今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、尾木直樹さんです。
“尾木ママ”こと教育評論家で法政大学教授の尾木直樹さんは1947年、滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、中学・高校の学校教師として活躍。生徒と向き合う熱血な姿は、あのテレビ・ドラマ「3年B組金八先生」のモデルの1人にもなりました。主宰する臨床教育研究所「虹」では子育てと教育など、現場に密着した研究に精力的に取り組んでらっしゃいます。
そんな尾木ママが今、最も伝えたいことを『尾木ママ流自然教育論』という本にして出版されました。さあ、尾木ママが勧める自然教育とは一体どういったものなのでしょうか?
●今回のゲストは、教育評論家の尾木直樹さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします」
●お会いできて本当に嬉しいです! 今日は、尾木ママと呼ばせていただいてもいいですか?
「尾木ママ以外はないよ(笑)」
●優しくそう言っていただけると、とても助かります!(笑) 早速ですが、尾木ママは“アウトドア”や“キャンプ”が大好きって、本当ですか?
「そうなのよ。僕、“尾木ママ”になっちゃったから、キャラが壊れるんじゃないかと思って、ちょっとしおらしくしてなきゃいけないと思って、あまり言わなかったんですが、本当はワイルドなの」
●そうだったんですか!(笑)
「子どもたちを連れてよくキャンプやバーベキューをしていますし、スキーはいつでも出来るようにしています。実は僕、スキー検定1級を持っているんですよ! 女房から子ども2人まで、全て僕が教えたの! 僕の夢は“山頂から「トレーン」という列を作って家族一緒に下まで降りてくること”だったの。それがもう出来るようになっているのよ! そういう大きな目標があったから、一から教えたの」
●尾木ママは、子どものころから自然体験が好きだったから、なんですか?
「実は、僕が生まれた所は滋賀県坂田郡伊吹村で、僕が6歳ぐらいの時に初めて電気が引かれたの。電球は居間にあるんですけど、それがついた瞬間は今でも覚えています。夕方6時に電気がつくって決まってたの。家族みんなが裸電球の下に、輪になって正座して待っていたらついて、本当にびっくりしました! 周りは山ばかりだったから、おやつはイタドリやヤマモモとかを食べていたの。それと、アケビって知ってます?」
●知ってます! 美味しいですよね!
「あれは実が熟しているものを取るのよ」
●そういうところで育ってきたから、お子さんにもそういう自然体験をさせてあげたいという思いがあったんですね。そんな尾木ママが先日、ご自身の自然体験をもとにした、『尾木ママ流自然教育論』という本を出されたんですよね。
「僕、自然教育のことを書いた本は今回が初めてなの」
●この本を読んで、自然教育をすることで子どもはすごくデキる子になるんだということが分かりました。
「人間的な面や学力的な面、体力の面でも力がつきます。例えば、辛抱強くなって欲しかったり、人に優しくなって欲しかったりと、僕たちが家庭教育を通して子どもに伝えたいことって色々あるじゃないですか。そういうことを教える塾もありますけど、そうじゃなくて、自然の中に入ってキャンプをやったり山登りをしたりすれば、そういうことは1人で身につくんです。このことを、脳科学に基づいた知見から書いたんです」
●本当に分かりやすかったです。その中で気になったのが、子どもたちが今、大変なことになっているそうですね。
「これは本当に大変なことなんですよ。年配の方は聞いて呆れると思うんですけど、“子どもロコモ症候群”という現象が起きているんです。“ロコモティブ・シンドローム”はご存知だと思いますが、ご老人になると、手を上に“バンザイ”して上げることが出来なかったり、硬直してスムーズに動かないということがありますよね。それが子ども、特に小学生から中学生の間で起こるようになっているんですよ」
●本来は歳を重ねて筋力が落ちてくるから起こることですよね。子どもなんて一番体力がありそうだと思っていたので、信じられないです。
「ところが全然そうじゃないんです。だから保育園や幼稚園でも、運動会の前に“転ぶ練習”をするのよ。手を出さないと転んじゃいますから、歯を折ったり鼻を骨折したり、おでこを擦りむいたりと、すごく大変です。なので“転ぶ時は皆さん、手を出しましょう! はい、いっせーの、せっ!”って練習するの。
それと、もう1つおかしいことがあって、“カーブを曲がれない”子どもがいるんですよ。校庭のトラックにはコーナーがありますよね。第1コーナーで“曲がろう”とした時、曲がれる子もいますが、曲がれない子はそのまままっすぐ行ってしまいます。なので、みんな引っかかって交差するように転ぶんです。だから、左に曲がる時は体をちょっと左に傾けて、外側の腕は内側よりも少し大きく振り回す練習をするんです。それでようやく曲がれるようになるんですよ。
でもそういうのは本能だと思っていたんですが、実は小さいころに鬼ごっこをやったり、はないちもんめをやったりと色々な遊びをして動き回るじゃないですか。その中で素早く曲がったりする能力が身についているんですよ」
●知らない間に私たちはそういうことを学習していたんですね!
