今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、白石康次郎さんです。
この番組でもおなじみ、海洋冒険家の白石康次郎さんは昨年、世界で一番過酷なヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に30年来の夢を叶えて参戦しました。このレースは4年に一度開催され、ヨーロッパでは、サッカーのワールドカップや自転車レースのツールドフランスよりも注目度の高い大会。フランスのヴァンデという港町をスタートし、単独・無寄港・無補給で、最速で80日ほどかけて地球を一周するとんでもなく過酷なヨットレースです。
昨年11月6日にヴァンデをスタート、前半は好位置につける順調な滑り出しでしたが、12月4日にマストが折れるという大きなアクシンデントに見舞われ、無念のリタイアとなりました。今回はそのレースを振り返りつつ、次の夢について語っていただきます。
※では早速、白石さんにお話をうかがっていきたいと思います。
「皆さん、恥ずかしながら帰ってまいりました。応援ありがとうございました!」
●無事に帰ってきてありがとうございます! お帰りなさい!
「命だけは無事でよかったんですが、レースはリタイアしてしまい、応援してくださった皆さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。ただ、これは大きな一歩でしたね。ヴァンデ・グローブは日本人初出場でした。初完走は叶いませんでしたが、皆さんの応援のおかげで素晴らしいスタートが切れたんじゃないかと思います。本当にありがとうございました!」
●こちらこそありがとうございました! たくさんの勇気をいただきました! 白石さんの、立ち向かっている姿を見て「頑張ろう!」って思いました!
「今回、テレビ中継もあったので、初めて知った方もいたんじゃないかと思いますが、素晴らしいレースでした。残念ながらマストを折ってリタイアしてしまいましたが、僕にとっては学びの多いレースでした」
●そのレースを改めて振り返っていただきたいと思いますが、まずはスタートですよね!
「昨年11月のスタートでしたが、準備を始めたのが4月でしたからね。普通は2年間かけてやることを僕らは半年でやったんですよ。それに対して、周りの選手はみんな“見事だ!”と言ってくれました。チーム状態もいいし、船の状態もよく、僕のコンディションもよかったので、最高のスタートを切ることができたんですね」
●私、そのスタートの映像を見たんですが、カッコいいと思いました!
「あのとき、お客さんが120万人来たんですよ」
●それだけの人が見守る中、白石さんは胴着を着てましたよね!
「侍の格好をしてましたね(笑)。バカウケでした(笑)」
●(笑)。まさに日本の侍が、大歓声の中から出ていくシーンは鳥肌が立ちました。
「あれは最高に嬉しかったですね」
●Facebookで見ましたが、序盤は船酔いがすごかったそうじゃないですか!?
「相変わらず船酔いしましたね(笑)。10日ぐらい参りましたね」
●その状態でも前に進まないといけないですよね。どんな感じなんですか?
「それはもう地獄ですよ。“船酔いはしてもいいけど、それで仕事ができないのは、船乗りとして失格”という教育を学生のころから受けています。船酔いをして怒られることはないけど、それで仕事ができないのはダメなので、仕事してましたね。ヨットの上では1時間以上眠れないので、それは地獄のような苦しみですが、それも好きだから乗り越えられるんだと思います」
●どの辺りが好きですか?
「分からないね。これだけやれるのは、好きじゃないとできないんじゃないでしょうか。僕も“(今回のレースを)完走したら、やっとヨットを辞められる!”と期待していたんですが、まだまだ続きますね(笑)」
●私たちとしては、新たな夢ができました。
話は戻りますが、船酔いが落ち着いたところから(レースを)楽しむ余裕が出てきたんですね。
「そうですね。赤道を越えてからの後半は強いんですよ。12位ぐらいまで来ていて、船の状態もよかったので、“これからみんなを抜かしてやろう!”と思っていたんですね。
先に言っておくと、マストが折れたときって、風はそこまで強くなかったんです。じゃあ、何かがひっくり返ったり、当たったり、衝撃があったりしたのかというと、何もなかったんです。僕自身、マストが折れたことに気づきませんでした。
夜中、風が弱くなったから、セイルを大きくしようかと思っていたところだったんですね。そのときに“グシャッ”っていう音がしたんですよ。船の中にいて、航海計器が“ゼロ”を指したので、風見が壊れたんだと思ったんですよね。1週間前にマストに登って風見を代えていたので、“また壊れたか”と思って、外に出たら、マストが半分折れていたんですよ。
マストが折れたときに一番気になるのが、折れたマストでデッキに穴を開けることなんです。でも、残り1メートルというところでマストのトップが止まっていたので、船体に大きなダメージはありませんでした」
●なんで折れたんですか?
