今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、「都市鳥研究会」の代表、川内博(かわち・ひろし)さんです。
川内さんは1949年、佐賀県生まれ。子どものころから鳥好きで、ふるさとの野鳥を見て育ったそうです。日本大学・獣医学科卒業後、生物の先生として高校や大学で教鞭をとります。また、学生時代から「日本野鳥の会」の東京支部の幹事として活動。そして1982年に「都市鳥研究会」を設立されました。
そんな川内さんに、都会で見られるようになった鳥の秘密や驚きの生態について、たっぷりうかがいます。
※カラスやハト、スズメ以外で最近都会でよく見られるようになった鳥がいるそうなんですが、どんな鳥なのか、川内さんにうかがいます。
「“ヒヨドリ”っていう鳥は、かつては“フユドリ”と呼ばれていて、秋に街の中にやってきて、春先には飛んで行ってしまう鳥だったんです。今でも、例えば広辞苑などを見ると、そういうふうに書いてあります。けれども、その鳥がですね、一年中いる。夏にもいて、子育てをするように変わってきたんです。なぜそういうことが起こっているのかを調べていくうちに、“いや、他にもこんな鳥がいる”ということがわかってきました。特に、“カワセミ”なんていう鳥が、一旦街の中から全くいなくなったのが、また復活し始めた。それから、“コゲラ”っていうキツツキがやってきたんですね。そういうことを調べているうちに、確かに都心や東京を好む鳥たちがいるんだ、ということが確信になってきたんです」
●東京を好む鳥を、研究したり見つけることで、鳥の変化というのもわかるようになる、ということなんですね。
「そうですね。その中で特に興味深いのは、“人との距離”ですね。どういうことかというと、例えば人が近づけば、かつては鳥は逃げていたんです。例えばスズメなどは、人間を警戒して飛んで逃げていたのが、実は今では逃げなくなって、もう人間の足元まで来たってスズメは逃げないような状況になってきているんですね。いかに人とうまく過ごせるようになるか、ということが、都市鳥にとって非常に重要なことだし、そういうことができるような鳥たちが、都会に住み着いているんですね」
●では、その都市鳥なんですが、具体的にどんな鳥がいるんでしょうか?
「元祖都市鳥というか、最初の都市鳥というのはですね、ツバメとスズメなんです。ツバメは減ってはいますが、まだいると思います。ツバメは人家に巣を作って、野生動物としては非常に珍しいんですけれど、子育ての全貌を人間が見られるような形で繁殖している鳥なんです。ツバメの巣はどこにありますか?」
●玄関ですか?
「そうですね。決して家の裏のほうの、勝手口には作らないですよね。結局、人がたくさんいる、人がたくさん見ているようなところに、わざわざ巣を作って、そして“一生懸命、子どもを育てているんだよ”とアピールして、人間に“あ、可愛いな”と思わせて、うまく繁殖しているんです。
するとどうなるかというと、人がたくさんいて、いつも見ているんで、いわゆる野鳥や天敵たちが巣に近づいて来ないんです。そういう空間だということに彼らは気づいて、自分たちの可愛さをアピールして、そして繁殖に成功していったんですね。人をうまく利用しながら、人の存在を意識しながら生きているのがツバメなんです。一方、スズメっていうのも人家営巣なんです。スズメの巣って、どこにあるか知ってます?」
●見たことないです。
「ないですよね。これは、人の目のつかないようなところに巣を作っているからなんです。なぜかというと?」
●人に襲われないように、ですか?
