今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、料理家・真藤舞衣子(しんどう・まいこ)さんです。
東京生まれの真藤さんは、子供の頃から食に興味があり、24歳のときに1年間、京都のお寺に住み込み、畑作業などに従事。その後、フランスの名門料理学校で学び、資格を取得。そして、赤坂でカフェ&サロンを営んだあと、ワインの醸造などを行なうご主人との結婚を機に、山梨に移住します。現在はレストラン「my-an(マイ・アン)」のプロデュースほか、山梨と東京で料理教室も開催。生徒さんに、食材を無駄なく使うノウハウなどを指導、さらに食育アドバイザーやオーガニック・コンシェルジュなど、「食」に根ざした幅広い活動をされています。
そんな真藤さんは先ごろ、『おいしい発酵食生活』という本を出されました。発酵食といえば最近、健康や美容にも良いと話題ですが、発酵食だけではなく、持続可能な食卓をテーマに、環境のこと、健康のこと、暮らしのことなど、様々なメッセージを発信されています。今回は「食と健康」そして「食と環境」についてたっぷりとうかがいます!
※実は真藤さんはもともと、IT系の企業に勤めていたそうなんです。一体、どうして料理家になろうと思ったのでしょうか。
「私が料理家になった理由は、20代前半の時の出来事にあるんです。少し年配の友人がいまして、その人にはお子さんがいたんですね。ある時、奥さんがまだ帰ってきていなく、自分の子どもに夕飯を食べさせようした際、冷凍庫を開けたんですが、そこにはお弁当が何段も重なって冷凍してあったんです。それをレンジで温めて子どもに食べさせていたんですね。それを見た時に、少し悲しく、寂しい気持ちになったんです。私は料理をすることがすごく好きでしたし、母親に作ってもらった料理を食べてきていたので、“そういうこと(料理を作ることや、手作りの料理を食べることの大切さ)を伝えられたらいいな”と思ったんですね。そこから、料理の道に進もうと思うようになりました」
●もともと真藤さんは料理が好きだったんですね。
「そうなんです。3歳ぐらいの時から親の手伝いをしたりして、料理を作っていました」
●料理家って、どうやってなるんですか?
「私はお菓子も好きだったので、最初はフランスに行こうと思ったんです。何となく、“料理といえばフランスかな?”というイメージがあったんですね(笑)。そこで、行くと決めた時に、“私、日本の文化をそんなに知らないな”と思い、なぜか京都にある大徳寺の塔頭(たっちゅう)に1年間、住み込みするようになったんです(笑)」
●そうなんですか!? “学ぶ”といっても、いろいろな方法があると思いますが、具体的にはどんなふうにお寺で過ごされたんですか?
「朝は5時前くらいに起きて、まず座禅をするんです。その後に掃除をして、朝ごはん、一汁一菜を食べます。そしてまた掃除をし、それから“作務(さむ)”ということで畑仕事をして、夕飯を迎えるという生活をしていました。畑仕事では、堆肥を貯蔵したりまいたりするので、結構な重労働でした。私は都会育ちだったので、土にも触ったことがなかったんです。なので初めて土を触って、中からすごく太いミミズが出てきた時は本当にびっくりしました。太いミミズが出てくるということは、土が肥えているということなので、“土が肥えているって、こういうことなんだな。この土のおかげで野菜が美味しくなるんだな”ということを実際に感じることができました」
●その土で作ったお野菜の味はどうでしたか?
「本当に味が濃いんですよ! みんなが生活している中で出てきた堆肥で作ったものなので、もちろん無農薬、無化学肥料です」
●そこでの生活では、料理もされていたんですか?
「一緒に生活している人たちと交代で料理を作っていました」
●そこでの生活で、どんなことを一番学ばれましたか?
「“食べ物を無駄にしない”ということを、特に学ぶことができました。作った料理は大事に食べ、全て綺麗に残さず食べる、ということですね。また、食べ終わった後に、お椀をお番茶で洗って、それも全部飲むんですよ! そうすると、洗剤を使わなくても綺麗になるんです。たくあんで綺麗に拭いて、そのたくあんも残さずに食べるんです。たくあんを使うと本当に綺麗になるんですよ!」
●そうなんですか!? 私も今度、やってみます!
※真藤さんは料理法だけでなく、持続可能な食卓の提案もされています。料理教室ではこんなことも生徒さんに教えているそうです。
「例えば、一つの食材を使って、何通りのレシピが作れるのか。あるいは、ある料理をたくさん作ってしまって、それが残ってしまった場合、その料理はどうやってアレンジすればいいのか、ということを伝えています」
●私も習いたいです!
「ついつい大量に作ってしまう時がありますが、そうすると飽きちゃいますよね」
●そうなんですよ! 2日連続で同じ料理は出せないじゃないですか。
「そうなんですよね。なので、例えば、ある料理を作り過ぎてしまったら、“この料理をチャーハンに使ってみよう”とか、“炒め物にしよう”“何かと混ぜて揚げてみよう”など、工夫してみるんです」
●一手間加えることで、作りすぎて残った料理が新しいレシピとして“蘇る”んですね!
