今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、認定NPO法人「ふるさと東京を考える実行委員会」の理事長・関口雄三(せきぐち・ゆうぞう)さんです。
関口さんは1948年、江戸川区葛西生まれ。子供の頃は、家業である海苔の養殖を手伝いながら、地元の海と共に過ごします。その後、日本大学・芸術学部を卒業し、建築家として活躍しますが、開発の名のもとに地元の自然が消えさり、子供たちが海で泳ぐことができないことに問題意識を持ち、2010年に認定NPO法人「ふるさと東京を考える実行委員会」を設立。そして2012年には、50年振りに東京23区に海水浴場を復活させました。そんな関口さんは先日、新刊『「ふるさと東京」再生』を出されました。
今回は関口さんの、ふるさと東京への熱い思いに迫ります。
※約半世紀ぶりに泳ぐことができるようになった東京・葛西の海。では、泳げなくなる前は、どんな海だったのでしょうか。
「実は私、生まれも育ちも葛西で、今から50年ぐらい前、私が10歳ごろまでは泳げたんですね。その頃は、毎日のように夏休みは海に行って、遠浅の海ですから、潮干狩りをやったり、潮が引くとそこで野球をやったり、潮が満ちてくると泳いだり……。まぁ、一日中いても飽きないんですよね。公園もないし、グラウンドもあるわけではないんだけど、まさに自然の中で育ったんですね。それが自分をつくったんじゃないかなと思っています」
●そんな、ふるさとだった東京の海がいつの間にか泳げなくなっちゃったんですよね。
「そうですね、それが辛いですね。子供心に覚えていますが、(当時は)江戸川沿いに製紙工場があったんです。そこから排液や汚染物質が出て、漁業が出来なくなっていったんですね。いろんな所にコンビナートが出来ていく時代に進んでいくわけです。ところが私の子供心としては、“どうして自然を取り戻さないんだ!? そこには生き物がいっぱいいるじゃないか!”と思ったんです。やがて川にいる魚は尾が2つあったりと、凄く酷い状況を見て、心に傷を負ったというか、自分のふるさとに、なんか寂しいなということを感じた時代でしたね」
●“自然を取り戻したい!”。その一心で、東京・葛西に海水浴場を復活させたいと思ったんですね。
「ちょうど私も(家業を継いで)半農半漁でやっていくわけにはいかなくなって、結局、建築家になるという志を立てたんですね。けれど、建築をやっていくと環境問題に必ずぶつかってくるんです。今までのふるさとの風景を崩しながら再開発をしたり、美しく富士山も見えていた環境が、ビルを1つ造る度に見えなくなって、あぜ道もなくなっていくということが、現実にどんどん起こっていったわけです。
それが子供にとって、果たしてどうか……。その当時、私が30歳で、ちょうど娘が2歳でしたから、“娘に何をやってあげられるんだろう?”ということと同時に、子供の将来に対して不安を感じたんですよね。
みんな、その当時は学習塾とかに行っていた時代。遊ぶ所はない。どこも(遊ぶことは)禁止、みたいな。“(川や海で)泳いじゃダメよ”、“この公園はダメよ”“(遊べるのは)ここだけよ”というように、自由がない。まあ、自然がないっていうのは、そういうことでしょう。その子供たちが、果たしてこのふるさとを愛せるのかな、この国を愛していけるのかなっていうことに、凄く不安を感じたんです。
子供たちのために何ができるかって、私は自分のふるさとはこうだったということを、ちゃんと的確に伝えて、そういうものを出来る範囲でもとに戻していくことだと思うんです。大きいことを言うようですけど、これは日本の将来のためにも大事なことなんじゃないかなと思って、やり始めました」
※関口さんによると、最近では東京湾に流れる産業排水は企業努力などにより、以前よりは随分水質が改善されてきているそうです。しかし子供たちが泳ぐとなると、まだまだ水質に問題があった東京の海。そこで関口さんは、とある海の生き物を使って水質を浄化したそうです。
「葛西の海は牡蠣がいっぱい獲れたんです。広島より獲れていたんですね。そして東京湾は日本一の漁獲高があったんです。そういうことを知っていましたから(牡蠣について)調べてみたら、牡蠣1コで400リットルの水を浄化するんです。それで東京都に勧めて、牡蠣を利用した実験を一緒にやったんです。そしたら、(海に)竹を入れていくと、牡蠣が(その竹に)300コぐらい着くんですね。“これはいいな。昔は竹だったよな! じゃあ、それを海に入れよう!”と思ったんです。それで、私の親戚なんですけど、海辺のそばに竹屋があったんです。その竹を思い出したんですね。自然のものを使わなくなった瞬間に、循環がダメになるんです。だから、あえて竹を使っているんですね」
●竹に牡蠣のタネを植え付ける感じなんですか?
