今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、柏原浩一さんです。
「一宮ウミガメを見守る会」の柏原浩一さんはウミガメにすっかり魅せられてしまい、仕事のかたわら、産卵場所としては日本で一番北にあたる千葉でウミガメの調査や保護活動を行なってらっしゃいます。そんな柏原さんは来月、千葉県の一宮で開催される「第26回 日本ウミガメ会議」のメンバーでもいらっしゃいます。今回はウミガメの知っていそうで知らない意外な生態や、ウミガメ会議のお話をうかがいます。
●今回のゲストは、「一宮ウミガメを見守る会」の柏原浩一さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
●知っていそうで知らないことがたくさんあるウミガメ。改めてどんな動物か教えてください。
「日本には“浦島太郎伝説”があるので、日本人はウミガメに対して興味を抱いているのと、ディズニーにもキャラクターとしていますし、水族館に行くと必ずいる動物なので、小さい子供にとっても人気の動物ですね。なので、身近に感じる人が多いかと思いますが、ウミガメそのものの生態ってほとんど知られてないんですよ。彼らは普段海の中で生活をしているので、人目に触れるときって産卵に来たときにしかないですし、しかもメスしか見ることができないんです。オスのカメに会うなんて珍しいことなんですよ。そう言われると“そうだな”ってみんな思うぐらい、実はウミガメはなかなか会えない動物なんですね。水族館に行けばオスとメス両方いますけど、実際は1メートル越えるぐらいにまで大きくならないとオスかメスか判断できないんですよ」
●彼らは普段どんなものを食べているんですか?
「日本には大きく分けて3種類のウミガメが来ると言われていて、関東近郊で見られるのは“アカウミガメ”という種類です。九州や沖縄に来るのが“アオウミガメ”。この2つが一般的で、あと、べっ甲細工の材料にもなっている“タイマイ”という種類がいて、その3種類がいるといわれていて、ほとんどがアカウミガメです。アカウミガメは魚や貝を食べる“肉食系”で、アオウミガメは水草などを食べる“草食系”です」
●同じウミガメでも、然違うんですね。見た目も種類によって違うんですか?
「食べるものが違うので、口の形が違うんですよ。なので、顔つきが違います。アカはちょっと恐い顔をしていて、アオはキャラクターとしてぬいぐるみになるようなかわいい顔をしています」
●アカウミガメとアオウミガメはそれぞれどういったところに生息しているんですか?
「これがすごく難しい話で、この辺りにいるであろうということは分かっているんですが、結局は陸に上がってくるときしか姿を見ることができないので、海中の正確な生息地は今でも分かりません。世の中、科学がこれだけ進んでいるのに、ウミガメの居場所がよく分からないっていうことに驚きました。
以前、沖縄の黒島研究所に行ったときに、ウミガメを捕る名人の方がいたんですね。その彼がやっている漁法は引き継がれておらず、沖縄でもごく数名しかいないんですが、その名人がウミガメの調査に協力してくれているんですね。その方は生息地を知っているはずなんですが、絶対に教えてくれません。研究所の方も困っています。でも、ウミガメの調査のために捕ってくるようにお願いすると、5匹とか捕ってきますし、僕が行ったときには12匹捕ってきてビックリしましたが、場所は絶対に教えてくれません。
そのときに小笠原のウミガメが捕れたそうなんですが、“(大きくて)船に上げられなくて逃がした”そうなんですね。“なぜ小笠原のウミガメだと分かったんですか?”と聞いたら、タグが付いていたそうなんです。僕たちは捕獲したウミガメにタグを付けるんですが、そのウミガメに付いていたのが、小笠原の研究所が使用している白いタグだったそうなんです。小笠原で捕まったウミガメが沖縄まで泳いできたんだと思います。ただ、今は沖縄に住んでいるのか小笠原で生活しているのかはウミガメに聞かないと分からないので、さらに興味が増していくんですよね」
●じゃあ、知らないことだらけなんですね。
「そうですね。むしろ、知らないことが9割じゃないでしょうか。今分かっていることって、10パーセントもないと思います」
※海の中で生活するウミガメのオスとメスは、どのように出会うのでしょうか?
「彼らは交尾のとき、海面に出てくるんですよ。彼らは息を吸うために必ず海面に上がってくるんですね。交尾をしていると時間がかかるから、息を吸わないといけないので、海面に出て交尾をするケースが多く、それを撮った写真がかなりあります。ウミガメがいる場所と交尾をする場所には関係性があるらしいといわれていますが、あくまで“らしい”なので、正確には分かっていないんですよね。でも、これだけ広い海の中で、オスとメスのウミガメがどこかで出会って、交尾をして産みにくるというのは、そういう場所があるんでしょうね」
●そうじゃないと、小笠原から沖縄まで移動するぐらい、行動範囲が広いから、なかなか出会わないですよね。
「その行動を把握するために“ウミガメの背中にGPSの発信機を付ける”という調査活動があって、今回千葉県の一宮でそれをやっています。そして、“第26回 日本ウミガメ会議”のときに、どういう移動をしたのかを発表しようと思っています。今年の夏に一宮に産卵にきたウミガメに発信機を付けました。最初の1ヶ月ぐらいは一宮の海を移動していて、今は小笠原の父島の方にいます。それはメスのウミガメなので、2年後に千葉に戻ってきてくれたらいいなと思っているんですが、いつまで発信機が付いているか分からないので、分かる範囲で調査をしてウミガメの行動を調べています。海から上がって空気に触れると電波が飛んで、人工衛星にキャッチされて、受信位置を記録して、センターにその情報がきて、パソコンでその情報を確認できるというシステムがあります」
●すごいところまで行ってたらどうします!?
