今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、マンボウの研究者、澤井悦郎(さわい・えつろう)さんです。
1985年生まれの澤井さんは、幼い頃からマンボウの魅力に取り憑かれ、広島大学の特別研究員を経て、現在は国立研究開発法人の研究所の支援職員。ライフワークとして、いろいろな視点からマンボウを研究し、新種も発見している、その道のスペシャリストなんです。そして澤井さんは先ごろ、『マンボウのひみつ』という本を出されました。
そんな澤井さんに、今回はマンボウの秘密を、たっぷりとうかがいましょう!
※人気もののマンボウは、実は私たちもよく知る、ある魚の仲間なんです。一体どんな魚なんでしょうか。
「マンボウは一応、フグの仲間に入るんですよ。フグっていうのが、魚の中でもいろんな形に進化した魚で、マンボウはそのうちのひとつなんです」
●あ、フグの仲間なんだ! 確かに言われてみると、正面から見た顔が、ちょっとフグっぽいですよね。
「あ、なんかその感想は他の人からも聞いたことがある! やっぱり、そう思う方もいらっしゃるんですね」
●なんとなく、口のあたりとかが、“フグっぽいな”と思ったことはありますね。でも、マンボウの形はフグとはかなり違いますよね。
「そうですね。体の構造が単純化していって、結果、こういう形になったんですよ。だからマンボウは、普通の魚にあるヒレとかがなくなっていたりするんですね」
●私、マンボウを水族館で何回か見たことあるんですけど、マンボウは泳ぐ時、胸ビレをパタパタと動かして、どちらかというと鳥が飛んでいるような感じで泳いでいた記憶があるんですけど……合ってます?
「合ってないです」
一同「(笑)」
●あれ、私の記憶違い(笑)? 実際にはどういうふうに泳ぐんですか?
「胸ビレは補助的に使う感じで、実際は長い背ビレと、下の方にある尻ビレっていう、同じく長いヒレを使って、上と下を同じように動かして泳いでいます」
●なるほど。(テーブルの上にある、あるものを見て)これは、マンボウの干物ですか(笑)?
「干物です(笑)」
●パリッパリに乾燥したマンボウを、澤井さんに持ってきていただきました! 私、初めてマンボウの干物を見たんですけど、ちょっと触ってみてもいいですか?
「どうぞ!」
●あれっ!? イメージと全然違う! ザラザラしてる! ツルツルしてない! どっちかっていうと、サメ肌?
「あ、そうです、そうです!」
●こんな感触なんだぁ…。初めて触ったんですけど、びっくりです!
「なかなか触る機会はないと思うんで、きょうは持ってきました」
●干物になってない状態でも、こういうふうにザラザラとサメ肌みたいな感じなんですか?
「そうですね。それにプラスして、ちょっと粘液があったらヌルッとする感じですね」
●なんか、ちょっとずつマンボウのことがわかってきたような、まだ謎だらけなような、そんな感じなんですけど(笑)。マンボウが他の魚と違う点を教えていただけますか?
「マンボウは単純化した形になっているので、普通の魚は尾ビレがあるんですけど、それがなくて、歯も単純化していて、上と下に2個だけで、鳥でいうところの、オウムみたいなクチバシになってます。あと、マンボウは他の魚と違って、浮き袋がないんですよね」
●じゃあ、どうやって体を浮かせてるんですか?
「マンボウの皮はゼラチンが結構多くて、そのゼラチンが主な浮力を得ている感じですね。あとプラスして、肝臓も大きくなると、浮力を得るようになるので、そのふたつが浮き袋の代わりになってます」
●マンボウは、私たちがイメージする、あの形のマンボウ1種類だけなんですか?
「いや、今は5種類います」
●5種類もいるんだ!
「もしかしたら、まだいるかもしれないです」
●結構まだ、新種を発見できそうな状況にあるんですか?
「そうですね。種類は増える可能性があります」
●大きさはどうなんですか?
「一番大きくなるのは、ウシマンボウですね。3メートル以上になります」
●3メートル以上、ですか!
「硬骨魚類の中で一番重くなるっていうのがわかっています」
●重さは、どれくらいになるんですか?
「記録されている最高は、2.3トンです」
●2.3トン!? え〜、そんな大っきいんだ!!
「しかもそれ、記録されたのが日本なんですよ」
●そうなんですか! 日本のどこで?
