今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、「天文ガイド」カメラマン・井川俊彦(いがわ・としひこ)さんです。
東京写真専門学校で写真を学んだ井川さんは現在、月刊誌『天文ガイド』で“天文カメライター”として活躍。また、ニコ生公式番組「ニコニコ天体観測」のナビゲーターや、ほかにも星空サイト「星の箱船・青ヶ島」を担当されています。
今回は、世界中の星空を撮っている井川さんに火星大接近や流星群など、今年後半の注目すべき天体ショーや「星の箱船」といわれる青ヶ島のお話などうかがいます。
※さあ、それでは天体ショーの当たり年である今年、2018年後半の注目すべきポイントをうかがっていきましょう。一体どんな天体ショーが待っているのでしょうか!?
「まず、今年の1月下旬の満月の時に皆既月食が起こりまして、この時はすごく条件のいい皆既月食で、ちょうど深夜ぐらいに向かって月が徐々に欠けていって、真っ暗に赤黒い…赤銅色(しゃくどういろ)っていうのかな、そんな感じの色になる現象が見られましたよね。そして7月28日にも、また皆既月食があります。今度はちょっと条件が悪くなりまして、東京ですと明け方ですね、朝の3時半くらいから欠け始めて、西の空にだんだん傾きながら、そろそろ皆既月食になるという頃に、沈んでしまうんですね」
●あ〜、そうなんですね。
「日の出になってしまうんで、あの時のような赤黒い月が見られるかっていうのは微妙なところですね。西の方に行けば行くほど条件がよくなって、沖縄ぐらいまで行くと赤い月が見られますね」
●赤い月が見たい人は西へ行こう、ということですね。ああいう天体ショーって見ると、ドキドキわくわくしますよね!
「そうですね。普段から見慣れた満月でも、徐々に地球の影の中に月が入っていって、それが真っ暗になるんじゃなくて、ほんかわ赤黒い、赤銅色になるっていうのがすごく神秘的な現象なんで、盛り上がりますよね!」
●他にはどんな天体ショーが、この後はあるんでしょうか?
「あと今年は何と言っても、メインイベントと言っても過言じゃないと思うんですけど、“火星の大接近”っていうのが7月31日にあるんです。実に15年ぶりぐらい! これはどういうことかというと、地球と火星って太陽系の惑星ですから、水金地火木土っていう順番で太陽を中心に回っていて、地球のすぐお隣の惑星が火星なんですね。地球は太陽の周りを1年で1周しますが、火星は1.88年ぐらいで1周するんです。それで時々、2年2ヶ月ぐらいのタイミングで地球と火星が接近するタイミングがあるんです。その中でも一番近づくのが、今年なんです」
●どれくらい近づくんですか?
「望遠鏡の倍率で言っちゃうと、例えば肉眼で満月を見ても、満月の模様が見えたりするじゃないですか。(今回、接近する火星は)天体望遠鏡で70から80倍ぐらいの倍率で見ると、肉眼で見る満月の大きさぐらいに見えるんです」
●じゃあ今回は、火星の模様が見えるかもしれない、ということですね。
「もう、見えますね!」
●見えちゃうんですか!? あら〜! 模様だけじゃなくて、火星人とかも見ることができたら面白いですよね(笑)。
「火星人、ひょっとするといるかもしれないですよね。これまでも、こういう大接近の度に話題になっていて、望遠鏡ができてからしばらくして、1877年の大接近の時に、イタリアの天文学者が望遠鏡で見た時に、“どうも、火星の表面に溝みたいなのが見えるぞ”ということを発表したんですね。そしたら、イタリア語で“溝”っていう言葉が英語に訳された時に、“運河”っていうふうに訳されちゃったらしいんです。つまり運河っていうことは、誰かが人工的に掘ったんじゃないか、つまり火星人や知的生命体がいるんじゃないか、ということで大騒ぎになっちゃったっていうエピソードがあったりしますね。なので今回の接近でも、もしかしたら何かあるかもしれない(笑)」
●それぐらい近くで火星を感じられるんですね! 方角とか、見る時のポイントはありますか?
