2018年10月13日

見沼たんぼ 首都高ビオトープ

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンは、「見沼たんぼ 首都高ビオトープ」の取材リポートをお届けします。


 首都高速道路・埼玉新都心線の高架下に、全長がおよそ1.7キロ、総面積が東京ドームよりも大きなビオトープがあるんです!
 ビオトープとは、生命の「バイオ」と場所の「トポス」を合わせた合成語で、地域の野生の生き物が暮らす場所。そんな「見沼田んぼ 首都高ビオトープ」にはどんな生き物がいるのか、先日、現地に行って取材してきました!

自然と共生する高速道路

●きょうは首都高速道路、埼玉新都心線の高架下に来ています。ちょうど、さいたまスーパーアリーナから車で5分ぐらいの場所なんです。“高速道路の高架下”と聞くと、コンクリートで無機質な場所を想像されるかもしれません。実際、今も車の音が聴こえてくるんですが、一方で、虫の音も聴こえてきます!
 さあ、ここは一体、どんな場所なんでしょうか!? 早速お話をうかがっていきたいと思います! きょうお話をうかがうのは、日本生態系協会の岩木晃三(いわき・こうぞう)さんです。岩木さん、お久しぶりですね!

「そうですね! 今年2018年2月に取材された“おおはし里の杜”以来ですかね?」

●そうなんです! あの時も、“大橋ジャンクションの上に、緑いっぱいの素敵な場所があるのを知って驚いたんですけど、今回も虫の音は聴こえてきますし、秋なのでススキもいっぱいありますし、そして足元を見ると本当にいろんな生き物たちがいるんですよね!

「そうですね、秋の草花も咲いていますし、コオロギも鳴いていますし、モズの高鳴きなんかもちょっと遠くから聴こえてきていますね」

●本当に素敵な場所なんですけれども、ここが改めてどんな場所なのかを教えてください。

「“見沼たんぼ 首都高ビオトープ”といいまして、首都高速の埼玉新都心線の高架道路の下につくられた、自然再生地になります。長さが1.7キロ、面積が6.3ヘクタールあります。高速道路の高架下沿いですので、だいたい幅が平均して40メートルくらいのところに、見沼たんぼ地域の自然が再生されています」

●本当に広大な敷地にビオトープがあるんですね!

「そうですね、面積が6.3ヘクタールなので、東京ドームよりも広いですね」

●もともと、ここはそういう場所なんですか?

「ここは、もともとは“見沼たんぼ地域”と呼ばれていた、田んぼでした。そこで高速道路を整備するにあたって、埼玉県がここの開発の許可権限を持っているんですけども、首都高速道路さんが開発の許可の申請をされた時に、埼玉県から“道路ももちろん必要だし、でも見沼たんぼの自然環境も重要なので、高架下に自然を再生してはどうか?”という提案がなされました。それで首都高速道路さんがそれを非常に前向きに捉えて、新しいタイプの自然と共生する高速道路をつくっていこう、ということで整備されました」

●「見沼たんぼ 首都高ビオトープ」は、全体的にどのような構成になっているのかを教えてください。

「ビオトープっていっても、いろんなタイプがあるんですけども、ここには3つのタイプのビオトープが整備されています。ひとつは、木を植えた場所、つまり林のタイプです。それから草原といった、草地のタイプ。そして、池や沼のタイプです」

●植物や生き物はだいたい、何種類ぐらいいるんですか?

「まず、ここに植えた木については全部、在来の種で、地元で種を採取して、農家の人に苗木を育てていただいて、遺伝子レベルでも地域在来の木を植えてあります。それがだいたい30種類ぐらい、2万1500本植えたわけです。
 草については、種をまいたり、株を植えたりということはしていません。その場その場の、環境に合った植物が生えてくるのを待って、それを維持・管理する中で育てていこうという方針が採られました。
 動物についても、自然にやってきたものばかりです。これまで10年間のモニタリングで、植物が約400種類ぐらい、昆虫が900種類ぐらい、それ以外に野鳥や鳥類、哺乳類、両生類、爬虫類など合わせて、全部で1400種類ぐらいの動植物が確認されています」

●そんなにいるんですか!? じゃあ、きょうはなにかしら、会えますかね(笑)?

「何か珍しいものに会えるといいんですけれどね! カワセミなどもよくいますよ!」

●ああ、そうですか! 会いたいな〜! じゃあ、さっそく行ってみたいんで、きょうはよろしくお願いします!

「よろしくお願いします、行きましょう!」


動植物に精通している日本生態系協会の岩木晃三さん。

ミドリシジミを呼び戻したい!

