今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、人呼んで、警視庁の生きものがかり、福原秀一郎(しゅういちろう)さんです。
福原さんは1955年、鹿児島県鹿屋市生まれ。現在は「警視庁・生活安全部・生活環境課」に勤務。希少な野生動植物の密売捜査において、全国でただひとりの警察庁指定広域技能指導官に任命され、「希少動物専門の警察官」としてご活躍されています。2015年に警察功労章、2016年には警視総監特別賞を受賞されました。
そんな福原さんは先ごろ、『警視庁 生きものがかり』という本を出されています。
警察といえば、私たちの安全や生活を守ってくれる組織ですが、そこでなぜ生き物を専門にしているのか、一体どんなお仕事をされているのか、気になりますよね!? そこで今回は、人呼んで、警視庁生きものがかりの福原さんにじっくりお話をうかがいます。
※「生きものがかり」は一体どんな係なんでしょうか。福原さんがひとりでやっているそうなんですが、本当にそうなんでしょうか?
「そうですね、実際、専門的にやっているのは私しかいないということですね」
●たったひとりで!
「ええ。専門というからには、何らかのサポートがなきゃいけないと思うんですけれど、警察庁の方で“広域技能指導官”に任命されております。その理由のひとつが、希少野生動植物の保護事件を担当するのが私ひとりだったということなんですね。ですが、私の目指しているものは、環境犯罪といいますか、“生物多様性に対する警察の貢献”というのが、私のひとつのテーマとなっています」
●この番組でも、生物多様性についてはかなり取り上げているんですけれど、まさかそこに警察の皆さんが貢献されていたということは、今回初めて聞いてびっくりしました! 実際に警察がそういう部署というか、仕事を立ち上げようと思われたのは、どれくらい前で、どうしてそれを立ち上げることになったんですか?
「今から28年ぐらい前に、国際的に希少な動物を保護する、“ワシントン条約”という条約があるんですが、それに基づいて“種の保存法”という法律ができました。その時にちょうど、私が刑事になったんです。刑事になったからには、得意な分野といいますか、そういうので役に立ちたいと思ったんですよ。例えば当時なら、覚せい剤や泥棒(などの事件を専門にしている)先輩はいっぱいいるんですよ。“じゃあ、俺にできることは何だ?”と思っている時に出会ったのが、この“種の保存法”だったんですね。そして最近になって、認められるようになってきた、ということです」
●通算ですと、何年ぐらいされているんですか?
「最初に手掛けた事件からいきますと、もう28年経ちますね。専門にやらせていただくようになったのが、平成14年に警視庁・生活環境課、つまり、いわゆる環境犯罪だけを取り扱う課ができた時で、それ以降、専門になりました。それまでは普通の、町の警察官としてやっていました」
●もともと、警察官になろうと思われたきっかけは何だったんですか?
「当時は、テレビのドラマで『太陽にほえろ!』という刑事ドラマがありまして、それがかっこよかったんですよねぇ…! 特に藤堂係長とか、山さんの露口茂さんなどを見て、“絶対これになるぞ!”という気持ちでした」
●でも、『太陽にほえろ!』と、動物を相手にする警察官だと、ちょっと違うんじゃないですか?
「かなり違うじゃないですか(笑)」
●そうですよね(笑)。そこのギャップはなかったんですか?
「例えば、向こう(『太陽にほえろ!』)は1時間で事件が解決することも多いんですね。しかし我々は、場合によっては2年から3年ぐらいかかることもあるんです。それでいて、あんなに格好よくいくものでもない。非常に我々の捜査って、無駄が多いんですよね。その無駄の積み重ねが、ひとつの木を育てるという感じなので、そこが全然違いますね」
※福原さんが扱うのは「動物」ということなので、確保するにもその動物の生態を知っていないと難しそうですが、福原さんはどうしているのでしょうか。
「現場に行く時には、必ずその動物を知っている方、あるいは動物園の方々から知恵を授かって、それから現場に行くようにしています。今はインターネットがあるんで、調べやすいじゃないですか。けれど、昔は苦労しましたね」
●今まで確保するのに大変だった生きものっていますか?
