今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、動物行動学者の新宅広二(しんたく・こうじ)さんです。
新宅さんは1968年生まれ、上智大学大学院卒業。その後、上野動物園や多摩動物公園で動物解説員として活躍。国内外のフィールドワークを含め、およそ400種類以上の野生動物の生態や飼育法を習得した、まさに動物博士!
現在はNPO法人「生態科学研究機構」の理事長。そして、大学や専門学校で動物行動学などを教えており、数多くの教え子が動物園や水族館などで活躍しています。さらに新宅ご自身も、動物関連のテレビ番組を数多く監修、そして出演と、マルチに活躍されています。
そんな新宅さんが出された『しくじり動物大集合』と『もっとしくじり動物大集合』の2巻が、今、大変話題となっています! 一体、動物たちはどんな“しくじり”をしているんでしょう!?
※どうして新宅さんは「しくじり」に注目したのでしょうか。
「これまでの図鑑とか動物の魅力っていうのは、例えば走る速さが110キロだとか、噛む力が何百キロだとか、いいところばっかり出ていましたよね。確かにそれはすごいな、とは思うんですけど、実は動物に限らず人間もそうですけれど、欠点って魅力に変わるんじゃないかな、と思ったんですね。意外と皆さんが知らないような“裏の顔”と言いますか、そういうのを紹介すると、みんな冷やかしながらも、逆に愛おしくなったり、距離が近くなって好きになるんじゃないかなと思ったので、そういう気持ちでこの本を書きました」
●なるほど。ではさっそく、どんな動物がしくじっているのか、具体的に紹介していただきたいと思います。まずは、今大注目のジャイアントパンダ! シャンシャン、可愛いですよね! そんなジャイアントパンダは、実は“動物界一、姿勢が悪くてだらしない”!? 何となくこれは日頃、見ていても想像がつきますよね(笑)。
「でもみんな、見慣れているから疑問に思わないぐらいになっているんじゃないでしょうかね」
●確かに! 本来は野生動物ですもんね。
「野生動物にとって、姿勢ってものすごく重要なんですよね。例えば休んだり寝たりする時に、すぐに逃げたり闘ったりできる姿勢にしていないと襲われる危険がある、っていうのは本能に一番組み込まれているんですね。
よく“動物が寝る”って表現しますけれども、人間みたいに6時間ぐらい、スイッチを切って寝るっていうことは、なかなかないんですね。だから眠りが浅くて、ちょっと薄く目を開けたり、音がしたらパッと起きるなどして、浅い眠りを寝られる時にするのが、多くの野生動物の寝方なんです。
じゃあパンダの寝方はどうしてあんなに無防備なのかというと、意外と知られていないんですけど、実はパンダって高山のものすごく寒いところにいる動物なんですよ。中国の4000メートルから5000メートル級の山に一人ぼっちで暮らしているんで、ほぼ天敵もいないんですよね。その時間が長く、何万年も経っていると、ああいう無防備な、お腹を出した寝方になるんですね。
私がシャンシャンの映像で結構好きなのが、(お母さんのシンシンが)小脇に赤ちゃん(シャンシャン)を抱えて竹を食べているところなんですよ。あんなだらしない子育ての仕方は、なかなか見る機会がないですし、すごくパンダらしいですよね」
●チャックが付いてて、中から小っちゃいおじさんが出てくるんじゃないかっていうくらい、無防備なだらしなさですよね。
「上野動物園に勤めた新人の時に、先輩の職員に “パンダの飼育係は何の仕事をするか、知ってるか? パンダの中に入ることなんだよ、パンダは実在しないんだよ!”って冗談で言われました(笑)。それぐらい、人間が中に入っているように見えますもんね」
●職員の人もそんな冗談を言っちゃうぐらいなんですね(笑)。
「容姿だけじゃなくて、行動がすごく魅力的ですよね。それも格好いいんじゃなくて、子どもの見本にならないような行動ですしね」
●でも私、ある意味、ああいうだらしなさが思わず手を差し伸べてしまいたくなっちゃうような、パンダの作戦というか、あえてそういう進化をしたんじゃないかな、と思っちゃいますね。
「そうですね。だから、ぬいぐるみ業者も色々と苦労しているようですね。本物のほうがぬいぐるみよりも可愛かったりするんで、“どうやったら可愛く作れるのか”ってかなり工夫しているみたいですね。パンダキャラクターって結構難しいみたいですよ(笑)」
●おそるべし、パンダの可愛さ!
