今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、畠山重篤さんです。
宮城県・気仙沼でカキやホタテの養殖業を営んでらっしゃる漁師、畠山重篤さんは気仙沼湾に注ぐ川の上流の山に木を植える“森は海の恋人運動”で知られ、2012年には国連のフォレスト・ヒーローズに選ばれています。畠山さんには、以前にも何度かご出演いただいていますが、東日本大震災から5年という節目に改めて番組にお迎えすることができました。
今回は壊滅的な被害を受けても1年も経たずに養殖業を再開できた背景や、あのルイ・ヴィトンとの意外な関係のお話などうかがいます。
※畠山さんが28年ほど前から進めている“森は海の恋人運動”。この運動を始めたきっかけは、カキの漁場である、川の水と海の水が混じりある汽水域がとても大事な場所であること。そして、川によって運ばれてくる山の養分がカキが食べる植物プランクトンの生育に欠かせないことに気づいたからだそうです。その気付きは、畠山さんが30年ほど前に行なったフランス視察にありました。実はフランス人にとって牡蠣はこんな存在だそうです。
「フランス人にとって牡蠣は寿司屋のマグロみたいなもので、無くてはならないものなんですよ。そんなフランスで50数年前にフランスでウイルス性の病気が流行して、フランス産の牡蠣が全滅したんですね。それを助けたのが日本の牡蠣なんです。宮城県は牡蠣の種が世界一獲れる漁場で、これを東北大学の先生がフランスに持っていって実験したところ、フランスで牡蠣がうまく育ったんですよ。なので、今フランスで食べている牡蠣はそのときの宮城県の種が今の牡蠣に繋がっているんですよね。そういうことで、宮城県とフランスは牡蠣を通していい関係にあるんですよ。
私は昔、フランスの牡蠣養殖事情を視察しにフランス沿岸をずっと回っていたんです。地中海側にはローヌ川という大きな川があって、その河口で牡蠣を作っています。大西洋側にはジロンド川という大きな川が流れていて、その河口はフランスで第2位の牡蠣の産地です。もう少し北に行くと、ブルターニュ地方というフランス最大の川のロワール川が流れているんですね。それらを見ると汽水域だと分かりますよね。その汽水域に流れる川の流域はどうなっているのかを調べるためにロワール川を遡っていったら、落葉広葉樹の大森林が広がっているわけですよ。それで分かったのが、“森と川と海を繋げて牡蠣の漁場を考えないと未来がない”ということなんです。それで山に木を植える活動を始めました」
●畠山さんがフランスに行ったとき、気仙沼は豊かな森ではなかったんですか?
「そうですね。そのときの日本の森は燃料革命があったり、国の方針もあって“拡大造林計画”が行なわれていて、川の上流には杉やヒノキばっかりになっていた時代でした。落葉広葉樹は実がなる木なんですよ。それをエサに鳥や動物がたくさん繁殖するんですよね。つまり、生き物にとって“豊かな森”というのは、森が動物たちや農地、最終的には海の生き物を育てているということなんですよ。難しく考える必要ないんですよ!」
●色々考えるより、森の生き物が喜んでくれるような森であればいいということなんですね!
「森があって、そこに流れている川が海に流れていけば、海の幸が豊かになっていくんですよ」
※震災で大きな被害を受けた気仙沼。復興するにあたりこんな苦労があったそうです。
「この震災で一番困ったのが、岩手県から福島県までの沿岸部の土地が地盤沈下したんですよ。その沈下したところをかさ上げしないといけないから、土地を作り直さないといけないんです。陸上の整備はまだまだですが、海側は沿岸部の養殖の漁場は全て復活しています。なので、海はほとんど復活しました」
●海の再生力ってすごいですね!
「私は50年前にチリ地震津波を経験しているんですが、そのときに父親から『大きな津波があった年は牡蠣の成長が倍ぐらい早かった』って教えてもらっていたんですよ。もしかしてと思って海を見たら、海が真っ黒なんですよね。油タンクが流れたから油が多くて、めちゃくちゃだったんですよ。海を毎日見ていたんですが、魚はおろか、小さなカニやフナムシにいたるまで、海から生き物の姿が全部消えてしまったんです。そういうものがいなくなると、そういうものをエサにしている鳥もいなくなるんですよ。
レイチェル・カーソンという作家が『沈黙の春』という有名な本を書いているんですが、それに似た“沈黙の海”になってしまったんですよね。それを見て『海に生き物を育てる力がなくなった』と思いました。その後、2011年の5月に私が10年ほど前から接点のある京都大学の魚類学の先生から『1000年に一度の津波が起きた自然がどうなっているのかを調べる調査隊をボランティアで立ち上げたので行きます』と連絡があったんですね。気になるのが“牡蠣のエサになる植物プランクトンがどうなっているのか”ということなんですよ。これさえいれば、食物連鎖で生物が繋がっていくんですよ。これがおかしくなっていたら、未来がないんです。5月中旬に来て調査をされたんですね。すると、京都大学の魚類学の日本を代表する研究者の方が『畠山さん安心してください。牡蠣が食いきれないほどプランクトンがいます!』っていうんですよ。普通はそういうこと言わないじゃないですか! まさに天の声でしたね!」
●それだけたくさんいたんですね!
