今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、アウトドアスタイル・クリエイターの四角友里(よすみ・ゆり)さんです。
四角さんは山スカートの第一人者で、女子登山のアイコン的な存在。「大好きな自然と、自分らしいスタイルでつながりたい」というメッセージを掲げ、雑誌や本の原稿を書き、トークイベントやアウトドアウエア・ギアのプロデュースも行なっています。また、着物の着付け師としての肩書きも持ってらっしゃいます。
そんな四角さんが先ごろ、山と渓谷社から『山登り12ヵ月』という本を出されました。以前この番組に出ていただいた時には、国内外の山歩きや可愛くて機能的な山ファッションのお話もしていただきました。今回は山選びのためのアイデアやヒントなど、四角さん流の山の楽しみ方を教えていただきます!
※四角さんの新刊『山登り12ヵ月』。この本は日本全国37の山との思い出を綴った山歩きエッセイ&ガイド集なんですが、四角さんは一体、どんな思いでこの37の山を選んだのでしょうか。その中には、なんと真冬のかき氷との出会いが、選ぶ理由になった山があったそうです。
「秩父のほうの山を歩いた時に、下山後にかき氷屋さんに行ったんですよ。長瀞で古くから続く天然氷の蔵元の、有名なかき氷屋さんに行ったんですけど、蝋梅(ろうばい)の咲く冬の時期に行ったんですね。“寒い、寒い!”って言いながら、震えながら友達とかき氷を食べていたら、(お店の)奥からご主人がやって来て、“君たち、旬の時期に食べに来たね!”って言われたんです」
●え〜、寒いのに!?
「かき氷って夏の食べ物じゃないですか。でも“山の湧き水を、山の斜面につくった池に引いて、冬の寒さで凍らせて氷を作っているから、今が出来たてホヤホヤなんだよ!”って言われた時に、観光で食べてももちろん美味しかったと思うんですけど、山を歩いて冬の寒さにほっぺを赤くしながら歩いた私たちハイカーだからこそわかる“物語の味”みたいなものがあるような気がしたんです。
そういう、ひとつずつの、山と私の物語を綴っていけたら面白いかなと思ったんですね。それぞれに別々の物語があるので、それをいろいろと、あの手この手で山に行きたくなるように(笑)、例えば、ゆきさんを“山に行きたいなぁ〜!”って思わせたい! って気持ちで、“こんな山はどうですか?”“こんな山の楽しみ方もありますよ!”っていうように、いろんな手段を使って37の山を紹介している感じです!」
●じゃあ、37のストーリーが詰まっているんですね! 中でも私が気になったのが、やっぱりbayfmにちなんで千葉の山、その名も“大福山(だいふくやま)”。そんな名前の山があるのは知らなかったですね(笑)。
「私も最初は知らなくって(笑)、以前に梅ヶ瀬渓谷(うめがせけいこく)の紹介記事を読んだんですね。それで、その記事に載っていた地図を見ていたら、大福山って書いてあって、“え〜!?”って思ったんです。
私、大福が大好物なんですね! 山の山頂で大福を食べよう! って思いながら疲れても頑張って歩くんですけど、そんな大福好きな自分のためにあるような気がして、なんか妙な使命感というか、“行かなくては……!”と思ったんです。それでお友達を誘って、大福山の山頂で大福の品評会をしようっていうことになって、“ひとり2つ以上の大福を持って来てね”って言って、結局4人で11個の大福を食べ比べしました。楽しかったです!」
●その山自体は、大福にちなんだ何かがあるんですか?
「看板には“Mt. DAIFUKU”とか“大福山”ってあって、それこそフォトジェニックというか、写真を撮ると胸がキュンってなるような看板が多数あるんですけど(笑)、山の特徴としては温暖な房総半島にあるので、関東で一番最後まで紅葉が見られる場所なんです。
そして、大福山を越えて森に入ると紅葉も美しいし、そのあとの渓谷もとても美しくって、高さ50メートルの絶壁というか、谷を歩くような感じですね。3時間半ぐらいの、凄く歩きやすい初級のハイキング・コースなんですけど、森あり谷あり、渓流沿いを歩く場所もあり……という感じで、バリエーションに富んだルートです」
●そんな大福山で食べた大福の味は、いかがでしたか?
