今回は長野県・信濃町にあるアファンの森取材ロケの第2弾。前回は、馬を活用した“アファン・ホースプロジェクト”をご紹介しましたが、今回は、森の再生に取り組んで30年目を迎えた“アファンの森”にフォーカス! 「C.W.ニコル・アファンの森財団」の理事長C.W.ニコルさんに、森作りへの想いや、6月にアファンの森にご来訪された天皇 皇后両陛下とのエピソードなどうかがいます。
アファンの森は飯綱山に連なる山の麓にあり、その広さは現在約34.3ヘクタール(東京ドーム約7.3個分)。ニコルさんは、日本の森が荒れてしまったことを憂い、1986年から放置された里山を自ら買い取り、地元の林業家・松木信義さんの力を借りて、森の再生活動に取り組み、今では命あふれる森になっています。
2002年には「C.W.ニコル・アファンの森財団」を設立。その活動は森作りのみならず、心に傷を負った子供たちを森に招くプロジェクト、そして宮城県・東松島市の復興支援へと発展していきました。そんなアファンの森も今年で30年。森への想いをC.W.ニコルさんに伺いました。
「僕は、この森のこれから70年後のことを想像しています。もちろん僕は生きていませんが、この森の再生を100年単位で始めたので、あと70年でここに素晴らしい大木がいっぱい生まれていると思います。そして色々な動物がいて、ここがエデンの園となっていると思っています」
●そんな素晴らしい森に、今年6月に天皇 皇后両陛下がいらっしゃったそうですね! どういうキッカケでいらっしゃったんですか?
「2009年にチャールズ皇太子が日本に3日だけいらして、その中の1日だけアファンの森に来てくれました。僕たちが今座っているところにチャールズ皇太子が座って、僕と一緒に紅茶を飲んで、森の話をしてから、一緒に森の中を歩きました。その夜、チャールズ皇太子と夫人のカミラさんと、日本の皇太子と雅子様の4人で食事をされているんですが、恐らくこの森の話は出たと思います。5年前、震災のちょっと前に僕は皇居に呼ばれて、天皇陛下と皇后陛下の3人だけで森の話をしました。そうなると、なんとなく想像できませんか?」
●なるほど! 実際にアファンの森にいらっしゃって、どんなお話をされたんですか?
「天皇陛下は動植物にすごく詳しいので、花や植物などに目がいくので、その話が多いですね。それに、僕たちは福島の子供たちを支援するプログラムもやっているので、その話を皇后陛下から聞かれました。天皇陛下は“子供は自然の中で遊んだほうがいいですね”おっしゃっていましたね。
僕らはこの森で馬を使って間伐しているじゃないですか。この森は明るいから、100メートル先まで見えるじゃないですか。そこで、雪丸が仕事をしているのを遠くから見せようと思って、雪丸に仕事をしてもらったんですよ。馬を見た天皇陛下が皇后陛下の手を引いて、笹の中を移動して、馬の横に行ったんですよ! お二人は馬が大好きなので、慣れてますね。多分、雪丸も喜んでましたね」
●アファンの森では傷ついて子供たちを癒すプログラムも行なっています。どうしてそのプログラムを始めようと思ったのでしょうか?
「森は“心のふるさと”です。人間の遺伝子の半分ぐらいは森で、半分は海でできています。森は文化の始まりです。元々世界中の子供たちは森で遊んでいます。その森が健康的で明るい森だったら恐くないですよね。この森は200メートル先まで見えるじゃないですか。だから、恐いものが来ません。恐い森は藪になっていて、何が待ち構えているのか分かりません。それに対して、ここは様々な生物が生きている園ですね。
だから、トラウマを抱えた子供たちがこういう明るくて一生懸命生きている森の中に入ると、心の窓が開くんですよ。これはずっと前から分かっていたことだったので、14年前ぐらいから試してみたんですが、特に虐待を受けた子供たちは、森に入ると明るくなります」
●14年経ったとなると、最初のころにここで癒された子供たちが大人になってきますよね。どんな大人になっているんですかね?
「30センチぐらい前しか見えない弱視の男の子は大学に行って素晴らしい絵を描いています。もう1人は、大学を卒業してから起業して、目の不自由な人が使いやすいものを作っていますね。みんな、森の中での経験があって、新しい道に行ける自信がついたんだと思います。僕と僕の友達と一緒にここでツリークライミングをやった子が今、鳶職人になっています」
●ここでの経験がキッカケで、未来が開けてるんですね。
「それだけじゃなく、25年前から専門学校で教えているんですが、そのときの1年生がこの森でフィールドワークをやっています。そんな感じで、その専門学校の卒業生は世界中で環境の仕事をしています」
※ニコルさんは今、宮城県東松島市で“復興の森づくりと森の学校プロジェクト”を進めています。どうして、それを始めることになったのでしょうか?
「震災後の8月に東松島市から親子27人をアファンの森に3日間招待しました。その後、小学校が津波で破壊されたから、高台に移す計画がありました。このアファンの森を見て、町の人たちが高台の周りの森を明るい森にしました。そうすると、子供たちが遊ぶだけじゃなく、森の中で色々な勉強ができるじゃないですか。でも、その学校が鉄筋コンクリートで造るとなったら、僕は協力できませんでした。そこで色々な戦いがありましたが、阿部市長や教育委員会など色々な人が“木造の学校は素晴らしいもの”だと分かってくれたので、素晴らしい木造の校舎になります。造っている間も森の学校はやっていましたが、来年の1月にやっとその校舎を使うことになります」
●写真でその校舎を拝見しましたが、森の一部のようで、本当にステキですよね!
さて、私たちはこの後、ニコルさんが言いだしっぺだと聞いている“癒しの森プロジェクト”の取材に行くんですが、簡単にどんなプロジェクトなのか教えていただけますか?
「この企画は随分前からありました。アファンの森が有名になってきて、色々な人が森の中に入りたがっていました。しかし、人が多すぎると森がダメになります。素晴らしい自然があるのはアファンだけじゃないので、信濃町にいる色々な仲間と一緒になって、様々ないいところに人が行けるようなネットワークを作りました」
※最後に、ニコルさんに日本の森の未来について語っていただきました。
「日本の国土の67パーセントは森です。その森を使いきれていないというのは、日本人は自分の国を分かっていないということですよね。もっと正しく使ってほしいです。林業だけじゃなく、そこから水源地を守りながら、色々な恵みをいただき、さらに癒しをいただいたら、まさにアジアのエデンの園になるんじゃないかと信じています」
※この他のC.W.ニコルさんのトークもご覧下さい。
アファンの森の敷地は国有林に隣接しているのですが、上空から見るとその2つの森は全く違って見えるんです。国有林はスギやヒノキが単一に植えられ、どことなく暗いイメージ。アファンの森は様々な広葉樹が植えられているので、明るく多様な森が広がっています。しかも、広葉樹は木の実がなるので、それを食べる、たくさんの生き物が集まってくるそうですよ。まさに“生命あふれる森”になっているんですね。
C.W.ニコル・アファンの森財団では随時、サポーターを募集しています。
◎年会費:個人サポーター 一口5,000円から、トラスト基金 一口3,000円から
◎詳しい情報: C.W.ニコル・アファンの森財団のホームページ