今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、国立天文台の教授・本間希樹(ほんま・まれき)さんです。
本間さんは1971年、アメリカ・テキサス州生まれ。東京大学大学院で天文学を学び、博士の学位を取得。専門は銀河系天文学。現在、電波望遠鏡で巨大ブラックホールを写真に収めようという国際的なプロジェクトに、日本側の責任者として参加し、銀河の中心にあるとされる巨大ブラックホールの解明にチャレンジされています。
そんな本間さんは先ごろ、新刊『巨大ブラックホールの謎』を出されました。そこで今回は、宇宙最大の謎とされている巨大なブラックホールについて、たっぷりお話をうかがいます!
※まずは、ブラックホールとは一体どういったものなのか、うかがっていきます。
「ブラックホールはとても変わった天体で、名前の通り“黒い穴”なんですね。とにかく重力が強く、物も光も吸い込みます。そして、一度吸い込んだら二度と出さないんです。オバケみたいですよね。“こんなものがあるのか!?”っていうくらい、変な天体なんです」
※では、そんなブラックホールはどうやってできるんでしょうか?
「普通のブラックホールというのは、例えば太陽よりも少し重い星からできます。具体的には、太陽の約30倍くらい重い星です。その星が燃え尽きると、星の真ん中が重力できゅっと潰れてブラックホールになるんです」
●ということは、ブラックホールは“ゴミ”のような、あるいは“燃えカス”のような天体なんですか?
「まさにそうです! 星が燃え尽きた後の“燃えカス”がブラックホールです」
●私のイメージでは、ブラックホールはドラム式洗濯機のようにぐるぐると渦を巻きながら、いろいろなものを吸い込んでいる天体だと思っていましたが、なぜ燃え尽きた天体が渦巻き状になるんですか?
「それはとてもいい質問ですね! 渦巻いているように見えているものは、実はブラックホールそのものではないんですね。ブラックホールの重力によって引っ張られると、ガスが周りからどんどん落ちるんですね。ブラックホールはあくまで“飲み込む”だけなので、やはりブラックホールそのものは黒いんです。なので皆さんがイメージしているような、ブラックホールの周りを渦巻いて光っている部分は、ガスなんです」
●そんなブラックホールに吸い込まれてしまうと、二度と出てこられないんですよね。
「そうです。不思議なことに、もし僕らがブラックホールの強い重力に耐えることができれば、ブラックホールの中に入ることはできるんです。ブラックホールの中がどうなっているか見てみたいですよね。ところが中に入ったら最後、二度と出られませんし、さらに光も出せないんです。なので、仮に中を見ることができて、そこにすごい世界が広がっていたとしたら、天文学者は大興奮なんですけど、それをブラックホールの外にいる人に知らせる手段がないんです。ブラックホールの中はとても不思議な空間なんですね」
●ブラックホールの中に入るか、入らないか。天文学者にとってそれは、究極の選択ですね!
※それではいよいよ、銀河系にただひとつしかない天体、“巨大ブラックホール”について、本間先生に聞いてみましょう。
「巨大ブラックホールというのは、本当に特別な天体なんです。例えば僕らが住んでいる“天の川銀河”という銀河系には、太陽みたいな星が2000億個あると言われているんですが、その銀河系の中に巨大ブラックホールはたった1個しかないんです」
●なぜ、たった1個しかないんですか?
「それは僕らも知りたいんですけど、まだわからないんです。巨大ブラックホールは太陽の重さの約400万倍という、とんでもない重さなんですが、それが1個だけ銀河系の真ん中にあるんです。なので、巨大ブラックホールは、銀河系の中で非常に特別な地位を持っている天体なんですね。場所も、重さも、個数も特別なんです」
●巨大ブラックホールはいつ頃発見されたんですか?
「巨大ブラックホールが“本当に存在しているだろう”と思われるようになったのは、1960年代ぐらいですね。宇宙の果てに、太陽の1兆倍もしくは2兆倍もの明るさの、とんでもない天体が1960年代ぐらいから見つかり始めて、“なんでそんなに明るい星がいるんだ!?”という疑問が出てきたんですね。そして“その正体は巨大ブラックホールであろう”と言われるようになったんです。なので、そう思われるようになってから今日まで、約50年が経ちますね」
●巨大ブラックホールはものすごく明るいんですね。
「そうなんです。これがまた不思議な話で、先ほどブラックホールは真っ暗だと話しましたが、実はそれが宇宙で一番明るい天体になっているんですね。何だかおかしいですよね(笑)」
●それは不思議ですね! なんでそんなに明るいんですか?