「どこかの教室に通ったり、お稽古ごとをするのも悪くはないですけど、そればっかりやっていると、そういった能力が身についていかないので、今こういった事態が起こっているんです。それを受けて、それまで行なってきた座高の調査やギョウ虫検査などは止めて、文科省が今年度から小学校から高校までを対象に“運動器調査”というのを始めたんです」
●身体測定とは違うんですか?
「そうですね。なぜ始めたかというと、1年前に埼玉県のとあるお医者さんが中学生全員に行なったある調査がきっかけです。その資料によりますと、例えば目が開いている状態で、片足立ちを5秒以上出来ない子が7パーセントいたんです。また、ある先生から聞いたんですけど、三十数名いる教室で、“はい、しゃがんで”と先生が言ったら、1人しかしゃがめなかったの。他の子は全員後ろに倒れちゃったの。しかも“高校生でもそうなんですよ”って言うので、ビックリしました。また、肩が180度まで上がらない子はなんと11.2パーセントもいましたし、手をリズミカルに交互に“グー”“パー”と出来ない子は20.3パーセントもいました」
●2割もいたんですか!
「この調査では5種類だったのですが、文科省の実施する調査では調査項目が6種類あり、この中で1つも出来なかった子が、なんと51.7パーセントもいるんですよ。こういう結果が出たので、緊急で全国一斉調査を始めることになりました。この調査結果がまとまるのが、恐らく今年の夏以降だと思いますが、この結果が出ると、大きなニュースになると思います。学力競争ばかりやっているけど、そもそも教育の前提が崩れてしまっているんですよね」
※ここで、リスナーの方からいただいた、自然遊びと子育てのお悩みについて、尾木ママに相談してみました。
●埼玉県の36歳、ウメハラさん(主婦)からのご質問です。「小学3年生の男の子がいますが、ガラスのハートで失敗するのをとても嫌がります。アウトドアに行っても、初めてのことをやる時は“やったことがないから嫌だ!”とすぐに放棄してしまいます。もうすぐ小学4年生になるのに、このままでいいのでしょうか?」
「これは悩むのよね。はっきり言って、このままじゃよくないわよね。一番大事なのは“子どもは興味関心の塊”だということです。本能的に何でもぶつかっていくし、何でも食らいついていくのが子ども、というよりも人間の本能なんです。それなのに、初めてのことをやる時に“やったことがないから嫌だ”と言っていては、生きていけないですよ!
