今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、菅沼悠介さんです。
今年3月、“約77万年前の地層が千葉県市原市で発見された”というニュースが大々的に取り上げられました。この地層は“チバニアン(ラテン語で“千葉時代”という意味)”と呼ばれています。この名前が今年、国際学会で認められると、“ジュラ紀”や“白亜紀”と同じように、地球の歴史を語る上で大事な時代になる可能性があるそうです。
そこで、今回は国立極地研究所の地形や地質学の専門家、菅沼悠介さんに“チバニアン”がどんなにすごい地層なのか、研究することで何が分かるのかうかがいます。
※“チバニアン”は一体どんな地層なのでしょうか?
「僕たちが研究している地層は市原の海の地層で、泥が降り積もって徐々に地層が作られていきますが、その地層ができるときに暖かくなったり寒くなったり、大雨が降ったり台風がきたり、さらには地磁気の逆転が地層の中に記録されるんですね。今はもう(その地層は)陸上にありますが、その地層から資料を取ってきて分析すると、過去の情報が紐解くことができます」
●その時代の特徴が地層に埋め込まれているんですね!
「そう解釈していただいていいかと思います」
●その地層を研究するって、地球の歴史を研究する感じなんですね。ところで磁場が逆転しているって、どうやって分かるんですか?
「千葉にお住まいの方はあまり気づいていないかと思いますが、千葉の地層は世界でも珍しい貴重な場所で、地質学的にはわずか100万年で、当時は海だったものが今では山になっているわけですよ。これは活発な地殻変動で磁場が高くなり、隆起した結果、山になったという世界中でも限られた場所になります」
●そうなんですか! 今私たちが立っているところの下の地層は地球の歴史を紐解く上で重要な地層なんですね!
「そうですね。それは地質学が日本に導入されたころから分かってきていたことだったので、千葉周辺の先生だけじゃなく、京都大学や大阪大学の先生なども千葉に調査に来て研究されています。それによって、どこの地層に磁気の逆転があるかが分かってきて、かなり細かく絞れるようになってきています」
※なぜ“チバニアン”という名前が付いたのでしょうか?
「これはラテン語で“千葉時代”という意味の言葉です」
●よく“白亜紀”や“ジュラ紀”といわれるときがありますが、そういう呼び名の1つになるということですか?
「はい。そういう重要な地層がある場所にちなんだ名前が付けられることになっています。“ジュラ紀”はヨーロッパのジュラ山地で見つかって研究が進んだので、その地層を代表するのにふさわしいということで、その名前が付きました」
●なぜその時代がピックアップされているんですか?
「(名前は)環境が大きく変動したときに対応するように作られています。例えば、“白亜紀”や“ジュラ紀”は恐竜がいた時代ですし、その後は哺乳類が繁栄した時代になります。そして、我々が“チバニアン”という名前を付けようとしている中期更新世という時代は、地球の環境が変動して氷河期と間氷期が10万年周期で訪れるようになってきた時代ということで、注目されている時代になります」
●具体的には、どのぐらい前の時代になるんですか?
「始まりが77~78万年前で、市原市の地層はその時代の地層になります」
※地球の磁場が変わるのはすごいことだと思いますが、地球の長い歴史の中ではよくあることなのでしょうか?
「平均すると100万年に4、5回ぐらい起きていると考えられていますが、それがどうして起きるのか、起きたらどうなるのかは我々もまだあまり分かっていません。それゆえに、今回の地層みたいな磁場の逆転が刻まれている地層を研究して、その現象が起きたときの地球環境がどうだったのかを詳しく調べようとしています」
●これから色々と分かってくるんですね!
「難しいことや分からないことがたくさんありますが、頑張って調べていきたいと思っています」
●あくまで想像ですが、生き物とかにも影響があったんじゃないですか?
「地質学的には、地磁気の逆転のときに生物が絶滅したという証拠はないといわれています。ただ、我々は化石の記録を見ているだけなので、そのとき存在していた生物の“量”は化石の記録として残るわけではないので、正確に解明するには難しいですね」
●もしかしたら、“チバニアン”を研究することで、それらも分かるかもしれないんですね。そう考えると、この研究は意味深いものになってきますね
「そう理解していただけると、非常に嬉しいですね」
※菅沼さんは、どうして地質学の道に入ったのでしょうか?
「僕は長野県出身で、周りには山や川といった自然がたくさんありました。そういう山や川の成り立ちに子供のころから興味がありました。高校生ぐらいになると、“地球環境変動”や“温暖化”というキーワードが出始めてきていて、今ある地球環境が今後どうなってしまうのか危機を抱きつつ、地球の歴史を紐解くということで、地質学に直結して、すんなり入ることができました」
●実際にやってみてどうですか?
