今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、福田幸広さんです。
幸せ動物写真家の福田幸広さんは“山もいいけど、海もいい!”をモットーに、国内外のあらゆる自然のフィールドにカメラを持って深く入り込み、長年、野生動物の写真を撮り続けてらっしゃいます。そんな福田さん、最近では“うさぎ島”という写真集が話題になりましたが、先月、“動物たちのしあわせの瞬間”という、ものすごく豪華な写真集を出されました。今回は、ウサギたちが集まってくるという瀬戸内海の島のお話や、フロリダのきれいな川で暮らしているマナティのお話などうかがいます。
※野生動物たちも、私たちと同じように幸せを感じることがあるのでしょうか?
「そうだと思います。長いこと見ていると、ぐっすり眠ってゴロンと落ちちゃうぐらい、明らかに『夢見ているな』と分かるぐらいのときがあるんですよね。あと、尻尾を振って楽しそうにしているときもあるので、目に見えて分かるんですよね。そういうのを見ると、動物たちも幸せを感じているときがあると信じています」
●飼っているペットは幸せを感じているんだろうなっていうのがなんとなく分かりますが、野生動物にもあるんですね!
「今おっしゃったことと同じで、野生動物でも同じ個体と長い時間一緒にいると、満足していたり嬉しそうなことが分かるんですよね。なので、僕は1ヶ所で長い時間をかけて撮影をしています。だから、いかに時間をかけて相手の感情を読み取れるようになるのかがポイントだと思います」
●動物によって違うと思いますが、大体どのぐらいの時間をかけるんですか?
「今はアナグマという動物を追いかけているんですが、今4年目で全部で300日ぐらいかけていると思います。そのぐらいかけると、恋しているときや子育てをしているときの様子が分かってきて、『去年はあの子にアプローチして失敗したけど、今年は成功したね!』っていうのが分かってくるんですよね。とにかく、時間をかければかけるほど色々なことが見えてきます」
●家族になるみたいな感じですね!
「ペットでいえばそんな感じで、僕が近くにいても自由なところを見せてくれるまで時間をかけていきます」
●大変じゃないですか?
「その駆け引きが楽しいんですよね!」
●どんな瞬間が楽しいですか?
「最初の1年はアナグマが住んでいる巣からちょっと離れたところにダミーのカメラを置いて、そのカメラに慣れてもらいます。翌年はカメラを少し近づけてカメラの音に慣れてもらいます。そういうことをして今年で4年目ですが、夜にストロボをたこうがカメラの音がしようが関係なくなって、彼らの自由な世界を見せてくれるようになりました。これから深いところにまで撮影できると思います」
●個体によって時間が変動するんですか?
「どの動物も大体5~6年を目処にやっています。今回出したウサギの本も、島に5年間、延べ100日以上通って撮影しました。そして、この本の前にオオサンショウウオを撮影しましたが、それは6年かけました。アプローチの仕方によって撮れるものが変わってくるので、そのためにはその生き物がどんな生き物なのかを理解して、そのためにはどのような機材を作ればいいのかというところまでいくと、1つの生き物の本を作るにはそのぐらいの時間がかかっちゃうんですよね」
※福田さんは先日“うさぎ島”という本を出して話題になりましたが、その“うさぎ島”とは、どんな島なのでしょうか?
「正式には“大久野島”というんですが、広島県にある忠海港から小さな船で10分ぐらいで着きます。歩いて1時間ぐらいで島を1周できるぐらいの小さな島にウサギが800匹ぐらい棲んでいます」
●そんな小さな島にそんなにも住んでいるんですね! なんでそんなにウサギがいるんですか?
「元々ウサギはいませんでしたが、本土の小学校で飼っていたものが飼いきれなくなって、8匹ぐらいを島に放したんですね。それが自然繁殖して、今では野生状態で棲んでいます」
●福田さんはなぜそこでウサギを撮ろうと思ったんですか?