「噛まれたことなどもありますが、一番大変だったのはレッサーパンダですね。可愛い顔しているんですよね。その事件の犯人を捕まえに行った時なんですけれども、(捕獲用の用具を)何も持たないで行ったんですね。“あんな可愛い顔しているから、捕まえられるだろう”と思ったんですよ。ところがキバをむいて、もうすごいんですね! なので、現場から近くの動物園の飼育員と獣医の方に来ていただいて捕まえていただいた、ということがあります」
●やっぱり専門家じゃないと、なかなか難しいんですね。
「ええ、無理ですね」
●例えば、盗まれた個体と、今そこにいる個体が同じものなのかっていうのは、どういうふうに見分けるんですか?
「例えばカメであれば、背中の模様は全部違うんですね。それを照合することは、専門の方であれば可能です。先ほどのレッサーパンダの時には、違法に買った人がわかったんですね。それで、動物園の飼育員の方に、“どうやってここから盗まれたレッサーパンダと、今特定しているレッサーパンダが同じなのかを見極めるのか?”と聞いたら、写真を渡されまして、“こういう顔をしていますから”って言われたんですね。“うそっ!? こんなの渡されても、わかるはずねぇ!”って思ったんです(笑)。だけど仕事ですから、(個体によってどう顔が違うのか)動物園に行きましたよ。…違いましたね、やっぱり。白や黒の模様の入り具合が違かったですね。“ああ、そんなもんなのか”と思いましたね。(確保したレッサーパンダは)実際に写真と見比べてみても、同一の顔でしたね」
●同一人物ならぬ、同一レッサーパンダでしたか(笑)。よく警察の方が写真を見せて、“この容疑者、知りませんか?”っていう場面をドラマで見ますけど、そんな感じで写真を見比べたんですね!
「ほぼ間違いない、と断定できました」
●そういう風にして捕まえることもあるんですね。
「“あれだけ顔が違うのか!”と驚きましたね。ぜひ、試してみてください(笑)」
●今度、チェックしてみようかな(笑)。ちなみに、保護した生きものはどうするんですか?
「事件が終わるまでは、だいたいは動物園に預けます。“事件が終わるまで”というのは、裁判が終わるまでのことです。刑が確定しますと、例えば密輸事件に関する動物であれば、検察庁に還付、つまり返します。密輸入が絡まない動物であれば、環境省に還付します。そして最終的には、最初に預けた動物園に帰属する、ということになります」
●その事件の証拠品となった動物たちに会いに行く、ということはあるんですか?
「絶対に会いたいですよね! その後、どうなったのか知りたいですしね。なので、(動物園に)お願いして見せていただくこともありますし、たまには普通に見に行ったりすることもあります」
●会いに行くと、通じ合うものとか、“あ、あの時、僕を助けてくれた人だ!”といった意思疎通はあるんですか?
「そこまではないですけれども(笑)、ただ、かわいそうというか、残念というか…。もう、彼らは故郷に帰れないんですよね。帰すことができないんですよ。なんだか最近は、“ああ、こいつらはもう帰れないんだよな”と思うと、切ないような気持ちになりますね」
※そんな福原さんですが、もともと生き物は好きだったのでしょうか?
「はい、特にカメと淡水魚が好きでした。自分で取りに行って飼っていました」
●今は何か飼っているんですか?
「今は子ども3人を育てるのに一生懸命で、(家にある)水槽が削減の対象になっておりまして、ほとんどいない状態ですが、それでもタナゴとメダカ、カメや犬を飼っています」
●ご家族の皆さん、生きもの好きなんですか?
「長男はハリネズミを飼っています。奥さんは基本的に、私の好むものは受け入れてくれないので、奥さんは全然興味がないみたいですね。でも、そうすると水槽が増えても気づかないんです。だから、そっと置いておけば、いつの間にか水槽がそこにある(笑)。そうやって増やすんですけど、“またお父さん!”というふうに言われて、またなくなったり…。(奥さんとの)闘いですよ(笑)」
●なるほど(笑)。そういう攻防戦があるわけですね。
「だけど、そういうふうに言われないために、まめに掃除したり、カメの甲羅をたわしでゴシゴシしたりと、相当な苦労をしてるんですよ!」
●じゃあ、その努力の甲斐あって、飼うことを継続できているんですね。
「なんとか、水槽を2つ、あと外にカメ用の池がひとつ、確保できている状態ですね。あと、ワンちゃんも走り回ってますね」
●そのカメに名前とかつけたりしているんですか?
「ええと、“リュウ”と“コアカ”かな」
●それだけカメを可愛がっていると、カメを悪いことに使っている犯罪者のことは許せないんじゃないですか?