「いやいや、自然に自生するんです。すぐ着きます」
●自然に着くんですか!?
「それで海水浴場の沖合に竹をずっと入れる実験を、東京都に提案してやったんです」
●竹を差すだけで、牡蠣が着いて、海は綺麗になるんですね。
「そうですね。それは、生物の力ですね。やっぱり、食物連鎖が始まらないとダメなんです。例えば、牡蠣が来ます。そうするとそこにプランクトンが来て、そこに魚が集まって、ジャコが来る。そういうことが結局、食物連鎖になって、全ての魚や二枚貝が海を綺麗にしていくことになります」
●ろ過装置とかがなくても、自然のものだけで海をそこまで綺麗にすることができるんですね!
「海苔も綺麗になるんですよ」
●の、海苔も!?
「そうなんです。その海苔も採って、はじめて循環していくんです」
●ということは、葛西で海苔も採れるようになったんですか?
「そうです。海水浴ができるようになったんなら、海苔も採れるだろうということで、その翌年に海苔をやり始めました。きょうはその海苔をお持ちしました。浅草海苔の原種を私どもが探し出して、やっています。浅草海苔は弱い種なんですが、それが葛西で育つようになりました」
●じゃあ本当にこの海苔は、江戸前の海苔なんですね! 厚みもしっかりあって、立派ですよね。
「11月に(採るための)海苔を、2月から入れるんですけど、(収穫の際に)海苔網に10センチぐらい海苔がつくと半分くらい残して、朝の8時ごろから採って、日曜の度に子供たちに海苔すき体験をやってもらうんです。あと、ワカメも採れるようになりましたから、ワカメのしゃぶしゃぶや海苔の味噌汁とかも体験してもらうんですね。ふるさととしての認識や、“海は手を入れれば綺麗になって、蘇ってくるんだよ!”っていうことを、自分たちで証明しないといけないと思って、そういう活動をしているところですね」
●子供たちの反応は、どうですか?
「もう子供たちより、昔を知っているおじいちゃんおばあちゃんの方が喜んでいますね! “海苔ちょうだい! 食べたい!”とか言ってきますね(笑)」
*関口さんは「葛西海浜公園・西なぎさ」の水質をさらに綺麗にするために、ひとり1本、竹ひびのオーナーになれる「竹ひび1人1本活動」を行なっています。竹をたくさん干潟に挿して立てることで魚が棲みつき、牡蠣が着生するので、生態系を豊かにし、水質を浄化。さらに波消し効果も生まれ、より安心して海水浴が楽しめるようになります。
里山の荒れた竹林の保全にもつながるので、この「竹ひび」は先人たちの素晴らしい知恵ですよね。「竹ひび1人1本活動」への参加方法など詳しくは「ふるさと東京を考える実行委員会」のオフィシャル・サイトをご覧ください。
◎「ふるさと東京を考える実行委員会」のHP:
http://www.furusato-tokyo.org/
※2012年に、50年ぶりに東京23区に海水浴場が復活!! その当初は、葛西海浜公園の限定1日だけの企画でした。でも、久しぶりの泳げる東京の海に多くの人が集まったそうですよ。
「最初はね、行政も責任が取れませんって言うんで、私が1日だけ“じゃあ、俺が責任を取るよ”と言って始まったんですが、物凄くたくさん人が来ちゃったんで、“もう、来週もやっちゃおう!”となりました(笑)。その次の年から社会実験としてやりましょうということで、行政との関係で一緒にやってきました」
●それだけ人気だったんですね! 今年2018年もその東京湾の海水浴場が、もうオープンしているんですよね!