「それを見るのも楽しみです! 実際、ディズニーの映画のように“ウミガメが太平洋を横断する”という調査結果もあるんですよ。あれはメキシコ湾流に乗るといわれているんですが、僕たちの仲間がウミガメに発信機を付けた情報では、その海流に乗らずに、自力でメキシコまで行ったという調査結果も出てるんですよ。そういうのを聞くだけでワクワクするじゃないですか! 子供たちに“ディズニーのあの映画の話は本当なんだよ”って話すとビックリされますね。そのぐらい、ウミガメの生命力は強くて、海の中で泳ぐ力も強いんですよ。時速70キロぐらい出るので、マグロの次に速いといわれています。地球上には様々な生き物がいる中で、ウミガメってあまり変わってないんですよ。だから、海の中で生きていくための完成型なんですよね」
●海に適した姿が凝縮されているんですね!
「不思議なのは、ウミガメは太古の昔からいるのに、種類が少ないんですよ。普通なら何千種類とか増えたりするじゃないですか。でも、カメは世界で6種類ぐらいしかいないんですよね」
●もしかして、それでもう完成されて、どこにいっても適応できるようになったということでしょうか?
「そういうことだと思います。こういうことも研究すると面白くて尽きないんですよね。そのうち半分は日本で見ることができるので、日本でウミガメの調査をするのは楽しいことなんですよね」
※“鶴は千年、亀は万年”と言いますが、実際にはどれ位生きるかは分からないそうなんです。一説によればカメは2億年以上前から地球上にいるそうですが、そんなウミガメも実は今危機的な状況に置かれています。一体どうして何でしょうか?
「人が住むために自然を破壊しているので、乱獲やカメの卵を捕ることによるものではなく、環境破壊が原因です。千葉の海でいうと、浜辺に港を作ったり、護岸工事をしたりすることによって、海の流れが変わって浜の砂が減って、砂浜がなくなっていきます。そうなると、ウミガメが卵を産む場所が減っていくんですね。また、ダムを作ることで浜辺の砂がなくなっていっているんですよ。どうしてかというと、本来砂は山から流れてくるものなんですが、ダムによってそれが止まってしまうんです。海に流れてくるはずだった砂が流れてこないので、砂が減ってしまうんですね。結局、人間が生活するための自然破壊が彼らを追い込んでいるということになります」
●砂浜がないと産卵は難しいですか?
「彼らは砂浜以外に産む場所がないので、砂浜がなくなっていくと、産む場所がなくなっていきます。昔だったら自然のままなので、(孵化して)産まれてくるケースが多いんですが、今年のように台風が多いと砂の中にある卵が水を被ってしまい、産まれてこなくなってくるんですよ。なので、今年は10ヶ所ぐらいにウミガメが産卵にきたんですが、卵が出てきたのは2ヶ所でした。
興味深い話があるんです。“カメが浜の奥で産むときは台風が多い”といわれているんです。台風が多いことをウミガメは知っているから、水に被らないように浜の奥で産むそうなんですね。どこまで本当か分かりませんが、自然の生き物はそういう感覚を持っているので、僕は信じたいと思っています。ただ、浜の奥が道路だったりすると産めないんですよ。
そこで、産んだ場所から卵を全部出して、人工孵化させるという活動をしている方もいますし、僕たちは“一宮ウミガメを見守る会”という団体名をつけているので、“ここでは絶対に孵らない”という場所でも、(卵を)掘り起こして人工孵化させたりはしません。それは“人が手を加えてはいけない”という会の趣旨によるものです。これを聞いたときは僕も悩みましたが、これも正しいことだと思いましたね。
でも、水族館があるところの人たちは1匹でも多く孵したいので、全部捕って人工孵化させて海に戻すということをしていたり、あるところでは卵を(全個数の)半分捕ってきて、半分はそのまま孵化させて半分は人工孵化させるということをしていたりしています。それはそれぞれの地域や保護する人たちの考え方があるので、どれがいいかとはなかなかいえないんですよ。これを言い出すと“そもそも港を作るな”ということになってしまうので、それはそれで難しい話じゃないですか。そういう葛藤の中で、自然のためウミガメのために活動しています」
●ウミガメの産卵は、千葉のどこで見ることができますか?