「7月31日が一番、火星が地球に近づくんですけど、その日だけじゃなくって、その前後1ヶ月ぐらいは結構大きく見える期間なんで、そのころはだいたい、射手座とか山羊座のあたりに火星がいて、それが一番明るい時でいうとマイナス2.8等級なんですね。これってどれくらい明るいかというと、今は木星もギラギラと光っていますけど、一度見上げればもう、あれが火星だなっていうのがわかるぐらいの明るさですね。赤い星なので、見た目も赤く見えます」
●方角はどこなんでしょうか?
「東の空から、夕暮れからだんだん登ってきて、ちょうど深夜に真南に来るくらいの時間帯ですかね。なので7月の下旬で、深夜に南の方角に赤い星があれば、それは間違いなく火星です。相当明るくビカビカ光ってます!」
※月、火星、ときたら、次に気になるのはやっぱり流れ星!? ということで、これから見られる流星群にはどんなものがあるのかうかがいました。
「お盆の頃、8月12日か13日にピークを迎える、ペルセウス座流星群というのが毎年見られるんですけど、今年は、8月11日が新月になるんですね。新月ということは月明かりがないんで、月明かりに邪魔されずに、一晩中、条件のいい状態、つまり暗い空の状態で流れ星が見られるということで結構、期待されますね」
●これは、どの方角を見ていればいいですか?
「これは、ペルセウス座流星群っていうように、ペルセウス座という星座の名前がついていますけど、夜空の四方八方に飛び散っていくっていう流星群なんですね。時間帯でいうと、ペルセウス座が登るのが夜遅くなってからなので、これも深夜11時とか12時とか、それぐらいから明け方にかけてずっと一晩中、どこを見るというよりも、全天どこでも好きな方向を見ていただいて大丈夫です。例えば“〜〜座が見えるから、夏の星座の方を見てみよう”とか、“白鳥座が見えるから、そっちの方を見てみよう”とかでも構いません。後は偶然というか、どこに流れるかは誰にもわかりませんので(笑)」
●じゃあもう、見逃せないですね! 他には何か、井川さんが楽しみにしていらっしゃる天体ショーはありますか?
「流星群でいうと、これも毎年なんですけども、年末の12月13日から15日あたりに、ふたご座流星群っていうものがありまして、これも毎年定期的に、必ずかなりの数が流れます。流星群の中にかなり明るい、“火球(かきゅう)”というものが出現するんですけど、これは早い話が、大きな流れ星のことで、稲妻みたいに“ビカビカビカ〜〜!”って光りながら、地面も輝いて光っちゃうぐらいの明るさなんですね。昨年は僕ら『天文ガイド』のスタッフがニコニコ生放送っていう生中継で放送したんですけど、その現場で大火球が流れた時に、これは後からわかったんですけど、マイクで流れ星の音を捉えていたんです!」
●え!? どんな音だったんですか?
「“流れ星の音”って言っていいのか、まだメカニズムがはっきりわかっていないんですけど、これは不思議なんですけど、“ビカッ!!”って大火球が流れますよね。それと同時に“パチコーン!”って音が入ったの!」
●“パチコーン!”って音なんですか(笑)!?
「普通、光ると同時に音が聞こえるっておかしいじゃないですか。雷が鳴ったら、音は後から何秒か遅れて鳴りますよね。でも、そうじゃなくて、光ると同時に音が鳴る現象っていうんですかね……。だから、正確にいうと音ではないということなのかもしれませんね」
●何なんですかね?
「詳しくはわかっていないんですけど、“電磁波音”みたいな言い方をされますけども、大きな流れ星が流れた時って、地球の大気ですごいエネルギーが発せられて、そこで電磁波が生じるんですね。電磁波は光と同じ速度でやって来るんで、それで僕らが観測している現場で音波に変換されて、多分、音になって聞こえているのかもしれません。とっても世にも不思議な現象! でも何百年も昔から、流れ星から音が聞こえることがある、みたいな噂というか情報はあって、それが最近になってだんだんわかってきたんですね。そういった意味では、まだワクワクすることがたくさんありますね!」
※実は東京都に、宇宙船が星空を漂っているような、そんな景色が見られる場所があるって知っていましたか? その場所に井川さんは通い続けて写真を撮られているそうなんです。一体どんな場所なんでしょうか?
