今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、久保田賢次さんです。
山と渓谷社・ヤマケイ登山総合研究所の所長、久保田賢次さんが編纂した『登山白書2016』が先頃出版されました。今回は国内の山々や登山事情に詳しい久保田さんに、今年から施行される8月11日の「山の日」を前に、登山の最新情報、夏山登山の心得やオススメの千葉の山についてうかがいます。
※最近の山のトレンドについてうかがいました。
「この間まで“山ガール”と呼ばれていた人たちが雪山に行ったり、クライミングに取り組まれたりと、上昇志向が強まっています。クライミングは、8月に2020年の東京オリンピックで正式種目になるかどうかが決まりますが、そのムーブメントの中でクライミング・ジムが増えてきています。これらが最近の傾向としてあります」
●確かに、クライミング・ジムをよく見かけるようになりましたが、女性もチャレンジされている方が多くなっているんですね。
「そうですね。遠くの山までわざわざ出かけなくても、手軽に楽しめるようになったので、“登山”ということでハードルが高いと感じていた方も今では楽しんでいるようですね」
●これまでは“山ガール”といえば、トレッキングぐらいでしたが、どんどんレベルアップされているんですね。
「そうですね。女性の方がレベルアップされると、それに影響されて男性も頑張るということがありますので、登山を楽しんでいる方の目的が深まっていますね。
先日『エヴェレスト~神々の山嶺~』という映画が公開されましたが、これは本が100万部を超えるベストセラーだったんです。この映画の興行収入が10億円を超えたんですね。さらに、7月末には韓国の製作によるエヴェレストを舞台にした映画が公開されますので、私たちが影響を受ける機会が多くなっていますよね」
●そうなると、登山者数が右肩上がりですか?
「そこまで人数がどんどん増えるというわけではありませんが、楽しみ方が多様化していますし、自然観察や、ピークを目指すものではなくて、山麓でゆっくり過ごすものも流行っていたりするので、自然を幅広く楽しんでいますね」
※夏山の楽しみ方を教えていただきました。
「これからの時期、やっぱり暑いじゃないですか。こういうときにオススメなのが、今ではロープウェイやケーブルカーがあるところがたくさんありますので、そういうものを利用して、まずは涼しいところまで行ってから歩くとか、“下山を楽しむ”のもいいと思います。ヨーロッパのアルプスでは多い楽しみ方ですが、登りは交通機関を使って上がって、下りをゆっくり歩いて楽しむっていうのもいいと思います。これからの暑い時期、無理をして熱中症になるかもしれませんので、そういった形で楽しまれるのもいいと思います」
●そう考えると、随分広がりますね。千葉だとどこがいいですか?
「鋸山は以前からロープウェイがありますので、それで登れば海が見られますし、夏場では厳しいかもしれませんが、うまくいけば富士山も見ることができますので、下の方で汗をかいて“登山って辛いな”と思うより、交通機関を使って高いところまで行ってしまって、自分のペースで楽しむというのも、1つのやり方ですよね」
●“登山は汗かいてナンボ”というイメージがありましたが、楽していいんですね。
「そうですね。“体力を最後まで維持して、家に帰るために、いかに汗をかかずに歩くか”というのも登山の1つの考え方ですね」
●千葉の山の魅力は、久保田さん的にはどういったところでしょうか?
「私たちは『分県登山ガイド』というシリーズを出していて、もちろん千葉県の山を取り上げたものもあります。他の県の山は雪で閉ざされているときに、いち早く色々な花が咲き出します。そういった早春のときにお花畑と海の景色を味わえるのが千葉県の山の魅力だと思います」
※久保田さんが編纂した『登山白書2016』から、こんなデータを紹介していただきました。
「山に行く方が非常に多いんですが、その反面、登山事故が増えていて、その件数が昨年1年間で2,508件となってしまい、数でいうと3,043人もの人が事故に遭ってしまいました。残念ながら、これは統計を取り始めてから毎年伸びてしまっているんです。なので、今回の登山白書では、遭難事故の統計や事故を減らすにはどうすればいいのかという項目でページを使っています」
●なぜそれだけ多くの事故が起こってしまっているんですか?
