今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、千葉県立中央博物館の貝類学者・黒住耐二(くろずみ・たいじ)さんです。
黒住さんは1959年、京都府生まれ。小学校3年生の夏休みの自由研究で貝殻集めをしたことがきっかけで、貝のコレクションに没頭。琉球大学で専門的に貝を学び、現在は千葉県立中央博物館の貝類学者として活躍中です。海から陸上までの貝に詳しく、まさに生き字引のような方なんです。
そんな黒住さんを県立中央博物館に訪ねて、知っていそうで意外に知らない貝のことをたくさんお聞きしてきたので、今回はその時の模様をたっぷりお送りします! お子さんの、夏休みの自由研究の参考にもなると思いますよ♪
※貝は、食べるのはもちろん、アクセサリーにもなったりと、私たちにとっては身近。でも、その生態については知らない人も多いのではないでしょうか。実は貝は、ある生き物たちの仲間なんです。
「分類学上は、軟体動物門という仲間になります」
●じゃあ、タコとかイカと同じ仲間ということなんですね。あの硬い貝殻からは想像できないですね。
「“軟体”とは柔らかい体のことなんですね。食べられるところって、当たり前ですけど柔らかいところですよね。あれが貝の、生きている時の動物の部分なんですよね」
●私たちは貝の外側ばっかり注目してしまいますけど、そうなんですよね! 貝といえば、アサリとかハマグリのような二枚貝、それからサザエのような巻貝を思い浮かべますけれども、ほかにはどんな形の貝がいるんですか?
「はい。貝殻として考えると、割と大きな仲間がツノガイっていう、まっすぐな筒みたいな仲間がいます。あと、ヒザラガイとかカセミミズとかあるんですけど、まぁ、そういうのは一般の人は一生、関係なく過ごせると思いますので(笑)」
●(笑)。私たちが想像もできないような面白い形の貝とかっていたりしますか?
「貝殻でいうと、全然想像できないのがいっぱいありますね! 例えば、筒をグルグル巻いているようなものがありますね。あと、巻いている貝って、螺旋に、規則正しく巻いているように思うじゃないですか。それがある時に急にグーっと違う方向に向く貝とかもあります。それから二枚貝ですと、アサリとかシジミはツルっとした感じじゃないですか。そうじゃなくて、ビンッ! とトゲが出ている貝とか……。世界中をみると、形だけ見てもすごくいっぱいありますね」
●結構、多様性に富んでいるんですね!
「それがすごいと思いますね」
●だいたい世界には、どれくらいの種類の貝がいるんですか?
「11万種というのが、公称というか、だいたいそんなイメージでみなさん、言われますね」
●そのうち、日本にはどれくらいいるんですか?
「表に出ている種類はだいたい8,000種ですね。私としては、あと2,000種ぐらいはいると思っているので、日本には1万種いると言っていますけれどね」
●それだけいろんな環境でも貝は生きることができるんですね。
「そうですね。みなさん、貝って聞くと、海だけをイメージすると思いますけれど、普通の川とかにも貝はいますよね」
●えっ、ちょっとパッとはイメージできないんですけど、どんな貝がいるんですか?
「ホタルのエサになるような、カワニナという細長い貝とかもいたりしますし、それからシジミも、多くは川の水と海の水が混じる“汽水域”っていうところに住むヤマトシジミっていうのが、私たちが普段食べている貝なんですけれども、川にもたくさんシジミはいますね」
●じゃあ、海水でも淡水でも生きることができるんですか?
「仲間としては、ですね。ひとつの種類が海水でも淡水でも生きられるということはあり得ません」
●陸(で貝が生きること)は、さすがに無理ですよね?
「これが私は一番、不思議なんですけれども、カタツムリはご存知ですよね。あれは貝ですよね?」
●あっ! 確かに、言われてみれば貝!
「巻いた貝殻を持っていますよね。カタツムリは、ちゃんと貝です」
※しかし、一体なぜカタツムリは陸に上がったのでしょうか?
「なぜ、と言われるとすごく難しいんですけど、答え方としては一応、ふたつ考えられると思います。ひとつは、陸にエサがあったので、海の中よりももっとエサがあるかなということで、陸に上がっていった、という考えですね。もうひとつは、陸に上がれた、つまり陸に上がっても呼吸をすることができたということが大きいと思います」
●貝というのは、もともとどんな風に呼吸をしているんですか?