「都心から360キロぐらい離れた、伊豆諸島の最南端、八丈島から70キロぐらい離れた所に、ものすごく小さな島で、1周9キロぐらいの“青ヶ島”という島があるんですね。ここは、東京からですと竹芝桟橋から船で八丈島に渡って、そこから船かヘリコプターで渡るんです。気象条件によっては運休になっちゃったりして辿り着けない島なんですけどね」
●実は私、青ヶ島は知らなかったんですけど、“星の箱船”って呼ばれているんですよね。
「まあ、それは僕が勝手に命名したようなものなんですけどね(笑)」
●これ、井川さんが命名したんですか!?
「実はそうなんです。というのは、青ヶ島ってすごく特徴的な地形をしていまして、すごい大きなカルデラがあって、そのカルデラの中にまた噴火によってできた小さな山があるんで、“二重式カルデラ”になっているんですね。標高が400メートルぐらいあるんですけど、その外輪山の天辺から見ると、まさに青ヶ島が大きな船みたいに見えるんですよ。その船の船首に立って星空を仰いでいるような、そんなイメージから“星の箱船”っていうネーミングをつけたんです」
●とても素敵なお話ですね!
「すごく神秘的な島です」
●その船のようなところに立って見上げた星空は、どんな感じなんですか?
「青ヶ島っていうのは絶海の孤島なんですよね。周りには本当に何も無くて、一番近い島が八丈島なので、人工的な光が都会に比べたら皆無なんですね。街中だとネオンサインや街灯がいっぱいあったりしますけど、青ヶ島って人工がすごく少なくて、160人から170人くらいなんですね。日本で一番、人口の少ない自治体なんですけども、空を見上げれば満天の星空なんです」
●井川さんは何がきっかけで、青ヶ島に行くことになったんですか?
「マルチタレントで宙(そら)ガールの篠原ともえさんのお母さんとおばあさんのご出身の島が青ヶ島なんですね。その島に2010年に篠原さんがデビュー15周年記念でライヴをやることになったんですが、“青ヶ島はすごく星空の綺麗な所だから、『天文ガイド』(スタッフ)さんも一緒に来ませんか? そこで島の人たちと一緒に天体観望会を開きたい”というお話をいただいて、それで取材を絡めて行ったのがきっかけですね。それで月刊誌『天文ガイド』で記事を2ヶ月に渡って6ページずつ展開したら、すごく反響がありまして、それを見た青ヶ島村役場の職員の方が、“そんなに青ヶ島が星空の綺麗な所であれば、ホームページを作ってもらいたい”っていう話になって、それから通うようになりましたね」
●地元の人たちは、それまで星空が綺麗ってことを自覚していなかったんですね(笑)!
「そうなんですよ! 常に綺麗な星空が出ているんで、あんまり気にも留めていなかったっていう感じなんでしょうね。都会に住んでいると、星なんかほとんど見ないじゃないですか。だから都会の人がそういった島に行くと、“わぁーっ……!”ってなりますけどね(笑)」
●それで、今では星空をアピールしているんですね。
「そうですね。今では世界的にも有名になって、海外からも結構、お客様がいらっしゃっているみたいですね」
●なんでも、夏の天の川がすごい綺麗だと青ヶ島のホームページに載っていたんですが、どんな感じなんですか?
「夏の天の川っていうのは、方向的には射手座とか蠍座の方向なんですけど、それらの星座は我々が住んでいる銀河系の中心方向に位置するんですね。そこの一番濃い、太い天の川が夏には見られるんですよ。だから、青ヶ島みたいな星空の綺麗な所で見ると、一層それが際立って、白い雲のような“ミルキー・ウェイ”って言いますけども、すごく綺麗に見えますね」
●雲のような感じなんですね。
「そうです! 白い雲が流れているような感じです」
●それを箱船の中から見たら、気持ちいいでしょうねぇ!
「カルデラの中から見ると、“天然プラネタリウム”みたいな感じですかね。外輪山の頂上まで行くと、360度、視界を遮るものが何もないので、本当に宇宙そのものですね! もう、海と宇宙が繋がっちゃっている感じなんです。日本国内、海外でもこういった場所はそんなにないんじゃないかなって思いますね」
※それでは最後に、星空観測のコツをうかがってみます! 例えば、星座は覚えた方がいいのでしょうか?
