今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、夕陽評論家・油井昌由樹さんです。
油井さんは1947年、鎌倉生まれ。大学卒業後、世界一周の旅で、海外のアウトドア・カルチャーに魅せられ、帰国後72年に、西麻布に輸入販売のショップ「スポーツトレイン」をオープン。海外のアウトドア・グッズの発信基地として当時のトレンドをリードしてきた、まさにアウトドア界のパイオニアであり、レジェンド!
さらには雑誌の編集・執筆、イベントのプロデュースほか、俳優として黒澤明監督の作品に出演するなど、マルチな才能を発揮してらっしゃいます。
今回はそんなアウトドア界のレジェンドに、長年使っているアウトドアの道具、そしてサバイバルの心得などうかがいます。
※まずは、油井さんが必ず持っているというアウトドア・グッズについて。特注のベルトに収納ケースをつけて、キャンプのときに携帯しているというグッズは、こんなものでした。
「俺がどんな時でも必ず持っている道具っていうのがあって、それはこのZippo(*)が収まっているバックルと……」
*Zippo・・・ジッポー社のオイルライター。
●今、実際に身に付けている、そのバックルですね。
「うん、それとこのナイフは、もう40年ぐらいになるかな。あと、このガーバーをこういう風に(ベルトの収納ケースに)入れているのは多分、俺だけだと思うよ。(アウトドアだとよく)片手がふさがっている時ってあるじゃん。例えばロープを切んなきゃっていう時に、片手しか空いていなかったら“(ロープを掴んでいる手を)離したらヤバい!”ってなるでしょ。そういう時に片手で操作できるのがこのガーバーなんだけど、これって最初に発売されたガーバーなんだよね」
●いくつぐらいの機能がついているんですか?
「わからないけれど、十徳ナイフよりももうちょいあるんじゃないかな。40年使うと、このガーバーでどれくらい人助けしたかわかんないくらい活躍しているね」
●やっぱりアウトドアのグッズって、片手で扱えたり、すぐ収納できるものがいいんですね。
「基本は両手を空けることだからね。あと、これも40年ぐらいになるんだけど、俺がデザインして以来、一回も変えないでずーっと使っている“着られる”バッグなんだよ」
●ベストのような感じですけど、カバンの要素がたくさんありますね。
「そうそう。いろいろと入るところがあるんだよね。これを着ちゃえば両手が空くからね。さっきのオイルライターとか、このバッグに必要なものがほとんど入っているしね」
●オシャレ感もありますね! 本当に体の一部みたいにアウトドア・グッズを身につけられるのがいいですね。
「持っていることを忘れちゃうような、必ず持っているっていう習慣ができている。それがサバイバルのひとつの、ものの考え方かもしれないね。
やっぱり経験を積んでいくうちに、“今までいっぱい持っていたけど、いらねぇか”ってことになってきて、それが段々、知恵に変わってくるんだよね」
※ウエアの着方についても、コツがあるようです。
「あとは、例えば服の着方も、必ず綿が上! 俺の場合は焚き火をするから、もしナイロンが上だったら服が穴だらけになっちゃうよね。
俺は過去に一回、火の中から動物を助けたこともあるけど、そういうふうに本当に家事とか火の中から脱出しなきゃいけないっていうことも起こるかもしれないからね。もしナイロンが上だと、服がベタってくっ付いちゃうから、自分が火傷しちゃうよね。だから必ず綿が上っていうのは、基本的なことだね。
重ね着っていうのが、POPEYE(*)をやっていた頃からの油井昌由樹の特徴だからね。当時はレイヤードっていうと、油井昌由樹だったんだよ。この服も重ね着で、上が綿で下がナイロンでしょ」
*POPEYE・・・ファッション雑誌・情報誌。1976年創刊。
●本当だ!
「だからもう今では、こういう着方になっちゃっているんだよ」
●焚き火をする時にはウエアの着方に注意することが大事なんですね。
「そうだね。皮や綿、ウールとかっていう天然素材を俺は信頼しているからね。だけど、機能的にいうと、合成素材っていうのはどうしても使わざるを得ない。けれど、それを使っているとヤバいこともある。それは経験的に知っているし、そうしたらじゃあ、そうならないようにすればいい。そういう風にひと工夫すれば、もしそれが癖になってしまえば、もうあとは忘れても大丈夫だからね」
●新しくていいものを使うためには、そういう工夫をすることが大切っていうことなんですね。
「自分の野外での動きっていうのをよく知っていれば、そういうのは自然に身につくよね、“ああ、あれが必要だな”とかさ」
※アウトドアの必需品のひとつに、ランタンなど、灯りになるライトがありますが、そんなライトのお話をうかがっていると、油井さんからこんなエピソードが飛び出しました。
「ライトももちろんいいけど、ライトがないキャンプで、“あ、いけね、ホワイトガソリン忘れた!”ってなった時が何回かあったんだよね。当時は“電気を使っちゃいけない”っていう変な意識があって、要するにキャンプそのものの楽しみ方として、“不便を味わいに行く”ようなところがあったからね。
けど、そうすると真っ暗じゃん。でもね、それから、“あ、暗いのもいいね”っていうのがわかってきたんだよ。“別に、焚き火の光で十分じゃん!”っていうことがわかるわけ。焚き火の光源だけで。
犬と一緒にいたんだけど、いつも相棒として一緒にいたその犬が焚き火の前によく行っていて、“お前、よく火傷しないな! 熱くないの!?”っていうくらい、頭を突っ込む感じで寝てるんだよ(笑)!