「その前に撮っていたオオサンショウウオを鳥取県で撮っていたんですが、その場所からその島がすごく近かったんですよ。それでうさぎ島の話を聞いて行ってみたくなったので、撮影の帰りに立ち寄ったんですね。船から降りたら、森からウサギがいっぱい走ってくるんですよ! その時点でノックアウトでした(笑)。生き物好きにはたまらない瞬間じゃないですか! 普通は一生懸命探して、見つけたらこっちからアプローチして、逃げられながらも頑張るものなのに、色々なタイプのウサギが向こうから走ってくるんですよ。それで『ここに通おう!』って思いました」
●それはたまらないですね!
「“ウサギ好きの聖地”と呼ばれているだけあって、ウサギが好きな人にとってはたまらない場所だと思います」
●そこでの印象的なことってありますか?
「赤ちゃんが穴から出てくる写真があるんですが、普通は大きな穴の奥で子供を産むので、赤ちゃんから自分で出てくるところを見ることができないんですが、そのときは群れの中でも弱いお母さんで、自分で小さな穴を掘って、そこで子育てをしていたんです。普段は穴をキレイに埋めていて分からないんですが、たまたま授乳に帰ってきたお母さんを見つけたので、穴を見つけることができたんですね。そこからその穴の前で赤ちゃんが出てくるのを1週間以上待ちました。いつ出てくるのか分からないんですが、自立するときには必ず埋めてある巣を掘って出てくるので、それを待ちました。待機から1週間ぐらい経ったときの夕方に土が崩れてきたんです。『出てくる!』と思って撮影の体制に入ったら出てきたんですよ! ビックリするぐらい可愛かったです! 残念なことに、そのウサギが外界に出てきて最初に見たのがお母さんじゃなくて僕だったんですよね(笑)。撮っているうちに穴からどんどん出てきたんですが、暗くなってきていて、露出がギリギリの時間になっていたので『早くみんな出てきてくれ!』って思って撮影していました。それが一番の思い出です」
※福田さんはフロリダのクリスタルリバーに集まってくる哺乳類・マナティの撮影も行なっています。マナティは大きい個体だと全長3メートル90センチほど、体重は約1.5トンにもなるそうです。人魚のモデルにもなったこのマナティ。一体どんな生き方をしているんでしょうか?
「僕がマナティの紹介をするときは“世界で一番平和な生き方をしている動物”と表現しています。なぜなら、マナティの泉でシュノーケリングで一緒に泳ぐことができるんですが、彼らの幸せそうな声がいっぱいなんですよ。野生動物を目の前にして人が歓声を上げて一緒にいられる場所ってなかなかないんですよね」
●そのぐらい近くにいけるということですか?
「そうです。気分がいいときは向こうから来るので、じっとしているとぶつかりそうなところを通っていったり、目の前に来てお腹を見せてきたりするんですよね」
●野生動物とは思えないですね。福田さんがハマってしまったのは、そんな“距離が近い”というところですか?
「そうですね。例えば、イルカやクジラと一緒に泳ぐことができるところがあるじゃないですか。あれはあれで貴重な体験だと思いますが、それなりに泳力がないと難しいんですが、マナティの場合は泳力がなくても、ただ浮いているだけで向こうから来たり目の前にいたりするので、小学校の低学年の子供でも、浮き輪で浮いていてシュノーケルとマスクで見ていれば、すぐ近くで見れるんですよ」
●お子さんだと危なかったりしないんですか?
「マナティは“ジェントル・ジャイアント”と呼ばれているだけに、誰かを襲ったりすることがないんですよ。だから、羨ましいことにフロリダに行くと、中学校の授業としてボートを借りてマナティと泳ぐっていうものがあったりするんですよ。そのぐらいなので、襲われたりするような危険はことはまずないと思います」
●なんでそんなに穏やかなんでしょうか?
