今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンは、“エコビジネス・ジャーナル”と題し、2つの環境保全型のビジネス事例をご紹介します。まずは“溶岩ブロック”。そしてもうひとつは、バイオプラスチックの“漆ブラック”。一体どんなものなのでしょうか。
※まず紹介するのは“溶岩ブロック”です。ご登場いただくのは、エコプロデューサーそしてナチュロック・プロモーションの代表・佐藤俊明さんです。溶岩を材料に開発した“ナチュロック”で、河川の護岸や建物の壁面を緑化する事業などを行なってらっしゃいます。
佐藤さんはどうして“ナチュロック”を開発しようと思ったのでしょうか?
佐藤さん「私は山梨県の富士吉田の生まれで、中学生のころから山中湖でヨットをやっていました。ヨットをやっていると、湖畔の周りに白いコンクリートの線が見えたんですね。そのとき写真もやっていて、カメラで色々なところの写真を撮っていたりしていたんですが、富士山の自然と湖とヨットが風になびいているのを見ると、そこがすごく目立ったんですよ。
27歳のときにコンクリート会社を作ったんですが、普通のコンクリート製品じゃ面白くないので、コンクリートと近くにある溶岩をくっ付けたんですね。でも、10年ぐらいそれが売れなかったんです。ところが、あるとき、富士山の6合目で落石が発生して、そこを工事しないといけなくなったんです。夏休みが終わって雪が降り出す1ヶ月ぐらいしか期間がなく、石を積むわけにもいかなかったので、環境省が私が考えた溶岩を埋め込んだコンクリートを採用してくれたんですね。環境省がオッケーを出してくれたので、山梨県が採用してくれたんですよ。それ以来、国立公園など1万5,000ヶ所に使われています。
なぜ溶岩かというと、子供のころから家の庭に溶岩でできた石がたくさんあって、そこにコケや草がたくさんついていたんです。そこで、それとコンクリートをくっ付ければ、ブロックの機能を果たして、表面にコケや草が付くということが分かっていたんですよね。そのことを色々な人に話していたんですが、名古屋から来た人にそのことを話したら“名古屋にいたら、そんな発想は絶対にない”って言ってくれました。あくまで、自然で見たものとくっ付けただけなんです。
そのブロックは、時間が経つと自然と調和していったんですよ。それと、ドイツで生まれた“ビオトープ”という言葉にピッタリな商品だったんです。溶岩の石にコケや草や昆虫など色々棲んでいるわけですから、ビオトープを大事にするようなところで使ってもらうようになりました」
※なぜ溶岩は自然と調和するのでしょうか?
佐藤さん「色々なビルや家を見ても、(人間も含めて)生き物は穴の中に入っているじゃないですか。溶岩も針の先のようなものからもう少し大きなものまで、穴がたくさん開いていて、石と石との間にも隙間ができるわけですが、そういうところに保水するんですよ。プラスチックやコンクリートだと保水せずに流れていってしまいますが、穴が開いていることによって水が染みこむんですね。
それに、溶岩の成分を調べてみると“土”なんですよ。土と同じ要素のものが固まったものなので、ミネラルなども全部あるんですよ。なので、そこに植物の胞子が飛んできたり、鳥が何か持ってきたり、川の上流から流れてきたものが溶岩ブロックに引っかかることによって、そこに生育するんです。
一番分かりやすいのは、溶岩にコケが付いて、コケが腐って土になり、土から草が出て、草が腐って木が出てきてという風に循環していけば樹海になっていくんですね。あの青木ヶ原樹海がそうなんです。今から1000年以上前に噴火したところが今では樹海になっているわけですよ。あそこの下は全て溶岩なんですよね。それと、箱根や桜島など、溶岩があるところには自然や温泉がたくさんあって、リゾート地になったり国立公園になっているんですよ。その原点は溶岩で、溶岩が土と同じ穴が開いたものだったからなんです。もし溶岩がツルツルだったらダメでした。穴がたくさん開いている溶岩が素晴らしいということなんですよね」
●そういうことなんですね。青木ヶ原樹海は緑が密集していて、すごく鬱蒼とした森というイメージがありましたが、それはあそこの地盤が溶岩だからなんですね!
佐藤さん「アスファルトの上だとあんな風にはならないじゃないですか。溶岩だからああなるんですよ。もう1つは、保水しやすいので、ヒートアイランド現象の対策にもなるんですよ。墨田区は“溶岩パネルで壁を作ると緑化したのと同じ効果が得られる”ということで、隅田川の壁にもパネルを貼っています。溶岩パネルは濡れた後、保水しているから乾きにくいんですよ。そうなると、気化熱で冷えている時間が多いです」
●暖かさはどうですか?
佐藤さん「穴がたくさん開いていて、空気が入ってくるので、もちろん暖かいですよね」
*溶岩ブロックが実際に使われている場所が都内にもあります。渋谷の東急ハンズ向かいの、道路の壁面や東京都大田区の大森界隈を流れる内川の護岸など。近くに行ったら、ぜひ見てください。
※続いては、東京国際フォーラムで開催された『C&Cユーザーフォーラム &iEXPO(アイエキスポ)2016』の取材リポート。世界最高水準の顔認証技術などNEC独自の先進技術を活用したソリューションが数多く展示されていました。実際に顔認証技術を体験したり、AIを使って自分の好みお菓子を検証したりと、最新の技術に触れることができました。
そんな中でも特に気になったのが、漆のような光沢を持つ画期的なバイオプラスチック“漆ブラック”です。この漆ブラックの原料は食料や家畜の飼料となるトウモロコシなどではなく、ワラや木などを原料としていることも特徴なんです。石油を使わないバイオプラスチックの中でも
漆ブラックはさらに未来を見据えているというわけですね。
そんな漆ブラックについて、開発責任者の「NEC IoTデバイス研究所」主席研究員・位地正年(いぢまさとし)さんにお話をうかがいました。
●漆のようなプラスチックが目の前にあるんですが、これはバイオプラスチックですか?