「鴨川です」
●す、すぐそこじゃないですか!?
「あ、そうです。千葉ですね(笑)」
●知らなかった〜! そんな大っきいマンボウが! 鴨川に!!
※そんなマンボウは、一体どれくらい長く生きられるのでしょうか。
「20歳以上は生きるって言われているんですけど、ちゃんとした年齢を研究する方法がよくわかっていないのと、(研究を)やっている人もまだいない状況なんですね。でも、鴨川シーワールドでは、8年2ヶ月は飼育されたことがあるんですよ。だから、少なくとも8年以上は確実に生きるのはわかっていますね」
●じゃあ、魚にしては結構長生きですよね。
「そうだと思いますね。ヤリマンボウでは、年齢査定の研究が一例だけあって、100年以上生きるっていう推定がされていますね」
●ええ!? またびっくり!!
「(笑)推定なので、実際はどうなるかはわからないですけど」
●はあ〜、すごいですね! 子どもの頃から、ああいう形、いわゆる“マンボウ型”をしているんですか?
「いや、していないですね。小さい頃は、おたまじゃくしというか、魚の一般的な赤ちゃんのような形をしていて、それがなぜかトゲトゲになっていくんです。よく“金平糖(こんぺいとう)”に例えられますね。で、それがなぜか一時期、お米みたいにちょっと縦長の形になって、それから横に長くなっていくと、このマンボウの形になるんですよ」
●1回、縦に長くなるんですね。
「それからまた横に長くなるんです」
●おもしろい! もしかしたら、ちっちゃい子どものマンボウを見ても、私たちはマンボウってわからないんですかね?
「わからないと思います、全く別の魚に見えるんで。昔の人も別種と思っていたんですよ」
●そうなんですね。マンボウは何を食べてるんですか?
「一般的にはクラゲを食べるって言われているんですけど、実際には魚も食べるし、イカも食べますね。吸い込み式の捕食方法をするんですけど、大きくなるとクラゲをよく食べるみたいです」
●じゃあ、クラゲも吸い込み式で、丸呑みってことですか?
「そうですね。(携帯ゲーム)『星のカービィ』にでてくるキャラクターのように、すっと吸い込んで食べる感じです(笑)」
●分かりやすい(笑)! あと、例えば子育てをするところなどは、もう観察されているんですか?
「いや、もう、一切謎ですね。大きな標本をたくさん集めて、その卵とかを調べたりできれば、ちょっとずつわかっていくんですけど、まだそれも、研究者がやり始めているとか、そんな段階だと思います」
●じゃあ、どれくらい卵を産むかとかは、まだわかっていないんですね。
「そうですね。一般的には3億個と言われているんですけど、これも1921年の記録なので、結構昔の知見で、それが代々受け継がれて言われているんで、本当かどうかは怪しいんですよね。実際にどれくらい産むのかは、もう一回ちゃんと調べ直さないといけないと思いますね」
●その3億個の卵がちゃんと孵っていたら、もっとマンボウに会えてもいいはずなんだけどなぁ。私、なかなかマンボウに会えないんですよ。“マンボウ運”がないのかもしれないですけど(笑)。 じゃあ、これからマンボウの謎がどんどん解けていくんですね。
「たぶん。最近は、結構マンボウの研究が進んできているんで、わかってくると思います」
※さあ、ここからはマンボウにまつわる様々な伝説について、その真偽を確かめていきます! まずはマンボウ伝説のひとつ、“マンボウは光る”について。澤井さん、マンボウって、光るんですか!?
「それは2、3百年前の文献に書いてあるんですよ。でも、実際は光らないと思います」
●「あー、そうなんですね。じゃあ、あれは……嘘?」
「嘘ですね(笑)。でも、ちょっとロマンチックな感じですよね」
●そうですよねぇ!
「ヨーロッパでは、“ペッシェ・ルーナ”などと呼ばれていて、“ルナ”は月という意味で、マンボウは体が丸いんで、月のイメージと重ねて、“光るんじゃないかなぁ?”みたいな感じで言われたんですよ」
●ああ、なるほど! 形から来た伝説、ということだったんですね。他にもいろいろ聞きたいんですけど、“マンボウって、人を助けたことがある”。これは、本当ですか?