「巨大ブラックホールはとにかく重力が強いので、周りにある物質がいろいろなものを落としていくんですね。周りにあるガスがどんどんブラックホールに引きつけられていき、ぐるぐると渦巻き状に回りながら“ガス円盤”を形成していくんですね。そのガスが、ものすごい明るさで輝いているんですよ。というのも、ブラックホールの周りにあるガスは、ほとんど光の速さで回っているので、温度がものすごく高くなるからなんです。なので、太陽の1兆倍もしくは2兆倍の明るさであることが説明できるんです」
●太陽が一番明るいんだと思ってました。
「人間の感覚からすると、太陽も十分明るいんですけどね(笑)」
●“ブラックホール”と一言で言っても、巨大ブラックホールとその他のブラックホールでは、だいぶ性質が違うんですね。
「そうですね。決定的に違う点は、先ほど言ったように、普通のブラックホールは星が燃え尽きた結果、できる天体なんですね。つまり、どうやってできるのかがわかっているんです。しかし、巨大ブラックホールがどうやってできたのか、なぜ銀河系の真ん中にあるのかはわからないんです。おそらく巨大ブラックホールは、僕らが住んでいる天の川銀河系などの、銀河系の形成や進化に何かしらの関係を持っているのではないかと考えられます。しかし例えば、巨大ブラックホールがあったから銀河系ができたのか、あるいは銀河系があったから巨大ブラックホールができたのか、それがどちらなのかもわからないんです」
●まだまだ巨大ブラックホールは、謎だらけなんですね!
※では実際に、本間先生が巨大ブラックホールをどのように研究しているのか、うかがっていきましょう。
「僕らがやろうとしていることは単純明快で、“巨大ブラックホールは本当にあるのか”という問いに答えたいんです。もちろん、今までいろんな観測を積み上げてきた結果、ブラックホールがあるのはほぼ間違いないです。みんな、そのことについては疑っていません。しかし、そこに何かすごく重たい、ブラックホールっぽい天体があっても、それが本当にブラックホールであるかどうかを確認した人はいないんですね。これを確認するためには、それが黒い天体であるということを写真に収めればいいんです。
具体的には、ブラックホール自体は黒いので見えないんですが、その周りを回っているガスを観測すると、ドーナツみたいに周りが光って、真ん中が黒く抜けているような写真が撮れるであろうということが想像できますよね。それを1枚でも撮ることができれば、“これは間違いなくブラックホールだ”ということが確認できるわけです。
これをやろうと思い、世界中の研究者100人以上が協力して、地球規模の、非常に大きな電波望遠鏡を作る、“EHTプロジェクト”というプロジェクトをやっています。これはまさに、ブラックホールを見るための国際プロジェクトです」
●どうやって写真を撮るんでしょうか?
「1枚撮るだけでも非常に難しいんですよね。なぜ難しいかというと、そもそもブラックホールは見た目がすごく小さいんです。巨大ブラックホールは黒い穴として見えるわけですが、どれくらいの大きさで見えるか想像がつきますか?」
●ピンポン球くらいの大きさでしょうか?
「いえいえ、ピンポン球だとしたら肉眼でも見えますので、違いますね。簡単に言いますと、宇宙飛行士が月に行って、月の上に一円玉を置いて地球に帰ってくる。そして、地球からその一円玉を見ることを想像してください。だいたいその大きさが、僕らが見ようとしている巨大ブラックホールの大きさになります」
●そんなの絶対見えないじゃないですか(笑)!
「ほとんど不可能だと思うんですけど、それがもうすぐ実現するというのが、僕らが今やっている非常に面白いプロジェクトになります」
●いつごろ実現するんですか?
「実はすでに観測は終わっているんです」
●えっ!? そうなんですか!
「今年の4月に観測を行なったんですが、現在、そのデータの処理を行なっていて、現在はそれを待っている状態です。かなりいいデータが取れているということは確認できているので、うまくいけば来年の初めぐらいには“穴が見えた!”と言えるかもしれないです」
●とてもドキドキしますね!