「北は九十九里から南は館山まで、ほとんどの浜で何らかの形で還ってきます。これ本当に知られていないことなんですよ。僕は御宿がホームグラウンドで、6月が産卵時期なので、御宿に半月通って産卵シーンを見ようと3年やったんですが、見ることができませんでした。結局、沖縄に行って産卵シーンを見にいきましたが、それだけ見るチャンスは少ないです。ただ、千葉のそれぞれの場所には4、5回、多いところには20回ぐらい来るので、頑張れば関東圏で産卵に来るというシーンを見ることはできます! 千葉って海がキレイなんですよ。なので、皆さんがサーフィンするような九十九里やシーカヤックをする館山の海にウミガメは還ってきます」
●そうなると、やっぱり見たいです! もしタイミングがよく見られたとしたら、私たちが気をつけることってありますか?
「彼らは光に弱いので、よく浜には“光を当てないでください”という注意書きがあります。千葉だと6月が産卵時期なんですが、地元の方たちはその時期にウミガメが来ることを分かっているので、浜辺に近いお店やホテルは夜電気を消してくれたりするんですよ。ウミガメが来たときにライトを当てたりすると海に還ってしまったり、静かなところじゃないと産みに来ないので、一度浜に上がったときにみんなが騒いでしまうとカメが怖がって、産まないで還っていってしまうんですね。なので、もし浜に上がってくるウミガメがいたら、遠くでそっと見守っていただくのが一番ですね。
メスのウミガメは今日上陸するかどうかを判断するために、海からこっちを見ているといわれています。なので、浜辺で花火をやっていたり、ドンチャン騒ぎをしていると、来なくなってしまいます。逆に、一宮の浜は真っ暗なので、こういう浜には還ってきやすいですね。千葉の場合、外房にカメを保護する団体が色々あるので、地元でそういう方を訪ねて、情報を聞いてみるといつ産卵に来るか教えてくれると思います」
●まずはそういう方に聞いてみるのがよさそうですね。
「6月~9月ぐらいまでの間に、そうやって見にきていただければいいかと思います」
※最後に千葉の一宮で11月27日から29日に開催される「第26回 日本ウミガメ会議」についてうかがいました。
「“第26回”と書いているので、四半世紀も続いている歴史のある会議です。とはいえ、全然固くなくて、小学生からアメリカのウミガメの研究者まで色々な方が来て、ウミガメのことについて語り合う会なんです」
●どなたでも参加できるんですね。
「参加できます。さらに、開催地である千葉県民の方は無料なので、是非来ていただきたいと思っています。3日間ありますが、ウミガメが産みにくる場所でやります。26回目にして関東初開催となります。なので、今回はより色々な人に来てもらいたいと思っているので、アトラクションを増やしたり、鴨川シーワールドさんにご協力いただいて、子供たちに子ガメを間近で見てもらおうと思っています。
そして、専門家の方と一緒に(ウミガメが)産みにくる砂浜の自然のお話やウミガメの話を聞きながら観察する観察会や、船に乗って、海からカメの気持ちになって浜を見てみる“洋上観察”ということをしたり、会場である一宮シーサイドオーツカさんで全国のウミガメを調査している方の発表会があったりします。これは小学生の夏休みの自由研究から水族館の学芸員の発表まであります。出入り自由ですので、聞きたいものだけ聞きにきてもらうだけでも結構です」
●ウミガメに少しでも興味があれば楽しめる内容になっているんですね。柏原さんのイチオシは何ですか?
「“洋上観察”が面白そうだと思っています。海から浜を見るという経験はなかなかないと思うので、楽しみですね。あと、一宮には“竜宮城伝説”というものがあるらしいんですよ。一宮には秋山先生という生き物を研究している大学教授がいるんですが、その方が“竜宮城伝説”の話をしてくれるんです。これもすごく楽しみにしています!」
●それ気になりますね! ウミガメが来るということは、豊かな海がそこにはあるということですよね?
「そこには自然があるという証です」
●改めて、千葉は豊かな海に囲まれているということを実感しますね。
ウミガメと言えば、私も屋久島で一緒に泳いだことがあるんですが、まさか千葉のほとんどの浜に上陸していたなんて驚きでした。いつか千葉の海でもお会いしたいなぁと夢は膨らみますが、もし上陸に遭遇できたとしても、静かに観察しないといけないですよね。特にライトを当てたり、フラッシュを焚いて写真を撮ったりすると、産卵をせずに引き返してしまうということなので、絶対にやめようと思います。「触ったりせずに温かく見守って下さい」と柏原さんもおっしゃっていました。
お話にも出てきたこの会議は、船に乗って海から砂浜を観察する会や、砂浜での生き物調査などウミガメに少しでも興味のある方は楽しめるプログラムが予定されています。
◎日程:11月27日(金)~29日(日)
◎会場:ホテル一宮シーサイドオーツカ
◎参加費:一般5,000円、学生3,000円
(小中学生と千葉県民の方は無料)
◎詳しい情報:NPO法人・
日本ウミガメ協議会のホームページ