位地さん「はい。まるで漆のように見えるかもしれませんが、漆ではなく、プラスチックです」
●これがプラスチックだなんて信じがたいんですが、一体どんな風に作られたんですか?
位地さん「私たちはただのプラスチックではなく、植物を原料にしたバイオプラスチックというものを16年間研究してきまして、製品にも一部使ってきました。今回はそのバイオプラスチックに漆の美しさを求めて初めて実現しました」
●なぜ漆の美しさを求めたんですか?
位地さん「バイオプラスチックは、環境に優しい材料なんですが、コストが高く、生産量が少ないので、環境調和性だけで高いお金を払って使っていくという方はなかなかいないんです。今後はそういった環境に調和した材料に、付け加えるのであれば“装飾性”が大事だということが分かったんですね。とはいえ、何をすればいいのかという中で、ヨーロッパのメーカーでは日本の“漆器”の美しさに関心が高く、評価が高いんですね。私自身、漆器のことをよく分かっていなかったんですが、海外の方々に教えられる形で今回の漆ブラックの開発を始めました」
●漆器をプラスチックで表現するのって難しいんじゃないですか?
位地さん「日本を代表する漆工芸家の下出裕太郎(しもでゆうたろう)先生に協力をお願いしようと先生の工房に行ったんですが、“普通のプラスチックじゃなく、このバイオプラスチックだったら一緒にやろう”と言ってくださったんです。そのときに先生の作品を見せていただいたら、そのレベルの高さに圧倒されました。私は、漆を重箱ぐらいしか見たことがなかったんです。それとはレベルが全然違うので、海外の方々からの評価の高さが分かったんですが、逆に遠い存在で、どういう風にしていけばいいのか途方に暮れる状況から始まりました」
●試行錯誤を繰り返して、今ある形になったんですね。
位地さん「ただ、なかなかうまくいかなくて、最初に持っていった試作品を先生から“0点”と評価されてしまいました。そのときに先生から“ただ黒いだけじゃダメ”とか“ただ光るだけじゃダメ”“漆の持つ深さや温かさがないとダメだ”というアドバイスをいただきました。では、それを実現するにはどうすればいいのか試行錯誤を繰り返しました。私も長い間材料開発をしてきているので、“意地でも実現させる!”と思って、メンバーと知恵を絞りました」
●それで作り上げたこの試作品は、何点ぐらいいただきましたか?
位地さん「先生からは“85点”をいただきました!」
●それはよかったですね! 実際に触ってみてもいいですか?
位地さん「どうぞ、大丈夫ですよ」
●これはスマホのケースのような形をしていますね。
位地さん「普通のプラスチックでは歪曲したものを作ることができるんですが、この漆ブラックでもできるということを示したかったので作りました。これはスマホの金型の中に樹脂を熱で溶かして流し込んで固めたものとなります」
●見た目は艶やかな黒ですごく美しいですね!(持ってみると)軽いですね!
位地さん「普通(の漆器)は木材に塗っていく形になりますが、これはプラスチックですので、軽いですね」
●普通のプラスチックよりも手に馴染む気がします。
位地さん「気持ちの問題もあるかもしれませんね。このセルロース樹脂は木材や稲藁から作るんですが、しっとりしているので、高級なメガネのフレームに使われたりします」
●これだけ軽いと、色々と可能性が広がりそうですね!
位地さん「そうですね。漆器の場合、普通は木材ですが、これはプラスチックなので非常に軽いです。それに、漆は塗った後に手で磨きますので、複雑な形状だと仕上がらないんです。これは金型で形を作りますので、複雑な形状も可能です」
●となると、今後はどんな製品になって、私たちのところに来てくれるのか楽しみです!
位地さん「今大きく分けて4つぐらいを考えています。まずは時計や文具などの高級日用品です。2つ目は高級家電の外装にも使えます。3つ目はインテリアです。4つ目はスピードメーターの周りなど、自動車の内装材です。そういった、見た目の美しさを表現できるような部品類ですね」
●これから色々と楽しみですね!
位地さん「ただ、製品毎に要求される特性が違ってきますので、いくつかの製品に絞り込んで、色々なメーカーとタッグを組んで製品化に向けて頑張っていきます」
●この漆ブラックが私たちの手もとに来るのを楽しみにしています!
位地さん「私共もこのプラスチックが皆さんの手もとにいって、心の豊かさと環境への優しさをお届けしたいと強く願っています!」
“溶岩”と“漆”、どちらも日本の素材というところいいですよね。自然と共に生きてきた私たち日本人にとって、自然を活かしたエコビジネスというのは、凄く合っているのかもしれません。今後も、環境と人にやさしい製品が日本の自然と技術力で開発されることを期待します。
佐藤さんが開発した溶岩ブロック“ナチュロック”や、同じく溶岩を材料にした“ビオボード”や“ビオフィルム”など、詳しくは日本ナチュロック株式会社のホームページをご覧ください。
プレジデント社/本体価格1,143円
佐藤さんの本は、なぜ溶岩だったのか、どんな思いで溶岩ブロックを開発したのか、そして溶岩で作ったジュエリーのことも載っています。ぜひ読んでください。
画期的なバイオプラスチック“漆ブラック”についてはNECのオフィシャルサイトをご覧ください。