2017年9月2日

“地球”を撮り続ける写真家の秘めた想い

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、自然写真家の高砂淳二(たかさご・じゅんじ)さんです。

 高砂さんは1962年、宮城県石巻市生まれ。ダイビング雑誌の専属カメラマンを経て、1989年からフリーランスの写真家として、海から陸上の生きもの、自然景観まで、地球全体をフィールドに撮影活動を続けてらっしゃいます。これまでにも『free』『life』『night rainbow』など、数々の写真集を出され、老若男女にとても人気のある写真家です。
 そんな高砂さんが先ごろ、『LIGHT on LIFE』という写真集を発表されました。そこで今回は、写真集に込めた想いや、ここでしか聴けない撮影の裏話などをお届けします!

被写体は“地球”!

※まずは、高砂さんがどうやって生き物たちの写真を撮るのかをうかがっていきます。

「なるべく被写体の目を見て、気持ちをなるべく汲むようにして撮るんです。だから、“あ、ちょっと嫌がってるな”と思ったら、こちらが一歩下がって様子を見て、落ち着いてきたらまた少し寄ってみるとか。楽しんでいるようだったら、好奇心を引き出して、一緒になって楽しみつつ撮るとか。そんな感じで、なんていうか…自分が培ってきた感覚で撮る、というのが基本ですね。あと、出会いですね」

●それって、小さな昆虫でも大きなホッキョクグマでも変わらないものなんですか?

「そうですね。ただ、向こうが持っているものは、やっぱりそれぞれ違うので、例えば哺乳類だったら好奇心があって、警戒心があって。種類によっても、好奇心が強いものもいれば、警戒心の方が勝っているものもいるんですよ。ですから、それを観ながらこっちの距離感とコミュニケーションの仕方を考えるわけです。
 あと、昆虫とか魚とかだと、好奇心というよりは、自分の身を守ることや食べることを考えたり、交尾をすることなんかを中心に生きていますから、好奇心を引き出すというよりは、いかに怖がらせないように、生き物の良さを引き出すようにして、“どこから見たら、どんなシーンがいかにもそれっぽいかな”とか、そんなことを考えながら撮るんですね」

●なるほど! 共通の部分もあるし、それぞれ違う部分もあるんですね。

「そうですね。被写体に応じてこっちのやり方も変えながらやっています」

●海の中から山の上までと、フィールドも幅広いですよね。

「もともとは海の中から始まったんですよね、30年前に。それで、だんだん丘に上がってきて、空を撮ったり星空を撮ったりするようになったんですね。ですけど、だんだんと撮っていくうちに、“地球”っていうのを意識しだして、それで“地球を撮る”っていう目で見るようになったんですね。そうして見ると、“海の中の地球を撮るから、潜ろう”とか、“山のほうの地球を撮るから、山に登ろう”とか、星空は地球自体じゃないですけど、地球から見える風景として、“星空を撮るから上を向こう”とか。そんな感じでやるので、僕の中では特に違和感もなく繋がっている感じですね」

●すごく今、腑に落ちました。高砂さんの被写体は、“地球”だったんですね!

「そうなんですね。地球なんです。ですので、去年は『Dear Earth』っていう、地球の風景だけを集めた本を出しましたけども、やっぱり地球の姿としては、いろんな生き物がそこに住んでいて、人もその中に含まれますけど、それらと地球とがハーモニーを作って、ひとつの生命体になるわけですよね。ですから今回、生き物編をやれば、地球の全容にちょっと近づくかなと思ったんです」

アザラシの動物時間

※さあ、それでは高砂さんに、最新の写真集『LIGHT on LIFE』から、作品のご紹介をしていただきましょう。まずは、私も見てなんだか思わずクスッと笑ってしまった表紙の一枚。カモメの仲間アジサシとカニが写っているんですが、一体どこで撮ったものなんでしょうか。

「これはセーシャルで撮ったんですよ。最初は、本当に綺麗なブルーの海をバックに、砂浜にアジサシが立っていたので、それを撮っていたんですね。望遠レンズで、砂浜に腹ばいになって撮っていたら、フレームの中に急にカニが入ってきたんですね(笑)。“あれぇ? カニだ!”と思って観ていたら、ドンドコドンドコとアジサシに近づいていって、それから一旦パッと止まって、アジサシとカニの目と目が合ったんですよ。お互いに、食べるとか怖いとか、そういうんじゃなくて、“あれ、ヤバい?”みたいに(笑)、なんかちょっと気まずい感じで止まってて、それを何回か繰り返して、また歩いてはまた目が合い、という感じだったんですよね。それを僕はおもしろがって、笑い転げながら撮っていました(笑)」

