今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、高砂淳二さんです。
この番組ではおなじみ! 自然写真家の高砂淳二さんが新刊を出されました。タイトルは“yes“。この本は詩人で音楽家の覚和歌子さんとのコラボレーションで生まれた写真詩集なんです。覚さんはあの映画『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつも何度でも」の作詞で知られています。今回は高砂さんに、写真詩集『yes』のことや、中国の世界遺産を訪ねる旅のお話などうかがいます。
●今回のゲストは、自然写真家の高砂淳二さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
●今年9月に新しい写真集『yes』を出されたということですが、今回の写真集は“詩”も掲載されているんですよね。
「そうなんです。映画“千と千尋の神隠し”の主題歌“いつも何度でも”の作詞で知られている詩人で音楽家の覚和歌子さんが書いてくださったんですが、自然観や宇宙観が深いんですよ。単に『遠くに星が見えるね』というのではなく、自分の内面と星が呼応しているような話や自然と自分の内側との対話といったことを書く人なので、『すごくいいのができるに違いない!』と思って、お願いしました」
●覚さんの言葉と高砂さんの写真がピッタリなんですよね!
「僕も海の中から写真を撮り始めて陸に上がって動物・風景を撮って、虹と星を撮ってきたんですが、ここまで一通り撮ってきた感じなんですね。周りからは色々なものを撮ると思われていますが、自分の中では一貫していて“自分ってなんだろう?”“自然・宇宙ってなんだろう?”“それらと自分との繋がりはどういったものなんだろう?”ということを知りたくて撮ってきたんですね。そういうところと覚さんの詩の世界と共通点が多くて、実際にお話をしてみたら、ものすごく息が合うんですよ。だから、写真詩集を作っている間も楽しく作れましたし、向かう方向も合っていた感じがしました。
例えば、星の写真に詩を付けるというときに、そのまま星の詩を付けるのではなくて、内容が関係なくても、その写真の気分に合った詩を組み合わせたりしていったんですね。星が出てみたりナマコが出てきたり、突然雲の写真になったりと、一見まとまりのないような内容なんですが、詩によってまとまっている感じになりましたね」
●高砂さんの写真と覚さんの詩が、私たちに語りかけてきていて、それが地球や自然からのメッセージのように感じられました。
「以前お話を聞いたんですが、覚さんは東京では詩を一切書かずに、八ヶ岳の方まで行って書くらしいんですよ。八ヶ岳の自然と向き合ったとき、下りてくるような感覚があって、それで詩を書いたりするそうなんです。特に映画“千と千尋の神隠し”の主題歌“いつも何度でも”のときは、下りてくるものに対して手が追いつかなくて、涙が出てきたそうなんですよ。そういった感じで、自然からの声だったり、さらに大きいものからの声を書いているものもあると思います」
※今回の写真詩集のタイトル“yes”には、こんな想いがこめられているそうです
「本を作り始めたときに『こんな時代だから、元気がない人も元気になれるようなタイトルにしたいよね』っていう話をしていたんですね。そのとき覚さんは山に篭って詩を書いていたんですが、書かれた詩を読んでみたら、元気や勇気がもらえるようなものが多かったんですね。そうこう話しているうちに『今の世の中は色々なことがあって、“No”ということが多い気がする。もし、この世の中が基本的に肯定した世の中だったらどんなにいいだろう。色々な人間がいるけれど、みんなが肯定的な感じだったら、みんなもっと幸せになれるよね。自分のことも肯定的になれば、もっといいよね』という話になっていったんですね。すると、覚さんが家に帰って思いついたのか『“yes”っていうのはどうだろう?』って言ってくれたんですね。『これだ!』ということで、このタイトルにしました」
●本当にそうなんですよね。まず、自分で自分を否定しちゃうんですよね。他人がどうこう言う前に「私なんてダメだから」って思っちゃうんですよね。
「そうじゃなくて、まず自分を認めてあげて、自分のために何かをやることが大事ですよね。とはいえ、落ち込むとどうしても否定的になりがちですが、それが終わったら『でも、そんなことはない』って思えるようになれればいいですよね」
●表紙の写真も“yes”というタイトルにピッタリですね!
「イルカがポンと飛んで『Yes!』と言っているような感じがしますよね。覚さんが“生まれて初めて覚える言葉が「yes」だとしたら・・・”という帯に付ける言葉も書いてくださって、『確かに、そうなると世の中は違ってくるよなぁ』って思いますね」
●そうですよね。そんな世界になってほしいですね。
「こんな時代だからこそ、そんな気がしますね」
※高砂さんはいつも新たな自然を求めて世界中を旅してらっしゃいます。最近では、こんな世界遺産を訪れたそうです。
「この前中国に行ってきまして、3つの世界遺産を巡ってきました。1つ目は“九寨溝”という山の2,000メートル以上のところにある小さな湖がたくさん集まったような場所なんですが、僕はまず何かのサイトでそれを見て、海の色でもなくて湖の色ともちょっと違うような青で、その湖の底には倒木が何本も転がっていて、青い影として残っているんですよ。それに驚かされて、行きたいという気持ちになって、どうせ行くならもっと行こうと思って、その近くに“黄龍”という棚田のようなところがあるんですが、その1つ1つが石灰水のプールのようになっていて、上から見ると黄色い龍が谷間に沿っているような感じになっているんです。最後は“張家界”という“アバター”という映画の舞台になったところがあるんですね。実際に行ってみたら“ここでアバターを撮りました”という張り紙みたいなものがいっぱい張ってありました」
●「アバター」って不思議な世界だから、全部作り物だと思ってました!
