今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、ドッグトレーナーの清水美森(しみず・みもり)さんです。
横浜生まれ、湘南育ちの清水さんは、父親が40年ほど前に新潟で始めた、日本初と言われている、ペットと泊まれる宿、そこにやってくるお客さんの犬たちを見て、「しつけ」の大切さを痛感し、2002年、アメリカに留学。そこで本場のドッグトレーニングを学び、トレーナーの資格を取得。帰国後はその経験を活かし、新潟県南魚沼市で日本初の犬の総合施設、「ドッグフィールドMAIKO」を運営されています。2007年には環境省から「愛護動物取扱・管理資格・認定委員会」の委員に任命されています。
今回はそんな清水さんに、愛犬と一緒にアウトドアに行くときの注意事項や、災害時に愛犬と避難するための、日頃の準備についてうかがいます。
※清水さんはどうして、アメリカでドッグトレーナーの資格を取ろうと思ったのでしょうか。
「たまたまテレビで、海外の犬の情報などを見たときに、(もともと)興味は持っていたので、“もし機会があれば、海外でそういうのを学んでみたいな”って思っていたのがきっかけでした。そこから自分で、海外でどうすれば(ドッグ)トレーナーになれるかっていうのを調べたら、インターンシップっていう、“海外に行って何か自分のためになるような仕事をやってみませんか”といった斡旋とか、“相手先を探しますよ”みたいな新聞広告がたまたま出ていたんですね。その中に“ドッグトレーナーになりたいという方は、いかがですか”というようなフレーズを見つけたんです。“ぜひ!”と思い、そこに申し込んだので、学ぶ場所はそこが探してくれました」
●そこではどんな勉強をされたんですか?
「私が配属された先が、アメリカで2番目に古い、警察犬を訓練している訓練所だったんですね。そこで勉強することになったんですけど、場所はテキサスの一番下の方で、メキシコと国境沿いだったんですね。そして、そこでは果物や野菜の輸入や輸出がある時に“検疫犬”といって、果物がいっぱいある倉庫の中に犬を解き放すんです。そうすると、例えばリンゴの中にハエや毛虫が入っていると、それらがモグモグ食べている音とか羽音を、その犬が聞き分けて“このリンゴに入っている”っていうのを命中させるんです。そういう犬とかをつくっていたりするんですね」
●え〜、羽音って相当小さい音ですよね!? それを聞き分けちゃうんですね!
「それも、ちゃんとした警察犬とか、訓練をするために生まれてきた犬ではなくて、たまたま保健所に保護された犬とかで、耳のいい犬たちにはそういうことをさせたりしていますね。私がたまたま行った保健所では、“全部殺す”っていう考えではなくて、“ノンキル(Non-Kill)作戦”っていうのを採っていて、必ずその子の素質を見抜いてあげるんですね。本当にただ穏やかでいい子の場合は、家庭犬のしつけをして、貰い手さんに貰ってくれ易いような、基本的な犬にする。そういう多岐にわたって、いろんなワンちゃんをつくっているスクールに修業に行くことになりました」
●その子に合った仕事をさせるということですが、それって犬種ではなくて、性格なんですか?
「性格ですね」
●そうなんですね! 日本だと、警察犬といえばシェパード、盲導犬はラブラドール、という感じですよね。
「全く関係ないですね。もう、いろんな子がいます。ミックスの子もいれば、ちゃんとした純血種の子もいますが、大小もさまざまです。私たちがトレーナーとして保健所に行って、その子たちが自由にしている様子を観て、そこから“あ、この子にはこういった優れた点があるんじゃないかな”といった見極めをある程度して、その上で預かってちょっとその子に訓練を施してあげると、それがどんどん良くなってきたりします。向いていなければ違う仕事にスイッチしたりもします」
●それってどういう風にやるんですか?