「はい、そうなんです!」
●今年は何日間なんですか?
「42日間です」
●じゃあ、今年の夏シーズンはほぼフルで楽しめるんですね! イベントもあるんですよね?
「“里海まつり”というのがありまして、昔からの漁業体験とか、あとベカ舟も自分たちでつくっちゃったんですよね。それを子供たちに乗ってもらったりしています」
●ベカ舟って、葛西でおなじみの舟なんですか?
「はい」
●どんな舟なんでしょうか?
「主に海苔を採るための舟なんです。ちょうど水面にスレスレのところまで近づけて、ひとりで左手で漕ぎながら、右手で海苔を採っていけるような舟です」
●関口さんが子供の頃に乗っていたような舟なんですね。それを今回は子供たちにも乗ってもらうことができるんですね。
「小っちゃい子は舟に乗るだけでワクワクするじゃないですか!」
●確かに、そうですよね! きっと初めての体験ですもんね。
「あと、泳ぎかた教室ですね。プールでは泳げるんだけれど、海では泳げない子が多いんですよ。だから、波が高くても海で泳げるようになるために教えなくちゃいけないなと思って、そういうのもやります。それからハマグリの、めほり体験とかもあります。(昔の漁具を使ってハマグリを獲るんですが、)ハマグリが大きくないと(漁具から)ストンと抜けちゃうようになっているんですね。ハマグリって砂浜で呼吸しているので、砂浜に穴が空いているんですよ。そこに(漁具を)グーっと中に潜らしてやると、コツンとハマグリに当たりますから、大きいハマグリはちゃんと漁具の金具の部分に乗って獲れるんです。これを“めほり”と言うんです」
●“高枝切りバサミの砂の中バージョン”みたいな感じですかね(笑)。
「そうそう! だから、しゃがまなくても獲れるんです」
●なるほど! それは子供たちにとっては宝探しみたいで面白そうですね!
「あと、腰巻きって言って、鉄で作った金物に付いているベルト状のものを、腰に巻いてバックしていくとアサリとかが獲れるんですね。そういう漁具を体験してもらったり、その他にも紙芝居やスイカ割り、投網体験をやったり、あとは8月5日に石笛の演奏があります。縄文時代からあるんですが、石に穴が空いているんですね。天河神社にあったものなんですけど、彼(石笛奏者)がいろんな神社に奉納しているんですね。それを見て聴かせていただいて、“この海でやって!”って言って、毎年来ていただいているんです。これは、すごくいいですよ! 胸じゃなくて、腹に染み渡るというか…」
●へぇ〜! 本当に海水浴だけじゃなくて、海を思う存分楽しめるイベントが盛りだくさんなんですね。
「自然というのはそこから始まって、風の音とか潮騒の音がひとつの楽器を生んでいった。あるいは音楽のリズムを刻んでいった。そこを五感で感じることによって、そういう美しさを証言しようという感性が生まれてくる。だから、あらゆる学びの場所が、この自然なんですね。私は海が最高だと思います。たくさんの子供が訪れてくれることを切に願っていますね。子供たちはまず、ここに来れば笑顔、その笑顔に私どもも救われています(笑)」
※最後に、これから「東京の海」がどうなって欲しいか、関口さんにうかがいます。
「将来は、もっともっと漁業をやるべきだと思います。日本は今、自給自足をしていないですよね。これだけの水資源と湾がありながら、活用していない。それは高度成長のために港湾を内奥まで造り、そこに運んだものが一斉に東京で消費されていくと。そのために(河川は)ほとんどカミソリ堤防で埋まっています。そこから、なるべく砂浜を戻していく。そうすることによって、汽水域が綺麗になっていくと、ハマグリとかアサリが浄化の役目を果たしてきます。もう一度、そういう漁業に戻していきたいです。