「若い頃動けていた感覚で登られるので、途中で疲れてしまったり病気が出てしまったりして、救助を依頼されるケースが増えてきています」
●そうなると、自分の中でルールを決めればいいんでしょうか?
「そうですね。“自分の力を知る”のが大事で、“これ以上のことをやると自分ではカバーしきれないので、人の迷惑なってしまうかな”と考えるのが大事ですね。やっぱり、“自分の力量を正しく知ること”が大切ですね。いくら山が大好きでも、無理をして毎週のように遠くの山に行ってしまうと疲れてしまいますので、そういった意味でもバランスを取りながら“長く楽しむ”ということを考えていただけたらと思います。
中には“山は歳と共に逃げていく”という人がいますが、それほど焦ってたくさんの山に登る必要はありません。そして、必ず頂上に行かないといけないのが登山ではないので、天気が悪いときは出かけたとしても登山を止めて、山麓で美味しい料理を食べたり、美術館に行ったりして、ゆとりを持った楽しみ方をしていただければいいかなと思います」
●夏山だからこそ注意した方がいいことってありますか?
「夏山は天候が変わりやすいです。雷雨もありますので、そういうときに雨具を忘れてきてしまうとびしょ濡れになってしまいますので、レインウェアは大事です。そして、予定通り歩けなくなってしまったり、登山道が渋滞することもあって、日が暮れてしまうこともありますので、ヘッドランプも必ず持っていってもらえたらと思います」
●熱中症対策はどうですか?
「暑いと汗をたくさんかきますし、“登山は頑張らないといけない”という想いで登る方が多いんですが、そうなる前に、こまめに水分補給をしてください。あと、女性の方が多いんですが、トイレを気にして水分補給を少なめにする方もいらっしゃいますが、そうではなく、水分をずっと摂り続けるのが疲れない秘訣ですので、それも夏山の注意点ですね」
●最後に、久保田さんにとって“山の魅力”とは何ですか?
「山は“自分を取り戻す場所”だと思います。今の日常生活の中でゆっくりする機会って、あまりないと思うんですね。最近では、山でも携帯電話が通じるところがほとんどなので、日常から切り離されることはありませんが、山に行けば気持ちの上でゆったりできるんですよね。
それに、山では出会った人同士で挨拶を交わすんですよね。こういうのって、今ではないじゃないですか。街中で知らない人に挨拶をすると敬遠されたりすると思いますが、山では普通の光景なんですよ。
それに加えて、私が皆さんにお願いしたいと思っているのは、もう一言交わしてほしいんですね。例えば、下山してくる人がこれから登る人に“上は少し寒かったので、もう1枚羽織っておくといいですよ”といったアドバイスをすることで、登山者同士が会話の中で交流をしてくれたら、よりいいなと思っています」
●そういう交流が持てるのが、山の魅力だということですね。
「そうですね。全く知らない人と言葉を交し合えるというのが、一番の魅力だと思っています」
今まではゆっくり山を楽しんでいたイメージの“山ガール”が、本格的な登山やクライミングなど、どんどん進化していたというのは驚きでした。今年から“山の日”が祝日となって、ますます山ブームは進みそうですが、久保田さんもおっしゃっていたように、無理せず・楽しく・自分と向きあいながら、私ももっと山を楽しんでいきたいと思います。
山と渓谷社/本体価格9,800円
久保田さんが編纂したこの本には、山に関するデータや情報、資料などが満載です。登山界のこの1年のトレンドや、女性には特に気になる山のトイレ事情なども載っています。この本にはCD-ROM付き(本体価格19,800円)もあります。詳しい情報は山と渓谷社のサイトをご覧ください。