「水の中にいる貝は、簡単に言ってしまうと魚と同じですね。(貝にも)エラがあって、そこに水を通すことで、水の中にある酸素を取り入れているんです。その点は、貝も同じ構造なんですね。(一方、カタツムリには)“肺”があるんですけど、ただ人間の肺とはちょっと違って、そういう器官があるというよりは、体の一部分に血管がものすごく密になった部分があるんですけども、そこで呼吸ができるようになった、ということなんですね。それができたのが、陸に上がったカタツムリ、つまり巻貝だけなんですよね。陸にいる二枚貝なんて、世の中にいないですよね(笑)」
●いたらびっくりしますね(笑)。
「二枚貝では、“肺”という構造にすることができなかった。それから、エサのとり方ももちろんあって、二枚貝は草食といっても、バリバリ食べることはできないので、陸に上がることはできなかった、ということになりますね」
●ちなみに、ナメクジは貝じゃないんですよね?
「ナメクジはカタツムリと全く同じものなので、(ナメクジも)貝です」
●えっ、貝なんですか!
「カタツムリの殻のないやつが、ナメクジなんですよ。ただ、じゃあカタツムリの殻を外したらナメクジになるかというと、そうはならないんです。仲間がちょっと違いますし、それはすぐには変えられませんからね。大昔に巻いている殻を捨てて、体もまっすぐにしたのが、ナメクジなんです。だから、ナメクジとカタツムリっていうのは親戚というよりも、ほぼ一緒。
ちなみに、海の方でもそれと同じ例があります。ウミウシってご存知ですかね。カラフルで、アクアリウムとかショップでかなり有名ですけど、あれも海の中である種、同じことが起こって、巻き貝の殻を脱ぎ去ったやつというのが、ウミウシですね。あの綺麗なウミウシの仲間は、一回殻を捨てて、綺麗なフリルを持ったやつとかアメフラシとかになっていますね」
●なんで貝殻を捨てちゃったんですか?
「それはわからないんですね。ただ、なぜかはわからないんですけど、殻を捨てても生きてはいけるんですね。その代わり、めちゃめちゃ不味いんですね。ミノウミウシなんていうのはイソギンチャクとかを食べて、その中にある刺胞(しほう)っていう、敵を刺すための小さなカプセルがあるんですけど、それを取り込んで、魚とかに食べられそうになるとそれをピーン! と発射するんですよね。そうやって外敵から身を守っているんですね」
●なるほど。あとは、貝の繁殖方法っていうのも気になるんですけども、どんな風に子孫を増やしているんですか?
「ものすごく簡単に言っちゃいますと、ふたつあって、ひとつは放卵放精ということで、海の中に卵子と精子を一挙に放出して、それが受精していくということですね。もうひとつは交尾で、卵からかえってプランクトンになるやつもあれば、卵から直接、小さな貝が出てくるやつもあります。巻き貝だと、あの巻いているやつの小さいのが出てきて這っていく、というのもありますね」
●可愛いですね(笑)! どれくらいの大きさなんですか?
「種類によってもいろいろありますけど、イメージでいうと(私たちの)爪の半分くらいの大きさですかね」
●ということは、生まれた時から貝殻は持っているんですか?
「そうですね。基本的には持っています」
※それでは、博物館の中にある貝の展示コーナーに移動して、千葉の貝について、黒住さんにうかがっていきましょう!
●大きな大きな、私の顔くらいあるような二枚貝から、本当に綺麗なピンク色のサクラガイまで、いろいろとありますけど、今、私たちの目の前にある貝は全部、千葉県で採取したものなんですか?
「もちろん、千葉県産の標本です」
●へぇ〜、千葉ってこんなにたくさんの種類の貝がいるんですね!
「(千葉県は貝が)多いですよ! 今、記録としてあるのは2,000種ですね。ただ、1ミリとかいう(大きさの)貝を含めると、私は多分3,000種くらいはいるだろうなと思っていますけどね」
●じゃあ、いくつかぜひ、ご紹介をしていただきたいなと思うんですけど、特に珍しかったり面白い貝はありますか?
「ひとつは、珍しいことはないんですけども、アワビは覚えていっていただくと有難いなと思いますね。アワビには3種類あって、それが千葉にはちゃんと3種類いるんですね。それから、さらに小さなトコブシですね。アワビみたいだけれども、空いている穴の数が多いんですね。あと、こっち側にはハッキガイっていう貝があります。トゲトゲの巻き貝で、殻はひし形をしていて、しかもトゲがある。ちょっと見ていただくと、なんかすごく変わった貝だなぁ、というふうには感じるかと思います」
●私は昔、貝殻を集めていたので、そんな貝殻マニアとしましては、これも気になりますね。角の形というか、針のようなすごく先端の尖った白い貝なんですけど、これは何でしょうか?
「これはヤカドツノガイっていって、これで、欠けていない形なんですね。この筒みたいな殻の中に貝の体が入っていて、殻の細いほうを砂の底に向けて潜って棲んでいますね」
●本当にいろんなバリエーションがあるんですけども、昔から千葉県にはたくさんの種類の貝があったんですか?
