今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、なすびさんです。
バラエティ番組“進ぬ!電波少年”で知られるタレントのなすびさんは現在、舞台を中心に役者として活躍されています。そんななすびさんは福島出身。それが縁で現在、東北の新しい道“みちのく潮風トレイル”の踏破を目指しています。
この“みちのく潮風トレイル”は、環境省が進めている事業で、東北の復興を目的としています。青森県八戸市から福島県相馬市まで、太平洋岸沿って延びるロングトレイルで、全線が開通すると700キロにもなります。
今回はそんななすびさんに、みちのく潮風トレイルを歩いて感じることや、昨年4月に大地震に見舞われたネパールの支援活動のお話などうかがいます。
※みちのく潮風トレイルの踏破を目指しているなすびさんは、歩き始めたとき、こんなことを思ったそうです。
「『言っちゃったものの、後には引けないぞ』じゃないですけど、意外と大変だなと思いました(笑)。開通しているルートは地図を見ながら行けるんですが、それでも迷ったりするんですよ。なのに、未開通ルートだとちゃんとした地図がないので、もっと迷ったり藪をかき分けたり、獣の足跡だけを見ながら歩いたりしたので、自分で意外と高いハードルを設定したと思ったりしていたんですが、地元の方やガイドさんの協力もあって、今は宮城県に入って、ラストスパートに入っていく感じですね」
●かなり進んでいるんですね?
「そうですね。青森県八戸市からスタートして、岩手県の三陸海岸が風光明媚なリアス式海岸なこともあって、すごく入り組んでいるので区間としては一番長いんですよ。なので、岩手県を歩ききったら約半分歩いたといわれているんですが、そこを1月末ぐらいに歩ききることができました」
●距離としてはどのぐらい歩いたんですか?
「僕も“直線距離700キロ”っていうことぐらいしか分からないので、意外と着かないんですよ。『1日30キロぐらい歩いていて、10日歩いているから300キロぐらいにはなるのに、まだこのくらいなの!?』『もう20日間ぐらい歩いてるから600キロぐらい歩いているから、もうすぐゴールだよね? でもまだ半分ぐらいだぞ!?』って思いましたね。実際に環境省の方から聞いていないですが、実際の総距離は1,000キロは越えるんじゃないかと聞いたので『どうりで着かないわけだ』と思いましたね(笑)」
●海岸沿いを歩くコースではあるんですが、そこをまっすぐ歩けば700キロなんですよね?
「一番大きな国道とかもあるルートで、そこを歩けば700キロなんですが、あえてそういうところを歩かないで、いわゆる“古道”という今ではなかなか目を向けられてなかったりする、昔の人が生活で使っていた道を再発掘して、そこを歩けるように整備したり、昔整備されていた道をもう一度掘り下げて歩けるようになったりとすると思います」
●それだけ盛りだくさんのコースということですよね。
「そうなんですよ。“みちのく潮風トレイル”と聞くと海辺のイメージが強いと思いますが、そういう風光明媚な山に登って海や街並を見渡すといった楽しみ方があります。もちろん、それぞれの街で地元の人とのふれあいや季節の美味しい食べ物を食べることもできるので、歩くだけじゃない色々な魅力に触れられるいい機会だと思います。
東北出身の僕が感じた一番の魅力は“人”だと思うんですね。皆さんからのおもてなしの気持ちが嬉しかったり、僕の職業柄もあると思いますが、歩いていると車から手を振ってくださったり、寒い中待っていてくださって缶コーヒーを手渡してくれたりと、歩く度に応援する方が増えていっていることを感じたんですよね。こういう温かさを世界中の人に触れていただきたいし、同時にまもなく5年が経つので、今の復興の様子も見てもらえたらと思います。そして、これから先も復興していく姿を見続けていっていただけたらと思います」
※なすびさんは、歩く旅のルーツはこんなところにあるんじゃないかとおっしゃっています。