「世界中に行って色々なところの地層を見たり地球を見たりするのが大好きで、それが今やっていることに直結しているので、こんなにいい仕事はないと思っています」
●世界中の地層を見て、どんなことを感じますか?
「僕が今メインで研究している場所は南極なんですが、南極の氷が温暖化で徐々に溶け始めていて、もしかしたら、今後大規模に溶けてしまうかもしれないという危機に直面しているんですね。それで、今南極では何が起きているのか、過去に何が起きたのかを調べて、研究しています」
●調査を進めていって、温暖化が進んでいるというのは感じますか?
「僕は温度の観測はしていませんが、南極の氷が溶けているデータは出ていて、それがどのぐらいの量で、今後はどうなるのかは検討の余地はありますが、溶け始めているのは事実です」
●今後、研究してみたい地層や紐解いてみたい地球の歴史ってありますか?
「僕は南極に今まで4回行っているんですが、南極は広くて未知な部分がまだまだあります。なので、もう少し南極に集中して研究していきたいと思っています。また、千葉の地層と全く関係ないように思うかもしれませんが、今僕が調べている時代と市原の地層の時代は同じで、その当時の環境を調べるのが一番大きなテーマです。南極の当時の環境を調べて、市原から当時の世界の環境を調べることで、気候がどういう風に変動しているのかを調べるのが究極の目的です」
●それは面白そうですね! 千葉と南極はかなり離れていますが、共通点ってあるんですか?
「先ほども話しましたが、千葉の地層は特別で100万年も満たない地層が陸上にあるんですよね。本当は海の底でしか調べることができない地球の歴史を陸上で詳しく調べることができるんです。今調べている場所は77~78万年前の、今よりも温暖なとき(の地層)と言われているんですね。そのときは南極の氷が今よりも少し溶けていて、水位も今よりも高かったです。それがどうして起きるのかというのを、千葉から世界の歴史を見て、南極で氷の大きさがどういう風に変わっているのかを調べて、それを付き合わせることで将来何が起きるのかを予測していこうとしています」
※“チバニアン”が国際的に認定されるには、どんな手順を踏んでいくのでしょうか?
「これから国際的な標準の地層を選ぶ検討委員会というところに申請書を出して、選んでいただきますが、それには長いステップがあります」
●ライバルもいるそうですね。
「現段階で候補地が3ヶ所あります。千葉の市原のほかにイタリアで2ヶ所出てきています」
●勝てそうですか?
「これから詰めないといけないところがあるんですが、これまで長い歴史がありますし、多くの方が調査されたデータもあります。また、地元の協力もあって色々なデータがありますので、それをまとめれば、可能性があるのではないかと思っています」
●千葉に住んでいる皆さんはすごく楽しみにしているんじゃないかと思いますが、これが認められたら日本初ですよね?
「そうです。日本の地名が地球の歴史、地質年代に刻まれるのは初めてになります」
●それはどういう意味をもつと思いますか?
「子供のころに地学を勉強していない人もいると思いますが、実は多くの人は地質年代表を一度は見たことがあるんですよね。皆さん大人になって忘れてしまっているかもしれませんが、子供の頃に日本の名前がついていたら、もう少し地質学に興味を持ってもらって。地質学はその場所の安定、地震、火山などに直結する学問なので、そういった基礎知識が広まればいいなと思っています」
●本当にそうですよね! 私も昔、地質学を学びましたが、勉強をサボってしまったことがあったので、教科書に日本の名前があったら、子供はすごく興味を持ちますよね! そういう意味でも、是非認められてほしいです。
「申請書の締め切りが11月末なので、その準備をしているところですが“標準の場所に選ばれるには、国内だけじゃなく世界中の研究者が訪れて自由に研究できる”という条件があります。なので、申請に際して、我々研究者は研究の材料を積み上げて、申請書を用意するという仕事を進めますが、地元の方の協力も必要です。認められたら世界中から色々な方が来るようになるので、少し大変なこともあるかもしれませんが、すごくいいことも世界の方々に知ってもらえるので、これからは地元の方に理解していただいて、協力していただいて、申請をする段階まで頑張っていきたいと思います」
●楽しみにしつつ、地元の方の協力こそが“チバニアン誕生”に一歩近づくということですね!
「ご協力いただけたら、大変助かります!」
“白亜紀”や“ジュラ紀”と同じように、地球の歴史に千葉の名前が刻まれるって、本当にすごいことですよね。菅沼さんもおっしゃっていましたが、認定には地元の方の関心と協力が必要ということなので、今後も“チバニアン”に注目していきましょう。
“チバニアン”と認定されるかは、今年11月末までに申請書を提出し、その後、有識者による選定が行なわれる予定。認定されれば、日本初の快挙! 期待しましょう!
菅沼さんの活動や研究内容など詳しくは、菅沼さんの公式サイトをご覧ください。