※実は、見沼たんぼは縄文時代、海でした。その後、名前の通り沼や湿地に。そして江戸時代中期には田んぼになりました。そして昭和33年に関東を襲った台風のとき、見沼たんぼが雨水を貯水し、河川の下流域の被害を抑える役割を果たしました。それがきっかけで見沼たんぼを保全していくことになったそうです。
 現在も治水機能を保ちつつ、農地や公園、緑地として地元の方に親しまれている場所。そんな見沼たんぼにある「見沼たんぼ 首都高ビオトープ」、さっそく岩木さんに案内してもらいました!

●というわけで私たち、移動してきましたが、ここはどんなゾーンなんですか?

「ここは“高木(こうぼく)ゾーン”、つまり高い木を植えてあるゾーンです。先ほど、地元産の木を苗木から育てて植えたというお話をしましたけれど、高架道路よりも高くなる木は植えないようにしようということになっています。こちらは道路も高いですから、10〜20メートル近くまで育つ木があります。それから、もう少し東に行くと、“中木(ちゅうぼく)ゾーン”、さらに一番東のはずれは道路も低くなりますので、“低木(ていぼく)ゾーン”で、5〜6メートルの木を中心に植えてあります」

●やっぱり、高木、中木、低木で、そこにある生態系は変わってくるんですか?

「そうですね。やはりそこの木の種類のよって、棲む昆虫の種類なども違ってきますし、生態系も異なってきます」

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●今、木の下に私たちはいますが、これは何の木でしょうか?

「これはハンノキですね」

●なるほど、以前、このハンノキを使った“ハンノキ・プロジェクト”のお話をうかがったんですが、実際にここでそのプロジェクトをやっているんですね!

「そうです。ビオトープを計画したのが平成13年なんですね。その時に周辺地域も調査をしたんですけれども、この場所の近くに埼玉県の蝶である“ミドリシジミ”が棲息していたんです。その後、整備が進んでから、近くのミドリシジミが棲息している場所を見たところ、この周辺からミドリシジミがいなくなっていたんですね。ですので、せっかく首都高速道路の下に自然を再生してもらいましたので、ミドリシジミも復活させたいということで、そのミドリシジミの幼虫が食べる葉っぱをつけるハンノキを、種から育てて植える、そういうプロジェクトです」

●実は今、ちょうどミドリシジミの写真を掲載しているパネルがあります。先ほどシジミチョウがいましたけれども、私たちがイメージするシジミチョウとは全く違う、エメラルドグリーンの綺麗な羽のシジミチョウですね!

「これは埼玉県の平野部にあるハンノキ林に棲息する蝶で、金属光沢のある非常に美しい蝶ですね」

●大きさはシジミチョウぐらいなんですか?

「そうです。羽を広げて2センチぐらいの小さな蝶です」

●こんな綺麗な蝶がたくさん来たら、いいですよね〜!

「そうですね! この蝶を復活させたいとうことで、ハンノキ・プロジェクトを始めたんですけど、周辺の小学校が1校、それから中学校が2校、全部で3校の児童・生徒さんに協力いただいて苗木を育てて、それをここに植えたんですね。植えたのが(平成)25年の時くらいですかね。もうこんなに育っています」

●何メートルぐらいなんでしょうね?

「大きいのでは、7〜8メートルに育っていると思います」

●実もなっていますよね。

「はい。ここから松ぼっくりのような形になって、12月ごろにそれが開くようになって、そこから種が落ちてきます」

●今はまだ、オリーブよりちょっと大きいぐらいですけれど、これが松ぼっくりのように開くわけですね!

「ハンノキって冬に花が咲くんですけど、その花の準備もしていて、これがそのツボミです」

*岩木さんがハンノキのツボミを見せてくださいました。

●ああ! 前回、お話をうかがった時に、種からの発芽率が5%ぐらいで難しいってうかがったんですけれど、凄く立派に育っていますよね!

「発芽率は非常に低いんですけど、苗がちゃんと活着すれば、成長は非常に早い木です。ですので、植えてからまだ4〜5年ですけれど、もう7〜8メートルまで育って、種も実るようにまでなっているということですね」

●これだけ立派に育っていると、ミドリシジミももう、来てもよさそうじゃないかなと思うんですけれど?