「聞いてみたいですよね。ああいう生き方ができたら幸せだと思いますね。背中にはボートで付けられた傷とかがあって、それがマナティの個体識別に使われるぐらいなんですが、人間のレジャーボートにひかれているのに人間が来たら人間の傍によってくるって不思議な感じがするじゃないですか。そういうところに“幸せに生きるためのヒント”があるんじゃないかと思うんですよね。殴られたからこっちも殴り返すんじゃなくて、『一緒に遊ぼうよ!』と言っているうちに分かち合えるところがあると思うんですよ。マナティはそういう生き方なので、平和な生き物だと思います」
※海と山の繋がりを、福田さんはこんな風に考えているそうです。
「僕が思うのは、全部1つの地球上のことで、何と何が繋がっているというよりは、みんな同じだと思っています」
●海や山をそれぞれを分けて考えがちですが、同じ地球のものだということですね。あと、福田さんの写真で印象的なのは、生き物だけじゃなく、生き物の周辺環境も撮影されているじゃないですか。それは意識して撮影されているんですよね?
「そうですね。写真を始めたころからそういう感じです。例えば、“ドールシープ”という山に暮らしている羊がいるんですが、断崖絶壁の冬山にいるんですよ。それを撮影しにいったときは『こんなにすごい断崖絶壁でマイナス20度になるようなところで生きているんだろう?』って不思議に思うじゃないですか。それを写真に収めて見た人にも感じていただきたいので、その周辺環境も撮影して、その動物が生きている証みたいなものが伝わるようにしています」
●そうなると、環境が変わってくると、状況も変わってきますよね。
「残念なことに、僕が動物の撮影を始めてから30年ぐらいになりますが、撮影場所に数年後訪れて状況がよくなったところってほとんどありません」
●となると、よくて現状維持ということなんですね。
「現状維持というところもあまりないかもしれないですね」
●そういう状況をどう思っていますか?
「ほとんどの要因は開発や地球環境の変化なんですよね。最初すごくいい場所だと思って撮影を始めても、川の様子が年々変わって撮影ができなくなってしまったりすることとかたくさんあったりするんですよね。北海道に誰も来ない小さな原生花園があって、6月の早い時期から花が咲くところがあるんですが、僕が撮影を始めたころは誰も来なかったんですよ。でも、いつの間にか観光のための木道ができて、駐車場ができてきたんですね。そうなると、鳥が来なくなってしまったんですよ。撮影を始めたころは横にテントを張って、鳥の鳴いている声を一晩中聞きながら撮影をしていたんですが、今では数がものすごく減ってしまいました。そういうところばっかりで、改めて行くと悲しい思いをするところが多いんですよね」
●福田さんがそうだと、動物たちも同じように悲しい気持ちになっていますよね。
「あの場所に戻って花の上で恋の唄を歌おうと思ったら、そこが木道になっていて、声には出さないですが『どこで歌えばいいんだよ!?』って思っている鳥もいると思うんですよね」
●そうなってくると、福田さんが撮影されている“幸せな時間”がどんどん少なくなっていきますよね。
「動物たちはそれでも適応しようとして生きているんですよ。その木道から外れたところに小さな花を見つけて、その上で鳴いていたら『よくやったな! よし、キレイに撮ってやろう!』っていう気持ちになりますね」
●元気もらいますね!
「そうですね。みんなそれなりに大変なところで自分たちの棲家を見つけて、その中で美味しいものを見つけたり、グッスリ眠れる場所を見つけて幸せを感じていると思うので、僕はそれを1つずつ紡いでいくスタンスで、これからも撮影していこうと思っています」
我が家の愛犬・マロンちゃんは日向ぼっこをしながら、お腹を見せてゴロンとひっくり返るですが、その幸せをそうな姿を見ると、いつまでもこの姿が続くように守ってあげたい。そんな気持ちになります。それと同じように、福田さんの写真集に載っている野生動物たちの幸せの瞬間を見ると、いつまでも彼らが幸せを感じられる環境が続くように、何かできることからしていきたい。そんな風に思いました。
日経ナショナルジオグラフィック社/本体価格3,200円
食べる・まどろむ・恋する等々、動物たちが幸せを感じているだろうなと思える瞬間をとらえた写真が満載です。今回のお話に出てきた赤ちゃんウサギが巣穴から出てきた瞬間の、真正面を向いた顔や、無邪気に近づいてきて変顔をしたマナティの写真等々、ページをめくるたびにハッピーになれる写真集です。
福田さんの近況はオフィシャルサイトをご覧ください。