今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、大場裕一さんです。
大場さんは1970年、北海道・札幌生まれ。北海道大学・理学部を卒業。専門は発光生物学。現在は中部大学の准教授。知られていない発光生物探しから、関連する資料集めまで、光る生物すべてに興味を持ってらっしゃる研究者であり、まさに“ミスター発光生物”と言っていいかも知れません。
そんな大場さんは昨年に、岩波書店から『恐竜はホタルを見たか~発光生物が照らす進化の謎』という本を出されています。果たして恐竜はホタルを見たのでしょうか。今回はそんな気になる疑問から、さまざまな発光生物の特徴についてなど、たっぷりとうかがいます。
※大場さんによると、発光生物は1万種類もいるそうなんですが、そもそも発光生物は、何のために光っているのでしょうか。
「光る目的や役割は、発光生物それぞれに違いがありまして、例えば敵を驚かせるためだったり、チョウチンアンコウのようにエサをおびき寄せるために光ったりします」
●例えば私たち人間が、暗いところを明るくしたいと思うように、暗いところを明るくしたいから光っている生物はいるんですか?
「まだそれほど詳しくは分かっていませんが、魚の仲間では、おそらくエサを探すために目の前を照らしたいという理由から、光っている生物がいます。例えば、日本にはいないんですが、東南アジアに“ヒカリキンメダイ”という魚がいます。この魚には、目の下に大きな発光器があって、それをサーチライトのようにして光っていて、その光はとても強いです」
●おもしろいですね! 私も暗いところを探すときに“目が光ればいいのになあ”と思ったりしますが(笑)、実際にそういうふうに光っている生き物もいるんですね!どれくらいの深さにいる生き物が光りやすいんですか?
「海は一番深いところだと1万メートルくらいありますが、光る生物が多いのはだいたい200メートルから1000メートルくらいのところですね。このあたりが非常に多いです。それよりも深くなると、意外と少ないんです」
●なぜ200メートルから1000メートルくらいのところに光る生物が多いんですか?
「海の中はだいたい200メートルくらいまでいくと、ほとんど暗くなってしまうんですね。なので、そこにいる生物は真っ暗の中に浮かんでいる状態なんです。それでも200メートルくらいだと、まだ水面から弱い光が届いているんですが、この光が非常に重要な役割をしているんです。例えば光る魚の中には、お腹が光る魚が多いんですね。ホタルイカなどにも当てはまるのですが、お腹を弱く光らせると、それが水面からの弱い光と同じように見えるので、(自分の体によってできてしまう)影を消すことができるんです」
●なるほど。ほかの生き物が下から見たときに、海の中だと太陽の光によって、自分の体が影を作ってしまうから、それをごまかすために自分で光っているんですね。
「光ることで姿を消しているんですね。このやり方が効率的なのが、200メートルから1000メートルくらいの、非常に弱い光が届いている水深なんです」
●多分私たちは、光る生き物というとホタルをイメージするので、“目立つために光っている”のかなと思っていたんですが、逆に“隠れるために光っている”生き物もいるんですね!
「そうですね。海のど真ん中だと“隠れるために光っている”生き物が多いですね。隠れる場所がどこにもないので、 “自分の影”は他の生き物にとって非常に危険な信号になってしまうんですね。それを隠すために光が使われているんです」
●同じ発光生物でも、光の役割は全然違うんですね! もう一つ気になるのは、どうやって光っているかなんですが、これまでのお話からすると、光る仕組みについても生き物それぞれ違うんでしょうか?
「その通りですね。結構多くの人が、すべての生き物が同じ仕組みで光っていると思っているんですが、そうではないことがわかってきています」
●有名なところでいうと、ホタルはどうやって光っているんですか?
「ホタルには、“ルシフェリン”と“ルシフェラーゼ”という物質がありまして、その2つが混ざると光ります。これらはホタル特有の物質なので、例えばウミホタルなどの、ほかの光る生き物とは違うものですね」
●物質が混ざっているということは、化学反応で光っているということですか?
「そうですね」
●この化学反応は、ホタル自身の意思でコントロールしているんですか?
「“意思”というと、人間的な意味合いが出てきてしまいますが、ホタルは神経を使って化学反応をコントロールしているんですね。ホタルが光を点滅させているのは、脳からの指令でコントロールしているからなんです。なので、点滅を速くしたり遅くしたり、止めたりすることが可能なんですね」
※それでは、海の生き物たちはどうやって光っているのでしょうか。
「“セレンテラジン”という物質を使って光っている海の生き物が非常に多いんです」
●チョウチンアンコウなども、その物質で光っているんですか?
「チョウチンアンコウは“発光バクテリア”によって光っています。ちょうちんの先に、発光バクテリアを溜め込むことで光っているんです」
●ホタルみたいに、自分自身で発光物質を出しているのではなく、自ら光っている生き物と“共生している”ということですか?
「その通りです。発光バクテリアと共生して光っている魚は結構いますね」
●そうなんですね! 他にはどんな生き物が、発光バクテリアと共生して光っているんですか?
