今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、越智隆治さんです。
水中写真家の越智隆治さんは、イルカやクジラなどの海洋哺乳類やジンベイザメなどの大型の魚類の撮影を、世界中の海をフィールドに行なってらっしゃいます。そんな越智さんの最新の写真絵本が『イルカと友達になれる海~大西洋バハマ国のドルフィン・サイト~』ということで、今回はバハマの海で暮らすタイセイヨウマダライルカのお話ほか、日本ではあまり知られていない海洋哺乳類の宝庫スリランカについてうかがいます。
※バハマの海のドルフィン・サイトとはどんな場所なのでしょうか?
「世界中のイルカ好きの聖地みたいな場所で、日本でいうと御蔵島みたいなところですね。そこのイルカは他のイルカと比べてもフレンドリーさが全然違うんですよ。日本でも御蔵島はすごく人気で、毎週末にはイルカ好きが泳ぎに行くんですね。ここの種類とは違うんですが、“タイセイヨウマダライルカ”という種類が人間といい交流を続けてきたと思います。目の前まで来てくれて一緒に泳いでくれたりするので、初めて見た方だと野生のイルカだと思えないと思います」
●触っていいんですか?
「船ごとにルールを決めていたりするんですが、実際は触られたいイルカと触られたくないイルカがいて、嫌がるイルカはどんな状況でも逃げるんです。触ってほしいイルカは手を引っ込めてても胸の近くまで寄ってくるので、手を添えてても逃げないんですよ。僕らは“おさわりイルカ”と呼んでいるんですが(笑)、ある時期だけ個体が人間と接触することに興味を持つんですね。でも、成長するにしたがって、そういう好奇心がなくなっていきます。特にメスの場合は子供が産まれるとなくなってしまいますね。オスの場合は若干変わってきますが、タイセイヨウマダライルカは産まれてから4年後ぐらいに親元を離れるので、そのあとぐらいの若い世代のイルカたちが触られたくなるんですよね。自分が知っているのは5頭ぐらいですね。
“ダービー”って名付けられたイルカの話なんですが、ほかのイルカが目の前にいたので撮影していたら、後ろから肩を叩く人がいたんですよ。『今集中しているから。放っておいてくれ!』って思いながら撮影していたら、しつこく叩くんですよ。『しつこいな!』と思って振り返ったら、僕の肩にダービーがいて、突っついてたりとか(笑)。水中に潜って撮影をして上がろうとしたら、頭の上に乗っかって上がるのを邪魔してきて、避けようとしても乗っかってきて、まるでイルカの帽子をかぶっているようになって、じゃれてきて」
●すごく可愛いじゃないですか!
「最近では“スクラッチ”と呼んでいるイルカがいて、男の子なんですけど、その子が泳いでくると胸元にまとわりついてくるぐらい、距離感が全然違うんですよ。なので、触りたくなくても触っちゃうんですよね(笑)。その子を撮影しようと思っても近すぎるので、その子の首を持って戻そうとするんですが、結局戻ってくるんですよ(笑)。それの繰り返しをしたりしていますね」
●可愛いですね!
※他の海に暮らす同じ種類のイルカたちもフレンドリーなんでしょうか?
「同じタイセイヨウマダライルカでも、よく取材で行くカンクーンの子たちは愛想がなくて、水中に逃げてしまうぐらい、ほとんど寄ってこないです」
●ということは、種類じゃないっていうことですね!
「そうですね。御蔵島にいるのはバンドウイルカなんですが、御蔵島のイルカはフレンドリーなのに対して、他の海域にいるイルカはそうでもなかったりするんですよね。何が原因なのか僕もよく分かりませんが、人との交流がたまたま上手くいって、そういう風になっているんだろうなと思います」
●そこにこれまで行った人たちがイルカと良好な関係だったから、今もイルカと人が仲良くできているんですね。
「イルカたちを阻害せずに、共存していた結果なんだと思います」
●とはいえ、代変わりしているじゃないですか。仮にそのときのイルカたちといい関係だったとしても、その子孫たちまでなぜ好意的なんでしょうか?
「知能の高さもあると思いますが、親がそうやって交流を持っていたら、子供たちもその様子を見て『人間は一緒に遊べる生き物なんだ』と認識していくんじゃないかと思います」
●代々、脈々と受け継がれていくんですね!
「それでも、その中でもフレンドリーなものもいれば、そっけないのもいるという感じですね。なので、イルカの種類よりもイルカたち個々のキャラクターが見えるのが面白いですね。僕は学者じゃないので、種類で行動などを感じるより、そこにいるキャラクターのあるイルカたちと接しながら撮影する方が好きですね」
●まるで、個々の人間と接しているようですね!
「そうですね。ザトウクジラの話になってしまいますが、撮影するにはお母さんが僕らをどれだけ受け入れてくれるかが重要で、一緒に来るゲストの方が撮りたいから一気に寄っていきがちになってしまいますが、(撮影する対象が)人間のお母さんと子どもだったら、可愛い赤ちゃんがいるからと、が~っと行ったら恐くなって逃げますよね。普通はお母さんとコミュニケーションを取ってから撮影させてくれるかどうか交渉をするじゃないですか。クジラももちろん同じで、一気に行ったら嫌がるお母さんが多いのは当たり前ですよね。あくまでフィーリングですが、『このお母さんはどこまで寄るのを許してくれるか』を感じ取りながらアプローチしていくことをした方が、お母さんが落ち着いてくれて、子供も安心して長く一緒にいてくれることを(ゲストに)教えると、一気に寄っていく人が少なくなります。でも、そうしてもクジラのお母さんの性格があるので、それぞれの個性を尊重した上でアプローチをしないといけないんですよね。それをしてから撮影するのが理想だと思っています」
●今回、越智さんに「どうしたら、こんなに近くで野生動物の写真が撮れるのか?」ということをうかがいたいと思っていたんです!