●(笑)。高砂さんが楽しんでいる感じが写真からすごく伝わってきますね! 私も見てて“なんだろう、この微妙な空気感”というか、アジサシとカニが見つめ合ってるんだけど、ちょっと気まずい感じがしますね(笑)。
 私がちょっと気になった一枚があるんですけど、ペンギンの大群が写っている写真なんですが、景色は、夜でなんと満天の星空、天の川銀河が写っているんですよね! その下にたくさんのペンギンが、まるで夜空を見上げているような、そんな一枚なんですけれど、これはどんな風に撮ったんですか?

「これを撮ったのは、南米のずっと先っちょの、東側に浮かぶフォークランド諸島というところなんですけど、ペンギンの数がものすごいんですよ、ここ! 昼間は海のほうに行って泳いだり、魚を獲ったりして過ごすんですね。そして夜になると、少し内陸のほうに上がっていって、コロニーでみんなで寝るんですよね。そこにぼくが夜、ちょっとお邪魔して撮ったんです。
 こういった場所なんで、天気が悪い時も多いんですが、この時は満天の星になって、しかも大マゼランや小マゼランも空に浮かんで、その場所に天の川銀河の一番濃いところが、ドーンとペンギンたちの上に来た瞬間だったので、“うわぁ!”と思ったんです。ちょうど月が出始めたころだったかなぁ。
 半分ぐらいのペンギンが寝ていて動かなくて、もう半分はごそごそと動いていて、長時間露光で撮っているので、動いている様子が少し写っているんですけど、寝ているペンギンはそのままピタッと止まって、ぐうぐう寝てる感じですね。一晩撮ってましたけど、ペンギンと一緒に地球号に乗っかって、宇宙を巡っている感じがすごくしました(笑)」

●人間もペンギンも、同じ空の下にいるんですよね。

「本当、そうですよね。こういうのが、いたるところにあるんですよ。例えば、僕らは街の中に住んでいても、夜は飲みに行ったり、家の中にいたりするので、どんな感じで自然が夜を迎えるのかが、あまりわからないじゃないですか。だから、こういうところに行って撮影をしていると、“ペンギンって、夜はこうやって過ごしているんだなぁ”と思ったりしますね。
 あとカナダに、白いアザラシの赤ちゃんがいるところがあるんですよ。流氷の上にお母さんたちが来て、そこで子どもを産んで、その子どもたちが真っ白なアザラシなんですね。その上に一回、ヘリコプターで降りて、流氷の上で一晩明かしたことがあって、その時にアザラシたちの横で、僕も横になってしばらくいたんですね。周りの赤ちゃんたちがギャーギャー泣いているんですけど、その声を聞きながら空を見た時に“アザラシの動物時間だなぁ”と思って、“こうやって星を見ながら一晩、こんな気持ちで過ごしているんだなぁ”と、まったく人とは別の感覚なんだけれど、同じ時間を過ごしているという、不思議な感じがしましたね」

●“動物時間”というのがすごく気になるんですが、やっぱり人間時間よりもちょっとスローな感じなんですかね?

「うーん、なんだろう…。人間は“8時間”なら8時間のあいだ、びっちり寝るじゃないですか。だけど他の生き物は、危険な時もあって、昼間もちょこちょこ寝たり、夜もちょこちょこ寝たり起きたり、鳴いたりしているんで、感覚としては結構長いんじゃないかな。人間の場合は、夜に寝て、気付くともう朝っていう感じでしょ。だけど、彼らにとっては危険もずっとあるし、明るい時と暗い時、両方が半々ぐらいあると思っているんじゃないかな、という感じがしました」

