今週は、今年の干支“申年”にちなみ、千葉市動物公園の取材リポート! モンキーゾーンの飼育担当・伊藤泰志さんにお話をうかがったときの模様をお送りします。ニホンザルの社会や赤ちゃんの頃から育てたゴリラのモンタくんのお話など、後ほどたっぷりお届けします。
※千葉市動物公園のモンキーゾーンでは、原始的なサルから人間に近い類人猿まで15種のサルを飼育。特徴的なのは、サルたちを比較して観察できるように檻が配置されていること。そんな千葉市動物公園モンキーゾーンの飼育担当・伊藤泰志さんと一緒に、まずは、ニホンザルが暮らしているサル山に向かいました。
●私たちは今、おなじみのニホンザルがいるサル山にきました。何頭ぐらいいるでしょうか?
「去年2頭増えて、全部で30頭です」
●みんな思い思いに過ごしてますね。
「そうですね。グルーミングしたり毛繕いしたりと様々ですね」
●ニホンザルは集団で行動して、その中で順位があって、ボスザルがいるといわれていますが、そのボスザルは集団をどのようにして仕切っているんですか?
「最近はボスザルという表現をしなくなっていて、野生のニホンザルにはボスザルはいないといわれています。こういう動物園みたいな閉鎖的な環境だとボスザルという存在は出てきます。ただ、必ずオスがボスになるとは限らなくて、このサル山ではメスがボスですね」
●どうやってリーダーが決まるんですか?
「単なる力関係だけじゃなく、群れを統率できる存在がそのメスだったということで、今回はメスがトップに立ったんだと思います」
●人徳じゃなく、“サル徳”があるということなんですかね?(笑)
「毛繕いもコミュニケーションの1つなんです。なので、コミュニケーションを取るために毛繕いをしたり・されたりしているんですよね」
●今その話をしてもらっているときに、毛繕いをされているサルが急に怒りだしましたね。どうして怒ったんですか?
「誰かが他のメスにちょっかいを出したみたいな感じじゃないでしょうか」
●また別のサルがすごく怒ってますけど、これはどうしてなんですか?
「多分強いおばさんに睨まれて興奮しているところですかね。まさに人間社会の縮図を見ているようで、1日中見ていても飽きないですね」
●伊藤さんが実際に見ていて「人間社会っぽいな」って感じたことってありますか?
「ニホンザルには厳密な順位がありますが、たとえ順位が低いメスでも赤ちゃんがいたら、エサをいい場所で食べることができるんです。普通なら、そんなところで食べていたら上のサルから怒られたりするんですが、赤ちゃんを育てているときは優先して食べられたりするんですよね」
●人間社会でも、地域で子育てをするといったことがありますが、サルの世界にも集団で子供を守るんですね。では、次はどこに行きましょうか?
「私が1番長く飼育していたゴリラのところに行きましょうか」
●ゴリラのところにやってきました。いますね!
「今下にいるのがゴリラのモンタ君ですね」
●モンタ君、今こっち見てますね(笑)。
「少し怒って、警戒してますね」
●どの辺りを見れば怒っているのか分かるんですか?
「ゴリラにも表情があって、機嫌が悪いと唇を噛むような仕草をするんですね。それが怒った顔です。大体、ご飯がほしいのにくれなかったりしたときにしてますね。ですが、今でもゴリラは私のことを覚えていてくれているようですね」
●今手に持っているのは木の枝ですよね?
「そうですね。木の枝や葉っぱをご飯として与えているんですが、ご飯だけじゃなく遊具としても使ったりしています」
●1メートルぐらいある大きな木の枝ですが、それを持ち上げて岩の上に登って食べてますね。
「そこは日も当たるし、お客さんの顔も見えるので、彼のお気に入りの場所なんですよ。割とサービス精神旺盛な子なんですよね」
●じゃあ、自分からお客さんにご飯を食べているところを見せているところもあったりするんですか?
「そうですね。嫌なら奥に引っ込んじゃいますが、そうじゃないということは、そういうところもあるんじゃないかと思います」
●今、左手で枝から葉っぱを取って食べましたが、すごく器用ですね!
「小さな小麦を1粒1粒つまんで食べることもできますし、穴に入った落花生をほじくって取ったりするので、見た目よりも器用です」
●思い出に残ってるモンタ君とのエピソードってありますか?
「モンタ君が5歳ぐらいのときに、メスのモモコと一緒にここに来たんですが、当時はまだ小さくて遊びたい年頃だったので、昔な中に入って一緒に遊んでましたね」
●どんな風にして遊んでいたんですか?
「中に入るとすぐに追いかけっこをしたり、じゃれてきたりして遊んでました」
●それはもう可愛かったんじゃなかったですか?
「可愛かったですね。モンタと遊んでいるとモモコがヤキモチを焼いて叩かれたりしましたね」
●自分の子供みたいな感じですね(笑)。具合が悪くなったときにお世話したりしたんじゃないですか?
「風邪をひいて体調を壊したこともあったことがあったので、部屋に入って傍で見守っていたんですが、『ちょっと外に出るね』って言って外に出ようとしたら、『行かないで』って捕まれたことがありました。普段は生意気な態度を見せていても、そのときは弱々しかったですね」
●それはキュンってしちゃいますね(笑)。ゴリラは人間との意思疎通ができていると感じるときが多かったりするんですか?
「言葉は通じませんが、やっていることを見ているなって思います。それに、機嫌がいいときは鼻歌みたいにハミングしながら揺れてることもあるので、人間と同じように感情表現は豊かですね」
●続いて、サルたちを比較展示している“サル比較舎”の中にあるクロザルのところに来ています。小さなクロザルがいますね! あれは赤ちゃんですか?
