今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、厚木市郷土資料館の学芸員・槐 真史(えんじゅ・まさし)さんです。
槐さんは、学芸員としてのお仕事のかたわら、地域の自然史に関する調査研究や地域の生物多様性の保全にも取り組んでらっしゃいます。また、子どもたち向けの自然観察会の先生としても大人気だそうです。
そんな槐さんが先ごろ、文一総合出版から『バッタハンドブック』を出されました。このハンドブック、持ち運びやすいポケットサイズで、使いやすくて評判なんです! 今回は、そんな槐さんにバッタの知られざる生態などを、たっぷりうかがいます。
※みなさんは、バッタの鳴き声って聴いたことがありますか? セミやコオロギ、スズムシなど、昆虫には鳴く種類もたくさんいますが、バッタはどうなんでしょうか?
「実は、バッタも鳴くんですよ」
●そうなんですか!?
「鳴かないバッタもいるんですけど、身近に見るバッタの8割ぐらいは鳴くと思って間違いないんじゃないでしょうか」
●ええ!? バッタの鳴き声を聴いたことがないので、どんな風に鳴くのかイメージできないですね。
「例えばコオロギとかキリギリス、セミっていう昆虫は、すごく大声を出して鳴くじゃないですか。だから、“あ、鳴いてるな!”ってわかるんですけど、バッタは奥ゆかしいんですね。すごくか細く鳴くんですよ。それで、いつも鳴いているわけじゃなくて、メスが近くにいたりとか、同じ種類同士で何かを伝えたい時といったシチュエーションで鳴くので、ずっと見ていないとなかなか鳴く時に出会えないんです。だから皆さんは、“バッタは鳴かない、無口な生き物だ”と思っているのかもしれないですね。
大体のバッタは後ろ足と羽根をこすって鳴くんですけど、中には歯ぎしりのように鳴いたり、蹴り上げるようにして音を出して鳴くという記録もあったりするので、鳴き方ひとつにしてみても、多様な鳴き方がありますね」
●私たちが知っているバッタだと、例えばトノサマバッタはどんなふうに鳴くんですか?
「僕は“ジッジッジッジッ”というふうに聴こえるんですけれど、すごくか細いですね」
●鳴き声がもしあったら、ぜひ聴きたいですね!
「実は僕もずっとそう思っていて、いろんな図鑑に“バッタは鳴くよ”って書いてあるんだけど、キリギリスとかコオロギはよく録音されたものが出ているんですが、バッタってないんですよ。“だったら、自分で録音するかな”と思って、(バッタの鳴き声を)まとめてあります!」
●そうなんですか!? じゃあ、ぜひ聴かせていただいてもいいですか?
「いいですよ!」
※実際にトノサマバッタの鳴き声を聴いてみました!
●どこかで聴いたことがあるような、別の昆虫と鳴き声が似ているような気もしました。
「これは皆さんが聴き取りやすい音量で録音しているので、実際は本当にちっちゃい音ですよ」
●そうなんですね。そんな小さなバッタの鳴き声を聴けたと思うと、ちょっと感動しますね!
「他にもいろんなバッタの鳴き声を録音しましたよ」
●では、もしオススメの鳴き声があれば聴かせていただきたいんですが、何かありますか?
「図鑑にも“可愛い声で鳴く”って紹介されていたりするんですけれど、その鳴き方が書いてないんで、“どんなもんだろう?”と思って、やっぱりそれも録りに行ったんですよ。3日間かかったかなぁ。そして、やっと録れました! その鳴き声が、これです!」
※実際にその鳴き声を聴いてみました!
●本当だ! 先ほどのトノサマバッタに比べて、鈴が鳴ったような、すごく綺麗で可愛らしい鳴き声ですね! これは、何ていう名前のバッタですか?
「これは“マダラバッタ”という、皆さんの小指の半分くらいの大きさのバッタですね。このバッタには男の子と女の子がいるんですけど、男の子しか鳴かないですね」
●女性へのアプローチ的な意味で鳴くんでしょうか?