「比較的新しくわかってきたことなんですけれど、従来、イルカの研究ってすごく難しかったんですね。人間が(イルカの群れに)入ると、イルカたちは逃げてしまうんです。例えば、イギリスのBBCのチームは、イルカそっくりの模型を作って、その目の部分にカメラを埋め込んでイルカの群れに紛れ込ませて観察して、記録をどんどん作っていったんですね。そうすると、オスとメスが赤ちゃんを産める体になってくる頃に、やっぱり気の合ったもの同士がデートをするんですよ。で、そういうのはそっとしておいたほうが気がきくのに、そのイルカの群れにいるおばちゃんイルカたちがみんなで囲んだり、付いてきたり、腰を押したりするんですよね」
●ええ!? “あんた、もっと前に出なさいよ!”みたいな感じなんですね(笑)。
「そういう、お節介を焼くような行動っていうのがバッチリ映像で確認されているんですね」
●それはお節介だなぁ……(笑)。
「デートは自分たちのペースでやりたいのに、群れにいるベテランのおばちゃんたちが出てくるんですよ。そういうのがおもしろいし、若いイルカにとってはちょっとウザったい感じなんですよ(笑)」
●どことなく本人たちは、“勘弁してくれよ”という感じなんですね(笑)。
「でも年配だし、敬意を払っているのか、怒ったりこそしないものの、“うーん……”って感じなんでしょうね」
●何でそんなことをするのかは、わかっているんですか?
「そこまではわかっていないんですけれど、そういうのは知能の高さを表しているんだと思うんですよね。相手の立場とか相手の心理状況をわかっているんで、(おばちゃんイルカは若いイルカを)上回る能力があるので、ちょっと手を出したくなったり、教えたくなっちゃうっていうのは、なかなか数ある動物の中でも、そこまでやれる動物っていうのは結構限られてくるんですよね。われわれ人間としても、お節介を焼く側の気持ちも焼かれる側の気持ちもちょっとわかりますよね。よくお節介を焼く有名なおばちゃんとか、人間の世界でもありますよね」
●いるんですね、そういうおばちゃんがイルカの世界にも(笑)。それでは、この動物はどうでしょうか。百獣の王と言われているライオンなんですけれども、“ライオンが真夏にマフラーみたいな進化をしちゃった”。これは一体、どういうことなんでしょうか?
「ライオンといえば、みなさんも絵を描く時にたてがみを描く人が多いと思うんですけれど、あのたてがみはライオンの性格と関係しているんじゃないかと思うんですよね。
非常に短気な、気の短い性格で、何かあるとすぐ喧嘩するし、強い動物にも向かっていくので、ちょっとした兄弟喧嘩でもそうなんですけど、大怪我をするんですよね。その時に、殺すつもりはなくても本能でついつい狙ってしまい、相手の首周りを噛む習性がライオンにはあるんですね。
なので、喧嘩で終わらせるつもりが、エスカレートして死んでしまったら、同じ種同士で絶滅してしまうので、それをガードするために発達した、たてがみなんじゃないかな、と私は考えています」
●急所を守るためにあんな立派なたてがみがあるんですね。それがどうして、あんなマフラーみたいになってしまったんでしょうか?
「そのモフモフのたてがみが、ちょうどライオンの犬歯が刺さらないだけの厚みになっているんです。だから首を噛んでも、首の頚動脈が切れるとか、そういうことがなかなか起きないようになっているんです。
気が短くて喧嘩っ早く、それを防御するためにマフラーのようなものを進化させているんですが、そもそもライオンっていうのは赤道直下などに棲んでいる動物なんですよね。だから、もう少し性格を穏やかにしていれば、あんな進化をしなくても済んだのに、暑さを我慢してまでモコモコのマフラーを付けなきゃいけなくなっちゃったっていうところが、ライオンとしては皮肉な進化になっていますよね」
※動物たちはしくじってしまった時や困った時、どんな行動をとるのでしょうか? 人間のようにごまかしたりするのでしょうか? 動物たちのしくじりごまかし術を新宅さんに教えてもらいました!