「私たちがお預かりしたときに、いろんな匂いを嗅がせたりすると、鼻のいい子は異常なほど鼻を使っていろんなものを嗅ぎ分けたりとか、他の子に比べると突出してそういう行動をするので、“あ、この子の鼻は使えるな”といった判断をしていけるんですね。
私の師匠がいくつもの犬を観てきているので、“この子は耳が凄いよさそうだ”といった判断をして、その子たちに訓練をする。訓練が終わると一回は保健所に戻されるんですけれど、新しいワンちゃんを欲しい人が保健所にいっぱい来られるので、そういう方たちが、“この子はこんなことができて、すごい!”って言ってもらえたりするんです。
それで、もし(その子の特性に合う)お仕事があった場合には、実際に現場にも行ってもらって、お給料をいただいて、その子の飼い主さんにお渡しするとか、そういうことをやっていたんですね」
※この番組のリスナーの方はきっと、“ワンちゃんとアウトドアを楽しみたい!”そう思っている方が多いのはないでしょうか。ということで、清水さんにワンちゃんとアウトドアを楽しむ時の注意事項をうかがいます。
「普通のお散歩しかしない場合でも必要なんですけれど、“予防注射を絶対にして欲しい”ということですね。狂犬病の注射っていうのは法律で決まっているので、ワンちゃんを飼ったらまず、必ず自分の住まいの市区町村に届出をしないといけないんですね。届出をすると、それでどれくらいのワンちゃんが日本で飼われているかという目安もできますから、絶対に届出は必要なんです。でも今、犬を飼っていらっしゃる方のうち、40数パーセントしか登録されていないという現状なんです」
●全体の半数以下なんですね。
「それこそ、“知らなかった”っていう方も多いぐらいで、ペットショップがそういうことはアドバイスしなきゃいけないんですけど、友だちの間で犬の赤ちゃんをもらっちゃったという人や、衝動買いをした人たちはそのことを知らないままで、届出もしていないという方が多いんですね。狂犬病の注射は必ず、一年に一回はする。あともうひとつ、“混合ワクチン”というのがあるんですね。それは任意なんです。なので、なおさら受けていない人が多いんです。
でも、アウトドア、例えば森に連れて行くと、森には自然の動物がいっぱいいます。タヌキやウサギ、もしかしたらクマもいます。そうすると、そんな野生動物が木の根っことかにおしっこをしていたとしますよね。そういうところには臭いがついていますので、自分のワンちゃんが臭いをかいじゃったとします。そのときに、鼻先にちょっと傷があったりすれば、その傷から何か病原菌をもらうこともあるし、興味があればそのおしっこを舐めてしまったり、もしくは落ちている糞を食べてしまう、ということもあるんですね。
そうすると本当に(病気になって)亡くなってしまうというケースもあります。犬だけではなくて、その犬に(飼い主の)家族が舐められちゃったりすると、人間にうつる病気さえもあるんです。なので、外に連れて行くワンちゃんは絶対に(予防注射を)受けて欲しいんですね。
しかし、それが小型犬になると、“うちの子はあんまりお散歩しないし、どこにも連れて行かないから、注射なんて……”と思って注射をされない方がすっごく多いんですね。何よりそれが、今は問題になっているかなと思いますね。
特に海とか川にワンちゃんを連れて行かれる方が、最近は夏になると多いんですけど、そこでバーベキューをよくやりますよね。そうすると、ゴミや残骸を残したまま立ち去ると、夜にネズミがわくんですね。そのネズミたちが残骸を食べて、その辺に糞尿をしたりする。それが“レプトスピラ”という病気を引き起こすんです。これ、人間にもよく感染するんですね。
東京には、ドブネズミとかもいますよね。そういう動物が、レプトスピラのような病気をすごく持っているんですね。それに犬がかかってしまうと、高熱を出したりして、死に至ることもある。犬の場合、何より混合の予防接種の中にレプトスピラ(のワクチン)が入っているんです! 7種以上、その注射には入っています(*)。なので、“外に行く”と言っても、行き先によって予防接種を分けていくっていうのも、ひとつのいい方法かもしれないんですね」
●そういうリスクの高そうな所には、ワクチンを打って万全の準備をしないといけない、ということですね。マナー的なところでは、どういうことに気をつけたほうがいいですか。
「何より、トイレのマナー。そこに生えてる高山植物であったりとか、野生動物がその糞とか尿によって“ダメになっていく”っていう被害が出てきていて、例えば高尾山は、“都会では一番近い山”と言われて、ハイキングに行く人も多いんですけど、ワンちゃんを連れて行く方もやはり多いんですね。柵の外側に入ってしまったりすると、あっという間に植物がダメになってしまうので、“決まった道をしっかり歩く”“トイレの始末をちゃんとしてくる”ということは守って欲しいですね」
●あとは、やっぱりどうしても広い場所に行くと、ワンちゃんを放してあげたいなっていう気持ちになっちゃうんですけど、それについては、本当のところはどうなんですかね?