「はい、そうですね。船乗りの少年が間違って海に落ちちゃって、その船がそのまま進んでいっちゃって溺れているところに、たまたまマンボウがやって来たんで、少年はマンボウにしがみついたんですよ。実際、マンボウは潜ったり上がったりしていたので、少年はしがみついたり離れたりしていたんですけど、そうして2時間ぐらい経ったころに、船が帰ってきたんですね。その時に少年がマンボウに捕まっていたんで、新聞に載ったりしたみたいですね」
●そうだったんですね。じゃあ、たまたまそこにマンボウがいて、“溺れる者はマンボウをも掴む”みたいな感じで、生き延びたんですね!
「(笑)。でも、これはすごい例だと思います」
●その場所はどこだったんですか?
「高知県の南から150キロ離れた沖合いですね。これは1964年の出来事なので、今から50年くらい前ですね」
●そうなんですね。続いて、これは知ってる人も多いかもしれないんですが、“マンボウが昼寝する”って、本当ですか?
「はい、昼寝しますね」
●どんなふうに昼寝するんですか?
「水面に体を横たえて、波間にプカプカ浮いている感じですね。これにはちゃんと意味があって、マンボウは海深くに潜ったりするんですけど、深く潜ると体温が冷えちゃうんで、それを水面で温めている、という感じですね」
●マンボウはどれくらい深く潜るんですか?
「最高で、800メートル以上ですね」
●あ、結構潜りますね!
「なので、水面に浮いている間に体温を回復させてから、また潜るんですね。結構忙しいやつなんですよ(笑)」
●なるほど。マンボウが水面でプカプカ浮かんでいたら、ちょっとびっくりしそうですね!
「そうですね。やっぱり“おおっ!?”と思いますね」
※最後に、澤井さんのグループが発見したという、マンボウの新種についてうかがってみましょう。
●澤井さんは新種を発見されたということなんですけど、それについて教えてください。
「今年、2017年の7月に、“カクレマンボウ”という新種を論文として発表できたんですよ。今まで、遺伝的には“新種っぽいのがいるなぁ”っていうのはわかっていたんですけど、形態が全く謎で、私も10年ぐらいいろいろと探し回っていたんですけど、全然見つからなかったんですね。そんなある時、オーストラリアの研究者から、“一緒に研究しましょう”と、共同研究の話が来て、一緒にやっている時に南半球で採れたマンボウが新種らしい形をしていたんです。それがきっかけで今年、発表できました」
●南半球のどこで発見したんですか?
「ニュージーランドとオーストラリア、あとチリにもいるみたいですね」
●手がかりはあったけど、その実態はわからなかったんですね。
「そうなんです。形がどんなのかがわからなかったのですが、発見したものが今までとは違うということがわかったので、新種のそのマンボウに名前をつけました」
●何て名前を付けたんですか?
「それが、“カクレマンボウ”ですね。“カクレ”っていうのは、今まで他のマンボウに紛れて見つからなかった、人の目を欺いて見つからなかったということで、“隠れている”という意味で付けました。このマンボウは、学名を“モラテクタ”って言うんですけど、“テクタ”っていうのがラテン語で“隠れている”などという意味合いなので、学名にもちなんだ名前ですね」
●隠れてたのに、見つかっちゃいましたね(笑)!
「見つけちゃいました(笑)」
●では最後に、長年マンボウを研究されている澤井さんにとって、マンボウの魅力ってどんなところでしょうか?
「やっぱり、やっていけばやっていくほど、謎が深まっていくんで、マニアックな感じになっていくんですけど、それを追求していくのがおもしろいですね。より詳しくなりたいんで(笑)。今だと、マンボウの種類がどんどん分かれているというか、発見していっているので、実際にどれくらいの種類がいるのかということが、もっと知りたいところですね」
マンボウは光る? マンボウは昼寝する? そんなおもしろい都市伝説がたくさんあるマンボウですが、実際の生態は伝説よりも面白く、興味深いものでした。まだまだ謎だらけのマンボウ、今度はどんなことで私たちを驚かせてくれるんでしょうね。
岩波ジュニア新書 / 税込価格1,080円
さかなクンも大絶賛の本書は、中学・高校生以上を対象にした一般向けの本。おそらく、マンボウの専門書で一般向けは初めて! 写真やイラストもふんだんに使われ、楽しく読めます。さらに、各ページにはその内容をまとめた「マンボウ川柳」もたくさん載っていますよ!
近況も含め、詳しくは澤井さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。