「“いい写真を撮りたい!”と思うのは当然だと思うので、気持ちは分かります。短い期間で来る人は『チャンスを逃したくない!』と思って焦ったりするのも分かりますが、僕はそういう気持ちで接したくないので、ツアーみたいなことをやることで、長い期間、同じ生き物たちと触れ合えるようにしています。そうすることで、相手の行動や思考が考えられるようになると思うんですよね。相手のことを思いやりながら撮影をしたいと思っています」
●思いやると、その気持ちは伝わりますか?
「イルカやクジラだけじゃなく、人間もそうだと思いますが、相手のことを思いやって、やり取りをするか、そうじゃないかで違いが出てくるのは、どんな生き物でもそうだと思います」
※越智さんが今注目しているダイビング・スポットはどこなのでしょうか?
「スリランカですね。スリランカは2009年まで内戦をしていたせいで、あまり知られていなかったんです。モルディブへ取材に行ったとき、機内誌にスリランカのホエール・ウォッチングの記事が載っていたんですね。それには“シロナガスクジラがいる”とか書いてあって、『シロナガスクジラがそんな温かい海にいるの!? 行ってみたい!』と思っていたら、スリランカでのダイビングの取材依頼が入ってきたんですよ。『これは行くしかない!』と思って、行きました。
クジラのことが知りたかったので、現地のダイビングのオペレーターに会う度にクジラの話を聞いていたんですが、最初はみんな知りませんでした。その中で1人だけ詳しいスリランカ人がいたので聞いてみたら、今でもいるとのことだったので、見せてもらうようにお願いをして、外洋に行ったら、すぐにシロナガスクジラを見つかって、そのあともマッコウクジラの群れがいたりとか。その時期は透明度が悪かったので水中には入りませんでしたが、他にも色々な種類のイルカがいたので、『これは(スリランカに)来ないとだめだろう!』と思いましたね。そいつから話を聞いたら、3~4月がベストだということなので、その時期にゲストを連れて行って船を出してクジラと泳ぐっというのをやってるんです」
●スリランカにそういうイメージがなかったのでビックリです!
「あまり知られていませんでしたね。スリランカの南にある“ミリッサ”という街があって、そこは昔からホエール・ウォッチングが有名だったらしいんですが、外にはあまり知られていませんでした。僕らみたいな人はウォッチングだけじゃ満足いかないので、僕の知り合いの海外のカメラマンも現地に行って水中に入って写真を撮ったりしていました。僕らからすると、透明度が悪いところにいるのが当たり前だと思っていたシロナガスクジラの写真が、真っ青な海の中にシロナガスクジラがいて、全身が見ている写真を見せられて衝撃を受けましたね。『これは行くしかない!』と思って、リサーチも兼ねて何回も行くようになりました。
実際に透明度がいい海でシロナガスクジラに会ったりとか、そういう取材をしているときに“マッコウクジラは500頭ぐらい群れることがある”と聞いたりと、僕からしたら有り得ないような話がどんどん出てくるんですよ。“そんな海にシャチがマッコウクジラの子供を襲いにくる”という話を聞いたと思ったら、実際にその瞬間を撮影したカメラマンに会って写真を見せてもらったりしてたら、『グズグズしていられない! 少なくとも、日本人では一番最初に行きたい!』という想いが強くなりましたね」
※越智さんにはふたりのかわいい息子さんがいらっしゃいますが、子育てをする上でこんなことを意識されているそうです。
「自分の子育てですごく影響を受けたのは、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』という本です。“小さな子供を育てる上で、知識よりも何かを感じる感性を育てることが何倍も重要で、そういうものを感じてもらうために、子供には荒々しい自然の中で色々なことを経験させてあげられる大人が最低1人は必要だ”と書いてあるんですよ。それを結婚する前に読んでいて、『こういう子育てをしたい』と思っていたんですね。妻も僕と会う前からその本に共感していて、息子がお腹の中にいるときからバハマに行ってイルカと泳ぐ“マタニティ・ドルフィン・スイミング”をしたり、自宅水中出産をやったりしました。
この『イルカと友達になれる海』は子供向けの絵本なんですが、イルカやクジラに対してどういう思いやりを持って接しているのかというのを子供たちに感じてもらえるような本を作れたらと思って作りました。そういうところで、人と生き物の交流にこだわって、本を何冊か出せたらと思っています」
●子供はもちろん、大人もそういう感性を磨くのは大事ですよね!
「特に大人の方がそういう機会があった方がいいんじゃないかと思いますね。こういうツアーで美しい海でイルカと初めて会ったり、クジラに会って大きさを感じて感動して泣く大人もいるんですよ。そういうのを目の当たりにすると“良かったな”って思いますね。大人になっても涙を流すような感動的な体験をすることを手助けできたのは嬉しいですね」
※この他の越智隆治さんのトークもご覧下さい。
“相手のことを自分なりに思いやり考える”。例え言葉は通じなくても、棲んでいる世界が全く違っても、そうすることで相手に想いは通じるんですね。まるでイルカと友達になったような近さの越智さんの写真を見ていると、改めてその事を実感します。
小学館/本体価格1,300円
越智さんの最新刊となるこの写真絵本は、越智さんが20年以上、バハマの海に通い続けて撮った素晴らしい写真が満載です! どこまでも透き通った海に暮らすタイセイヨウマダライルカたちのリラックスした姿を、写真を通して感じられます。越智さんとイルカたちの距離が本当に近いので驚きます。
越智さんは世界の海をフィールドにしたダイビングツアーなども主宰されています。詳しくは越智さんのオフィシャルサイトINTO THE BLUEをご覧ください。