「野外で観ていると、やはり鳴く時っていうのは、メスが近くにいたりしますね。でもね、中にはオス同士で鳴くこともあるんですよ!」
●ええ!?
「いやぁ~、バッタもいろいろだなと思いました(笑)」
※バッタといえば、高くジャンプするイメージがありますが、やっぱりバッタはよく飛ぶ生き物なんでしょうか?
「多分バッタっていうのは、“できれば飛びたくない”と思っている昆虫なんですね」
●そうなんですか!?
「だって、お腹すくじゃないですか。飛ぶと疲れますしね。だからずーっとバッタを観ていると、あれだけ大きな足を持っているにも関わらず、テケテケ歩いているんですよ(笑)。それで、長澤さんみたいな人が不用意に近づくと、ビヨ~んって飛ぶんですよ」
●いざっていう時のために、体力を蓄えているんですね!
「ところが、あれだけ勢いよく飛ぶのに、飛ぶのは下手なんですよ(笑)」
●(笑)。
「自分がどこに向かって飛ぶのか、といった“方向転換”については、あまり上手くなさそうですね。それと着地した時、“ビタッ”って止まらないです。でんぐり返しで“ぐるんぐるん”といった感じです(笑)」
●結構残念な感じなんですね(笑)。
「“9点!”“9点!”“9点!”“3点”といった感じですね」
●それだとオリンピックには出られなさそうですね(笑)。
「着地に失敗すると、点数は低くなっちゃいますからね(笑)」
●バッタって飛んでいるイメージがあるので、ジャンプが上手な生き物かなと思ったんですが、そうでもないんですね。
「飛んでる写真とか絵を見ると、かっこいいですよね。でも、意外とクモの巣に引っかかったりするんですよね。“あら~、行った先にクモ~!”みたいな感じで、よくぐるぐる巻きになって“チーン”となってますね(笑)」
●そういう話を聞くと、なんだか親近感がわく気がします(笑)。
「バッタって飼っていると、実はいろいろな仕草をしてくれて、例えば顔を拭いたり、自分のフンをでっかい後ろ足で蹴り上げるんですよ。フンを自分から遠ざけようとするんですね。結構、綺麗好きなのかもしれませんね。そういうところも観ていると、“バッタってすごく、人間っぽいなぁ”って思うんですよね」
●なんだか、情が湧いちゃいそうですね。
「そうですね。それで、バッタを捕まえたら、僕はこれを見ないと損するなと思っているんですよ」
※槐さんは、持参されたバッタをタッパーから一匹取り出しました。
●これは何というバッタですか?
「これは“クルマバッタ”というバッタです。でも、どう見たってクルマバッタという名前がついた理由は、わからないでしょ?」
●わからないです。どの辺がクルマなんですか?
「しょうがないなぁ、教えてあげよう(笑)!」
●教えてください!
※槐さんはクルマバッタの羽を広げて見せてくださいました。
●あれ? すごく綺麗ですね! なんだか蝶々の羽みたいです!
「そうそう! それも、羽の先端は透き通ってるんだけども、さらに先端は黒いレース模様になっているでしょ。そして、内側が真っ黄色ですね。この黄色い部分と透明な部分を仕切るように、黒い輪っか模様がありますよね。この輪っかが車のタイヤみたいなので“クルマバッタ”っていう名前がついたんじゃないかなと思うんですね」
●なるほど!
「実はどの種類のバッタも、後ろ羽は前羽の中に隠しているんですよ。なので、飛ぶときにしか見えないんだけども、バッタの後ろ羽にはいろんな模様があることを知っていないと、バッタが飛んだ時に“あ、飛んでる”としか思わず、どんなバッタなのかは見過ごしちゃうんですね。でも、バッタの後ろ羽が綺麗だということを知っていれば、飛んでいるところを見れば、どんなバッタかがわかりますよ!