キャンプでそういう静かな所にいると、焚き火の光だけがあたっている森の木々や、その森から抜けているところには満天の星空、ホワイトガソリンのランタンの光じゃない、つまり電気じゃない、あの焚き火のオレンジ色の……憎いやつ(笑)わかる人はわかるよね(笑)。要するに、夕陽色だよね。そういう焚き火の爆ぜる音と、風が吹くと落ち葉がコロコロってなったり、サァーーーって音が聴こえてくるんだよ。
俺がキャンプを始めるとそこにいた動物たちはどっかに行っちゃうんだよね。でも2泊か、もしくは丸1日かな、過ごしていると、3日目ぐらいにはもう動物たちは帰ってくるよ、俺が“なんてことない”やつだってわかれば。そのぐらいになると、もうさ、見えないんだけど、音とか気配で“落ち葉がここから20メートルぐらい先を、左手前から右向こうに転がっている音だな”っていうことが判断できるようになるんだよ、本当に! 誰でもできると思うよ」
●立体的に音が聴こえてくるんですね。
「そうだね。要するに、映像が見えるような風の音っていうのかな。“なぜこの風はこんな音がしているのかっていうと、あそこに針葉樹があって、確かあそこの枝がああなっていたな……ああ、あの音だな”っていうふうにイメージができるんだよ。
だから俺はキャンプ場に行くんじゃなくて、好きな森を見つけて、その森がある山を所有している人のところに一升瓶を持って、“ここでちょっとキャンプさせてください”って言うと使わせてもらえる、そんな場所をいくつかつくっているんだけどね」
※さらに、油井さんにはこんなこだわりもあるそうです。
「もともとキャンプっていう概念は、俺が始めた頃はなかったんだけど、アメリカに行ったらあって、野外でみんな楽しんでいたわけよ。“いいじゃん、これ!”と思ったんだけど、日本に帰ってきたら誰もやっていなくて。だから“(キャンプには)こういう椅子があるといいよ!”とか、よく言っていたね。
椅子はものすごく大事なんだよ。あのね、地面や切り株に座るんじゃなくて、文明の力である椅子を広げて、特に肘掛のついた椅子に座る。これで景色が全然違うんだよね!」
※油井さんは夕陽評論家でもありますが、そんな夕陽について最近、楽しみ方に変化があったそうです。
●どうですか、最近は夕陽、見ていますか?
「夕陽そのものの写真を撮らなくなったね」
●そうなんですか!?
「これまで長い間、それこそ何万枚と撮ってきたわけで、もちろん今でも綺麗だと思った夕陽はスマートフォンで撮っているけど、でも、構えて夕陽を撮るっていう行為は、もう全くしていないね」
●それは何か心境の変化があったんですか?
「というか、もうカメラや機材がよくなっていて、そこに住んでいる人には勝てないんだよ。ドラスティックな夕陽なんて、無理じゃん! 俺がそこに2、3日訪ねただけで、その日にすごい夕陽が出ればいいよ。だけど、そうはいかないわけじゃん。
ところが住んでいる人が撮る写真って、すごいわけ! もうネットが始まって、SNSがちょっと普及してきた時には“ええっ! すごい写真を撮っている奴がいるなぁ”って見てみたら、全くの素人だったりするわけなんだよ。
おばちゃんが“きょう、夕陽が綺麗!”とか言って撮った写真に電線がビューって写っているのが、またいいんだよ! “こりゃ、かなわねぇや”って感じになって、それを何度も何度も経験しているうちに、フィルムなくなったとか、カメラを忘れたとか、そういう日もでてきたわけ。夕陽を撮るっていう目的で行っているから、まずそういうことは滅多にないよ。でも、たまたまそういう時に“あ、いけね! フィルムの袋を忘れてきちゃった! もういいかぁ……”っていう時の夕陽のほうが、いいんだよ。
あのね、写真ってヤバいんだよ。本当は写真がなければ、そこにいた、あの時の感じっていうのが俺の中に定着しているはずなんだけど、だんだん記憶が薄れてくると、現実に色あせない写真を持っていると、全部“これ(写真に写っているもの)”になっちゃうんだよ!」
●確かに!