「“ホタルジャコ”という魚がいるんですが、その魚も発光バクテリアによってお腹全体が光っています。それによって、先ほど話したように自分の影を消しているんです」
●共生しているということは、発光バクテリアにもメリットがあるということですよね?
「恐らくですが、発光バクテリア自身は海水中でも増えることはできるんですが、それだと食べられてしまうこともあるので、それなら魚の体の中で安全に育って増えていくほうがいいですよね。また、魚が泳いで移動することで、自分たちも移動することができるといったメリットもあるといわれています」
●実は、私はダイビングが趣味なんですが、ナイトダイビングで海に潜ったときに、インストラクターの先生が“腕を動かすと自分の周りが光るよ!”と言われて腕を動かしたら、チカチカと光ったんです。それは発光バクテリアだったんでしょうか?
「それは発光バクテリアではなく、おそらく“渦鞭毛藻(ウズベンモウソウ)”という夜光虫だと思います。単細胞のプランクトンで、自分自身で光っています。発光バクテリアも海の中にたくさんいるんですが、集合しないと光らないという性質があるので、海の中に漂っている発光バクテリアは基本的には光らないです」
●ということは、チョウチンアンコウなどに集まることによってはじめて光ることができるんですね! 発光生物の世界は奥深いですね! 何でいろいろな発光生物が生まれてきたんでしょうか?
「僕自身は進化について興味があるんですが、海の中は200メートルよりも深くなると暗いんですね。陸上も昼間は明るいんですけど、夜になると真っ暗になりますよね。実はそういう“暗い環境”は地球上にたくさんあって、暗いときに他の生物や仲間と交信するために“光”は非常に便利なんです。なので、発光できるように自然と進化していったんだと思います」
●私たちの普段の生活では、夜であっても明るい場所を作って活動することがとても多くなってきていますが、それは発光生物にとっては、発光するメリットがなくなってきて、(発光生物にとって現代は)あまりよくない環境になってしまっているんでしょうか?
「そうですね。最近は真っ暗な環境が少なくなってきているので、特に陸上の発光生物にとっては生きづらい環境になりつつあると思います」
●大場先生としては、もう少し暗い場所が増えればいいなと思いますか?
「そうですね。島や山奥に行くと発光生物はよく見られるんですが、実は都会にも発光生物はたくさんいるんです。ですが、ほとんど気付かれないんですね」
●ちょっと電気を消して周りを暗くしてみると、私たちの周りにも発光生物がいるかもしれないですね。
「結構いろいろな発光生物が見つかると思いますよ」
※私たちにとって、身近な光る生き物といえばホタルですが、そんなホタルグッズを大場さんは集めているそうです。
「発光生物の研究をしている影響で、光る生き物に関する物を集めていまして、例えばホタルは浮世絵などによく描かれているんですね。また、ホタルが描かれたお皿なども集めています」
●昔の人たちの文化の中に、光る生き物は溶け込んでいたんですか?
「そうですね。食べるものを乗せるお皿の中に描かれるというのは非常に稀だと思うのですが、ホタルに限ってはお皿にも描かれているんですね。いろいろな物語にもホタルは出てきますし、和歌や詩にもたくさん取り上げられています。そういうものを通して、人間と発光生物の関わりがみえてくるので、いろいろとホタルグッズを集めています」
●それを眺めながらお酒を飲んだりとか、そんな楽しみ方もされたりしているんですか?(笑)
「その通りですね(笑)。昔の人も、ホタルを見ながらお酒を飲むために、ホタル狩りをやっていたと思うんですが、それに近いのかもしれませんね」
●浮世絵にはどんなふうにホタルが描かれているんですか?
「ホタルを見ている場面が多いんですが、特に女性が着飾ってホタルを見ている場面が多いです。また、子どもがホタルを捕まえている場面も多いんですが、女の子も捕まえていたりするんですね。大人の女性が着飾ってホタルを鑑賞したり、女の子がホタルを追いかけているのは、日本独特の文化だと思いますね」
●女性とホタルは、何か関係性があるんですか?
「日本では、ホタルは“非常に優雅で趣のあるもの”という捉え方をしていますが、外国ではホタルは“子どもの頃に捕まえて遊ぶ昆虫”という捉え方が多く、優雅さなどはないんですね。そこが日本の特徴だと思います。“ホタル文化”と言ってもいいんじゃないかと思います」
●江戸時代などでは、ホタルを楽しむことが一大イベントだったのかもしれませんが、たくさんの人々がホタルで楽しんでいたのは、夜の暗さが関係していたんでしょうか?
