2018年01月20日

アナグマの「ジェジェジェビーム」!?
〜身近にいるけど、未知の動物「ニホンアナグマ」の生態に迫る〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、しあわせ動物写真家の福田幸広(ふくだ・ゆきひろ)さんです。

 福田さんは1965年、東京都生まれ。日本大学・農獣医学部卒業。モットーは「山もいいけど、海もいい!」ということで、会いたい生き物がいれば、どこへでも出かけ、たっぷり時間をかけて、その生き物らしい決定的瞬間をとらえてきました。2014年の写真絵本『オオサンショウウオ』で小学館・児童出版文化賞を受賞。ほかにも『動物たちのしあわせの瞬間』や『うさぎ島』など、多くの写真集を出してらっしゃいます。

 そんな福田さんの新刊が『アナグマはクマではありません』。5年という歳月をかけて、ニホンアナグマの求愛行動、繁殖、子育てなど、ほとんど知られていない生態を写真に収めました。
 “アナグマはクマではありません”ということですが、では一体、どんな生き物なのでしょうか? そして「ジェジェジェビーム」とは!?

アナグマは警戒心ゼロ!?

※日本にいるアナグマは一種だけで、正しくは「ニホンアナグマ」。よくタヌキと間違われるんですが、タヌキはイヌ科、アナグマはイタチ科なんです。アナグマは穴を掘れますが、タヌキは掘れません。本州、四国、九州の里山などに生息していて、私たちが生活している場所の、すぐ近くで暮らしています。寿命は5〜6年、好物はミミズ。性格は、いたって穏やかなんだそうです。

 さあ、それでは、そんなアナグマにどうして福田さんがハマってしまったのか、さっそくうかがってみましょう。

「僕はハマりやすいというか、5年前はオオサンショウウオについてずっとやっていたんですけれども、そのオオサンショウウオの撮影がひと段落つくかな、という時に、たまたま九州に野生の馬を撮影しに行ったんですね。その時に“なんか変な生き物がいるなぁ”と思ってよーく見たら、“なんだ、これ!?”と思ったんです。それがアナグマだったんです。
 普通、野生の動物って人間を見ると逃げたりするんですけれど、そのアナグマは自分からまっすぐタッタッタッって(私のほうに)歩いてきて、しきりに地面を突いているんですね。最初は何をやっているのかわかんなかったんですけど、本当に手の届くところまで来たら、“んっ”って顔を上げて、“あーなんだ、人間がいるじゃないか”っていう感じで、くるっと回ってヒューっと走って逃げて行ったんですよ。“なんだこいつ、面白い奴だなぁ”と僕は思って、それ以来、気になっていたんですね。

 そしたらたまたま、アナグマの研究者の方とお会いするチャンスがあって、“次、アナグマを撮ってみたいんですよね”っていう話をしたら、“いつでも私のところに来ていいですよ”と言っていただいたので、アナグマの巣の見つけ方などをレクチャーしてもらいに行ったのが、きっかけでしたね」

●アナグマって人懐っこいんですかね?

「アナグマの方から人懐っこくしてくるっていうわけじゃないんですけど、いろんな人の話を聞くと、例えば先輩カメラマンとかもアナグマと山で遭った時に“あ、アナグマが歩いて来た!”と思って見ていたら、5メートルくらい先のところで急に横になったらしいんですね。“何だろう?”と思っていたら、そのアナグマはスースーと寝ちゃったらしいんですよ! そういう話がいっぱいあるんですよ。

 普通、そういう行動はあんまり考えられなくて、僕も秋にアナグマを探して歩いていた時に、“あそこに毛が落ちてんのかなぁ?”と思って近づいて行ったら、スースーと呼吸しているんですよね。“何だぁ!?”と思ったんですけど、どうやら歩いている途中で眠くなっちゃったみたいで、そこで寝ているんですよね! 僕が近くに行っても全然起きないですし、“こういうことって、あるんだなぁ……”と思って、それでどんどんのめり込んで行ったんですよね」

●もう、野生動物とは思えない警戒心のなさですね(笑)。

「キツネもタヌキもそういった警戒心のなさは、ないですからね」

●じゃあ、撮影活動は割と楽にできそうな感じがしますけれど……。

「撮影1年目はビギナーズ・ラックというか、核になるような写真がポンっと撮れたんで、“なんだ、アナグマ撮影、簡単じゃないか!”と思ったんですけれども、2年目から全く撮れなくなって、巣穴の写真だけを撮った年もありましたね。実は、“(アナグマの撮影に)手を出すんじゃなかった”と思うぐらい、オオサンショウウオよりも撮影自体は難航しました」

●そうなんですか!? いざ、アナグマの姿を撮ろうと思ったら見つけられなかったんですね。

「そうなんです! 偶然、山で遭う時には、そういった、のんびりした姿で会えるんですけども、こちらから実際に活動しているところを探して撮るっていう場合には、すごい難しい生き物なんですね。例えばメス1頭あたり数ヘクタールの行動範囲があるんですけど、その中にその家族しかいないので、それを探すっていうのは本当に難しいっていうことがわかったんですね」

●それをどういうふうに解決していったんですか?