「そうなんです。すると旦那さんも“またこれか”ではなく“お、なんか新しいな!”と、新鮮な気持ちで食べてもらえますよね」
●例えば、どんなお料理をどのようにアレンジすれば、新しいメニューとして出せるんですか?
「一度お漬物を作ると、たくさん残りますよね。なのでそれをポテトサラダにしたり、お肉と合わせて和え物にしたり出来ますね」
●お漬物ってそんなにアレンジできるんですか!? 味が濃そうだから、他のものと混ぜると味がケンカしてしまうと思ったんですが、大丈夫なんですか?
「味が濃いからこそ、“調味料代わりに使う”ということがポイントなんです。例えば、柴漬けは簡単に作れるんですが、それを豚しゃぶと合わせたり、チャーハンに入れたりなど考えていくと、結構バリエーションが広がりますよね」
●柔軟に考えることで無駄なく、新しく生まれ変わらせることができるんですね!
「きっちりと食材を使い切って欲しいので、そういうことを皆さんに教えています」
●例えばネギを切る際、緑色の部分をどうしようかといつも悩んでしまうんですよね。
「結構バサっと捨ててしまう人もいますね。それも捨てずに、水にさらして細かく刻んで使ったり、スープの出汁をとる際にも使えます。“端野菜”を使うといい出汁が出るので、スープに使えますよ」
●“皮”も使えるんですか?
「皮からもいい出汁が出るので、ぜひ使って欲しいですね。また、例えば大根を買って皮を剥いた後、その皮を千切りにして干すと、きんぴらごぼうにも使えるんですよ。そこでも無駄なく一品出来ますよね」
●無駄が出てしまうと思って、大根を買う時は葉っぱが付いていないものや、あらかじめカットされているものを買ってしまうんですよ。
「そういうものはよく買ってしまいがちですよね。しかし、せっかく葉っぱが付いているものなら、葉っぱを細かく刻んで塩揉みをして、パスタやおむすびに入れたりと、いろいろと使えるんです」
●真藤さんの家では、生ゴミはほとんど出ないんじゃないですか?
「ほとんど生ゴミは出ませんし、もし生ゴミが出たら堆肥として土に還していますね」
●そうしてお料理の方法を変えていくと、現在話題になっているフードロスも、少なくなりそうですよね。
「企業でも、賞味期限や消費期限を3分の1にしたりしていますが(*1)、しかし一番問題なのは、家庭ごみなんです。家庭でのフードロス(*2)がなかなか改善されないので、料理家として私たちが、そのことを皆さんに伝えていかなければいけないなと思っています」
*1「3分の1ルール」:例えば、製造日から賞味期限までが6ヶ月間という期間の場合、メーカーが小売店に商品を納品できるのは、はじめの3分の1の期間(2ヶ月)以内に限る、というルール。それを過ぎると、廃棄や返品に回される。このルールを見直そうという動きもある。
*2「フードロス」:まだ食べられるのに捨ててしまっている食べ物。日本では2014年の調査によれば、なんと年間621万トンも廃棄。この半分は「家庭」から出ている。これは国民全員が毎日ご飯をいっぱいずつ捨てている計算。
※食卓を見直すという意味でも、最近注目されているのが発酵食品です。余った野菜をぬか漬けにするなど、フードロスにも有効な発酵食品ですが、実は、日本では驚くほど昔から食べられていたそうです。
「日本の発酵食品がいつ頃できたのかは、わかっていないんです。4000年あるいは6000年くらい前から人々の生活に根付いているんですよね。発酵食品といえば、まずは麹ですね。麹は、麦や米、大豆などの植物性のものを乳酸発酵させたものです。植物性の乳酸菌はとても吸収率が高いので、麹は美肌につながったり、お通じがよくなったりと、体にいいんですね。また、アミノ酸やビタミンがとても多いことも、体にいい理由の一つですね」
●動物性の乳酸菌だとダメなんですか?
「それでもいいんですが、日本人の体は欧米人とは違うので、日本人にとっては植物性の乳酸菌がいいということが、最近になって言われるようになってきましたね。これまで日本人が食べてきたものが、植物性のものが多いからかもしれないです。例えば“魚のなれずし”などもいいんですよ」
●私たちが長い歴史の中で食べてきたものが、私たちの体を作っているんですね!
「国によって食べるものも違ってくるので、みんな自分の体に合った発酵食品を食べていますね」
●私でも作れる発酵食品はありますか?
「甘酒は炊飯器で簡単に作れますよ」
●え!? そうなんですか!
「米麹を買ってくれば、保温の設定で半日で出来ますよ。すごく糖化して甘くなります。美味しいですよ! それを冷凍してアイスなどを作ってもいいですし、キムチも作れるんです」
●私は最近結婚したんですが、朝ごはんにお味噌汁とかを旦那さんに出してあげたいなと思うんですが、味噌も作れるものなんですか?