「ある程度はそうですね。ただ、加曽利貝塚ってご存知ですか?」
●はい、以前に取材に行かせていただいたことがあります!
「史跡の中の国宝級にあたる、特別史跡にもなりましたよね。あれは数千年前の史跡ですけども、あの当時の方がまだ、貝の種類が多かったかもしれないです。一時期、ちょっと暖かい時期があったので、そうしますとより南のものが、東京湾とか加曽利貝塚あたりにもいたことがありますね」
●加曽利貝塚に行った時に、とにかくイボキサゴという貝がたくさんあったんですけども、あれはどうですか?
「逆のことで、イボキサゴはあんなにたくさんいるのに、じゃあどこに行ったら見られるのかというと、今、東京湾では一箇所だけなんですね。盤州干潟(ばんずひがた)っていう、木更津市の小櫃川(おびつがわ)の河口なんですけれど、あそこにしかいないですね。本当は、稲毛の周りでも袖ヶ浦でも、どこでもいっぱいいたはずなんですけど、今はもういなくなりました。
じゃあ、イボキサゴがいなくなったのはなぜかというと、基本的には海岸の埋め立てだとか、海の汚染だとかが原因ですね。その点では、加曽利貝塚の時代よりも現在の方が、実際にいる種類は格段に減っていますね」
※この夏は、貝を自由研究のテーマにするのはいかがでしょう。どんな風に貝殻を集めるのがいいのでしょうか?
「いろいろありますけども、貝殻ってすごく簡単に拾えますから、ある程度拾ってみて、どんな貝がいるのか、そしてその貝の名前に関しては、(中央博物館に)お持ちいただければ、相談会というのがありますので、その時にお答えできます。
それを、二箇所以上(でやるといいです)。一箇所だけで見つけると、“(その貝が)いました”になりますよね。それを別のところでやってみて、ふたつの場所でどういう風に違うんだという結果が出て、じゃあそれは何でなのかということを考えてみる。つまり、考えるというところまでできるので、個人的にはそれが取っ掛かりも含めていいんじゃないかと、いつも勧めております」
●さっきもお話がありましたけど、千葉県には貝がたくさんいるので、貝の研究もしやすそうですよね!
「そうですね。ちょっと遠いですけども、館山のほうと、あるいは人がたくさん住んでいるところで(貝が)多いのは、東京湾の東葛とか千葉ですよね。東京湾の貝と内房の貝ですね。あるいは、ちょっと泳ぎに九十九里に行かれますよね。その三箇所でもかなり貝が違いますので、どんな風に違うかなっていうのを見られると、取っ掛かりとしては一番面白いなと私は思っていますね」
(*拾った貝殻に、いつ、どこで、誰が採ったかを書いてラベリングしておくと、科学的な標本になるそうですよ♪)
●どう違うんでしょうね〜、気になりますね! ぜひ、リスナーの皆さんに調べていただきたいですね! それでは黒住さん、今後、貝の研究者として夢はなんですか?
「もちろん、全世界の貝を集めたいというのはありますけど、まあこれは子供の頃からの夢でして、これはもうゴールが無理そうなので。
先ほど加曽利貝塚のお話をしていただきましたが、縄文時代には貝塚もありますし、それから東京湾の埋め立ての前、戦後ぐらいですかね、その時の貝、それから現在の貝。そういうのを見て、日本の貝がどんな風に変わってきたのか、あるいはその当時の人がどんな風にその貝を見ていたのか。あの貝はどういうふうに使われていたか、この貝はどんなところにいたか……。そういうのをトータルとして、“貝から見た原風景”、それを示していくっていうのが最後の仕事かな、それをしたいなと思っております」
●確かに縄文時代には、貝は私たちとは切っても切り離せない関係だったんですものね。貝を知ることで、私たちの歴史も知ることができそうですね。
「そうですね。それがこういう環境だったんですよっていうことを、実際に今まで貯めてきた知識を使って、みなさんにお知らせしたいなと思っています」
カタツムリは、陸に上がった貝だった。確かに背中には貝殻がありますが、なんだか少し不思議な感じがします。縄文時代から私たちの身近にあるけど、意外と知らない「貝」。夏休みの自由研究のテーマにもよさそうですね。
房総半島の自然や歴史の面白さを楽しめる千葉県立中央博物館に、ぜひお出かけください。千葉県に生息する貝の展示はもちろん、貴重な収蔵品も展示されていますよ!
そして現在、特別展として「恐竜ミュージアムinちば」が開催されています。恐竜の実物の全身骨格ほか、爪や歯など見所満載です。開催は9月24日まで。 アクセス方法や入館料など、詳しくは「千葉県立中央博物館」のオフィシャル・サイトをご覧ください。