今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、写真家・ケースケ・ウッティーさんです。
ケースケさんは1977年生まれ。自然科学系の写真を生業とし、国内では北海道・知床の野生動物、海外ではアフリカでゴリラ、東南アジアでオランウータンなどを撮影、特に人間の行為で絶滅に追いやられている野生動物にスポットを当てた作品を発表しています。
主に大型類人猿の作品を発表しているケースケさん。2013年にご出演いただいたときは、アフリカに生息しているゴリラのお話をうかがいましたが、今回は東南アジアの森に暮らしている「森の人」オランウータンのお話などうかがいます。
※オランウータンといえば、赤い毛に長い手足、赤ちゃんはまるで人間のようで本当に可愛い! そんなオランウータンを、ケースケさんなぜ撮影しようと思ったのでしょうか。
「僕が(オランウータンを)撮るきっかけとなったのは、2002年に大規模な森林火災がありまして、オランウータンの生息する森っていうのもずいぶんなくなってしまったんですね。それでプランテーションに変わったりとか、そういう問題がありまして、“あと10年したら野生でオランウータンが見られなくなる”って言われていたりとかしてたんです。それで翌年に、じゃあ行ってやろうと思って(オランウータンがいるところに)行きました」
●10年したら見られなくなるかも、ということが言われていたんですね。
「それぐらい危機的な状況ではあったんですね。まあ、今もあまり変わらないとは思いますけどね」
●そもそも野生のオランウータンっていうのは、どんな場所にどれくらいの種類がいるんですか?
「オランウータンっていうのは、アジアにしか生きていない大型類人猿と言われていまして、ボルネオ島はみなさんご存知かと思いますが、そのボルネオ島とスマトラ島だけにしかいないんですよ。ボルネオ島にいるオランウータンのことを“ボルネオランウータン”、スマトラ島にいるものを“スマトラオランウータン”と言っていました。
ですが昨年、スマトラに棲んでいるオランウータンが新たな種類に分けられました。“タパヌリ県”という県がスマトラ島にあるんですが、その名前を取って“タパヌリオランウータン”という種類が新たに認定されましたので、全部で3種類ということになります」
●昨年2017年ですか! 認定されたてホヤホヤですね(笑)! でも、もともとは2種類、2つの場所にしか生息していないんですね。
「そうですね、とても貴重だと思いますね」
●他の類人猿と比べて、オランウータンの生活はどうな感じなんでしょうか?
「オランウータンは樹上生活をします。一方、ゴリラは地上を使っていて、チンパンジーは樹上も地上も使いますし、ボノボもチンパンジーと同じような暮らしをしていますね」
●なるほど、オランウータンは樹上生活が成り立つ場所じゃないと暮らせないんですね。
「ええ、つまりジャングルですよね」
●本当にオランウータンは森と切っても切り離せないんですね。
「だからオランウータンは“森の人”って言われているんですね」
●他にもチンパンジーやゴリラと違う特徴はあったりするんですか?
「オランウータンは“孤独の類人猿”って言われているぐらい、一頭だけで暮らしているか、メスは子供と親と暮らしていて、群れとかは作らないんですよ」
●それはどうしてなんですか?
「ボルネオ島とかアジアのジャングルっていうのは、植物がランダムに開花するんですよ。なので、実もランダムにできるんです。つまり、一斉開花するときは食べる物もいっぱいあるんですけど、普段は食べ物に乏しいということなんですね。だから群れを形成していると、食べ物に有りつけないっていうことが、ひとりで暮らすきっかけになったというか、ひとりで暮らす方が有利だということですよね」
●そういう話を聞くと、オランウータンってすごく面白い生態だなと思います!
「そうですね、木からほとんど降りてこないような生活をしていますし、腕の長さが足の2倍あったりというのが、オランウータンの特徴だと思います」
●木から降りてこないっていうことは、どうやって寝ているんですか?
「木の上に巣を作るというか、ゴリラも作るんですけど、毎日新しいベッドみたいなのを作って寝ているって聞きますね」
※オランウータンはだいたい20〜30mの樹上で生活しているそうです。ビルでいうと15階ぐらいの高さなので、かなり高い場所で生活しているんですね!
そんなオランウータンは顔の一部に面白い特徴があるんです。それは強いオスにだけ現れるものだそうです。
「“フランジ”っていう、成熟した力の強いオスが頬の周りにエラのような、ちょうど手の平をパーにしてほっぺたにくっつけたような感じのものがあるんですけど、それが大きければ大きいほど力の強いオスだって言われていますね」
●ボスになったからそれが大きくなる、というわけじゃないんですね。
「“アンフランジ”っていう、大きくならないオスももちろんいますが、ただ、フランジを持っているオスがいなくなってしまうと、(ほかのオスの)その部分が急激に発達してフランジを持ったオスになるんですよ! ですけど、一度大きくなったそのエラのようなものが小さくなることはないんですね。あと、フランジ同士のオスっていうのは、出会ってしまうとすぐケンカになりますね」
●なるほど、じゃあ強いオランウータンを見分けるためには、フランジの大きさで見分けるといいんですね。
「そういうことですね」
●面白いなぁ! ケースケさんは撮影をされていて、面白いなと思う瞬間に出合ったりされました?