「実はミドリシジミって、普通は飛べる範囲が200メートルぐらいなんです。ということは、200メートル置きぐらいにハンノキ林がないと、自然にやってくることができないんですよね。この首都高ビオトープに一番近いミドリシジミの棲息地まで、6キロ以上離れているんです。ですから、その間を全部ハンノキでつないでいくっていうのも、なかなか大変だと思うんですね。
 そうなれば一番いいんですけれど、それが難しい場合は何か他の手立てが必要ですね。卵をもらってくるとか、蝶を放してみるとか……っていうことも考えられるんですけれども、それはまた専門家の先生にもご相談して、今後どうしていこうかと(考えています)。まずは、ハンノキ林を立派に育てていこうという段階です」

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生態系を再現する

※実はこの日、環境省が準絶滅危惧種に指定している植物も見られました。それが、「タコノアシ」という植物。湿地などに生え、ちょうどこの時期、全体が紅色になり、複数の花が吸盤のように並んでいるので、まるで「タコの足」のように見えることから、この名がついたそうです。
 そんな動植物にとって貴重な場所にもなっている、見沼ビオトープ。なんとホンドキツネも来たそうです! 元々、この地域にキツネはいたんでしょうか。

「実は見沼たんぼ地域では、キツネは絶滅したと考えられていたんです。このビオトープを計画した当時、文献資料を探したところ、過去30年ぐらいにわたってキツネの記録が全然ないんです。見沼たんぼっていうのは保全地域ですので、いろいろ調査がされていたんですけれど、キツネが記録されていないので、地域的に絶滅したと思ったんです。それから整備されまして、最初の年にモニタリング調査に入ったところ、キツネの足跡や糞が確認されまして、“復活したんじゃないかな!”っていうことです」

●なぜ、キツネが復活できたんですか?

「キツネは肉食性の哺乳類で、ネズミや、バッタといった大型の昆虫も食べ、埼玉県の平野部の生態系の頂点にいる生き物だと考えられているんですね。ビオトープを整備する時に、事前に調査をして、どんなビオトープを整備しようかと考えた時に、見沼たんぼにもともとあった生態系を再生しようという方向で専門家の先生たちに議論いただいて、それを首都高速道路さんが実現してくださったわけですけれども、狙い通り、生態系のトップの生き物が帰って来た! ということは、キツネのエサになるネズミや大型の昆虫といった多様な生き物も棲息しているという、自然再生ができた証ではないかなと思います」

●もともとあった自然を再生するっていうのが、本当に大切なんですね。

「単なる緑化ではなく、見沼たんぼに生育していた植物をもう一度、再生していこうということですので、そうすると、そこに乗っかってくる昆虫や、それを食べる野鳥、さらにその上位にいる鷹やハヤブサ、キツネといった生き物も帰って来たということが言えると思います」

●なるほど、緑を再現するのではなく、生態系を再現するということですね!

「そうですね。ただ、在来の木を植えたり、在来の植物が生えてくるのを待っていたりしても、やはり一度工事したところっていうのは撹乱(かくらん)していますので、そうしたところには強い、外来の植物がどうしても生えてきてしまいます。ですから、その後、維持管理する時に草刈りをどの時期に、どの場所で、どういう植物を対象に草刈りをすればいいかといったことを相談しながら、首都高速道路さんに草刈りをしていただいて、在来種の植物群落を徐々に広げていって、外来種を徐々に狭めていくといった取り組みをしていったんです。これは、その取り組みのひとつの成果だと思います」

●維持管理する上で、生態系を再現し、自然のサポートがあることで、普通に緑を管理するよりちょっと楽だったりするんですか?

「やはり、自然には自分で回復する力がありますから、我々ができることっていうのは、それを手助けすることだと思うんですね。それと一方、最近は外来種が入ってしまっていますので、それを何とか取り除いて、自然の再生力をうまく活かしていくということが重要だと思います」

●あと、もうひとつ私が気になったのが、普通の首都高速道路と違って、背の高い電灯がないですよね?

「そうなんです。高速道路ですと、実は“ポール照明”といって、背の高い街灯がずらっと並んでいる光景が一般的だと思うんですけど、ここは一切見えませんよね。光が道路の外に漏れますと、夜間も明るい。そうすると、農作物に影響を及ぼす。あるいは、今はいなくなったんですけど、見沼たんぼに将来、ホタルを復活させようということになった場合にも、やはり光が外に漏れているとホタルが棲息できませんので、将来も見越して光が漏れない構造にしてあります」


高架も落ち着いた色に塗装されているので
周りの風景に溶け込んでいた。

生態系ネットワーク

※周りの自然と溶け込み、長きに渡っていい状態を維持するために、どんなふうに「見沼たんぼ 首都高ビオトープ」は管理されているのでしょうか?