ですから、それにはどうしても、都市構造も変えていかなきゃならない。行きも帰りも満員電車で、エネルギーの無駄遣い。これが豊かなのか? 普段の生活についても、冷蔵庫やテレビ、掃除機や車があったりと、確かに楽になったかもわからない。でも、その分だけ働かなきゃいけないですよね(笑)」
●確かに、逆に忙しいですよね(笑)。やらなきゃいけないことが増えている気がします。
「私のお袋たちは、ちゃんと床の間で花を愛でたり、たまには香を焚いたり、一輪挿しを便所に飾っていたなと。そういう余裕や生活美っていうのがあったんじゃないの? それって、どこにいっちゃったの? 働き方って言いましたけど、これからはAIだとかいろんな時代が到来します。これから週休3日とか……。今度は、自分たちが自然に戻って、自然と共に生きるっていう方向に向けていったらいいんだと思います。
私はこれから、NPO漁業をやりたいと思っています。昔やっていた漁業の先輩たちがいますから、そういう人から手習いをしてもらって、漁業をやることによって、さらに綺麗な場所をつくりあげていく。そういうことができると、自然とリゾートができます。魂の復帰だと私は説いているわけですけど、親父の膝の上って子供が一番安心できるところなんです。そういう世界を、この東京湾の中につくり続けていきたいなと思っています」
●いいですね! 南国とかに行かなくてもすぐに“東京湾にちょっとバカンス行ってくるわ!”とか、そんな未来がやってくるかもしれない!
「ちょっと前までは、“今年の夏、どこに行ったの?”って(子供に)聞くと、“ハワイ!”とか“おばあちゃんがいる紀州に行きました!”とか言っていたんですよ。でも、“葛西”って言って欲しいよなぁ(笑)。本当は歩いて行けるところにそういう場がないと、子供は健全に育っていかないと思いますよ。それはやっぱり、塾通いやいろんな習い事をさせても、基本は自然だということだと思います。自然は嘘をつかないですからね。自然とちゃんとした付き合い方ができるっていうことが、礼節がしっかり出来るっていうことです。自然の怖さを知らないと、ダメですね」
●今回の著書、『「ふるさと東京」再生』は、どんな思いで書かれたんですか?
「私は70歳になったんですけど、30歳から(東京湾を再生する活動を)始めたんで、もう早40年が経つんですが、最初はひとりだったんです。“俺がやる!”っていう気持ちじゃないと、どこかにそういう信念がないとできない。自分のふるさとは自分たちで、頑張って守って、子供たちのためにちゃんとつくり上げていこうという運動ができれば、物凄くいい環境が生まれるんだろうと、(そういう思いで書きました)」
自分の地元にある海を「ふるさとの海」と考えた事はなかったんですが、関口さんのように自分が生まれ育った場所を大切にする気持ちをみんなが持てば、東京の海そして日本の海がもっともっと良くなっていくのかも知れませんね。
幻冬舎 / 税込価格1,404円
関口さんの地元、葛西や東京湾に対する思い、そして関口さんのライフワークといえる、東京湾再生活動について詳しく書かれています。
詳しくは、幻冬舎ルネッサンス新社のオフィシャル・サイトをご覧ください。
そして今年2018年の7月16日「海の日」に、葛西海浜公園・西なぎさに海水浴場がオープンしました! 今年は8月26日までの42日間解放されます。解放時間は、午前10時から午後4時まで。
また、その期間中の毎週日曜日と祝日に「里海まつり」が開催されます。「すいか割り」や「海苔を採るときに使う舟、“ベカ舟”の乗船体験」、「投網体験」など楽しいプログラムが満載です。この夏、お子さんと海遊び体験はいかがですか?
詳しくは「ふるさと東京を考える実行委員会」のオフィシャル・サイトをご覧ください。