今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンは、先日開催された「C & Cユーザーフォーラム & iEXPO 2017」の取材リポートをお送りします。
「Orchestrating a brighter world~デジタルトランスフォーメーションで共に創る未来~」をテーマに開催された今回のイベントでは、講演やセミナーほか、展示ではNEC独自のAI・IoT、つまり、人工知能とモノとのネットワークにより新たな価値を生み出す、最新のソリューションや先進テクノロジーが紹介されていました。
例えば、顔認証関連の展示ブースでは、コンサート会場など、多くの人が集まる場所で特定の人を即座に見つけられるシステム(NeoFace Watch)のデモンストレーションや、顔認証によるお買い物体験、また、高齢化社会に向けて、薬の飲み忘れを防ぐ世界初の「服薬支援システム」なども紹介されていました。
そんな中、番組が特に注目したのが「レーダ衛星」と「耳音響認証」です。今回は、自然災害の監視や資源の調査などに役立つ「レーダ衛星 ASNARO 2(アスナロ2)」、そして人の耳の形で識別する「耳音響認証」の最新技術をご紹介します。
※まずは「レーダ衛星ASNARO2」が今までの衛星とどう違うのか、NEC宇宙システム事業部の小川俊明(おがわ・としあき)さんにうかがいました。
小川さん「地球の観測をする衛星なんですけれども、一番有名なのは、カメラが付いていて、それで地球の表面を撮る衛星が多いんです。でも、夜が撮れないとか、雲があると撮れないという、逆にそういう欠点もあります。それをカバーするために、レーダという電波を使って地上を観測するという方法で、地表の状況を確認するということができるようになります」
●“小型”という点も特徴だと思うんですが、今までと比べてどれくらい小さくなったんですか?
小川さん「これまで世界で上がっているレーダ衛星というのは、だいたい2トンとか、それぐらいの重さがあったんですけども、今回(レーダ衛星)は500キロ台ということで、大きさ的にも3分の1から4分の1ぐらいの重さで実現しています」
●実際の大きさがわかる写真が展示されているんですが、だいたい人間の背丈の3倍ぐらいですかね。
小川さん「高さは3.5メートルぐらいですね」
●衛星には色々な装備が必要なんじゃないかと思うんですが、どうして今回、ここまで小型化できたんですか?
小川さん「一番大変だったのが、電力の問題でした。そこでNEC製の、非常に性能のいい送信機を開発しました。この送信機を使うと、電力を大きく抑えられるということと、アンテナが非常に大きいので、その2つを使って、2トンの衛星に引けを取らない画像を撮れる、ということを目指して開発しました」
●この小型の“レーダ衛星ASNARO2”は、これからどんなことに役立ちそうですか?
小川さん「すでに打ち上げた“ASNARO1”という、カメラが乗った衛星があるんですけれども、それと上手く併用しまして、昼間や雲がないところはカメラで撮って、夜などの時間帯はレーダで(データを)取るという方法を使います。一番大きなところでは、災害とか、資源を見つけたりとか、森林とか土地の状況、畑がどうなっているかとかですね、そういったことに使えます。あとは、海の汚染状況とかですね、例えば“オイルが流れ出した”といったことも、こういった衛星を使って観測できるのではないかなと思っております」
●いつから計画をスタートし、開発していく際に大変だった点などはありますか?
小川さん「開始したのは5年前からだったと思います。一番大変だったのは、電力をどうコントロールするのかという、そこに尽きるかなと思っています。カメラで撮る衛星(“ASNARO1”)は一旦上げたんですけども、カメラなので電力は全然低いんですよね。(カメラとレーダでは)電力消費量の差が3倍ぐらいありますので、そこを同じ衛星を使ってどう実現するかというところは苦労しましたね」
●実際にはどういうふうに衛星を開発しているんですか?
小川さん「地味ですよ! 本っ当に地味です(笑)。5年かけて一個一個、問題点を潰して積み上げていくという、ドラマになるような、とてもならないような現場で作業しています」
●じゃあ、“これでいけそうだ!”ってなった時には、喜びはひとしおなんじゃないですか?
小川さん「そうですね。打ち上げた、最後の日っていうのは、なんて言うんですかね、お腹の中から赤ちゃんが生まれてくるというか、もう、そんな日に近いんですね。ずーっと5年間育てて、ロケットから出てくるところは、本当に経験した人しか、あの感動はわからないと思います」
●赤ちゃんが生まれるの、楽しみですね!
小川さん「そうですね! 私、これが4人目ぐらいの子どもになるんですけれど、非常にそれぞれの子どもには癖があってですね、忘れられないですね」
※これまでの衛星はカメラで地表を撮影するので、雲があったら地表は写りませんよね。一方、電波で地表を見るレーダ衛星は、電波が雲を通過するので、雲の下や火山の噴煙の下でも、そして、夜でも地表を観察できる優れものなんです。近年、国際的にもレーダ衛星への期待が高まっています。
そんな、「レーダ衛星ASNARO2」の今後の運用スケジュールはどうなっているのでしょうか?