「“古かった”んです。今回使った船は、前回3位のアレックスの船だったんです。しかも、その後にもう1回別のレースで世界一周をしているので、今回で世界三周目だったんですよ。本当は船もマストも新しいのがいいんですが、僕たちの予算と時間を考えれば、“新しくする”という選択肢はなかったです。マストもしっかりと検査をしてから行ったんですが、やっぱり古かったんですよね。“新しいマストを準備できなかった”のが原因ですね。
実は今回、僕だけじゃなく、レース全体でマストが5本折れていて、全部中古でした。新艇のマストは1本も折れていなかったので、次は新しいマストはもちろん、新しい装備をしっかりと揃えることが重要だと身に沁みて分かりました」
●それは悔しいですよね。白石さんのミスで折れたわけじゃないのに。
「とはいえ、やっぱり足りなかったんですよ。でも、“時間がないから出なかった方がよかったのか?”といわれたら、それは違うと思うんですよ! 今回なんとか間に合わせてスタートしたことで、大きな経験を得たと思います。だから、たとえ無理だと分かっていても、みんなも失敗を恐れないでスタートして経験を積むのはすごく重要なことだと思いますよ」
※白石さんは、今回の「ヴァンデ・グローブ」をゆっくり楽しむことはできたのでしょうか?
「あまりいい話じゃないんですが、今のヨットは速すぎて、今回のレースはあんまり楽しめなかったんですよ(笑)。“アラウンド・アローン”と“5オーシャンズ”は、綺麗な景色を撮ったりして、すごく海を楽しめたんですよ。だけど、今はヨットが速くて、常に10ノット以上の速度で走っているから、釣りなんてできないです! 僕の船は平均12ノットオーバーで走っていたので、常にスプレー(波しぶき)を被りながら走っていたんですよ。トップ4艇はフォイル艇だったんですが、簡単にいうと船から羽が生えていて、ジェットホイールみたいに海の上を浮いて走る感じなんですよ。モーターボートに乗ってるみたいなので、今のヨットは残念ながら“世界一周を楽しもう”っていう雰囲気ではないですね。ただ、レーシングは楽しい!」
●白石さんが乗った「スピリット・オブ・ユーコー号」がもうすぐやってくるんですよね?
「今、僕が乗ってた船は、ケープタウンから船で運ばれているところです。またマストはイギリスから、中古のマストが来ます。荷物はフランスから来ます」
●世界各国から来るわけですね(笑)。
「バラバラに来て、横須賀にある“ヴェラシス”という港に入ります。ここは一般の人でも入れる港です。そこで4月ぐらいから、マストを立てたりロープを準備したりして、ヨットを組み立て始めます。5月にはセーリングできると思いますので、ぜひ遊びに来てください! またセーリングしましょう!」
●ぜひお願いします!
「そのヨットで2年間、みんなに乗ってもらうキャンペーンや、教育プログラムとして子どもたちにヨットを体験してもらったりして、日本で楽しもうと思っています」
●映像で見せていただきましたが、大きいですね!
「乗るとまた大きく感じるんですよ! なるべく多くの人に見にきてもらいたいですね」
●白石さんの船は、全長が18メートル強と、大型ですね!
「バス2台分よりちょっと欠けるくらいですね」
●マストの高さは29メートルもあるんですね!
「ビル7、8階ぐらいですね」
●それはもう、ぜひ見たいですし、乗りたいですね!
「せっかくリタイアしたので、是非見にきてください(笑)」
●(笑)。確かに、色んな体験がこれからできますからね。
「そういう風に考えるべきで、“早くリタイアした”ということは、“他の選手よりも早く次の準備ができる”ということですからね。どんどん前を向いて歩かないとダメですよね!」
●おっしゃる通りです! その船を通して、子供たちにどんなことを伝えていきたいですか?