※畠山さんは牡蠣の養殖を再開するためにどんなことをしてきたのでしょうか?
「牡蠣を作るには種がないといけないじゃないですか。この種は石巻市の近くに万石浦(まんごくうら)というところから仕入れたもので、お盆過ぎてから牡蠣の養殖が始まったんですが、普通は2年ぐらいかかるんですよ。ところが、正月明けになって息子が『牡蠣のイカダが沈みそうだ』っていうんですね。牡蠣が成長しているんですよ。『“牡蠣が食いきれないプランクトンがいる”って本当なんだな』って思いましたね。海からイカダを上げさせたら、殻はそこまで大きくないんですが、中身がすごくて、ピンポン玉のように大きく膨れてるんですよ! 蓋をしようとしても身が大きくて閉まらないんですよ。 私たちは東京の築地の魚市場に出荷しているんですが、魚市場に電話をかけてみたら、その年の牡蠣の値段がものすごく高騰していたので、『牡蠣がそんなにあるなら、すぐ出荷してくれ!』っていうんですよ。とはいえ、牡蠣を剥くところが津波で全部流されてしまったので、仮設ですが作りました。でも、うちの地域は52軒しか家がなかったんですが、44軒流されてしまったので、みんな仮設住宅にいるのでほとんど人がいなかったんですよ。仮設住宅で『牡蠣剥きをしないといけないんですが、手伝ってくれませんか?』とお願いしたら、みんなが『是非やらせてくれ! 働きたい!』っていうんですよね。それで牡蠣剥きが始まりました。それで、震災から1年経たないうちに水揚げが始まりました」
●畠山さんが今までやってきたことが活きたんですね!
「京都大学の先生がおっしゃるには『20数年かけて川の背景の環境を整えてきたことが、海の復活に繋がった』ということなんですよね。あれだけの津波がきてもそれだけ早く海が復活したということが、それを実証しましたよね。先生は『“森は海の恋人”って真理だ』っていうんですよ。それだけ、これまで言ってきたことが証明されたので、すごく嬉しかったですね」
●牡蠣の養殖と水揚げが早い時期に再開できたのは、あの超高級ブランド、ルイ・ヴィトンのサポートがあったということですが、これはどういうことなんですか?
「今回の震災で、様々な形での支援をいただきました。本当にありがとうございました。その中で、フランスが海外からいち早く“牡蠣の恩返し”ということで、生産者の方々や水産高校の学生などから支援をいただきました。ある日、息子がパソコンを見ていたら『ルイ・ヴィトンが支援するって言ってるみたいだよ』というんですよ。『何かの間違いだろ!?』って驚きました。後日、ルイ・ヴィトンの社員のきれいなお嬢さん方がうちに話をしにきたんですよ。
ルイ・ヴィトンは元々トランクメーカーなんですが、あのトランクって全部革だと思ったら、中は木なんですね。木の上に革を貼ったものだということで、世界一のトランクメーカーになったこともあって、大量に木を使っていた時代があったことで、森林にすごく関心がある会社だったんです。それに、ルイ・ヴィトンの偉い方々全員牡蠣が好きだったんですよ。自分たちの好きな牡蠣が、宮城県の牡蠣の種が最初だっていうことと、その牡蠣を作るのに山に木を植えていることに興味を示してくれたんですよね。
最初は“森は海の恋人運動”の活動への支援ということで話がきたんです。“山に木を植えることを支援すること、最終的には自分たちにも返ってくる”と考えたみたいですね。それに『“森は海の恋人”という言葉はデザインだ』と捉えてくれたんです。それは嬉しかったですね。僕らはデザイナーだっていうことですよね(笑)」
●そういうことですよね!(笑)
「日本という国を見てみると、真ん中に脊梁山脈(せきりょうさんみゃく)があって、日本海と太平洋を結ぶ川が3万5,000もある国なんですよ。この国のグランドデザインをどうするかを考えると、新幹線と高速道路とインターネットばっかり考えてますが、川の流域は今めちゃくちゃなんですよ。そこをしっかりときれいにすれば、この国の将来は明るいということが分かったんですよ!」
※この他の畠山重篤さんのトークもご覧下さい。
“背景の森がしっかりしていれば、海はすぐに再生することができる。そして、フランスに渡った牡蠣の種が恩返しとして、今度は東北の森に木々としてかえってきた”というお話を今回畠山さんにうかがって、改めて“海と森”“人と人”全ては繋がっているんだということを感じました。
WAC/本体価格1,500円
畠山さんの新刊となるこの本は、フランスと日本の“牡蠣”を通しての友情やルイ・ヴィトンとの出会いなど、興味深い話が満載です。そして挿絵にもご注目ください。ルイ・ヴィトンの5代目当主パトリックさんが描いた素敵な水彩画が掲載されています。
畠山さんはNPO法人「森は海の恋人」の理事長でもいらっしゃいます。今年は6月5日(日)に岩手県一関市の矢越山で“第28回 森は海の恋人植樹祭”を開催します。参加費は無料です。また、活動を支援してくださる会員も随時募集しています。詳しくは、オフィシャルサイトをご覧ください。