「当初、平成13年に計画が検討されたんですけれど、高架道路の下で自然再生が果たしてできるのであろうか、ということが一番の課題になりました。専門家の先生にも集まっていただいて議論いただいたんですけれど、これまではそういう事例がなかったんですね。国内をいろいろ探してみたんですけれど、高架道路の下で自然を再生した事例がない。都内の首都高速道路の下ですとか、あるいは見沼たんぼを横切っている高架の橋の下などを調べてみたんですけど、もちろんどこにも自然再生をされている場所はなかったんです。

 ですが、たまたま風で砂が吹き寄せられて、上から雨水がポタポタ落ちている、そんなところには植物が生えているということがわかりました。ですので、土と水があれば多少、条件が不利であっても、その環境にあった植物が生えてくるだろう(と考えたんです)。なので、まず、生えてきた植物を育てよう。その中には外来種も含まれているでしょうけれども、維持管理する中で在来種を増やしていって、この場にあった生態系や基盤となる植物を育てていこうということで、そういった維持管理をずっと続けています」

●その甲斐あって、こんなに植物も育っていますし、生き物もたくさん来て……今のところ、大成功ですね!

「いや〜(笑)、まだ過程だと思うんですけれどね。ただ、最近ちょっと心配しているのは、外来の植物は割とコントロール下にあるんですけれども、せっかく池を造ってもらって、そこにカエルですとかトンボがやって来て増えたんですけれど、数年経って、田んぼではカエルが鳴いているのに、ビオトープの池ではカエルが鳴いていないということがあったんです。
 どうしてかなと思って考えると、数年遅れてアメリカザリガニとかウシガエルが入って来たらしいんですね。それがトンボのヤゴですとかオタマジャクシを食べちゃったみたいです。その外来の水生動物のコントロールを今、一生懸命やったり、入ってこない対策をどうしようかということを検討したり実験したりしているところです」

●なるほど。じゃあ、まだ課題をひとつずつクリアしている段階ということなんですね。

「やはり自然や生態系というのは、人間が計画した通りには育ってくれないですね。そのためにモニタリングを毎年やって、対策を講じていくということも重要かなと思います」

●逆に嬉しかったことや、予想以上に上手くいったことってありますか?

「先ほど話した、キツネが早々にやって来たというのは、大きな成果だったと思います。高速道路というと、“環境破壊”っていうイメージが多くの方にあると思うんですけれど、自然と共存する新しいタイプの都市高速をつくるんだという理念が、早々にキツネが戻って来たということで、ひとつ実現したのかなということは、非常に嬉しいことでしたね。

 それとやはり、ハンノキ・プロジェクトもそうですけれど、子供たちがここの維持管理に関わってくれたり、調査に参加してくれたり、今年2018年の9月にも、2キロ以上離れている幼稚園の子供たちが、ここまで歩いて来て、自然観察や自然体験をしたんです。なおかつ、自然にいいことをしようということで、ビオトープの外来植物を引っこ抜いてくれたりとか、そんなこともしてくれたんです。そういう、地域の小中学校あるいは専門学校や大学も含めて、学校教育で利用されているっていうのは嬉しいなと思います」

●子供たちの感想はどうですか?

「やっぱり、“虫を捕まえたりとかが物凄く楽しかった! また来たい!”って言ってくれる子が多いですね」

●では最後に、5年後そして10年後、20年後に、このビオトープがどうなって欲しいか、夢をお聞かせください。

「みなさんとよくお話ししているのは、(このビオトープが)見沼たんぼの生態系ネットワークの核といいますか、そのひとつになれればいいなと思っています。やはり自然って、そこだけで成り立っているものではありませんので、周辺の田んぼや芝川、あるいは見沼たんぼの斜面林……。そうした緑地との生態的なネットワークが形成されていくと嬉しいなと思っています」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

「自然は自分の力で回復する力がある」岩木さんがそうおっしゃっていましたが、「見沼たんぼ 首都高ビオトープ」はまさにそれが感じられる場所でした。自然は作るのではなく、本来ある姿を取り戻す為に人間がサポートしてあげる事が重要なんですね。

INFORMATION

首都高速道路情報

 見沼たんぼ地域を含めて、首都高速道路の環境への取り組みについて、詳しくは首都高速道路のオフィシャルサイト、そして首都高環境サイト shuto-E-co をご覧ください。

公益財団法人 日本生態系協会

 日本生態系協会の活動について、詳しくはオフィシャルサイトを見てください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「(MEET) THE FLINTSTONES / THE B-52's」

M1. VENTURA HIGHWAY / AMERICA

M2. MOTHER NATURE'S SON / JOHN DENVER

M3. BUTTERFLY / DONAVON FRANKENREITER

M4. マリーゴールド / あいみょん

M5. FIREFLIES / OWL CITY

M6. 手をつなごう / 絢香

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」