「はい、非常に楽しみですね!」
※ブラックホールを写真に収めることができたら、今後どんなことがわかってくるのでしょうか?
「まず、本当に黒い穴が見えれば、巨大ブラックホールが存在するという“究極の証拠”が得られたことになりますよね。それはもちろん、天文学的に素晴らしい成果だと思うんですが、それ以外にも、ブラックホールの周りにあるいろんなものがわかってきます。
例えばガスの円盤がどれくらいの温度で、どれくらいの速度で回っているのか、などです。また、実はブラックホールから“ジェット”というものが出てくるんですね。水鉄砲から水がピュッと噴き出してくるように、ブラックホールに落ちきれなかったガスが外に向かって飛んでくるんです。それがまた、光の速さの99パーセントという、とんでもない速さで飛んでくるんですが、なぜそのように細く飛んでくるのかというのは、よくわかっていないんです。しかしそれが、ブラックホールのすぐ近くから出てきているのは間違いないので、ブラックホールの写真を撮ることができれば、なぜそのようなことが起こっているのかということも、解明されるのではないかと思います」
●ブラックホールに関するいろいろな謎が、その写真でわかるかもしれないんですね。実は私、本間先生の本ですごく気になるものを見つけたのですが、“ブラックホール発電所”とは一体、どういったものなんでしょうか?
また、“ブラックホールのエネルギーを使って、発電所ができるかもしれない”と書かれていましたが、例えば今後、ブラックホールの研究が進むと“未来型の発電所”を作るヒントになるんでしょうか?
「そうなる可能性はあると思います。今はまだ夢のまた夢ですが、ブラックホール発電所が何をするところかというと、とにかくブラックホールにものを落とすんですね。ものを落とすと、それは落ちながら熱を発するので、そのエネルギーを発電に使えばいいということですね。
ブラックホールはすごく単純なので、燃料はなんでもいいんです。火力発電所なら石油を使わないといけないですし、原子力発電所なら放射性物質を使わないといけない、というように、何を燃料に使うかが決まっています。しかしブラックホールの場合は、何かしら物質を落とせば熱エネルギーを出してくれるので、そこがブラックホール発電所の魅力的なところですね。ゴミであろうとエネルギーに変えてくれるので、環境問題も解決するという、夢のような発電所だと思います。
このような考えかたは、僕らがエネルギーをどう取り出すかということのヒントを与えてくれているかもしれないですね。ただ、ブラックホール発電所はものすごく危ないので(笑)、どうコントロールするかが非常に難しいところだと思います。もし誰かがブラックホールを作ってしまって、それに地球がすべて飲み込まれてしまったら一巻の終わりですから、気をつけないといけないですね」
●リスクが高いですね(笑)。でも、SF映画の影響で、今までなんとなく“ブラックホールは不気味で怖い”というイメージが私にはあったんですが、本間先生のお話をうかがっていくなかで、ブラックホールを知ることで、すごく未来が広がっていくような感じがしました。
「ブラックホールというのは、重力がすごく強く、エネルギーもすごく出す、ものすごく極端な天体なんですね。このような、宇宙の中で一番極端なものを解明することで、物理や宇宙に対する僕らの理解が深まるんだと思います。それを研究することで得られる知見は、何かの役に立つのではないかと思っています」
●では最後に、本間先生にとってブラックホールとはどんな存在なのか、教えてください。
「ブラックホールは、宇宙で一番魅力的な天体ですね。本当に謎に溢れていて、不思議な性質に満ち溢れていて、いろんな好奇心や想像力を掻き立ててくれる、素晴らしい天体だと思います」
巨大「ブラック」ホールが、実はとんでもなく明るいとは驚きでした。しかも、もの凄い重力とエネルギーを持っている究極の天体。そんなお話をうかがってしまったら、これからブラックホールのことが気になって仕方がありません。もうすぐ七夕。天の川と一緒にブラックホールも感じてみようと思います。
講談社/税込価格1,080円
巨大ブラックホールのことをもっと知りたいと思ったかた、必見です! 第1章で普通のブラックホールについて解説、第2章から巨大ブラックホールの話になっています。とてもわかりやすい構成です。詳しくは講談社BOOK倶楽部のオフィシャル・サイト内詳細ページをご覧ください。
そのほか、本間さんの活動や研究については、オフィシャル・サイトをご覧ください。