●そんな別の時間を過ごしている生き物も、同じ地球で一緒に暮らしているんですよね。

「そうなんですよね。今、この時もどこか裏側ではそういう時間を過ごしているんですよね」

地球の自転を肌で感じる

※高砂さんが昨年発表した写真集『Dear Earth』の中にも収められているアイスランド。北大西洋に浮かぶ小さな島国で、ヨーロッパとアメリカ大陸の間にあり、島の大きさは、北海道と四国をあわせた程の面積。“氷と火の国”と呼ばれるアイスランドの大きな特徴は、氷河と火山。そして、アイスランドは人口密度が非常に低く、手付かずの自然も多く残っているそうです。
 そんな美しいアイスランドの自然について、高砂さんに聞いてみました。

「“アイスランド”とは言いますけれど、冬は本当に雪と氷に覆われた感じなんですが、それ以外の時期は割と大地がむき出しで、火山の黒っぽい岩がボーンとある感じで、荒涼とした大地なんですね。地形的には、とんがった山というよりは、台のような、平べったい山があちこちにあって、結構いつも雲に覆われていて、雲の中ではいつも雨が降っているんです。その雨があちこちで滝になって流れていて、それがなんとも、ワイルドで綺麗なんですね。その滝の何箇所かは、人が行って見られるところがあって、大きな滝とか繊細な滝があったり、滝の裏側に回れたりもできて、もう絶景続きですね。グルグルと車で一周しながら撮りましたけれど、なかなか進まない(笑)」

●撮りたいところがいっぱいあったんですね(笑)。

「“地球を撮ってる”って感じがしますね」

●どのあたりが一番、“地球”っぽいですか?

「上から雨が降っていて、それが地球に降りて来て、それがどんどん流れて海に入っていく。その一連を、割と間近に見られるんですよ。だから、地球っていうのがあって、その上に雲がある、ということをすごく想像しやすいんですね。あと、地球の“地肌”を見ている感じというか、要するに真っ黒で、“このまま掘っていったら、ずっとこの溶岩が続いて、だんだん熱いところに行くんだろうな”ということが想像できるような、地肌に乗っかっている感じがすごくありますね」

●“地球の地肌”かぁ。確かに、都会にいるとなかなか“地肌感”ってないですよね。

「あと、おもしろいのは、アイスランドという名前だけあって、結構大きな氷河があるんですね。氷河っていうのは、昔に山に雪が降って、またその上にさらに雪や雨が降って潰れて、少しずつ山と山の間を降りてくるんですね。それが川みたいだから“氷河”という名前なんですが、それが実際に、上から海のあたりまで降りてくるのが、だいたい一千年ぐらいかかるんです。僕はそれを結構撮影したんですね。氷河の下に潜ったり、海に出て行って、ぷかぷかしている氷河を撮ったり。また、その氷河が陸地に上陸して、少しずつ溶けていっている、綺麗な氷とかをいっぱい撮りました。“一千年前の氷なんだなぁ”と思うと、それだけでも感動するんですよね。
 またそこには、いつ発せられたかわからないような星やオーロラの光がやっと届いているわけですよね。なので、時間の感覚が変わりますよね。この長い時間のうちの一瞬を自分が生きていて、たまたまこの氷と星空とオーロラに出会っているんだ、という不思議な感覚を味わいます。だから、地球も感じるけれど、“宇宙の中の地球”も感じましたね」

●時間スケールが“宇宙”なんですね。

「昼も夜も撮影するから、特に夜ずっと撮影すると、夕方にだんだん太陽が沈んで、少しずつ暗くなって、星が見えて、次第に今度は反対側が明るくなってくると、“ぐるぐる回っているんだな”という感じもすごくしました」

●はぁ…すごいですね、地球って!

「そうそう、おもしろいですよ! 当たり前のことですけどね。自転しているということは、とっくに習っているけど、実際にそういうのを肌で感じるのは、おもしろいですね」

人間は生き物の“長男”

※アイスランドで撮った高砂さんの写真で、本当に息をのむような美しい1枚の写真がありました。360度幻想的な青色に包まれた一枚なんですが、この写真は一体どうやって撮ったものなんでしょうか。

