今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、樋口広芳さんです。
今年は酉年ということで、新年最初のゲストは東京大学名誉教授の鳥博士、樋口広芳さんです。樋口さんは去年『鳥ってすごい!』という本を出版されていますが、その本に載っている鳥の習性や生態が面白すぎて、またお話をうかがいたいということで、番組にお迎えしました。
今回は、泳ぎが得意な鳥や、子育てを他の鳥にやらせる“托卵”という驚くべき習性のお話などうかがいます。
※鳥といえば、全身を覆っている羽毛も特徴のひとつですが、鳥以外の生き物で羽毛を持っているものはいるのでしょうか?
「現世の生き物に限定すると、鳥以外で羽毛を持っているものはいませんが、太古の昔まで遡れば、恐竜がいた時代には羽毛を持っていた動物はいて“羽毛恐竜”と呼ばれています。なので、現世の鳥が持っている特徴は全て恐竜が持っていたもので、中には“鳥は裏庭の恐竜”という表現をしている人もいるぐらい、鳥のアイデンティティが失なわれつつある状態です」
●そもそも、体の大きさにもよると思いますが、何本ぐらい生えているんですか?
「“ツグミ”という20センチぐらいの鳥では5500本ぐらいで、カモでは11000本ぐらいです。コハクチョウで25000本ぐらいですね」
●それだけ羽毛が付いていたら、動くときに大変なんじゃないですか?
「羽毛は素晴らしく軽いんです。羽毛は体の表面にあって、障害物から身を守る役目と、保温の役割があります。それでいて、鳥は空を飛ぶ性質上、軽くないといけないんですね。羽毛は軽くてしなやかで頑丈なのが特長です」
●そう考えると、羽毛ってすごいですね。
「あの素材は大変なもので、一枚の板のように見えると思いますが、実は微細な構造をしていて、微妙な角度で歪んでいたりして、とてもよくできています。キレイな流線型をしていると思いますが、その流線型は羽毛1枚1枚の微妙な歪みで生み出されているんです」
●羽毛って、なぜあんなにキレイなんですか?
「鳥が持つ色は、“色素の色”と“構造色”があります。“色素の色”は文字通り、色素が生み出している色ですが、“構造色”は微細構造の中から、光の屈折の違いで生み出される色なんです。例えば“カワセミ”のキレイな水色は構造色なんです。カワセミの羽毛を金槌などで叩くと、水色が消えて白くなったりするんですね」
●羽そのものが染まっているんじゃないんですね。
「そうなんです。鳥がキレイに見えるのは、鳥が昼間に活動する生き物だからなんですね。哺乳動物って大体黒や茶色、白、灰色をしていると思いますが、それは彼らの大体が夜行性だからなんですが、鳥は太陽の光が降り注ぐ中で生きているので、彼らは色覚も発達しているんですよ。それも相まって、キレイな色が出てきているんです」
●ということは、鳥たち自身もそのキレイな色が見えているということなんですね!
「そうなんです。しかも、我々人間は三原色の組み合わせで色を判断していますが、鳥は四原色を使っているんですね。だから、私たちが見ている色よりももっとキレイで複雑なものを鳥たちはお互いの色を見ているということになります。なので、鳥の色世界は、私たちが見る色世界よりも複雑でキレイなものなんだと思います」
※鳥は一夫一妻のイメージがありますが、これは鳥特有のものなのでしょうか?