「そうそう。人は、スズメの巣があると取っちゃうんですよ。スズメっていうのが人間にとってどういう鳥だったかというと、稲を食べる“害鳥”だったんです」
●あ〜、なるほど。
「スズメっていうのは、特に農村地帯ではずっと人から嫌われてきたわけです。ですから、人間の手の届かないような、わからないような場所、けれども人間の近くで、人間の家屋をうまく利用してきたんですね。そうやって、有史以来ずーっと人間のそばで生活していたという歴史があるんですよ」
※最近、ヒヨドリも都会に増えてきたようですが、どうやら今まで森の中にいたヒヨドリとはちょっと違うようなんです。一体どういうことなんでしょうか。
「今までのヒヨドリと、街の中にいるヒヨドリは繁殖生態がちょっと違うんです。何が違うかというと、ヒヨドリっていうのは、いわゆる“森の鳥”なんです。森林性の鳥なんですね。繁殖期には、森から外には行動圏がなく、すべて森の中で子育てをしているんです。そうであるならば、もし東京へやって来たときに、一番住みやすそうなのは、明治神宮だとか、皇居だとか、そういう所ですよね。ところが彼らが入ってきた場所は、違うんです。どちらかというと、街中のちょっとした公園の緑地だとか、マンションの植え込みとかなんです。
一番典型的な例が、マンションの6階のベランダに植えてある木に営巣した、というものです。そこを実際に見させていただいたんですけれど、居間があって、外側にベランダがあって、樹木が目隠し用に置いてあったんですね。ヒヨドリがそこに営巣すること自体がおもしろいですし、珍しいんですが、どこに巣を作ったのか。人から見えないようなところに作ると思うでしょ? ところが違うんです。人から丸見えのところに作るんです。逆に言えば、外からは見えないんですよ。ずっとその家のご主人と奥さんが見ていて、目と目が合うような近さなんですけれど、彼らは全然警戒しないんです。内側にいる人は敵じゃなくて、敵は外にいるんだ、ということなんですね。一番考えられるのは、やっぱりカラスでしょうね。カラスから逃れるために、つまり身を守り、子育てをうまくやるために人間のそばに営巣しているんです」
※また、一見、信じられないような鳥まで都会で見ることができるようになっているそうです。
「東京でいいますと、実はタカは4種類います」
●え、そんなに!?
「オオタカ、ツミ、それからハヤブサ、そしてチョウゲンボウ。こういう鳥たちが街中にいます。まあ、“ごく普通にいる”とは言いませんけれど、かつてと比べればとても増えてきましたね」
●じゃあ、もしかしたら空を見上げたらタカが舞っているということもあり得るんですか!?
「あり得ます。その気になれば、結構飛んでいる姿を見られます。かつてはそういうことはなかったですね」
●そうですよね。でも、タカなどの猛禽類は、いわゆる生態系のトップのほうにいる鳥じゃないですか。ということは、その生態系の下にいるような鳥たちが都会に増えている、ということなんですかね?
「まさにそこが問題だし、今の研究のテーマなんです。食物連鎖でいうと、猛禽類というのは頂点にいるわけですよね。猛禽類がいるということは、そこの自然環境がいいということのひとつの象徴だったんです。けれど今、例えば東京23区で、冬にオオタカが何羽いると思います?」
●え〜、何羽だろう? 私、見たことないからなぁ…
「20年前でいえば、ゼロ羽ないしは1羽です」
●じゃあ今、増えてて…うーん、20羽ぐらい?
「おお、いい線ですね! 19羽でした」
●あらっ!
「多いということがどういうことを意味するかというと、一体何を食っているんだ、ということなんです。オオタカは、カラスみたいにゴミで生活できる鳥とは違いますから、生き餌を狙うんです。ムクドリだとか、キジバトだとかですね。そうすると、それだけの量の鳥がいるということですよね。もしそれだけの鳥がいるとしたならば、仮にそういう鳥が増えたんだという話になれば、それはそれでいいんですけれど、我々は見ていて、そんなに鳥たちが増えたとは思えないんです。果たしてそれだけの数の鳥がいるのか、というのが非常に疑問なんです」
●謎は深まるばかりですね!
「ですから、このままこういう状況がずっと継続されるようであれば、今まで我々が正しいと思っていた、教わってきた生態学とは違う話になっていくんではないかと思っているんです。そのあたりに興味があります」
●じゃあ、都市鳥を観察することで、そういう新しい生態系ピラミッドも見えてくるかもしれないんですね。
「もしかすると、そういうふうに作り変えられるかもしれないですね」
※実は最近、バードウォッチャー憧れのカワセミが、東京でよく見られるようになったそうです。
「明らかに“ちょっと違うな”というのが、カワセミという鳥ですね。カワセミは見たことあります?」
●実際には見たことないんですけれど、映像だったり写真だったりで見たことはあって、すごい美しいですよね。
「ぜひ、実際に見てください! カワセミを今、東京の街中で見るのは比較的簡単なんですよ」
●そうなんですか!?
「後楽園です。小石川後楽園の池や、明治神宮の池などに行けば、8割がた見られますね」
●そんなに高確率で見られるんですか!?