「あれは実際にあるんですよ。あそこに行くとアバターに出てくるような鳥がいるかもと思っちゃいますね(笑)。その3つは自然が作ったものなので、すごいなって思いました」
●湖でも海でもない青を実際に見て、どうでしたか?
「ものすごい声が出ましたね(笑)。僕は今まで海を中心に撮影してきていたので、“自然の青”というのは頭の中にあるんですが、想像できる範囲を超えているような感じでした。初めて見たときは太陽が雲に隠れて出ていなかったんですが、雲が晴れて太陽の光が差してきたときはすごい色に変わって、それは恐ろしいほど美しかったです」
●世界中の海の青を見てきている高砂さんでも、初めて見た青ってすごく気になります!
「行ったときは紅葉の時期で、葉っぱの色が湖面に写っているんですが、半分透けて湖底の青が見えていたので、現実世界じゃない感じがしました。ところどころは砂のようになっていて、ところどころに倒木があって、ところどころに藻のようなものが生えているんですよ。なので、一口に“青”といっても、さらに色々な青に分かれていたので、やっぱり自然の色彩はすごいなって改めて思いました」
※高砂さんは今年、山伏修行もされたそうです。一体どんな修行だったんでしょうか?
「実は元から興味があったんですよ(笑)。自然の中に入って撮影していますが、“自然と自分との繋がりや関係性”というのがいつも自分の中のテーマとしてあったんですよ。それを知りたいというところから自然を見て、こっちから自然に対してアプローチしながら写真を撮ってきたんですが、山伏の人たちは山をお母さんと思って、お母さんに戻ってそこからまた生まれ出るという風に考えているみたいなんですね。一度行ってみたいと思っていて、それをある人に話したら、『山伏修行の有名な先生を知ってるから、一緒に行きましょう』ということで、一緒に行くことになりました。その2人と先生でみっちり修行してきました」
●どんな内容だったんですか?
「まずは山歩きをしました。そして、お寺の中で山に向かってお祈りをしましたし、滝行もしました。湯殿山の滝に行ったんですが、そこに行く前に川の近くで服を脱いでふんどし一丁になって川に入っていくんですが、僕らが滝行をやる2、3日前に初雪が降ったんですよ。川の中に入って滝に近づいていくんですが、滝から来る風と水しぶきがものすごく冷たいんですね。『こんな状態で滝に入れるか!』って思ったんですが、入る前に気合をいれる体操をしたり、そこに向かっていくうちに気合がどんどん入っていって、滝に入るとなったときには大丈夫なんですよ。
意外なほどに冷静で『これによって自然のエネルギーを受けたり、自分のエネルギーを自然に与えたりして、自然と自分が混ざるのがいいんだ』と言われたことを思い出して、“滝に混ざってみよう”と思って、力を全部抜いたんですよ。そうしたら、背中に当たっていた水が温かくなったんですよ! しばらくしてから出てきたんですが、終わった後は寒くて震えると思っていたんです。それが温かくて、一緒に行った人も『高砂さん、温かいですね!』っていうわけですよ(笑)。それはビックリしました」
●私もビックリです! 絶対に寒いし痛いはずですよ!
「あとで先生に聞いたら『通常はもうあの授業はやらないんだ』って言ったんですよね(笑)。でも、こういうことっていいなと思いました。都会の中で暮らしていると何もキツイことはないじゃないですか。でも、あえてそういうところに行って、できないと思っていたことをやらされてできると『案外できるんだ。これができたからアレもできるじゃん』って思えるようになると思うんですね。そういう環境に身を置くことで、人には新しい能力が身につくみたいなんですね」
●もしかしたら、都会に暮らしていると、人の能力の半分も使ってないかもしれないですよね。そういったところで、人間の本来の力を遺憾なく発揮されたんですね。
「ちょっとした勇気や自信に繋がると思います」
●自然に対する考え方は変わりましたか?
「“自然に混ざる”というのが僕にとってはキーとなっていて、『山歩きをしているときも自然と混ざるんだよ』と言われたので、それから山歩きをしているときも普通は靴のゴムの滑らない力を利用して歩くから、そんなことを考えずに歩くと思いますが、歩くときも草をしっかりと踏んで、土や葉っぱを感じて歩くようにしたんですね。そうしたら、山との一体感を感じたので、1つ1つ気をつけながら混ざるということをキーポイントにすると、もう少し入り込めるかなっていう感じがします」
※この他の高砂淳二さんのトークもご覧下さい。
高砂さんの写真を見ると、いつもそこに写っている自然と自分が一体になれるような気がするんですが、今回お話をうかがって、高砂さんご自身がいつも自然との繋がりを意識して写真を撮られているから、その写真を見た私たちも自然との繋がりを感じられんだと確信しました。今回の写真詩集では、覚さんの詩が自然からのメッセージのように散りばめられているので、より自然とは、自分とは、そんなことを思い、考えられる作品になっていると思います。ぜひ皆さんチェックして下さい。
小学館/本体価格1,000円
高砂さんの新刊となるこの本は、詩人の覚和歌子さんとのコラボレーションによる写真詩集。覚さんの感性豊かなしなやかな詩と、高砂さんの奇跡のような写真が奥深い自然観をかもし出しています。
高砂さんの作品や近況などは、オフィシャルサイトをご覧ください。