「いいですね! お味噌は3種類の材料だけでいいんですよ。麹と大豆と塩だけで簡単に作れます。大豆を煮て、麹と塩を混ぜて半年寝かすだけで味噌が出来るんです。すごく美味しいですよ! “手前味噌”というくらいですからね」
●その味噌を使ってお味噌汁を作る際に、何かポイントはありますか?
「“朝は忙しいから、お味噌汁を作るのはハードルが高い”と言う人は結構多いんですよ。そこで私は、“味噌玉”を作ることを勧めていますね。とろろこんぶやかつお節などを炒って、細かくし、それを味噌と混ぜるんです。1ヶ月ぐらい保存もきくので、冷蔵庫に入れておいても大丈夫です。丸めた味噌玉を会社に持って行くこともできますし、タッパに詰めておいてスプーン一杯分をお湯に入れて溶くだけで、簡単なお味噌汁ができるんです。そこに乾燥ワカメや刻んだネギなど、いろんなものを入れるとすぐに具だくさんのお味噌汁が出来ますね。そんな味噌玉は、戦国時代からあったんですよ。昔は武将が焼いた味噌を携帯して、それをお湯で溶いて飲んでいたんです」
●そうだったんですね。 武将も味噌汁を飲んでいたんだと思うと、少し気持ちも変わってきますね!
「一杯の味噌汁で“頑張ろう!”という気持ちになりますよね!」
※最後に、真藤さんにおすすめのレシピを教えていただきましょう!
「1年を通じてだと、例えば私はお塩の代わりに、塩麹をいつも使っていますね。味付けをする際も、塩麹は野菜や肉、魚などの食材の旨みを引き出してくれます。炒め物の煮込みなどにも使えるので、とても便利ですね。また、夏にさっぱりとしたものが食べたい時は、“ばくだん”と呼ばれたりもしますが、納豆にオクラ、マグロのぶつ切り、梅干しやたくあんなどを刻んで入れて、海苔で巻いて食べると美味しいですよ。お酒も進んでしまうんですけどね(笑)」
●日本酒とか飲みたくなりますね(笑)。上手に発酵食品をレシピの中に入れていくのがいいんですね。
「免疫力も高くなるので、体づくりにもどんどん役立てて欲しいなと思います。体も元気になります!」
● “体を癒す発酵食品”という言葉を、真藤さんが以前どこかでおっしゃっていたと思うんですが、それがとてもいいなと思い、今でも印象に残っています。
「自分で作ったものに発酵食品を取り入れると、ほっとする味になるんですよね。納豆や味噌、醤油は私たちが今まで慣れ親しんできたものなので、皆さんにも発酵食品で癒されて欲しいですね」
●きっと私たちのDNAに組み込まれているんでしょうね。
「根付いていますよね」
●それでは最後に、真藤さんが食を通じて伝えていきたいことを教えていただけないでしょうか?
「まず、作ることはとても大事なんですよね。しかしそれだけでなく、その食材がどこから来ているかを考えること。相手のことを思いやって作ること。そして食べ物に対して、また、人に対して感謝することを、皆さんと一緒に共有できたらいいなと思っています。そういうことを通じて、食べ物や生活などを一つ一つ大切にしながら生きていけるのではないかと思います」
●一人でいる時には適当にご飯を済ませてしまっていたんですが、私も最近ご飯を作るようになって、作ることでいろんなことが見えてくるような気がしています。
「そうですね。相手の気持ちを考えたりしながら作ると、その気持ちは相手に伝わりますので、夫婦関係が良くなったり、楽しい生活が送れるようになるかもしれませんよね!」
●私もそうなれるように頑張ります(笑)! また、丁寧にご飯を作ることで、生活そのものも丁寧になるような気もします。
「そうですね。ものの扱いも、時には雑に扱ってしまうこともあると思いますが、そういう時にも、“ものを大切にしよう”という気持ちになっていくと思います」
●最近、“料理を作るのが面倒くさいな”と思う時もあったんですが、頑張っていこうかなと思いました!
「そんなに頑張らなくてもいいんですよ! ちょっとしたことを丁寧にやっていけばいいだけなんです。私も時には手を抜くこともありますよ。ただ、“作る”ということは大事だと思っているので、味噌玉を使って簡単なインスタント味噌汁を作って、おむすびと一緒に食べたりといったことでも、いいと思います」
●なんだかすごく勇気をもらいました! とりあえず、明日からは味噌玉を使って味噌汁を作ってあげようと思います(笑)。
「実践してみてください!」
味噌玉は武将達も飲んでいたとは驚きでした。日本人の昔からの知恵で身体にも環境にも優しいごはんを作る事が出来るんですね。私も発酵食品を上手に取り入れた料理作り挑戦してみようと思います。
講談社/税込価格1,512円
副題に「意外と簡単 体に優しい」というフレーズの通り、まさにそんなレシピが満載の一冊です。ぜひ、日頃のお料理の参考になさってください!
また、真藤さんがプロデュースされているレストラン「サステナブル・テーブル マイ・アン ヤマナシ」では、地元の厳選された食材を使ったお料理をいただけます。最寄りの駅は「山梨市駅」。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。