「そうですね。江戸時代になって文化が成立してくると、町の人たちも時間に余裕が出てきたりして、みんなでお酒とつまみを持ってホタルを見たりすることが多かったみたいです。いろいろな浮世絵に描かれているんですけれど、男4人が集まってホタルを見ながらお酒を飲んでいる場面なども結構あって、非常に面白いです」
●昔は光るものが少なかったことも、ホタルで楽しむことに関係しているのかもしれませんね。
「そうですね。昔は油を燃やして部屋の明かりにしていたと思うんですけど、それでもものすごく暗いんですね。なので、町の中がかなり暗かったのは間違いないですね」
●今では、日常生活で使うものをはじめ、サイリウムやペンライトなど、身近に光るものがたくさんあるじゃないですか。そういうことも、私たちがホタルから気持ちが離れていってしまった原因なのかもしれませんよね。
「それは原因の一つとしてあると思います。しかし逆に、例えば私たちは信号を見ても趣は感じないですよね。やはり“生き物が光っている”ことに対する“凄さ”や“不思議さ”、“趣”といった感情を私たちは今でも持っているのではないかと思いますね」
※それではいよいよ、大場さんの著書『恐竜はホタルを見たか~発光生物が照らす進化の謎』のタイトルにもある、“恐竜はホタルを見たのか”についてうかがっていきます。
「答えとしては、“見た”になります。恐竜がいた最後の時代である白亜紀までには、ホタルはすでにいたはずなので、ホタルは恐竜を見た、ということですね」
●そんな昔からホタルはいたんですね! その頃のホタルは、現在私たちがよく目にするホタルと同じようなホタルだったんですか?
「そうですね。いくつかの根拠もあるので、恐らく今のようにお尻の部分が光って、緑色のような光を出していたんじゃないかと考えられています」
●つまり進化の過程としては、すでにその頃には、ホタルは現在のような形だったということですね。
「おおよそ今のホタルのような姿だったと思います」
●白亜紀から今まで姿が変わらないということは、その頃からホタルの体は“完成された形”だったということなんでしょうか?
「そうですね。ただ、ゲンジボタルのように光を点滅させたりといった、光を使った複雑な信号ができたかは、まだわかっていないですね。そう考えると、ゲンジボタルなどは光を点けたり消したりといった“光シグナル”を使っているので、かなり洗練された光り方をしているんじゃないかと思いますね」
●光り方などは進化しているんですね。恐竜はホタルが光っているということを認識できていたんでしょうか?
「認識していたと思います。なぜかというと、恐竜の目は非常にいいんですね。おそらく色も識別できるので、恐竜は夜にホタルの色を認識していたんじゃないかと思います」
●もしかしたら恐竜も“わあ、綺麗だなあ”と思って見ていたかもしれないですね。
「そうですね。そんな想像をすると面白いですよね」
●恐竜はホタルの光を見たら“エサだ!”と思って食べたりはしなかったんでしょうか?
「おそらく逆だと思いますね。ホタルは求愛のために光る、ということは有名ですが、それ以外にも“自分を食べてもマズイぞ!”という警告のために光っているとも考えられています。なので恐竜も、ホタルは美味しくないものだと認識していたのではないかと思います」
●なんだか上手くできていますよね。光るってすごいですよね!
「すごいですね!」
●光ることに対する、私たちの“ワクワク感”や“ドキドキ感”は、いったい何なんでしょうね。
「アニメーションとかを見ていても、生き物が光る場面はよく出てきますよね。象徴的な取り上げられ方をされるんですが、それはやはり、僕ら人間の中に、光ることに対する何か特別な感情があるからなんだと思います」
●それは私たちが“光りたい!”と思っていたり、“いつか人間も光れるようになるんじゃないか”といった淡い期待があったりするからなんでしょうか?
「アニメーションでは、光る人間のようなものはよく出てきますし、そういう人はだいたい力を持っていたり、強かったりするので、そういった感情はあるのかもしれないですね」
●いつか進化の過程で、人間は光れるようになったりするんでしょうか?
「科学者の立場から言いますと、それはないと思っています(笑)」
●残念!(笑)それは何ででしょうか?
「光ることで何らかのメリットがあるかというと、人間にはあまりないように思うんですね。例えば僕たちは言語を持っていますので、それで十分に会話ができるんですね。また、“自分は食べてもマズイぞ!”と脅かす必要も恐らくないですよね。そういうことを考えると、人間が光ることはないんじゃないかと思います」
●でも光ったら便利だと思うんですけどね(笑)。
「便利だったら光るように進化していくのかもしれませんね」
食べる為、身を隠す為、そして愛を語る為。同じ「光る」でもその目的は様々なんですね。そう考えると光って綺麗! や、光ってカッコイイ! だけなく、その光の先に何を照らしているのか、発光生物の事をもっともっと知りたくなりました。
岩波書店/税込価格1,404円
とても親しみやすい文章で書いてくださっている、“発光生物の入門書”とも呼べるような本です。発光生物に馴染みのない人が読んでもわかり易く、とても興味深い本なので、ぜひ読んでください!
また、5月28日(日)には、川崎市多摩区「かわさき 宙(そら)と緑の科学館」にて、大場裕一さんの講演会が開かれます。午後2時からの開演で、参加費は無料です。この機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。
その他、大場さんの研究内容などについては、オフィシャルサイトをご覧ください。