このクルマバッタの羽についても知っていると、飛ぶと黄色いところと黒いところが見えるので、わかりますね。もしバッタを捕まえたら、前羽を少し上げて、後ろ羽を丁寧に広げると、いろんな模様や色合いが見られると思います。
あと、せっかく捕まえたんだったら、“手の感覚”でバッタを知ってもらいたいな、と思ってるんですね。バッタはすごく日当たりのいいところにいるので、捕まえてまずびっくりするのは、“熱っ!”って感じることですね」
●ホカホカになっているんですね(笑)。
「レンジでチンした感じになってるんですよ(笑)。また、バッタって体の皮が薄いから、“ドクッ、ドクッ”っていう体の鼓動が、指を通して熱さとともに伝わってくるんですよね。“こんなにちっちゃな昆虫だけど、生きているんだな”ということをすごく感じますね。これはやっぱり、子どもにとってすごく大事な経験だと思いますね。“人間以外にもちゃんと生きている、ちっちゃな生き物がいるんだ”ということを知るのは、すごく大事だと思います」
※では実際に私、長澤も、槐さんが連れてきてくれたバッタに触らせてもらうことにしました!
●よろしければ、私もどの子か触ってみたいんですが、私が触っても大丈夫そうな子っていますか?
「そうだなぁ、この子は飼っていても、割とおっとりしているから大丈夫かなぁ」
●やっぱり個体差はあるんですね(笑)。活発な子もいたり・・・。
「そう、だから、この子は長澤さんほど(活発)ではないっていうことですよ」
一同「(笑)」
●今、外に出してもらったんですけど、顔を洗っている姿が見られましたね!
「触ってみてください」
●どこを持てばいいですかね?
「後ろ足が取れやすいので、前足と中足の間くらいを持つといいですね」
●あ、飛んじゃった!
「大丈夫、大丈夫。このバッタはとんでも30センチぐらいしか飛ばないから(笑)」
●そうなんですね(笑)!
※実際に触ってみます。
●バッタは久しぶりに触りますね。あ、後ろ足が! 赤い色で、オシャレしてますね!
「その子のオシャレは、実はもうひとつあるんですよ。触角の先、どう?」
●白くなってる!
「でしょ! 可愛いよね!」
●可愛い! このバッタは何ていうんですか?
「このバッタは、実はこの辺にはいないんですよ。“オキナワモリバッタ”という、沖縄の本島にしかいないバッタです。こっちで飼っていても、沖縄に行ったり北海道に行ったりする時に、一緒に連れて行かないと死んじゃうので、この子は何回飛行機に乗ったことか(笑)」
●いつも一緒にいるんですね!
「もちろんですよ! なので、空港の保安検査所で“これは何ですか?”と聞かれて、“バッタです。危険ではありません”っていつも言うんですよ(笑)」
●検査は通るんですか?
「通りますよ。もう何回も検査所を通っているので、この頃は“またですか”と言われたりしています」
●(笑)。実際にバッタを持ってみましたが、確かにドクドクとした感触、そして持っても意外とおとなしいですね。
「それは外気温との関係が結構あって、気温が熱いと元気ですね。今はスタジオにいて室温が下がっているので、ちょっと緩慢になっているという部分もあるんだと思います」
●そうなんですね。でもこうして実際に持ってみると、“生きている”という感触がしますね。あと、顔を正面から見てみると、バッタってめちゃめちゃ可愛いですね!
「そうなんですよ。某戦隊ヒーローなど、いろいろなモデルにもなっていますよね」
●そのモデルになる理由がわかるというか、すごく目がクリクリっとしていて可愛いです!
「そういう意味でいうと、人気のある昆虫の王者、カブトムシと比べてみても、バッタの方が愛嬌はあるし、持った時の硬さもないので、やっぱりバッタは、子どもが虫と触れ合う最初の生き物なんじゃないかと思うんですよね」
※それでは槐さんに、バッタの上手な捕まえ方を聞いてみましょう!