「例えばみなさんは、オランウータンの毛は赤いっていうのはわかると思うんですけど、あれって木の天辺のあたりに行くと逆光になるんですよ。逆光になると、その毛が黒く見えるんです。そうすると他の影と見分けがつかなくなるんで、動かないとなかなか見つけることもできないと思いますよ」
●そうなんですか!? 確かに、あんなに毛が赤くて森の中で目立たないのかなってすごく疑問だったんですけれど、そういうことだったんですね!
「僕は、あれは迷彩だと思っていますけれどね。多くの動物の体や体色とかってそういう感じだと思いますね」
●じゃあ、撮影するのは大変だったんじゃないですか?
「そうですね。僕が撮影したのは、“半”野生というか……。さまざまな要因で一度、人に助けられたオランウータンたちを森に返してあげるっていうプロジェクトがあるんですね。オランウータンの食べ物って乏しかったりしますし、お母さんと一緒に生活するのが8年、独り立ちするのに12年ぐらいかかるんです。なので、それを学べなかった子たちは、(ひとりで生きていくことは)絶対にできないですよね。そこで1日に2回ほど、おやつ程度のエサをあげる場所がありまして、そこでオランウータンを呼ぶんですよ。そうすると、“ああ、来たぁ!”って感じでこっちに来るんですよ」
●呼ぶとやってくるって、すごく可愛いですね!
「そうですよ! 大きいオランウータンも来るんですけど、あんまり音はしないですよ。すごいなぁと思いますね。森の中をスゥーって滑るように来る感じですかね。そういうのも魅力的ですよね、僕たちにはできないことなので。樹上を歩くような感じで移動しているというか。
エサ場みたいなところに来るときは二足歩行することもあるんですよ。両手に芋とかを持つと、手がいっぱいになりますからね。ちょっと不恰好な歩き方ですけどね(笑)」
※放送時はこの後、2018年5月21日にエベレストで亡くなった登山家・栗城史多さんへの、追悼の意を込めてMr.Childrenの『終わりなき旅』をオンエアしました。
栗城さんの過去の放送内容については、ぜひこちらをご覧ください。
※全世界の植物油の中でダントツ1位で生産されているのは、アブラヤシの実から採れるパーム油だそうです。私たちが普段、口にするスナック菓子やインスタント食品ほか、化粧品や洗剤など、身のまわりにある製品のラベルを見てみると、「植物油」や「油脂」と書かれていませんか。その多くはパーム油だそうです。
実はそんなパーム油とオランウータンには、深い関係があります。
「今、生息域がどんどん減少しているっていうのが、一番オランウータンたちの脅威になっていますね」
●生息域が減少してしまっている、主な要因というのは何なんですか?
「僕がオランウータンの棲んでいるところに行ったときも、焼畑をやっているなんて情報を聞きましたけど、実はそれは焼畑ではなくて、もちろん現地の人も小さな規模で焼畑はするんですけど、焼畑って言われていた場所が広大なんですよ。そのあと、そこにプランテーションができたんですね。つまり、アブラヤシですよ。アブラヤシを使っている製品はいろいろありますけども、そういう施設ができて、どんどん農園ができていきますよね。
そうなると、オランウータンがそういう場所に出て来てしまったりすると、“あっち行け!”ってやられたりする対象になってしまい、(森がないので)移動できなくなっちゃうんです。そういうのが要因となり、数がどんどん減っているんですね」
●そのパーム油は私たち日本人もお世話になっているわけですよね。
「そうですね。要は、天然資源の開発っていうことですよね。これはアフリカとかでも同じなんですけど、自然を開発して、財産を得る。そして外貨を獲得するっていうことですよ。それが一番の脅威ですよね、やっぱり外貨は欲しいですから。自分たちの国で製品を作ることができなかったりすると、自然を切り開いて、そういうのを採って売るっていうのが、手っ取り早いじゃないですか」
●何か、私たち日本人ができることってあるんですか?