「特に“社会性動物”って呼ばれる、群れで暮らす動物たちっていうのは、距離の狭いところでみんなで暮らさなきゃいけないので、例えば、誤解があれば謝らなきゃいけないし、“今は話したくないな”っていう時に誰かが来たりとかっていうのは、人間と同じように動物たちにもあるんですね。
身近なところでいうと、例えばニホンザルは、ボスとか自分よりも順位が高い他の猿が歩いて来るだけで、急に忙しそうに自分の手をグルーミングし始めたりとかするんですよ。“あー、忙しい!”っていう感じで、目を合わせないようにするんですね。面倒臭い猿が去っていくのを横目でずーっと見て、手先の毛づくろいなんかどうでもよくなっているけど、やっているフリをしている、そういうごまかしの行動を結構しているんですね。言われるまでもなく、みなさんもそういうことはしているんじゃないでしょうか(笑)」
●面倒くさい上司の人が来た時にパソコンをやったり……
「携帯やスマホをいじったり(笑)」
●(笑)。それをいかにナチュラルにやるのかっていうことを、ニホンザルに学ぶことができるんですね。
「タイミングが絶妙なんで、それは観察をお勧めします(笑)」
●あと今年は戌年なので、犬にまつわるお話も聞かせていただきたいです!
「犬は飼っている方もたくさんいらっしゃるから、経験的に結構わかると思いますが、犬って家族の一員の中で自分が何番目かっていうのをすごく気にしますよね。なので、小さいお子さんがいると助けてあげようとするし、その群れ全体、つまり家族をつなごうとする役割を犬はするんですね。
ですが、色々な性格の犬がいるので、中には“意識高い系の犬”っていうのもいるんですね。そういう、気を回していろいろお世話を焼きたい性格の犬が、先回りしてちょっとやり過ぎちゃったり、いつもやっちゃいけないと言われていることをやってしまった時に当然、飼い主に怒られちゃいますよね。“どうして噛んだの!”とか……」
●“どうしてティッシュペーパーをこんなにグシャグシャにしちゃったの!”とか。
「そういうことってありますよね。それは本人も、やっちゃいけないこととか、(飼い主の)気分を害してしまったということは汲み取れるので、その時にちゃんと謝るっていうことで、体のボディランゲージと、顔の表情をするんですよ。猫に比べると犬は顔の筋肉がすごく動かしやすいので、表情が出やすいんですね。だから例えば、謝るときは八の字眉毛になって“すいません”っていうポーズをしたり、上目遣いをしたりするんですよ」
●確かに、耳とかも垂れたりしますもんね。
「攻撃をする表情や姿勢と真逆のことをすることで、“私は今、謝っているんですよ”とか、“私のことを嫌いにならないでくださいね”っていうことを一生懸命アピールしようとするんですよね。よくプリクラとかで、目を大きく見せたり、上目遣いをしたりと、可愛く見せようとする表情があるじゃないですか。ああいうことに近いことを、犬は困った時や謝りたい時にすごくやりますね」
●あんな表情をされちゃうと、怒っていても怒れなくなっちゃいますよね。
「“しょうがないなぁ”とか、そんな気持ちにさせられますよね。犬の表情っていうのは、良く観察して、可愛く見えるようにモノマネしてみると、どこかで使えるかもしれないですね」
●怒られた時に、“く〜ん、ごめんなさい!”って謝れば、もしかしたら許してもらえるかもしれない(笑)。
※私たち人間も、他の動物からみると「しくじっているな」と思われるようなことはあるのでしょうか?