「私は、放してもいいと思います。でも、そのためには“しつけ”がちゃんとしてあるかどうか。“呼び戻し”っていう、自分の名前を呼ばれたら、ちゃんと飼い主さんの所に戻る、っていうしつけができていない人はやめてください、ということですね」
(*)混合ワクチンには、2種、3種から、多いものでは9種など、様々な種類があります。詳しくは、獣医師などにお問い合わせください。
※私たちの人間のパートナーであり、家族である大切なワンちゃんを、もしもの時、どうやって守ればいいのでしょうか。災害に備えて、どんなものを準備しておけばいいのかを、清水さんにうかがいます。
「やはり準備しておくのは、アウトドアの時もそうなんですけれど、予防接種の証明書! 必ず予防接種を受けると証明書を渡されるんですけど、それがないと避難所に入れないんですね。でも、災害の時に書類とかいろんなものを持って行くのって大変なので、私が勧めているのは、その証明書を携帯電話の写真に撮っておいて欲しいんです。災害があった時も、皆さんは多分、携帯電話は持ってどうにか出ると思うので、その携帯電話で撮った写真に、いつ、どんな予防接種を受けたかをわかるようにしておくだけでも十分です。
現在は、いろんな場所にあるドッグランとかワンちゃんの施設でも、“証明書を見せてください”というところが、結構決まりとしてあるんですね。そういう時に、携帯電話で写真にさえ撮ってあれば、それでどこでも使えるので、私は何より携帯電話の写真を利用することをオススメしていますね」
●あとは、ドッグフードやリードとかもあったほうがいいんでしょうか?
「そうなんです。他の動物にも当てはまりますが、ワンちゃんの緊急物資っていうのは、絶対に後回しなんですね。なので数日間、最低でも3日間分のドッグフードとお水を持っていく必要があります。そのドッグフードも、例えば私が飼っている“グレートデン”という巨大な犬なんですけれど、その犬は1日に5キロ以上のご飯を食べるんですね(笑)。なので、その量を3日間分持って避難するっていうだけでも、半端ない量になるんです。そこで、現在は健康補助食品のような、数粒食べればその日の栄養は摂れるような、宇宙食みたいなものも販売されているんですね。そういうものを活用するっていうのも、ありだと思います」
●そういう食品も、今はあるんですね!
「あと、ボランティアもやっていたんですけれど、熊本の地震の時に要請があったのは、リードと首輪ですね。小型犬だと抱っこして避難しちゃった(人が多かった)んで、避難所に行ったら、首輪もリードもしていなくて犬から離れられないっていう人が続出したんです。なので、“首輪とリードを寄付してください!”という要請に対して私たちは何本も送ってあげたことがあったんですね。ついつい小型犬だと、パッと抱っこして行ってしまうんで、首輪とリードを忘れないことですね。
もうひとつ言われたのが、ドッグフードを入れるお皿! あまりにも慌てて避難した人が多かったんで、ドッグフードは持ってきたけれど、お皿がなくて食べさせられないっていう人もいっぱいいたということで、お皿もずいぶん寄付しましたね」
●トイレ用のシートとかは(なくても)大丈夫なんですか?
「それは絶対、あるに越したことはないです。トイレ用のシートは清潔なので、意外と包帯代わりにもなるんですね。私たち人間用のトイレが、お水がなくて使えないときでも、(代わりとして)使えたりもしますね。災害の時には、ワンちゃん用のトイレマットっていうのはすごく活用方法があるので、たくさん持っていくに越したことはないと私は思います」
●それは是非、非常用として持っておきたいですね!