「楽しんでほしいですね。好きなことを思いっきりやって、失敗を恐れないでほしいですね。
そういえば、面白いことがあったんですよ。“テレビ朝日スポーツ大賞”っていうのが毎年行なわれていて、それに“白石さん参加してください!”って言われたんですよ。僕はてっきり松岡修造さんと熱く語り合うのかな思っていたら、“白石さんが表彰されます!”って言うんですよ。“ちょっと待って! なんで表彰されるんだ!?”って思ったら“今までずっと番組に出ていただいた方に送る「報道ステーション賞」です!“っていうんですよ。“この1年間、他にもスポーツがあるんだから、他にいくらでも表彰される人はいただろ!”って思っていたんですが、参加することにしました。
すると、僕のテーブルに同席していたのが全員、金メダリストだったんですよ! リオデジャネイロ・オリンピックの金メダルがテーブルの上にゴロゴロしているんですよ! その中で唯一、僕だけがリタイアして帰ってきた人だったんですよ!
リタイアしていながら、みんなの前に出て表彰されるのって、最初は恥ずかしかったんですよ。でも、そこで僕は“冒険は失敗すると叩かれる。でもそこで、「よし!」と胸を張って賞をもらいにいこう。「失敗したってくよくよしないで、明るく元気に振る舞っていれば、こうやって表彰されるんだ」ということを、僕は子どもたちに見せよう”と思ったんですよ。
そりゃ恥ずかしいですよ! 周りは金メダリストばっかりで、そこで“あなた、どうしたんですか?”って聞かれたら、“マストを折って泣いて帰ってきました”としか言えないですけど、それを“残念だったんですよね~!でも次、頑張ります!”って明るく笑顔で言うわけですよ。そうすれば、人は認めてくれるんですよ。その姿を見せたかったんです!
そういう意味では、今回失敗したことが非常に大きな変化を生んでくれました。この番組だって、僕のことを呼んでくれるし、色々な人が僕に声をかけてくれるわけですよ。スポーツってそういうところに魅力があって、成績っていうのは1つの魅力ですが、それもスポーツ選手の態度によって変わってくるんですよ。もし成功していたら、この体験はできないですよ」
●“失敗してからどうするのか”っていう姿勢や気持ちを、私も白石さんから学ばせていただきました。
「“成功しても威張らない”“失敗しても腐らない”んですよ。勝負っていうのは時の運だから、勝ったり負けたりするんですよ。だから楽しいんです! だから“勝ちだけ欲しい”とか、“いいことだけ欲しい”っていうことはないと思うんですよね。今回も、チャレンジして敗れましたが、得るものは多かったし、これから次のスタートまで、まだ学ぶことも多いですよ。僕のやることは、ヴァンデ・グローブ初完走を目指して進むだけですよ」
●次のヴァンデ・グローブは2020年になるんですよね。
「東京オリンピックの後になるんですよ」
●そこに向けてもうスタートしているんですね?
「もう始まっています! まだまだ諦めていないし、まだまだこれからだと思っているので、ぜひリスナーの皆さんも応援してください! ヴェラシスで行なわれるヨットのキャンペーンにも来てほしいですね。またこの番組でも、ぜひ一緒にセーリングレポートをしに来てください」
●そうですね!(笑) この番組でも引き続き、2020年、そしてその先も応援していきたいと思います!
「一番長く応援してくれている番組なので、ぜひ完走まで付き合ってください!」
※この他の白石康次郎さんのトークもご覧下さい。
30年間夢見たレースですから、それを途中リタイアと聞いた時には、白石さん落ち込み過ぎて、もう前に進めなくなってしまうんじゃないと心配していましたが、そんな心配はご無用。失敗を乗り越えて、ますます熱く強くなってらっしゃいました。2020年に向けて、もうスタートを切っている白石さんを、番組では今後も応援させていただきたいと思います。
白石さんは、5月に再びフランスに渡り、ヴァンデ・グローブの表彰式に出席されます。それに先立ち、来週2月24日(金)に東京都内で『海洋冒険家・白石康次郎 ヴァンデ・グローブ報告会』が開催されます。報告会は一般の方も参加できます。その参加方法や、ヴァンデ・グローブに参戦した白石さんの奮闘ぶりなどは、白石さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。