで、その姿を撮りたいですね」
●厳しい環境の中で、頑張って咲いている方が魅力的なんですね。そういう姿を見て、どんなことを感じましたか?
「“どうして、こんなところに咲くの?”って思いますね。岩のわずかな隙間に根を下ろして咲く花や、岸壁にしがみついて咲く花とか結構あるんですが、それを見て“もうちょっと楽な場所があるんじゃないの?”って思うんですよね。ただ、そういうところに咲いていると写真になりやすいんですよ」
●たくましいですよね。
「本当そうですよね。そういうのを植物学的な面で話を聞くと、他の植物が棲みやすい場所から追い立てられて、仕方なくそこに行ったそうなんですね」
●そこでも、しっかりと花を咲かせるんですよね。
「その代わり、その植物しか棲めない環境になるんですよ。他の植物は生えないので、そこで大繁殖ができるわけです。変なところに生えている植物は、もしかしたら他のところから追い立てられて、僕みたいにひねくれてるのかもしれないですね(笑)」
●似たようなところを感じちゃいますか?(笑)
「それはありますね(笑)」
「植物にはいい咲き方がある」という木原さんの言葉が印象的でした。大きく美しく咲かせた花も綺麗ですが、本来ある場所で本来ある姿で咲いている花こそが、その花らしい美しさなんですね。厳しい環境でもたくましく強く咲いている、木原さんの花の写真を見て、自分らしさについてもう一度考えてみようと思いました。
平凡社/本体価格6,800円
木原さんの新刊となるこの写真集は、世界の辺境の地で撮った珍しい植物の写真が満載! まさに木原さんの、世界をまたにかけた撮影活動20年の集大成ともいえる写真集です。
木原さんのオフィシャルサイトには、国内外の植物の写真が掲載されています。こちらも是非ご覧ください。