「家内には、“あなたは殺気立っているからダメなのよ”と言われますね。“あいつが欲しい! とか思って、虫取り網を持って行くでしょ?”まさにそうなんですよね。なので、なるべく自分の邪心を払って、そーっと近づいて網をかぶせるのが、一番の極意なんじゃないでしょうかね」
●お目当のバッタを捕まえるために、何日も通ったり、ずっと草むらの中に潜んでいたりしたことはあるんですか?
「実は僕、20年間探していたバッタがいて、つい最近発見されたんですけど、それは僕が発見したんじゃないんですよ」
●そうなんですか!?
「ちょー悔しい!」
●(笑)。何ていうバッタですか?
「“アカハネバッタ”という茶色いバッタで、トノサマバッタぐらいの大きさなんですが、後ろ羽が真っ赤ですごく綺麗なバッタなんですよ。どうも松林などにいるらしいんですが、かつて松林をマツクイムシから守るために、薬剤散布などをした時があったり、松枯れとか、いろいろな原因があって、アカハネバッタがいなくなったんですね。
戦前には高尾山にもたくさんいたぐらいのバッタだから、割と日本全国にいたはずなんですけど、僕が物心をついたぐらい、約40年から50年ぐらい前には、まったく姿形も見えず、絶滅したと考えられていたんですね。そこで、“僕が大人になったら、絶対に見つけてやるんだ!”“このバッタを日本で見つける!”という意気込みで20年間探していたんですけれど、先を越されました。もう絶対話したくないです!」
一同「(笑)」
「それは冗談としても、“生き残ってくれてよかったなぁ”とすごくホッとしましたね。2箇所で見つかっています。バッタは9月から10月ぐらいがちょうど成虫期なんですよね。成虫期に探した方が発見率が高いので、その時期に全国各地を回ったんです。でも、いないんですよね。実は、アカハネバッタはどうも6月ぐらいに成虫が一番いるらしいんですよ」
●アカハネバッタは他のバッタよりも成虫期が早かったんですね。
「残念ですね!」
一同「(笑)」
「その時期に探していたら、もしかしたらいる場所もあったのかもしれませんね。でも、生き物を探すっていうのは、そういうことなのかなと思いました。勉強になりました」
●本日はたくさんバッタのことをお聞きしましたが、やはり夏休みなので、これから子どもが虫と触れ合う機会も多くなると思います。子どもや、お子さんのいるリスナーの方にアドバイスなどあれば教えていただけないでしょうか?
「おそらく、保護者の皆さんがお子さんにいろいろな体験をさせたい、と思うのが夏休みだと思うんですね。その中のひとつに“生き物と触れ合う”ということも入っているんだと思うんですが、例えば買ってきたカブトムシに触るとか、そういった体験は、お金で済ませてしまって、自分の体を動かさないわけじゃないですか。それよりはやっぱり、実際に自分の体を動かして捕って、そうして捕まえた生き物を飼ってみる方が人間的だし、すごく子どもの成長にとってもいいと思うんですよね。
“都心だからいないや”と思わないで、木や草が生えている公園に行ってみてください。セミが鳴いていると思いますが、草がちょっと生えていればバッタも何種類かはいるはずなんです。そういうところに虫取り網を持って実際に捕ってみて、触れてみる。そういう一連の体験をすることが、僕は子どもの育ちにとっていいんだと思います」
●ぜひ夏休みなので、槐さんの『バッタハンドブック』を持って、バッタを探しに行ってみると、楽しい夏休みになりそうですね!
「ぜひ、そうしてください!」
身近な昆虫、バッタ。でも、意外と知らないことが多くて、今回新たな魅力をたくさん知ることができました。「生きている鼓動」を感じに、この夏、久しぶりにバッタを探しに行ってみようかなと思います。
文一総合出版/税込価格1,944円
本州から九州にかけて、よく見られるバッタの形や生態を深く掘り下げて紹介。羽の模様までよくわかる写真も掲載。幼虫の成長段階の写真もたくさん載っていて、まさに、バッタ観察の決定版ともいえるハンドブックです! バッタの鳴き声も聴けちゃいますよ!
『バッタハンドブック』について、詳しくは文一総合出版のオフィシャルサイトをご覧ください。