「そうですね……気をつけて生活するって言ったって、なかなかできるものではないですし、私たちも間接的に関わっていますが、多くの方は関わっているとは認識していないと思います。ただ、そういうのを守っていこうとか、保全していこうっていう団体が多くありますので、寄付をするっていう方法はありますね。
でも、僕が一番思っているのは、“オランウータンっていう動物のことを気にして欲しい”っていうことですね。そのために僕は展示をしたり、そういう活動をしていきたいなと思っています」
●気にします! アジアにしかいない類人猿ですから。
※私たちができることには、他にもあります。
例えば、ケースケさんも会員のWWF(世界自然保護基金)などが、持続可能な方法でパーム油を生産している農園や企業を認定し、認証マークを発行しています。そのマークは『RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議"Roundtable on Sustainable Palm Oil")』。
RSPOマークのついた製品を選ぶことで、熱帯雨林の保護や、オランウータンの保護に繋がる仕組みになっているようです。これを読んでいるあなたも、まずはRSPOマークのついた製品を選ぶことから始めてみてはいかがでしょうか。
ケースケさんは国内外の自然を撮っているうちにこんなことを考えるようになったそうです。
「僕は動物、特に哺乳類を求めて行くんですけども、もちろん、広大な自然や豊かな自然って大切で、大自然は守らなきゃいけないって多くの方が思うかもしれないけど、身近な自然も、本当はとっても大切なんですよ。ですけど、身近な自然ってどんどんなくなっていったりするんですね。
ザリガニ獲りをやっていた方とかは記憶にあるかもしれないですけど、ザリガニが棲んでいた川にフタされてしまって、(その結果)親しめなくなったりしていくんです。そうなると、自然と触れ合う機会っていうのがどんどん減るわけですよ。そういうことがやっぱり、自然に対する思いや関心をなくす要因ではないかなと僕は思っていて、だから身近な自然も撮りますし、大自然っていうのももちろん撮るんですけど、撮り方は同じなんですね。
例えば、花が咲けば昆虫が来ますよね。昆虫が来れば、その昆虫を食べに鳥が来ます。鳥や昆虫は飛べますから、多少は森づたいに移動できなくても飛んで来ることができるんですよ。ですけど哺乳類って、なかなかそういうことができなくて、だから孤立してしまったりして、気がついたらいなくなっていたりするんですよね。
あと、地形を見ると“こんな植物が生えているなぁ”とか、“この地形だったらこういう動物が棲むだろう”っていうこともだんだんとわかってきているんで、そういうのも撮ってますよ」
●被写体は“これ!”っていうよりも、繋がりや生態系全部、地球全部という感じですかね。
「そうですね、“丸ごと”という感じです。とても大変なことではあるんですけど、やっぱり僕はそういうふうに自然を見ていますし、もちろん、可愛いなぁって思いながら動物を撮るのもいいんですけど、そうじゃないんですよね。動物って繋がって生きていますから、その動物だけを守れば自然を守れるっていうわけでもないので、僕はそういう視点で見ていきたいなと、それを伝えていければいいのかなと思っていますね」
●なるほど。最近、どこか撮影に行かれたんですよね?
「そうですね、つい1週間ほど前に知床とかに行きましたけど、そこで熊を撮ったりしました。ちょうど今が芽吹きの時期で、熊を見やすい時期でもあったんですね。多くの人は多分、熊がそばを通っていても気づかないんですけどね」
●気づかないんですか、あんなに大きいのに!?
「僕も気づかないですから(笑)。だから、痕跡を追ったりしますね。実は道路脇にいっぱい痕跡があるんですよ。ただ、みんな見ていないんです」
●もしかしたら、(そういうことを察知する)私たちのセンサーみたいなのが閉じちゃっているのかも……?
「うーん……まぁ、五感を研ぎ澄ますっていうことを、僕は写真を撮る中でやっていますけど……みなさん、忙しすぎるんじゃないですかね」
●そうかもしれない(笑)。
「僕、動物を追っているときは何も考えてないんですよ。もちろん、風上とか風下とかっていうのはあるんですけど、考えることよりも感じることの方が大切というか……気配だったりを感じながら探していますね」
●野生的ですね!
「そうじゃないと、なかなか追えないですよね。だから、僕が日本全国いろいろなところをポツポツと回っていたりするのも、獲物を探すっていうわけじゃないけど、そういうのと同じなのかな。だから、自分も野生動物になる! みたいな感じですよね」
普段何気なく使っているパーム油がオランウータンの生息域に大きな影響を及ぼしていたんですね。私たちに何が出来るのか。ケースケさんがおしゃっていたようにまずは「オランウータンを知る」ということが大切なのかもしれません。今年2月に市川市動植物園でオランウータンの赤ちゃん生まれたそうなので、そんな赤ちゃんオランウータンを見に行ってみるというのも良いかもしれませんね。
来月、ケースケさんの写真展が赤坂のカフェで開催されます。今回は陶器を創る作家の方とのコラボ展! オランウータンの写真はもちろん、オランウータンをモチーフに創られた陶器の作品が展示されます。開催は6月19日(火)から23日(土)まで。会場は赤坂にあるギャラリー・カフェ「Jalona」。詳しくはJalonaのサイトをご覧ください。
ケースケさんの作品については是非、オフィシャル・サイトをご覧ください。
オランウータンの保護や森の再生を支援したいと思った方は是非、WWFジャパンのサイトをご覧ください。
坂本龍一さんが代表を務める森林保全団体「more trees」でも、インドネシアの団体と共にオランウータンの森を再生するプロジェクトを行なっています。