「星座を知っていたほうが、やっぱり楽しいですけども、僕が子供の頃の星座の覚え方は、例えば冬であればオリオン座が有名じゃないですか。夏であれば白鳥座とか……。そういった有名な、形のわかりやすい星座をまずは覚えて、それからその星座のお隣にはどんな星座があるのかな、というように、隣を探していくっていうんですかね。そういう時に星座早見盤が役に立って、星座の形がわかったりしますね」
●まずは1つ覚えて、そこから広げていくように覚えていくんですね。
「そうですね。すごくわかりづらい星座なんかもいっぱいありますからね。僕なんかも、“あれ、何座?”って聞かれてわからないこともありますから(笑)」
●井川さんでもわからない星座があるんですか!
「“望遠鏡座”とかいう星座もありますからね。“三角座”っていう星座もあるんですけど、そんなこと言ったら、星が三つあったらみんな三角座になっちゃいますからね(笑)」
●私も星座を調べたことがあるんですけど、すごい面白い名前の星座も結構ありますよね(笑)! そういう、自分が気に入った星座を覚えていくのも楽しいかもしれませんね。あとは、肉眼や望遠鏡で見て楽しむことは私たちもできると思いますが、写真を撮るとなると、ちょっと難しいですよね。
「写真は最近ですとコンパクトデジタルカメラでも“星空撮影モード”みたいなものもあったりするんですよ。そういうモードに設定すれば、わりと簡単に撮れたりしますね。あとは、最近出た新型のミラーレス一眼カメラとか一眼レフカメラであれば、結構綺麗に撮れますね。でも星空の場合は、フルオートだとカメラがどこにピントを合わせたらいいかわからなくなっちゃうので、マニュアル設定にして、自分でピントを“無限遠”という、一番遠くの景色にピントを合わせる。レンズは“しぼり”っていって、人間の目でいうと瞳孔に相当する、光を取り入れる部分ですけど、そのしぼりを開けるんですね。そうすると、光がたくさん入ってきます。それと、ISO感度っていう感度を高感度にしたりするといった、感度設定ですね。これは現場の空の明るさによっていろいろと変えなくちゃいけないんですけど、そういった設定をするとちゃんと撮れます。もちろん三脚は必要ですよ! 手持ちだとなかなかブレちゃって撮れないですからね。流れ星の時なんかは、写真にぜひチャレンジしていただきたいですね」
●流れ星も撮れるんですか!?
「流星群だって撮れますよ! 絶対に写ります」
●一回、私も挑戦したことがあるんですけど、その時はうまくいかなかったので、次こそは頑張ってみようと思います! では最後に、井川さんが今後、見に行きたい星空は何かありますか?
「ボリビアに“ウユニ塩湖”ってあるじゃないですか。湖面に星空が映るような、あんなところに行ってみたいとかは思いますけども、日本の正反対ですから大変ですけどもね。あと、非現実的なところで言いますと、月面から皆既月食を見てみたい!」
●(笑)。どう見えるんですかね?
「どうなんでしょうかね、太陽がさんさんと輝いているところに、黒い影の地球がだんだんと入っていって、それで皆既日食になりますよね。そうすると、それは地球から見ると皆既月食を見ているわけですよね。だから、“地球から見る皆既月食を、月面から見る皆既日食”っていうんですかね。ちょっと複雑なんですども(笑)。でも、すごい神秘的なことは間違いないと思いますね! 地球の周りには大気圏がありますよね。その大気圏が、つまり地球の周りが薄い赤いリングに見えるんじゃないかなと思うんですね。それで、その周りを太陽のコロナがブワーって見えているんじゃないかなぁ」
火星の溝が運河と誤訳され、「火星人はやっぱりいたのか!」と騒ぎになったというお話。実は続きがあって、そこから小説『宇宙戦争』が生まれ、それをモチーフにしたラジオドラマも作られたそうです。ひとつの天体ショーが、無限の想像力を生むのかもしれませんね。
誠文堂新光社/税込価格1,296円
今年もっとも注目されている、大接近する火星の解説や、小惑星に到着する「はやぶさ2」が大特集されている一冊。誠文堂新光社から6月下旬に発売予定です。
現在発売されている月刊誌『天文ガイド』6月号、特集は「星空動画にチャレンジ」。ほかにも大接近する火星の解説などが掲載されています。
いずれも、詳しくは誠文堂新光社のオフィシャルサイトをご覧ください。