「まずは巣を探すところから始めたんですけれども、どうやって探すかというと、アナグマの目撃例があったら、国土地理院の地図を買ってきて100メートルずつ線を引いてメッシュを作るんですね。それで、その(区切られた)ひとつずつを1日ずつ潰していくんです、くまなく歩いて! それで、(アナグマの)穴があったらGPSでポイントを打つ、というように全部探して、それらの穴を重要度の高そうな穴ごとに分けていく、という作業を1年半ぐらいやりました。それから撮影場所を4つか5つ確保する、というのが一番最初の作業でした」

●地道な作業ですね!

「でも、アナグマ探しで一番おもしろいのが、僕はこの穴探しだと思っていて、薮(やぶ)だらけで、どんなにアウターを新調してもすぐに切れたりしてしまうんですけれど、それでも穴を見つけた時の、宝探しの“あった〜!”っていう感覚がね、やっぱりやめられないんですよね」

「ジェジェジェビーム」って何?

※さあ、それではここで、謎に満ちているアナグマの鳴き声「ジェジェジェビーム」とは一体何なのか、福田さんに聞いてみましょう!

「今回の写真集『アナグマはクマではありません』の中に、“ジェジェジェビーム”っていう名前が出てくるんですけど、これがアナグマでは一番“核”になる話だと思っているんですね。メスとオスがどうやって恋をするかっていうと、メスは巣穴の中にいるんですけれど、だいたい3月のはじめくらいに冬眠から覚めて、まず巣の中で子どもを産むんですね。子どもを産むとすぐに、1日後か2日後には発情するんですけれど、そうするとオスがその巣にやってくるわけです。そして、巣の入り口でオスが“ジェジェジェジェジェジェ……”って鳴くんですよね」

●ええ!? それ、ちょっとどんな声なのか、実際に聴くことってできますか?

「できます! 僕のYouTubeチャンネルにアップしてあるので、どなたでも聴いていただけます」

●じゃあ、ちょっとこの番組で、その声を流したいんですけど、いいですか?

「はい、もちろんです!」

※ここで、番組ではアナグマの鳴き声「ジェジェジェビーム」をオンエアしました。

●なんか、不思議な音というか、高周波というか……どこから声が出ているのかわからない感じですよね。

「声自体は、口から出ているんですけど、どうやってその声を出しているのかっていうのは、よくわからないんですね。長野県の山の中に住んでいるおじいちゃんに聞いた話ですけども、昔は自分が住んでいる家からでも、交尾期になると“ジェジェジェジェジェジェ……”っていう声が聴こえて、裏山で交尾をしているのがわかった、って言うんですよ。それで僕が“おじいちゃん、こういう声じゃなかった?”って聞いたら“おお、そうだそうだ!”って言ってたんで、それぐらい遠くまで声が聴こえるんですよね。

 よく通る声で、交尾が始まると、その声にメスが“キュッキュッ”って応えているんですよ。メスを呼ぶ時だけじゃなくて、交尾の最中もオスはずっと“ジェジェジェジェジェジェ……”って言いっぱなしなんです。アナグマのオスってすごくて、だいたい2日間は交尾しっぱなしなんですけれど、一番長い時で3時間ぐらいずーっと“ジェジェジェジェジェジェ……”って言っていますね。本当、不思議ですよね。その声を発すると、どうもメスは巣穴から出たくなっちゃうみたいなんですよね」

●ええ〜、不思議!

「最初はなんで、“ジェジェジェジェジェジェ……”っていう音に反応してメスが外に出てくるのか、っていうことがわからなかったんですよね。他に日本で考えてみても、巣の入り口で求愛の歌を唄う生き物っていないんですよね。だから、これは面白いなぁと思っています。観れば観るほど不思議な生き物なんですよね」

●ちなみに、その“ジェジェジェジェジェジェ……”の声は、メスは出さないんですか?