「だから、(写真に撮ることが)いいのか悪いのかよくわかんないんだよ!」
●すごい共感します! 今、インスタ映えが流行っているじゃないですか。でも、撮ることで満足しちゃって、自分の記憶にあまり残っていないんですよ!
「残っていないだろ? 結果の写真ばっかりで、“味、どうだったっけ?”とか、立体的に作ればいいのか、とかいう話になってきているんだよね。だから、(最近のこの風潮は)どうなんだろうかとは思うんだけどね」
※それでは最後に、まさにアウトドア界のレジェンドである油井さんに、サバイバルの心得をうかがいましょう!
「もともとアウトドアの店を1972年に始めた時には、頭の中には“サバイバル”っていう意識はすごくあったよ。“できる人をつくっていく”っていうことで、アウトドアで焚き火ひとつ起こせない人がいると、“こうやるんだよ!”って教えないと、他の人の面倒をみられないんだよね。ひとりでも多く、そういう人を増やしていくっていうのが、俺の使命だって本当に思っていたからね」
●そういうスキルを磨くことが大事ということですね。
「“磨く”って言うと、お勉強みたいで嫌でしょ? だけど“アウトドアは面白ぇ!”ってなれば自然と身についてくるよ。キャンプなんて一回行っちゃえば、もう誰でもプロだから!」
●例えば、災害があった時に避難して大変な生活をされた方もたくさんいらっしゃいますが、そういう経験をすることで、アウトドアの経験とか知識っていうのはやっぱり活かすことができるんでしょうか?
「すごく活かされるんじゃないかな。まず、どんな場所にいても“生まれ育った自分の家の、自分の一番好きな場所にいる”っていう精神状態になれるかが大事だね。もしそうなれた日には、余裕で物事が考えられるけど、“ヤバい!”とか思っちゃうと、簡単なことすらできなくなる。この精神状態になるためには、まずリラックスして、“まぁいいや”って思うこと。そこから始まる。するといろいろなものが見えてくる。これ、大事でしょ?
もうひとつは、できるだけ今、自分がいるところの近隣には、もうとにかく挨拶をして、みんなと親しくなる。そうすると、もし俺がそこで倒れていたら“あ、油井さんが倒れている!”って、話が早いじゃん。これがもし、知らん顔をして日頃から暮らしていたら、誰だかわかんないから、警察に言うことぐらいしかしないけど、日頃から挨拶をしていれば、確実に助かる確率がものすごく上がるよ! だから、自分が生息しているところや会社の周りでは、できるだけ人に好印象を与えるように! そしてみんなに認知させる、自分の存在を“いい人”として!
さっきの、サバイバル術の一番最初に言った、“家にいる感覚になること。生まれ育った家だと思うこと”についてだけど、極端に言えば、なかなか自分の生まれ育った家にそのままいる人って滅多にいないだろうけど、そういう場所にいるっていうことは、その中で(確かに)リラックスできているけど、退屈なんだよね。だから都会や外に出たくなったりするんだけど、その“退屈”っていう時間をなくす、って言うのかなぁ……。
要するに、何にもしていない時に、音や見えるものや匂いだとか、そういったことを何もしないで楽しめるか、っていうのがあるよね。多分これは、修行になるんだと思うけど。
今、自分が五感で感じている、この瞬間を大事にする。例えば“今、電車の音が聴こえている”っていうのを、常にどこかに留めておく。“今”っていうのは、過去でも未来でもないからね。写真を撮ったりしていると、そのことがなくなっちゃって、写真ばっかりになっちゃって、その時のことを思い出せないんだよ。
別にそういうことを覚えていなくてもいいけど、でも、やっぱりその時の感じだったり、“ああ、俺は生きているんだなぁ”っていうのを五感で感じるっていうことも(写真の話と)同じでしょ?」
●例えば、自然の中に行くことによって、そういうマインドがより磨かれたといったことはありますか?
「多分、そうなんじゃないかな。あと“ここから先は、怖い!”と思って行けなかった所に、気がついたら入れているっていうのは、自信がついて“あんなことがあったとしても、まぁ大丈夫でしょ!”っていうことがわかってくる、ということなんだよね。そうすると、自分の生息場所が広がっていく。これが素晴らしいことなんだよ。それを実感していくっていうのが“キャンプの醍醐味”みたいなところはあるんじゃないかな」
※この他の油井昌由樹さんのトークもご覧下さい。
「アウトドアに必要なもの」。それは経験を積むことで、知識へと変わっていくんですね。そしてそんな知識は、今の時代に欠かせないサバイバルのスキルとしても役立ちそうです。
油井さんの活動など詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。