「日本のトレイルの原点って“お遍路”じゃないかと思うんですね。僕は2011年の夏、17日間かけて車と徒歩を併用してお遍路を巡ったことがあるんですが、お遍路は全長1,200キロと言われているんですね。僕はその中で300キロぐらいだと思うんですが、行った時期は2011年の夏ということで、被災地の鎮魂や復興の願いを込めて歩かせていただきました。それが原体験として繋がっているんじゃないかと思います。
実際『ロングトレイルって何?』って地元の方に質問されたりするんですが、『お遍路が近いと思います』と答えると納得してくれるんですよ。それにお遍路って1200年の歴史があるといわれていますし、お遍路以外にも熊野古道があるので、そう考えると、日本には昔からそういう文化が根付いていたということになりますよね。それが今掘り下げられているというのは、興味深いことですよね」
●歩く旅は、日本人にすごく合っているんですね。
「そう思いますし、僕は去年ネパールに行ったときに地震に遭いまして、そのときは政府の支援の援助が届かないようなところに支援物資を届けたりしたんですが、そのときにある種の“人間の原点”を感じました。今は都会という人工のモノに触れ合う生活が多いですが、地震や津波といった自然の脅威にさらされたとき、人間は無力なんですよね。だから、あくまで“人間は自然の一部”だと感じるには、人工のモノを使ってではなく、自分の足で歩くことで感じたり学べたりすることがたくさんあると思うんです。今回歩いていて、それをすごく感じました」
●歩いているときは、どんなことを考えているんですか?
「それをよく聞かれたりするんですが、とにかく“無”になってますね。トレイルの目的といえば“歩くこと”じゃないですか。現代社会の中で“歩くこと”を目的として行動することって、なかなかないじゃないですか。最初は辛いし、大変だから『何で歩くの?』といわれたりしますが、そんな歩きから色々なことを学んでますし、被災地を歩いているということもあるのか、『歩いてくれてありがとう』って言ってくれることがすごく多いんですね。そんなこと言われることないじゃないですか。さすがに歩いて感謝されることが初めてなので、貴重な経験で、歩いて感じたことですね」
※なすびさんは登山未経験で世界最高峰エヴェレストの登頂に3年連続でチャレンジしています。なぜエヴェレストの登頂を目指しているんでしょうか?
「東日本大震災があり、福島に元気と夢と希望を与えたかったのと、福島で頑張っている人たちの頑張りをしっかり伝えたいと思って、エヴェレストに登って世界一高いところから伝えようと思って登りました。もちろん世界中にその声が届くわけがありませんが、そのぐらいの強い気持ちを持っていましたし、エヴェレストに登るのは命がけにもなるので、そういうことも含めた登山未経験の僕が登頂を目指すのが色々なキッカケ作りになればいいなと思っ、2013年に初めてチャレンジしました。そのときは8,700メートルぐらいまでは行けたんですが、天候の悪化と酸素の残量不足により断念しました。
翌年も挑戦しましたが、ベースキャンプの近くにアイスフォールという氷河帯の崩落事故が起きて、ルートも無くなってしまったので、ネパール政府からの中止が発表されてしまいました。
そして去年3度目の挑戦をしたんですが、4月25日にネパールで大地震が発生しました。僕たちはそのときベースキャンプにいたんですが、そこも大きな被害を受けて登山が中止になりました。『“東日本大震災で被害を受けた福島を応援したい”という想いを持って行ったネパールでまさかまた大地震に遭うなんて』と夢にも思いませんでしたが、『そんな僕だからこそ今ネパールで困っている人たちに何かできることがあるんじゃないか?』と思って、1ヶ月ぐらい現地に残って、車で何時間もかかるようなところにも行って情報交換をしたりしました。
東日本大震災のときに電気・ガス・水道といったライフラインが閉ざされたということが皆さん経験されたかと思いますが、ネパールでは首都のカトマンズでも水力発電や太陽光発電だったりするので、乾季で雨が降らなくなると、計画停電みたいなことを普通にしてきてましたし、ガスが無ければ木を切ってかまどに火を焚いたり、水も汲みに行っていたりしているので、ライフラインが閉ざされたとしても日本ほどのパニックになることがあまりなかったんですよね。