「それが実は、出すんですね。アナグマって、子育ての途中に何回か引っ越すんですけれども、引越しをする頃になると、赤ちゃんはだいたい生後60日前後ぐらいになるんですが、“赤ちゃんが出てくる〜!”と思って僕がワクワクして見ていたら、音が聴こえてきたんですよね。その音がまさに、“ジェジェジェジェジェジェ……”っていう声だったんですよ。そしてそれが、オスが出していた声と全く同じなんですよね。それで“ああ〜、そうか!”と思ったんです。“ジェジェジェジェジェジェ……”って言うと、“巣から出なさい”という合図だったんですよ。それが頭の中に刷り込まれているので、大人になってメスが巣穴の中にいた時に、巣の外から“ジェジェジェジェジェジェ……”って呼ばれると巣から出てくるんだろうな、ということがわかったんです。それがわかった時に、話が全て繋がったと思いました。

 さらにそのお母さんアナグマを観察していると、赤ちゃんに(自然の中でも生きていけるように)色々とトレーニングさせるんですけども、例えば小っちゃな切り株を乗り越えさせる時でも、ちょっと離れたところで“ジェジェジェジェジェジェ……”って呼ぶんですね。そうすると、その声がする方に赤ちゃんが一生懸命行くんですよね。そういうことを繰り返しているのを見ると、アナグマにとって“ジェジェジェビーム”っていうのが、どれほど大切なものかっていうのがわかったんですね」

巣穴の中って、どうなっているの?

「“アナグマ”っていう名前じゃないですか。“穴”の“熊”じゃないですか。やっぱり、穴の中でどうしているのか、っていうのが最大の疑問で、本は出したんですけども、実はまだ撮影は続けていて、なんとかこの穴の中で何をしているのか、どんな寝相なのかを撮影できないだろうか、ということを今は狙って、機材も考えたりしているんですよね」

●じゃあ、まだ穴の中に関しては謎が残っているんですね?

「そうです。暮らしていない巣穴の中には特殊なカメラを入れて、どんな構造になっているのかっていうのはわかってきたんですけど、その中でどうやって暮らしているのかっていうのはよくわからないんですよね」

●ちなみに、暮らしていない穴の中はどうなっているんですか?

「子育てや冬眠に使ったりする穴は、だいたい入り口が2つか3つ、多いところでは5つも6つもあって、それらが中でつながっているんですね。それで、何かあってもどこかの穴から逃げられるようになっているんです。
 アナグマの頭の直径って、だいたい8センチぐらいなんですけれど、巣穴の直径も8センチぐらいで、ギリギリで通れるくらいの大きさの穴なんですよ。だから、大型の犬とかは入れないようになっているんですよね。その穴が1.5メートルぐらいまっすぐ続くんですけれど、そうすると、おそらく座布団ぐらいじゃないかと思うんですが、そんな大きさの部屋があって、そこに巣材がいっぱい入っているんです。そこからまた3つぐらいの別の穴に続いていて、次の部屋に続いていたりとか、冬眠の時に使うトイレがあったりとかするんですね」

●間取り的には3LDKぐらいあるっていうことですかね(笑)。

「まあ全部、寝室なんですけれども、部屋は多分3つも4つも、多いところではもっとあるんじゃないかと思っています」

●じゃあますますそこでどんな暮らしをしているのか、見てみたいですよね!

「そうですね、不思議なんですけどねぇ。それで、お母さんは(巣の中に)葉っぱを入れるんですけど、巣の手入れはしないんですよ。巣の手入れはオスの仕事みたいで、だいたいは冬眠する時にお母さんと、その年に生まれた子どもと、その前の年に生まれたオス(息子)が一緒にいたりするんですが、お母さんは冬眠の間でも何回か巣の外に出てきて“みんな、元気だったかー?”って感じでストレッチとかして、また巣の中に入っていっちゃうんですよ。巣の手入れは(オスである)息子にやらせるんです。お母さんはボヤ〜って見ていたりとか、ちょっと用を足しに行っているのかよくわからないですけど、いなくなっちゃうんですね。それで、(巣の手入れが終わった後に)お母さんが葉っぱを入れる、という感じなんですよ」

●面白い(笑)! お掃除はオスの役割なんですね。

森の生き物に興味を持って!

※最後に、5年間寝ても覚めてもアナグマを見続けた福田さんに、一番印象に残っている瞬間を教えてもらいました。

「まぁ、たくさんありますけれども、やっぱり一番最初に自力で巣穴から赤ちゃんが出てきた時の可愛さっていうんですかね、それが本当にもう、目に焼き付いていますね。ものすごく小っちゃいんですよ」

●どれくらいの大きさなんですか?