これは、興味関心を抱く心を育てることができなかったということなんですよ。失敗したり上手くいかなかった時に、お母さんやお父さんが“ほら、こんなことしていると失敗するでしょ! ああしなさい、こうしなさい”というように、評価がうるさかったんだと思います。良かれと思ってやっておられるとは思うんですが、そうすると“パパやママが褒めてくれない。どうしようかな”と親の顔色を気にするようになるし、嫌がっているというよりも、慎重になっているんです。なので、お母さんやお父さんの評価の枠とか、期待されていると思ってしまう気持ちを少しでも取り払えれば、本能のままにどんどん挑戦していくはずなんです。
それと、アウトドアとかに行った時は、自然が相手ですから、お父さんも未知の体験をしているはずなんです。例えば“こんなところから蛇が出てきた”とか“石ころにつまづいて転んだ”といった失敗を子どもに見せることが大事なんです。そういう時に“お父さん失敗しちゃった! 砂利道滑っちゃったよ!”という感じで、多少わざとでもいいから親が失敗して、それを笑い飛ばすこともできるというようなお手本を子どもに見せて、“失敗してもいいんだ”と思わせるようにしたほうがいいですね。自然の中は未知の世界、言わば未体験ゾーンですから、未知のことや、そこでの失敗も受け入れて楽しむということが大事だと思いますね」
●そうですよね。続いて、東京都の29歳、アキコさん(会社員)のからの質問です。「普段、街中を歩いている時には、“落ちているものは拾わないで”と教えています。だからなのか、いざ自然の中に入っても、下に落ちている葉っぱや石ころに子どもは触ろうとしません。でもそこで“拾っていいよ”と教えると、今度は街中で汚いものまで拾ってしまいそうな気がして・・・。何かいい方法はありますか?」
「この子はとっても素直なんですね。親が言ったことをちゃんと守るような子なので、貴重なお子さんだと思います。本来は“ダメよ”と言っても拾っちゃうものなんですよ。これについても、やはり“親がお手本を見せること”ですね。
例えば、河原には様々な色のついた石があるじゃないですか。そこで“この石、変わってるね!”と言ったり、水晶のような石を拾って“これ、キレイだよ!”と言ったりして、触って感動している姿を見せるといいですね。落ち葉にも色々な形のものがありますし、ドングリでもいいと思います。爪楊枝を持って行って、ドングリが落ちていたら、それを爪楊枝に埋め込むんですよ。そうしたらコマのように遊べるので、やってみたりと、自然の中に落ちているもので遊ぶ楽しさをいっぱい見せてあげたりするといいですね。そうしている時は、親も楽しいんです。コマを回してみた時に“おお、回るとは思っていたけど、こんなに回るとは思わなかった!”と、親もはしゃいでしまうかもしれませんが、そういう親子体験が大事だと思います」
●そうすると、街に行った時に汚いものを触ってしまうのではないかと心配していますが、どうでしょうか?
「その気持ちはどんどん薄れるので大丈夫です。もし子どもが拾おうとしたら“それ、汚くないかなぁ?”とか“ここは山の中じゃないよ”など、少し言えば分かると思いますよ」
●ちゃんと自分で判断できるようになるということですね。
「これは判断力といって、学力の三本柱の1つなんです。この判断力をつけるためには、そうじゃない動きを体験していないといけないの」
●なるほど。では最後に、35歳のマリナさん(主婦)からの質問です。「今年の夏に親子キャンプに行こうと思っています。2歳児でも出来るアウトドア体験にはどんなものがありますか? 木登りや虫捕りはまだちょっと早いかなと思うので、どんなことから始めればいいのか教えて欲しいです」
「2歳の子が木登りしたら100パーセント落ちますよ(笑)。でも、心配され過ぎていると思うの。2歳の子を連れてキャンプ場に行ったとしたらすぐに遊び始めますよ。例えば河原なら、そこら辺の石とか砂利を持ってカチカチ叩いたりだとか、あと、間違いなく川に石を投げるので、“すごいね! 遠くまで投げられたね!”と言ってあげるといいですね。今、子どもの“物を投げる力”が落ちているので、それを伸ばすいい機会だと思っていっぱい投げさせるといいと思います。
放っておいたら、“え!?”と思うような遊びを子どもは開拓するんです。僕のお孫ちゃんも、12色あるクレヨンを全て床にばらまいちゃって、それを元に戻すことが遊びなんですよ。出来たらパチパチと拍手しているんです。そういった単純な遊びを繰り返しているの。それがいいんです」
●(笑)。“遊びを提供してあげなきゃ”という気持ちが親としては出てきてしまうかもしれませんが、そんな必要はないんですね!
「自然の中に行けば、自分で遊びを覚え始めますし、自分で発見した喜びや達成感は大きいです」
※自然体験をしている子どもと、そうでない子どもはどう違うのでしょうか?