「あれは、アイスランドの氷河の下に入った時の写真なんですよ。氷河って言っても、夏場なんかはちょっとずつ溶けて、溶けた水は氷の下にどんどん降りてくるんですね。それが氷の下を流れて、だんだん下にちょっとした空間ができてきて、場所によっては人が入れるくらいの大きさの洞窟になってくるんです。
 そこに入って撮ったんですけど、海の中を考えるとわかるんですが、海の中は水に覆われていて、太陽の光は最初、7色あるんですけど、水の中を通れば通るほど暖色からだんだん色が奪われていって、最後はブルーだけになるんですね。なので、海の中はブルーなんですけど、氷もやっぱり水なんで、そういう洞窟に入ると氷の一番上に太陽が当たって、その氷の中を光が通ってきているので、自分の手や服もぜんぶブルーになって見えるんですよ。本当に神秘的で、海に潜っている感じとちょっと似てましたね」

●私、ダイビングをやるので、そこは是非行ってみたいなぁ。海に潜らずして、全身が青色に包まれるわけですよね。んん〜、すごいですね!

「しかも、その氷をよく見ると何層にも分かれていたり、場所によっては黒いつぶつぶや、気泡が入っていたりするんですね。ガイドさんに聞いたら、気泡は一千年前の空気だったり、黒いつぶつぶは、噴火した時に飛んで来たものが水の中に入って凍ったものなんです。なので、その年々に何があったのかということも、結構わかるんですね。地層みたいなものですよね」

●地層ならぬ、“氷層”が見られるんですね! そういう意味でも、興味深い場所ですね!

「是非、行ってみてください!」

●はい! 高砂さんはこれまで、本当に美しい地球、そして美しい生き物を撮っていますが、今後はどういったものを撮りたいですか?

「うーん…どうでしょうね。やってみないとわからないですけれど、一作品を作ってしばらくぼーっとすると、また次のテーマが出てくることが多いんですけれど、でも多分、地球のことを理解してもらうというか、わかってもらえるようなものを撮りたいなとは思っていますね。
 なんで地球にフォーカスするかというと、以前ハワイに行って先住民の人に教えてもらったりしたことがあって、“人間というのはいろんな生き物の‘長男'だから、みんながバランスをとって生きられるように守る役目があるんだ”というふうに言われた時に、“そうだよなぁ”と思ったんですね。
 今、僕らはイワシを食べるにしても、クジラを捕るにしても、それを“資源”と言うでしょ。でも、資源じゃないんですよね。みんな、それぞれが生きていて、ひとつひとつの生命じゃないですか。地球自体も、そういうのを育んでいる母みたいな、“いのち”のあるものですよね。だから、何も考えずにむやみに農薬を撒いたり、穴を掘ったりというのは、やっぱりよくないんじゃないかって思うんです。ひとつひとつ、そういうことを感覚として持って、付き合えるように自分もしたいし、みなさんにもそういう感覚を持ってもらえるように伝えていきたいなと思っているので、そういうふうに感じてもらえるものを撮ったり書いたりしたいと思います」

※この他の高砂淳二さんのトークもご覧下さい

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 高砂さんの写真を拝見していると、この動物なんて愛らしいんだろう。とか、この風景はなんて神々しいんだろう。とか、そんな風に感じる事が出来るんです。それは、高砂さん曰く私たちの心の奥底に自然が秘める何かに呼応する感性を持っているから。あなたの心の奥底が何を感じるのか。高砂さんの写真をみて確認してみては如何でしょう。

INFORMATION

LIGHT on LIFE

最新写真集『LIGHT on LIFE

 小学館/税込価格2,592円

 「命に光を当てる」というタイトル通り、地球に暮らすいろいろな生き物の、“命の輝き”にあふれている写真集です。

Dear Earth

写真集『Dear Earth

 パイインターナショナル/税込価格2,592円

 世界の美しい景色などを収めた一冊です。言葉では表わせない美しさをぜひ体感してください!

 そして『LIGHT on LIFE』の発売を記念して、現在ニコンサロン『新宿 THE GALLERY』で写真展が、9月4日(月)まで開催されています。ぜひ、迫力と繊細さが伝わるパネル写真をご覧ください。スライド写真とともに流れる自然音入りのBGMも素敵ですよ!

 いずれも詳しくは、高砂さんのHPをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. LIFE / DES'REE

M2. STARS / SIMPLY RED

M3. THE LONGEST TIME / BILLY JOEL

M4. STARDUST / ASGEIR

M5. HOPPIPOLLA / SIGUR ROS

M6. YOU LIGHT UP MY LIFE / LEANN RIMES

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」