「手のひらに乗るくらいだと思います」

●そんなに小っちゃいんですね!

「本当に華奢な感じなんですよね。その小っちゃい赤ちゃんが一生懸命、巣から出てきて、今回の本『アナグマはクマではありません』の表紙にも使いましたけれども、やっと顔だけが出てきたっていう、その瞬間を見られたんですけれど、その時は本当に“ああ、やっててよかったな”“やっとこの時が来たか!”っていう感じだったんですね」

●なかなかその瞬間は撮れなかったんですね。

「そうですね。やっぱり5年かかりましたし、ほとんどが準備期間だったような感じですね。日本の哺乳類の赤ちゃんの中でも、僕は(アナグマの赤ちゃんは)群を抜いて可愛いんじゃないかなと思っているので、ぜひ、みなさんにも見ていただきたいなと思います」

●本当にね、目もクリクリっとしていて、ちょっと怯えながら“これが外の世界かぁ……”って感じで覗いている姿が、可愛いですよね! 長年アナグマを撮影していて、一番の魅力ってどんなところですか?

「“アナグマ”っていう名前は聞いたことがあっても、やっぱり日本の人はほとんど知らないんですよね。それなのに、今回お話しさせていただいたような、いろんな面白いエピソードを持った生き物なんですね。そのエピソードのひとつひとつが笑っちゃうような、そういうところが僕は好きなんですけれども、ひとつだけ残念なのが、やっぱり今はどこの地域に行っても、みなさん、目が森に向いていないんですよ。森の中のどこに行っても、ほとんど人に会わないですし、特に子どもたちには“危ないから、森に入るな!”って言っているんですよね。
 まぁ、確かにそれはわかるんですけれども、ちょっとでもいいから薮(やぶ)の中を覗いて、“何かいないかな〜?”っていうふうに見てもらうと、何かの足跡があったりとか、鳥の声がよく聴こえたりするんです。『アナグマはクマではありません』をきっかけに、少しでも森に目を向けていただけたらな、というふうに思います」

●本当に、“アナグマ”って名前は知っているのに、知らないことがたくさんあったので、私たちの身近にこんなに可愛らしい、愛くるしい生き物がいたんだ、って思いました!

「みなさんが住んでいる地域のすぐ近くにいるはずなんですね。ちょっと山があったら探してみると、アナグマはいると思うんです。ですから、少しでもいいから、こういう生き物がいるっていうことに興味を持ってもらえたらな、と思います」

●今後は、しあわせ動物写真家として、どんな動物たちのしあわせの瞬間を撮っていきたいですか?

「そうですね……。他の人にも“アナグマの次は何ですか?”って聞かれるんですけれども、今はアナグマで頭がいっぱいで、“ひょっとしたら、もっと面白いことがあるんじゃないかな”と思っているので、もうしばらくは、このアナグマ撮影を続けようかなと思っています」

※この他の福田幸広さんのトークもご覧下さい

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 アナグマという名前はもちろん知っていましたが、その生態はほとんど知らなかったので、まさか「ジェジェジェビーム」でオスがメスを巣穴の外に誘き出していたとは驚きでした。
 他にも、パンダのように可愛いアナグマ座りをしたりと、まだまだ私たちの知らない魅力がたくさんあるそうなので、ぜひ、そんなアナグマワールドを福田さんの写真集でチェックしてみてはいかがでしょうか。

INFORMATION

アナグマはクマではありません

新刊『アナグマはクマではありません

 東京書店 / 税込価格2,376円

 福田さんが5年間追いかけて撮影した、ニホンアナグマの写真集です。とにかく愛嬌があって、面白いアナグマの素顔が満載。表紙になっている赤ちゃんアナグマの愛くるしい顔は、見るだけで癒されます。詳しくは、東京書店のHPをご覧ください。


それでも美しい動物たち

新刊『それでも美しい動物たち

 サイエンス・アイ新書 / 税込価格1,080円

 さまざまな野生動物に目を向けて、そこから意外な事実や生き方の本質を見つけていく一冊。あんな動物やこんな動物も、私たちと人間と同じような生活を送っているのかも!? 詳しくは、サイエンス・アイ新書のHPをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. SMILE / ASWAD

M2. THE GOONIES ‘R'GOOD ENOUGH / CYNDI LAUPER

M3. MARRY YOU / BRUNO MARS

M4. アドベンチャー / D.W.ニコルズ

M5. MAMMA MIA / ABBA

M6. ハピネス - スマイル・バージョン / AI

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」