「それを一番言いたかったんですよ。実は、自然体験をしている子と、していない子の違いについてデータを取ってみたら、すごいことが分かってきました。それをいくつかご紹介したいと思います。
例えば“自己肯定感”が大事だ“ということは幼稚園や保育園、小学校の先生もみんなおっしゃいます。本当にその通りなんですけど、自然体験を多少なりともしている子の中で、自己肯定感を持っている子は62.2パーセントいたんですよ。ところが、自然体験が少ない子の中で、自己肯定感を持っている子は27.8パーセントしかいなくて、倍以上違うんです。
それから自然体験をいっぱいしている子の中で、道徳観や正義感がある子は78.6パーセントいたんです。つまり8割近くの子が、正義感やモラルがあると思われているんです。ところが、自然体験が少ない子の中で、道徳観や正義感がある子は37.9パーセントと、やっぱり半分の差があるんです。グラフで表すとビックリするくらいの落差があるんですよ。
また“困難が起きても挑戦できるかどうか”については、自然体験が多い子の中では、79.5パーセントの子が挑戦できる一方で、自然体験が少ない子の中では44.8パーセントの子しか挑戦できなく、これも約半分まで下がるんです。どの側面についても、ものすごく差があるんですよ」
●数字としてそれだけ具体的に差が出てしまっているんですね。
「だから、自然体験をするかしないかで、決定的な差が出てしまうということは言えますね」
●今、尾木ママがおっしゃった項目は、全て大事なことばかりですよね!
「なぜこのように、総合的に能力が発展するのかというと、実は今、大事なのは“IQ”ではなくて、HQ(Humanity Quotient ヒューマニティ・クォーシェント)、つまり人間性を示す数値なんですよ。自然体験を多くしている子はこの数値が跳ね上がるんです。
早期教育には、例えば音感教育とか、英単語をフラッシュカードでパッと見せてすぐに発音できるか、漢字の“臥薪嘗胆”を見せたら機械的にすぐに読めるかというものがありますが、それは、記憶力とか条件反射力などを制御する脳が開発されていくからなんです。
ですが、特に小学4年生以降から重要になっていくのは、物事を抽象概念で操作していく力なんです。だから、小学5年生ぐらいになると伸びない子が出てくるんですね。早期教育をしてきた子の多くは、その力が伸びていかないんです。
HQは、言わば脳のコントロールタワーです。昔から“あの人は地頭がいいね”と言ったりしますが、それはとっさの判断力や思考力、洞察力が豊かなんです。そういう力を鍛えていくのが自然体験だということは、なんとなく見当がつくと思うんですが、例えばキャンプでテントを張って寝るのは大変なことで、虫の声を聴きながら寝ようかと思ったら、蚊の鳴く音がうるさかったりと、色々な悪戦苦闘が出てきます。その代わり、予期せぬ幸せや、ラッキーな体験もあるわけです」
●例えば、私も自然の中にいると色々なことを感じて、HQが上がったんじゃないかなと思うこともあるんですが、大人でもHQは上がるんですか?
「そうです。それは大人も子どもも同じです。だから、家族みんなでHQを上げていけることがいいと思いますね。そういう力が、これからの世界の学力には求められているんです。だから今、塾を例にしてみても、先見の明があるような塾は、こういったキャンプや合宿をやっていますよ。昔みたいに、学習合宿でハチマキをして“終わるまで寝かせない!”と言ったりするのは、もう時代遅れなんです! だから、今ではスキーやキャンプしたりと、色々なことをしているんですよね」
我が子をデキる子にしてくれる自然体験ですが、中でも尾木ママは8つの自然体験がとても大切だとおっしゃっています。“動物”“草”“木”“水”“火”“石”“土”。さあ、残りもう1つの自然体験は何でしょうか? 答えはぜひ、尾木ママの著書『尾木ママ流自然教育論』でチェックして下さい。
山と渓谷社/本体価格1,200円
尾木さんの新刊となるこの本は、山登りやスキー体験などを子育てに活かし、その経験とデータをもとに書き下ろした一冊。目からウロコのことが満載! ぜひ読んでください。
尾木さんの近況などは、オフィシャルサイトをご覧ください。