「動物として人間を見た時に、結構優れている部分もあるんですよ。どうしても頭脳とかに話がいきがちですけど、例えば人間は長時間運動することができるじゃないですか。今、熱中症とかがすごく騒がれがちですけど、私はおそらく、動物の中で人間が一番熱中症に強いと思うんですね。
その秘密はまず、熱がこもらないように毛をなくしているということと、汗を全身でかけるので、気化熱で急速冷却できるんです。だから、マラソンみたいに長時間走るようなこともできるんですけど、他の動物は意外とそういうことができないんですよね。激しい運動をすると10分ぐらいで死んでしまったりするんです。
なので、暑い場所は得意だったんですけど、結局人間は世界中に進出したんで、進化の過程でなくした毛の代わりに服を着なきゃいけなくなっているわけですよね。なんなら、動物の毛皮を着たりもしますしね。皮肉なことに、進化で勝ち取った、数少ない動物の中で優れている部分を、結局また元に戻ってフォローしなきゃいけないんですよ」
●動物たちから見たら、“せっかく毛をなくしたのに、また毛を着ているんですか(笑)”って笑われているかもしれないですよね。
「そう思いますよ。“それって一体、どういうことですか?”って言いたいでしょうね」
●しくじらない動物っているんですか?
「私はいないと思いますけどね。例えば遊びをする動物って限られているんですよね。全ての動物が遊ぶかっていうと、そうではなくて、例えば霊長類とネコ科動物と、あとは有蹄類(ゆうているい)という、ヒヅメのある動物ですね、鹿とかヤギとか。このあたりが“遊び”っていう行動をするんですよね。
ところが、それが未だに謎なんですよね。なんで遊ぶのか。遊ぶ必要があるのか。でも、狩りをする時にしくじったり、捕まえようと思ったらあと少しのところで逃げられた、などは遊びの中で経験していくんで、そこだけ切り取って見ると失敗してしくじっているんですけど、長い生涯の中で見ると、それが動物たちにとっても活かされてくるんですよね。
だから“しくじり”って面白滑稽で、笑っていいことだとは思うんですけれど、一方でそれを経験したやつはたくましく、強くなっていくんですよね」
●じゃあ進化の過程では、この“しくじり”はすごく重要なわけですね。
「重要でしょうね」
●なんだか、それって私たち人間にもすごく当てはまりますよね。
「そうですね。だから、“失敗しないようにしよう”っていうのをあまり気にしすぎると、そっちのほうがストレスになったりとか、しんどくなったりするんじゃないでしょうかね。他の動物はこれだけもう、しっちゃかめっちゃかやってるんで(笑)。人間もあんまり気にせず、何かやらかしても尾を引かないで笑いに変えたりすると、楽しく生きられるんじゃないですかね」
●あとは、人間から見たら“しくじり”だけど、本人たちにとっては重要なことだったりするんですよね。
「それがまた面白かったりするんですよね。本人たちは真剣にやっていて、笑わそうとしてやっていることじゃなかったりするからこそ、“クスッ”って笑ってしまったりしますしね」
●最後に、動物たちのしくじりから、どんなことをみなさんに感じて欲しいですか?
「今回『しくじり動物大集合』と『もっとしくじり動物大集合』の2巻を出したんですけれど、本の一番最後にどうしても私は“人間”を入れてみたくて、結局人間は他の動物と同じく並べた時にどうなのか、ということを解説していますので、ぜひ読んで動物の欠点を“粗探し”ではなくて、“魅力”として見つけられるようになってもらったらいいなと思っていますね」
身体を冷やすために毛をなくしたのに、結局服を着ている。そう言われると、私たち人間も確かに結構「しくじっちゃって」ますよね。でも、動物の中で最も「しくじっても克服するために努力する」のも、人間だそうですよ。
永岡書店 / 税込価格 各1,058円
動物の進化や行動に関する“しくじり話”が満載。カラーのイラストや四コマ漫画もあり、笑える話の中にも、動物の特徴などがしっかり織り込まれています。そして、漢字には読み仮名がふってあるので、お子さんにオススメ。もちろん大人が読んでも面白いです!
詳しくは、永岡書店のオフィシャルサイトをご覧ください。