小川さん「今年度中に打ち上げが予定されていまして、打ち上げられましたら、最初は軌道上で衛星がちゃんと動いているかというのを、3ヶ月から半年かけてチェックいたします。そしたら実際に運用開始となります。NECのほうで、この衛星の運用というのを計画していまして、衛星から降りてくる電波や画像データなどの、受信したデータを解析したり、衛星の状態が正常かどうかというのをチェックしながら、24時間そのような運用をしていくという計画でおります」
●何年ぐらい運用される予定なんですか?
小川さん「予定では、最低5年間は軌道上で動作されるように設計されていますので、それ以降も長く保てば、寿命が尽きるまで運用していこうと思っております」
●どこから打ち上がるんですか?
小川さん「(鹿児島県)内之浦です。“イプシロン”という、JAXAさんのロケットを使って打ち上げられます。イプシロンには、今回はこのように大きく“NEC”と書かれております」
●おお! 今、こちらにはイプシロンのイラストがあるんですけれども、真ん中に書かれていますね!
小川さん「そうですね。それが映像に映れば、一目で“ASNARO2が乗ってる!”とわかると思います」
※続いてご紹介するのは「耳音響認証」です。これはイヤホンのようなデバイスを耳につけることでAIとつながる、新たなコンピューティングスタイル「ヒアラブル」のひとつの技術なんです。まずは、ヒアラブルとはどんなシステムなのかをNEC新事業推進本部の阿部竜太(あべ・りゅうた)さんにお聞きしました。
阿部さん「ヒアラブルなんですけれども、今後、我々は色んなものやAIとつながっていきます。そういった時に、“人の活動を妨げることなくこれらとつながっていて、常に情報に触れられるためにはどうしたらいいだろう”を考え、デザインして作られた、新しいコンピューティングスタイルです。イヤホンをつけていただくと、センサーがついていて、それで自分の状態をとったり認証したりできます。マイクとスピーカーがついているので、音声の入出力もできます。そうすることによって、これをつけていただければ、今のように画面を見ることもなく、我々の活動も妨げることなく、常にインターネット体験を提供できる、そんな世界観、そんなコンピューティングスタイルを我々は目指しております」
●ヒアラブルの中での“認証”とは、どういうことですか?
阿部さん「我々が独自技術として持っております、“耳音響認証技術”になります。耳認証なんですけども、耳の中に音を入れると、それが反響します。その音が、皆さんの耳の中の形が違うので、違ってくるんですね。それを認証に使っております」
●何でそもそも、“耳で認証する”ということをやろうと思ったんですか?
阿部さん「実は、音響の世界では耳の中の形が違うっていうのは知られているんですね。そんな音響の世界では有名な、長岡工業高等専門学校の矢野昌平先生から、“音の聞こえ方が人によって違うので、一緒にこれを認証技術として使ってみないか”というご相談を受けまして、NECと矢野先生が一緒に色々とトライをしたところ、結構な精度が出ましたので、それを技術として伸ばしています」
●認証というと、顔認証や指紋認証だったりといったイメージが強いんですけれども、そういった認証とはどういうところが一番違うんですか?
阿部さん「耳音響認証では、認証音と反響音の組み合わせで認証を行なっております。顔認証や指紋認証と違うところは、元となるデータが生体情報ではなく、人工的に作り出す、認証用の音であるということです。IDやパスワードと同じで、認証音と反響音の組み合わせを作るので、音を変えれば反響音が変わります。なので、本当にIDやパスワードのように、何千通りも作ることができます。たくさん作れるということは、ワンタイムパスのように使い回すのではなく、使い捨てることもできますので、比較的安心のできる運用になると思っております。
生体認証もIDやパスワードも、認証が通った時にゲートが開いたりサービスが使えるようになりますけども、耳につける、耳音響認証の場合は、つけている間はずっとゲートが開いてくれるんです。なぜかというと、耳につけている間に、勝手にずっと音が流れて反響音を取るだけですので、ユーザーがアクションをしなくても常時、認証ができるからなんですね。そういったところも違いのひとつになると思っております」
※この技術は、マイク一体型のイヤホンを耳につけて、耳の穴で反響したイヤホンの音をマイクから収集することで、個人特有の耳の形によって決まる音響特性を瞬時に測定し、それを認証に使うシステムなんです。
そんな「耳音響認証」を実際に体験してみました。
阿部さん「どういうふうにやるのかというイメージはつきにくいと思うんですけれども、イヤホンを耳に入れて、音が流れて反響音を取るだけなので、実はユーザーが何もアクションをしなくとも認証ができてしまうんですよ! なので、例えばドアの前に行ったらBluetoothでつながって認証音が流れて、OKだったらドアが開くし、NGだったら開かない。そういった形で、ユーザーに何もアクションをさせずに、ドアを開けられる、認証ができるっていうところで、今までの認証とひとつ違う特徴を出せるかな、と思っております」
●実際にユーザーがアクションを起こさずにできる“耳認証”というのを、体験させていただけますか?