それを見たときに『“ライフラインがない”といわれて叫ばれていたのって、実はそれは“ライフラインではない”んじゃないか』と思ったんですよね。ネパールの人たちは食べ物がなければ分け合ったり、住むところがなくなったら自分たちでアイデアを出して瓦礫の中から使えそうなものを拾って簡易な住居を作ったりして、色々なことをやって頑張っているんですよ。だから『何かできることありますか?』って聞くと『いえ、特にないです』って返ってきたんですよね! 『困ってませんか?』って聞いても『確かに困ってますけど、今のところ雨風が凌げるようにはなってますし、食料も隣の隣の村の人が運んできてくれたんで大丈夫です。水も地震のおかげでそこから出るようになりました。瓦礫も暇なとき、時間見つけて片付けるからいいよ』っていったんですよ。そのとき『ネパールは基本的な生活能力が高いな』って思いましたね」
※なすびさんはネパール復興支援のためにこんなプロジェクトを立ち上げたそうです。
「“しゃくなげの花プロジェクト”というプロジェクトです。僕たちが春頃にエヴェレストを目指して街道を歩いていると、しゃくなげの花が見ごろを迎えるんですね。そのしゃくなげの花がネパールの国の花だということをガイドさんから教えてもらったときに驚きました。実は、福島県の県の花もしゃくなげの花なんですよ。そんな“縁”もあって、“福島からネパールへ復興への応援”という想いを込めてこのプロジェクトを立ち上げて、去年の春と秋の2回、支援物資が届いてない村に届けにいったりといった形で支援しています」
●私たちが参加することはできるんですか?
「クラウドファンディングで募金を募っていますので、サイトにアクセスしていただき、趣旨を理解していただいて、協力していただけたらと思います」
●まもなく東日本大震災から5年が経ちます。リスナーの皆さんにメッセージをお願いします。
「今回、みちのく潮風トレイルを歩いてみて、今の東北を改めて目の当たりにしたとき、復興が進んでいるところと進んでいないところの差が激しくなってきているんですね。僕が言われたことの中で一番大きかったのが“来てくれてありがとう”という言葉なんですね。とはいえ、現地に足を運ぶのはなかなか難しいことだったりすると思います。ですが、現地の方たちへの一番の支援は、お金やボランティアだけじゃなく、“心の支援”というのも大事になってくると思います。是非、これからも東北に目を向けていただけたらと思います。僕もネパールも含めて、色々な形で情報を発信していけたらと思っています」
“みちのく潮風トレイル”から“ネパールの支援活動”まで様々な活動をされているなすびさんですが、その原動力の全ては“福島”にあるということを、お話をうかがっていても強く感じました。これからもずっと福島のために活動を続けるなすびさんを、この番組でもぜひ応援させていただければと思います。
全線の開通は2017年度になる予定のこのトレイルですが、今でも歩ける区間はあります。
青森県八戸市から岩手県久慈市までの踏破認定制度というのがあって、約100キロの区間を歩いてスタンプを集めると、特製のピンバッチと証明書がもらえます。また、100キロを踏破すると特別なワッペンもプレゼントされます。詳しくは、みちのく潮風トレイルのオフィシャルサイトをご覧ください。
震災から5年の復興祈念として“カサブタかきむしれっ!”という題名の公演が現在、東京・中野の“ザ・ポケット”で行なわれています。“ザ・ポケット”での公演は明日3月6日(日)の午後2時からが最終公演となります。その後、3月8日(火)と9日(水)は伊勢崎市文化会館・小ホール、3月12日(土)と13日(日)は、いわきPITで行なわれます。チケットの料金や開演時間など、詳しくは“劇団ユニット3LDK”のサイトを見てください。
今回のお話にも出てきたネパールで発生した大地震で被災された方々を支援するためのプロジェクト。この支援活動の資金となる募金は現在も募っています。詳しくはしゃくなげの花プロジェクトの特設ページをご覧ください。