「ワンちゃん用なんで、臭いが出ないようにといろいろ工夫がされているので、人間が使ったとしても臭いが軽減されるんですね。なので、とても必要だと思いますね」
●東日本大震災の時に、避難所にワンちゃんが入れなくて、車の中で夜を過ごした人がたくさんいたというニュースもありましたけど、ちゃんとルールを守れば、避難所でも一緒に過ごすことができるようになってきている、ということなんでしょうか?
「法律ではとりあえず、ペットは置いてきちゃいけない、ということが決まったんですね。同行はしなきゃいけない、ということになったんです。でも、実際に連れて避難所に行くと“避難所ではペットはダメですよ”という所がまだ、ほとんどなんです。同伴ができないんです。同行はしろって言っているのに、同伴はできないからみんな困っているんです!」
●どうすればいいんですか?
「今、それがたぶん日本の中ですごく問題になっていることなんです。それで、私が推奨していたのが、Aという所はペット連れオンリーの避難所、Bという所はペットがいない人たちの避難所、というように“住み分け”ができると、そういった苦労がちょっとはなくなるのかなと思って、現在私は行政にもそういった勧めをしているんですね。
特に私が(避難所になった)学校とかでやれたらいいなと思っていることが、例えばネコちゃんは学校の3階や4階といった、上のほうの階。真ん中の階にはワンちゃんとか。一番下の階には蛇などの、あんまり逃げ出さないようなエキゾチックアニマル、というように、学校の中でさえも住み分けをする、そういう形の避難所を勧められたらいいなと思っているんですね。
確か大島だったと思うんですけど、そこのボランティアの人たちが、私の講習を(以前に)聞いていて、実際に災害があった時にそういった住み分けをされたら、すごく成功したっていう報告をいただいているので、これが全国に少しでも広がればいいかな、というふうには思っていますね」
※最後に、長年、犬たちをみていて一番感じることをうかがってみました。
「とにかく、人間と全く一緒ですよ、っていうことですね。本当に人間と変わらないです。犬たちが群れている場面ってなかなか普通の飼い主さんがみる機会はないと思うんですけど、我々がドッグランをやっていて、ワンちゃんたちが自由に遊んでいる様子を見ると、すごくワンちゃんたちの中ってルールがあるんですね。ルールを守らない子にはものすごく厳しいんです。規律がやっぱりあって、ちゃんとルールを守らない子には集団で叱るんです! 容赦なく叱られる。ちゃんとそういうルールを守れる子は仲間に入れてもらえて、すごくみんなに守られたりするんです。もし、ちゃんとした子がいじめられると、みんなが守ってくれたりとか、そういった“絆”がすごくわかるんですね。それがたった一度(犬たちが)その場所で会っただけでもそういうことがパッとできるんです。
私が育った、子どもの頃の街の中の縮図みたいな、そういうのを垣間見ることができるので、人間(社会)の構成にも役立つし、いいなと思うところはいっぱいありますね」
●お子さんがいるご家庭では、ワンちゃんを育てることで、何かお子さんにもいい影響がありそうですね。
「そうですね。情操教育には絶対にいいと思いますね」
戌年ということでたくさん犬のお話をうかがいましたが、犬大好きな長澤としては、やっぱり犬の話を聞くと飼いたくなっちゃいますね。でも清水さん曰く、犬を飼うことで発生する費用は大型犬で年間60万円、小型犬でも30万円。もちろんお金だけでなく様々なリスクも生じますから、安易な気持ちではなく、大切な家族の一員として迎える準備が出来たその時に、可愛いワンちゃんとの暮らしを始めたいと思います。
清水さんが1月20日(土)に、モンベルの横浜しんやました店で「愛犬と楽しむアウトドア基礎講座」を開催します。愛犬と大自然で遊ぶための知識や技術などを、体験を通して学べます。参加費など、詳しくはモンベルのホームページをご覧ください。
清水さんが運営している、新潟県南魚沼市にある日本初の犬の総合施設です。ここではドッグトレーニング・スクールを行なっているほか、ペットと泊まれるロッヂやドッグカフェ&レストラン、そして屋外にはおよそ3,000坪のドッグランを完備しており、家族とペットがゆっくり楽しく過ごせる施設です。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。