「許せないですよね。原則、爬虫類っていうのは人には慣れないんですけれども、2年前に寿命で亡くなったミドリガメなんかは、夏場は庭に放しておいていたんですね。9月や10月はちょっと寒くなるじゃないですか。そうすると、家の中に入ってくるんです(笑)」
●家に上がってくるんですか!?
「はい。ある日、家に帰ってくると、ミドリガメが家の中を歩いているんですよ。“お母さん、ありがとう! 家の中に入れてくれたの?”って言ったら、“違うよ、勝手に入ってきたんだよ”って(笑)。寒いから和室のほうに入ってきたんですね。そこまで慣れるんですね。だから、そういう動物は犯罪に使われたくないし、心を癒されるものですよ、本来はね」
※ご家庭でも、「いきものがかり」だったんですね。 福原さんは、生物多様性について「3つの危機」があると、警察学校で教えているそうです。
「第一の危機は、まさにそのもので、種の絶滅や、数が少なくなっていくという危機で、これに関しては、種の保存法、あるいは鳥獣保護法などがございます。第二の危機というのは、里山の保全など、いわゆる“生態系の破壊”という危機ですね。これに対する法律としては、ゴミの不法投棄に関する法律や、森林法などがございます。第三の危機は、外来種の持ち込みによる、国内生態系に対する危機です。これらを、3つの危機というふうに言っています。“ここに、我々警察の貢献する場所があるんだよ”ということを日頃から訴えております」
●犯罪に直接関わらないことを、警察の方がそこまで関わっていらっしゃるというイメージがなかったのですが、犯罪に関わらなくても、生きものを守るために警察の方々は動いてくださっているんですね!
「これは非常に重要な部分であって、警察部や生活安全部、交通部などがあるんですが、私は“生活安全部”なんですね。生活安全関係で、“被害”という言葉がある法律は2つあって、ひとつがDV法なんですよ。家庭内暴力とかですね。あと、特定外来生物法。これも“被害”がつくんです。その被害たるや、いったん国内で外来生物が繁殖したら、それを排除するために何億円かかるか、というほどなんです。外来生物の被害というのは、農作物などに対する被害ですので、これについては、私は今後も警察がやっていかなければいけないことであると考えています」
※私たちが動物を飼うときに注意することを聞いてみました。
「まず第一に、“お金を出したら買えるから、飼えるだろう”という考えは、絶対に違うということですね。自分の力量にあった動物を飼う。これが一番大事だと思います。例えば、500円玉ぐらいのミドリガメも、最終的には30センチ近くなるんですね。夏場は水を汚したりと、すごいんですよ! だから、手放したくなっちゃうんですね。それが、日本の生態系を壊しています。
そこまでの心構えが自分にあって、初めて飼えるわけですので、必ず自分の力量を考えてから判断していただきたいです。お子さんがいらっしゃるかたは、子どもが世話ができるのかを考えたり、あるいは自分が飼う場合は、日中は仕事で家を空けているわけですから、そこまで面倒をみられるのかを考えて、ペットは購入していただきたいというふうに考えます」
●“珍しいから飼いたい!”じゃなくて、自分が飼えるかどうかを考える、ということですね。
最後に、動物専門の警察官になりたい、という方は、どうすればなれるんでしょうか?
「まず、警察の試験を受けてください(笑)。35歳未満の方は、警視庁でいえば、ちょうど来年の1月に試験があります。各警察署にはその応募資料があります。まずは警察官にならないと、“生きものがかり”にはなれません。警察官になれば、その部署でやることも可能です。ぜひ、よろしくお願いいたします」
●今まで、動物好きだったら“動物園に務める”とか“動物の学者になる”と思っていた子どもたちも、これからは警察官として動物と関わっていける、そんな道があるということですね!
「そうですね。先般、『警視庁 生きものがかり』の本の記事を見たという方から手紙をいただきました。その方は大きな動物園の飼育員をなさっているんですけれども、“そういう道があるとは知らなかった! 今、改めて警察官になりたい!”というお手紙でした。他にも結構な数のお手紙をいただいております。ですので、まずは扉を叩いていただければ、ありがたいなと思います」
生活安全課でどうして生き物?!最初はそんな風に思っていましたが、生物多様性を守る事で私達の生活も守られていたんですね。これからも色々な形で私達を守ってくれる警察に感謝し、今後の活躍期待したいです。
福原さんがこれまで手がけてきた動植物の密売や盗難などの事件、そして捜査対象となった生きものについて書かれた本です。とても興味深く、面白いですよ! 詳しくは、講談社のHPをご覧ください。