「鳥は一夫一妻で繁殖をする代表的な生き物なんですね。それは、人間界もそうなので、珍しくないと思うかもしれませんが、実はつがいで繁殖をする動物は他の種類を含めてもほとんどいないんですね。例えば、ブンチョウのつがいやスズメのつがいなど、鳥のことをあまり知らない人でも抵抗はありませんよね? でも、ハゼのつがいやコイのつがいと聞くと、魚のことをあまり知らない人でも抵抗はありますよね。そのぐらい鳥のつがいは知られていて、全体の約9割は一夫一妻で繁殖をします。
その中で最近分かったことがありまして、それは“つがい外交尾”というものです。夫婦以外の相手と交尾してしまうということが割と広く行なわれているんですね。しかも、オスだけじゃなくメスも盛んに行なうということがわかっています。自分のつがいの相手よりも他のつがいの鳥の方がキレイだったりすると、つがい外交尾を通じて、一夫一妻の鳥の中にも派手な色が進化していくことになります。オーストラリアに非常にキレイな小鳥がいるんですが、それはつがい外交尾を一生懸命やる代表的な鳥なんですね。なのに、つがいの絆はとても強いんです」
●それは不思議ですね! そんなに仲のいい相手がいるのに、なんで浮気するんですか?
「そこが面白いところなんです。そういう風に、オスのキレイな色が発達していて、それが昼間の世界の中で自分の姿を際立たせているんです」
●人間界でも去年そういう話題が色々とありましたが、鳥の世界にもそういうことが最近行なわれているんですね。ちなみに、ハチに襲われても大丈夫な羽毛を持っている鳥がいるんですよね?
「“ハチクマ”という鳥がいるんですが、それはハチの幼虫やサナギを食べるんです。そうなると、ハチはハチクマを襲うわけですよ。ところが、ハチクマは羽毛が密生しているので、ハチの針が皮膚まで届きにくいんです。それが第一の防御なんですが、第二の防御として、羽毛そのものに特殊な化学物質があって、それを発散させてハチの活性化を鈍らせる機能を持っているようです。それを去年発見しまして、1年間調べましたが、もう少し調べないといけないので、今年頑張りたいと思います」
●その研究が進めば、その羽毛を使って、私たちがハチに刺されないようにできたりするんですか?
「その化学物質の特定ができれば、特効薬ができたり、ハチが近寄ってこないようにすることができるかもしれないですね。ただ、そのハチクマといえどハチに刺されます。でも、大丈夫なんです。なので、最終的には体の免疫機能が分かれば、それを人間に応用可能だと思います」
※鳥には“托卵”という習性があります。これは自分の卵を他の鳥に託すというものなんですが、どうしてこういうことをするのでしょうか?
「鳥の子育ては、まず巣を作って、卵を産んで、温めたりエサをあげたりしないといけないですよね。そうやって、鳥の子育ては手がかかるんですよ。もし、その手のかかることを他に任せることができれば都合がいいということになりますよね。そこで“托卵”という習性が進化の過程で生まれてきました」
●鳥には、托卵をする種類が多いんですか?
「世界中に100種類に満たないぐらいいます」
●托卵される種類はどのぐらいいるんですか?
「数えられないぐらいたくさんいます。ただ、托卵される側は非常に迷惑なので、托卵されないような性質を身に付けるようになります。そうすると、托卵する側は、それを上回るだましのテクニックを身に付けるようになります。そんな進化の攻防の中で、お互いに様々な変化をしていくようになります。托卵する側としては、“卵擬態”という、ほとんど同じような模様の卵ができるようになったりして、托卵を成功させるように様々な特徴が発達していくんですね」
●他にはどんな特徴がありますか?