阿部さん「どうぞ、体験してみてください! まず、我々が開発したプロトタイプデバイスなんですけれども、こちらを右耳につけていただいてもよろしいですか?」
●これ、見た目は今、流行りのワイヤレス・イヤホンと同じ形ですね。
阿部さん「そうですね。我々はヒアラブルで、人の生活を妨げないで情報をどう提供するかというのを考えております。なので、イヤホンもケーブルがない方が我々の生活を妨げることがありませんので、そういったものをコンセプトに作っています」
※では、実際にイヤホンをつけていきます。
●今、イヤホンが私の右耳にしっかり入りました。
阿部さん「ではこれから、認証のデモを始めていきます。まずは認証音を聞いてみてください」
●……お、今、“ピッピッピッ”って音がしていますね。
阿部さん「それが今、我々が認証に使っている音ですね。今はまだ登録していないので、“サーバーエラー”となります。次に情報を登録していくんですけども、我々が今やっている、いわゆるパスワードを登録する時は必ず2回登録させられると思うんですけども、こちらの音響も2回、同じ音を流して反響音を取っております。聞いてみてください」
●……あ、さっきと同じ、“ピッピッピッ”って音がしました。
阿部さん「1回流れた後に、もう一度同じ音が流れると思います」
●……はい、流れました。
阿部さん「登録が完了しました。本当にこんな短い時間でユーザーは登録をすることができます」
●これでもう、登録ができているんですか!? へぇ~、すごい!
阿部さん「では、もう一度認証をかけていきますね。同じように認証音が鳴っていると思います。すると、認証が成功して、音楽が流れ始めたと思います」
●……あ! 音楽が流れました!
阿部さん「これが耳認証のひとつの特徴になっていまして、今までは必ず認証する側、つまり私たちが、例えば“私は阿部です”というようにアピールをしなければ認証ってできなかったんですね。しかし今、体験していただいた通り、ユーザーは何もしなくても自分を認証してもらえています。(イヤホンを)つけている人がわかるので、その人に合ったサービスっていう形で今、音楽を流しているんです。耳につけてさえいただければ、自分に合ったサービスを常に受けられる、そういった世界観を作れるかなと思っています」
●認証精度はどれくらいのものなんですか?
阿部さん「今、我々が公表している数字は99.9パーセントですので、1万分の1ぐらいの精度でやらせていただいております」
※ただ耳につけているだけで認証されるので、本当に楽でした。そんな「耳音響認証」を含め、このヒアラブルの技術は今後、どのような展開をしていくのでしょうか?
阿部さん「我々はヒアラブルっていう形で、人の生活を妨げることなく情報を提供するということをコンセプトに、いろんな技術を開発しておりますので、こういった耳の認証であったり、あとは屋内位置を、地磁気を使って測位する技術であったり、音響ARという、音を空間に置いて、そこから音を流すといったことにも取り組んでおります。こういった形で、イヤホンをつけるだけで私たちは常に情報につながっていられる、そんな体験を提供できるような世界観を作っていきたいと思っています。特に、耳認証に関しましては、NECの独自技術になっております。
ヒアラブルのコンセプトなんですけれども、今年開催されました、“CEATEC JAPAN 2017”の“コネクテッドインダストリーズ部門”でグランプリを取らせていただきました。それ以外にも多くの会社様から“ヒアラブルを使って色々なをやりたい!”という引き合いを受けておりますので、だんだんと我々の目指すべき世界というのが、色々なところに伝わってきているのではないかなと思っております。我々は現在、製品化に向けて一生懸命活動しておりまして、来年度の上期を目標に取り組んでおります」
今回ご紹介した「レーダ衛星ASNARO 2」や「耳音響認証」以外にも、「AIを使って名作文学を読んだ後の気持ちが味わるコーヒーを再現する技術」など、イベントではまるでSF映画やドラえもんの世界のような、驚くべきテクノロジーがたくさん紹介されていました。私たちが夢見た未来は、もうそこまでやってきているのかもしれませんね。
自然災害の監視や資源の調査などに役立つ「レーダ衛星 ASNARO 2」、そしてNEC独自の「耳音響認証」の最新技術ほか、今回のイベント「C & Cユーザーフォーラム & iEXPO2017」についてなど、詳しくはNECのオフィシャルサイトをご覧ください。