「そうですね。あれは去年の7月に生まれたクロザルの赤ちゃんですね」
●まだまだ子供で可愛らしいクロザルですが、クロザルはどんな特徴があるんですか?
「名前の通り全身真っ黒で、表情が豊かです。その表情でコミュニケーションを取っています」
●どんな感じで取っているんですか?
「威嚇するときは歯をむき出しにしたり、口をパクパクさせてクロザル同士で挨拶して、群れの中で争いをしないようにしているみたいです」
●口を使って挨拶をするのって、人間っぽいですね!
「私にも挨拶をしてくれたりしますよ。最近では、赤ちゃんクロザルも私にそうやって挨拶をしてくれますね。皆さんも、もしそれを覚えたら返してくれるかもしれないですよ?」
●そうなんですか! 口をただパクパクするだけでいいんですか?
「唇を巻き込むような感じで鳴らしてくれればオッケーですね」
●ちょっとやってみてもいいでしょうか?
※ここで実際にやってみました。
●・・・。軽くスルーされました(笑)。
「『この人誰かな?』といった感じで警戒しているみたいですね(笑)。でも、赤ちゃんと一緒に寄ってきてくれているので、観察するにはいい機会かもしれないですね」
●このコミュニケーションをやると、彼らと近づけた気がしていいですね!
「そういう風にサル同士にも挨拶があったりするので、それを覚えるのも楽しいかもしれないですね」
●子育てはどんな感じでするんですか?
「お母さんが面倒見る感じで、お父さんは子育てには関与しないですね。お姉さんであるもう1頭のメスがときどき相手したりしてます」
●他の種類のサルだと、お父さんが一緒に世話をすることもあるんですか?
「隣にいるフサオマキザルはお父さんが時々抱っこしていることがありますね」
●そのフサオマキザルは道具を使うサルだそうですね。
「とても小さいですが知能が高いサルで、石を使って硬い木の実を割って食べたりします」
●サルって、どの種類も賢いですね
「霊長類ですので、とても頭がいいですよね」
●最後はどこに行きましょうか?
「私が住んでいるところに行ったことがあるボルネオのオランウータンのところに行ってみたいと思います」
●オランウータンの所にやってきました。このオランウータンはどんなオランウータンですか?
「これはボルネオ島に生息している“ボルネオ・オランウータン”という種類です。うちにはオスとメス1頭ずついるんですが、今目の前にいるのはオスの“フトシ君”です。人を観察するのがとても好きなので、今私たちが見られている感じがしますね」
●さっきのゴリラもそうですが、こっちも観察されている感じがしますよね。なんでそれだけ見ているんですか? 人間に興味があるんですか?
「このフトシ君は人に育てられた子なので、人間が好きなんですよね」
●伊藤さんはボルネオにも行っているんですよね。どんなところでしたか?
「熱帯雨林のジャングルなんですが、最近ではアブラヤシのプランテーションがたくさんできてきて、飛行機の上からでも変わっているのが分かるぐらいにまでなっているので、オランウータンが棲んでいるところがどんどんなくなっている状況なんですね」
●そこで保護活動のようなことはされたんですか?
「これによってオランウータンが森から森に移動することができなくなってきているので、オランウータンが少しでも色々な場所に行けるようにハシゴやつり橋を作りました」
●その活動後にここのオランウータンを見て、何か感じるものってありましたか?
「オランウータンが生息しているところがどんどんなくなってきていますし、オランウータンの数も減っているので、日本の動物園としてできることは、オランウータンの数を増やしてあげることなので、本当は自然繁殖ができれば一番いいんですが、人工授精なども含めて、色々取り組んでいければと思っています」
●その話を聞いてオランウータンを改めて見ると、私たちに何かを伝えようとしている気がしてきます。
「オランウータンは“森の人”という意味があるんですが、とても頭がいいんですが、どこか寂しい目をしていますね」
●今年は申年ですので、たくさんの人にここのサルに会いにきてほしいですね!
「千葉市動物公園ではサル類をたくさん飼育していますので、是非見にきてほしいですし、1月にはサル比較舎でガイドをたくさんやりたいと思っていますので、是非来てください!」
今回たくさんの親子ザルに会うことができたんですが、寝そべっているお父さんザルに飛び乗る子ザルの姿は、まるでお正月休みお父さんに遊んでもらいたい子供たちのようでした。そんな姿を見るとますます親近感が湧いてしまい、オラウータンやゴリラが今絶滅の危機と聞くと、なんだか他人事とは思えません。申年の今年、サルに会いにいって、私たちの仲間でもあるサルたちに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
千葉市動物公園では、明日1月3日(日)の正午と午後2時から“新春カルタ大会”が、午後1時から干支のお話をしてくださるそうです。さらに、1月9日(土)と10日(日)の13時10分からモンキーゾーン・比較舎展示場で、“ちょっといい話・新春モンキースペシャル”というイベントが開催されます。9日はジェフロイクモザルとフサオマキザル、10日はワオキツネザルの話をしていただけます。
そして、4月にはライオンを展示する施設がオープン予定! ライオンが展示されるのは、千葉県では千葉市動物公園だけです!
◎開園時間:午前9時半~午後4時半まで(休園日:毎週月曜日)
(観察に適した時間は午前中だそうです)
◎入園料:大人・500円、子供・100円、小学生未満・無料
◎最寄り駅:千葉都市モノレール・動物公園駅
◎詳しい情報:千葉市動物公園のホームページ