「卵からヒナが孵るとき、托卵される側の本当の卵よりも少し早く孵るようになるんですね。そうなると、本当の卵を背中に乗せて放り出してしまうんです。それで巣を独占してしまいます。それで仮の親が持ってくるエサを独占しちゃいます」
●生まれたときからそういうことがプログラムされているんですね。
「これは分かってやっているわけではなく、遺伝的に行なっているんです。ヒナの体の作りが特徴的で、背中がくぼんでいるんですよ。そのくぼみを使って、卵を押し出しているんです。そして、カッコウの仲間は托卵する側の小鳥よりも体が大きいので、ヒナも巣の中でぐんぐん成長していくんですね。通常だと托卵される側は本来のヒナよりも全然違うから、気が付いてもおかしくないはずなんですが、気がつかないんですよ。
どうして騙されるのかというと、まず、カッコウのヒナは親鳥がエサを持ってくると大きな口を開けるんですが、その中が非常に鮮やかな色をしているんですね。その色が親鳥の給餌本能をものすごく刺激して、咥えているエサを思わず入れてしまうんです。それがまず1つ。
まだあります。カッコウのヒナは巣を独占しているので1羽しかいないじゃないですか。その1羽しかいないヒナが声を頻繁に出すんです。その声を音声を図形化する機械で調べてみると、本来孵るはずの5羽ぐらいのヒナが一斉に出すぐらいの量なんです」
●そうやって、いっぱいエサが必要だと思わせるんですね! それだと、托卵されてしまったら、育てざるを得ないじゃないですか。
「口の中の色にしろ、ヒナが出す声にしろ、親鳥の給餌本能を掻き立てるようなものを持っているので、いくら姿、形が全然違っていても、親鳥がエサを持ってきて口の中に入れてしまうように仕向けているんですね」
※鳥の習性の1つ“渡り”。南極から北極まで長距離を飛ぶキョクアジサシという鳥もいれば、ある方法で日本を一周する鳥もいるそうです。
「“カンムリウミスズメ”という、鳥に関心のない人には馴染みのない鳥がいるんですが、ハトの3分の2ぐらいの大きさで、ペンギンを凝縮して小さくしたような海鳥なんですね。その鳥が5月ごろに繁殖を終えてどこかに行くことは分かっていたんですが、どこにどういった旅をするのか分かっていなかったんですね。それを私たちの研究チームで調べたところ、福岡県の小島で繁殖したものが、四国の南海岸を通って伊豆半島に行き、鳥島の方に行ってから津軽海峡を越え、北海道の宗谷海峡に行って、北朝鮮の東海岸を通って朝鮮海峡を通って上海の方まで行くという、日本列島をぐるっと巡る旅をしていることが分かったんですね。そんなことは誰も想像していなかったので、ビックリしました!」
●それをどうやって調べたんですか?
「“ジオロケータ”という衛星追跡用の小さな送信機を付けて調べました」
●すごい距離を移動しているんですね。
「日本・ロシア・北朝鮮・韓国・中国と巡って、しかも飛んでいることが観察されていないので、“泳いで渡っているんじゃないか”と思われます」
●それは泳ぐのが得意だから、飛ばないで泳いで移動しているんですか?
「たまには飛ぶことがあるかと思いますが、長距離を飛んでいるところを誰も見たことがないので、飛んでいないと思います」
●なんで、泳いでそんな距離を移動するんでしょうか?
「渡りのルートは、鳥の種類によって違うんですね。カンムリウミスズメの場合は、海流に乗って移動していると思われます。海流の動きの先に魚やエサとなる資源がたくさんいるんですね。海流と獲物の群れを探しながら、たくさんいるところを巡っているんじゃないかと思います」
●食料源が常にある状態で、海流に乗りつつ移動しているということなんですね!
「鳥の渡りって、結局のところ、寒さや暑さに逃れるためではなく、食料を求めての旅なんです」
(この他の樋口広芳さんのトークもご覧下さい)
蜂から身を守る羽毛に、自分の卵を他の鳥に育てさせちゃう托卵、さらに日本を泳いで一周する鳥まで。もちろんそれぞれの能力にも驚きですが、同じ鳥なのにここまで違った進化を遂げてる鳥の多様性もスゴイ!ですよね。酉年の今年、鳥の魅力にどっぷり嵌ってみるというのも良いかもしれません。
ヤマケイ新書/本体価格900円
樋口さんが昨年出版したこの本は、200日間、休まず飛び続ける鳥や、地球と月を2往復する距離を飛ぶ鳥、滑り台で遊ぶ鳥など、面白い話が満載です。ぜひ読んでください!
樋口さんの鳥の研究内容など、詳しくはオフィシャル・サイトをご覧ください。