「ええ。見て損のない鳥です。日本の中でいちばん綺麗な鳥ですね。この鳥が、かつては東京の街の中で繁殖もしていたんです。ところが1964年、つまり昭和39年、この年、何があったか知ってます? 第一回東京オリンピックが開かれた年なんです。実は、この年に明治神宮の池からカワセミが消えたんです。
彼らの生息場所はどこかというと、水辺なんです。小川の土手で、垂直の土手に横穴を掘って、そこで子育てをするんですね。ところがだんだん東京が都市化、コンクリート化していくと、川底も両側の土手もコンクリートになって、東京ではカワセミは住めなくなったんです。どんどん郊外のほうにしかいなくなったんですね。
ということで、かつては“東京の都心部でカワセミを見るなんていうことは、ありえないよね”と言ってたんですけども、1980年代くらいになると、“多摩川の上流でカワセミを見たよ”“カワセミ、増えてるよ”という話が出てきたんです。そして、数年のうちに東京の山手線の範囲の中でも繁殖するようになってきたんですよ。多分、かつてよりも今のほうがカワセミを見る機会は増えていると思います」
●そうなんですか!? なんでカワセミは東京に戻ってこられたんですか?
「ひとつは、農薬だとか工業廃水だとかに規制がかかって、特にはっきりしているのが、多摩川あたりの川の水が少し綺麗になったんですね。あと、どんどんカワセミがいなくなった頃は、カワセミはすごく警戒心が強くて、人間との距離がすごく離れていたんです。だから、“すごく警戒心の強い鳥だな”というイメージだったんですが、戻って来たカワセミたちは、“人間なんか、ふんっ”という感じなんですよ。実は、その間に人間のほうが変わったんですね。かつて、野鳥っていうのは人間、特に子どもたちにとっては“遊び相手”だったんですよ。ところが今、野鳥って言ったって子どもたちは見向きもしないですよね」
●そうですね。“触っちゃダメ!”って言われている子もいますしね。
「それもありますし、耳にはイヤホンをつけてるでしょ。そして、スマホの画面を見ながら歩いていますよね。もう周りに鳥たちがいたって気づかないというか、興味がないんですよ。けれど、鳥たちにとっては、それはOKなんです」
●そっかそっか。好都合だったんですね。
「そうです。図太いというよりは、“人間たちが自分たちの敵ではなくなってきている”ということなんですね。時代の違いというのが、はっきりわかりますね」
※人間との関係の変化によって、都市に戻ってきた鳥たち。でも、そこで長く暮らすにはやはり「緑」がないと難しい気がしますが、それについてはどうなのでしょうか?
「“緑がない”とよく言いますけれど、実は東京の街には結構あるんですよね。代表的なのは、皇居ですよね。それから明治神宮、赤坂御用地、小石川後楽園、小石川植物園、六義園、自然教育園など、ちょうど“緑の島”みたいな感じであるんですよ。どこも常緑樹で覆われていますので、冬でも緑の島みたいなんですね。それを私は“緑島(りょくとう)”と呼んで、東京の特徴だと言っています。大阪と比べるとすぐに、東京には緑がたくさんあるということがわかりますよ」
●東京は特徴的な緑のあり方なんですね。では最後に、都市鳥を研究されてきて、川内さんが一番感じていることを教えてください!
「街っていうのは比較的、自然環境がなくって、生物にとってはよくないと思われているようですけれども、実はじっとみていると、そんなことはありませんよ! それぞれ生き物たちは、色々と工夫しながら街の中に入り込んできているんですね。なので、ぜひ仲よくやっていきたいなというのが、私の今の気持ちです」
生息環境が良くなったことによって戻ってきたカワセミ、人間との関係の変化によってやってきたヒヨドリ、都市鳥が増えたその理由が様々なことも興味深いですよね。では、私が好きな猛禽類はなぜ都会にやってきたのか。鳥語が話せたら彼らにインタビューしてみたいものです(笑)
川内さんが設立した「都市鳥研究会」では、定期的にツバメやカラスの調査などを行なっています。サイトにはそのリポートや、都市鳥の最新情報なども載っていますよ。
そして、都市鳥研究会では随時会員を募集しています。年会費は2,500円で、会員になると会報誌やニュースなどが送られてきます。
詳しくは「都市鳥研究会」のオフィシャル・サイトをご覧ください。