「やっぱり、美味しかったですね! でも私、東京の名店の大福を買っていこうと思ったんですけど、大福って午前中に売り切れちゃうんですよね。それで、売り切れ、売り切れ……と続いて、コンビニの大福になっちゃったんですね」
一同「(笑)」
「某コンビニのいちご大福が凄く美味しくって、名店のももちろん、凄く美味しかったんですけど、“イチゴが入ると最強だね!”っていうところで、みんな落ち着きました(笑)」
●意外と身近なところにあったんですね(笑)。じゃあ、bayfmリスナーにもオススメですね!
「そうですね! 11月末から12月の頭ぐらいまでは紅葉が残っているかもしれないので、これからまだまだ紅葉シーズンが続きますけれど、一番最後に地元の千葉県の山に行ってみていただけたら、楽しいと思います! 大福を……」
一同「持って(笑)!」
※四角さんは山登りを始めて、もう15年ほど経つそうですが、ついに雪山デビューをしたそうですよ。
「雪山なんて、“生か死かの世界”みたいな、勝手なイメージなんですけど、本当に上級者の世界だと思っていたんですね。“アイゼンとピッケルを持って、冬靴で雪山に行くなんて……”と思っていたんですけど、最近は、自分が暮らしている東京の街に雪が降った時には、近くの山、奥多摩だったり高尾だったりの通い慣れた山に、夏山の時に買った軽アイゼンと、いつものトレッキングポールにスノーバスケットをつけて行くような雪山ハイキングを楽しんでいます」
●それは東京で雪が降ったということで、“山に新雪があるぞ!”ということで行くんですね。そういったところにアイゼンを履いて行くと、どうですか?
「今までは、冬になると山歩きはお休み、っていう感覚だったんですけど、春、夏、秋と、自然の美しさを見て、魅了されて、そのあとに冬を味わうと、春の芽吹きがより一層、愛おしくなりましたね。それと、雪の山に行くということが、凄くレベルアップのような感じに思っていたんですけど、自然の命とか表情を見届けたいっていう感覚に近いんだなと思って、自分の延長線上に、無理のない範囲で冬との接点を持ちたいなと思うようになりました」
●冬の山に行くことによって、山に対する意識はどういうふうに変わりましたか?
「白が凄く美しいですよね! 葉っぱも全部落ちているので、冬の澄んだ空が大きく見えたりとか、枝に止まっている鳥の姿を見つけられるのも冬ですし、富士山がくっきり見えたりとか、普段見えなかったものが見えてくるのが冬なのかなと思うようになりました」
●結構いろんな景色があるんですね。
「そうですね。葉っぱがないほうが枝ぶりというか、木の骨格がわかりやすいんですよね。そういう美しさにも目がとまるようになって、知らなかった表情を見られるようになったことが嬉しいです」
●あと、四角さんは“夜山デビュー”もされたんですよね!
「はい! 山に行こうと思っていた日に寝坊してしまって(笑)、準備もバッチリだったんですけど、起きたら11時だったんですね。せっかく、山に行きたい! っていう気持ちが高まっていたのに行けないことが残念だったんです。
月の暦が描かれたカレンダーを私は使っているんですけど、その日がちょうど満月だったんです。それで、“これは、しめしめ……!”と思って、ナイトハイクに出かけることにして、ヘッドランプを確認して、午後3時くらいに高尾山に着いて登り始め、高尾山のひとつ奥の、城山(しろやま)というところで日暮れを眺めながら、ずーっと月が上がってくるのを待っていたんです。
そしたら、その日がたまたま皆既月食の日だったんです(笑)! 月が隠れて、一部が欠けた真っ赤な月が東京の夜景の上にボンっと上がって来て・・・高尾山って何度も行っているので、自分にとっては凄く近しい山という感覚だったんですけど、いつもの顔じゃないというか、知らなかった表情をまた見せてもらったような感覚がして、月が街を支配しているような、知らない次元の扉をちょっと開けてしまったようなひと時でした」
●ナイトハイクの醍醐味というか、こんなことやった方がいいというのは、あったりします?
「やっぱり、知らない顔が見られるというか、神秘的というか、原生の様相を取り戻すというか……。森の本来の姿に戻るような感覚もありますし、最初はヘッドランプの明かりをつけずに、月明かりでどのくらい歩けるかもやってみたんです。普段だと街の明かりがあることに慣れてしまっていますけれども、月の明るさを感じてみるのも凄く楽しかったです!」
※この番組でも何度かご紹介していますが(2015年5月30日・2016年3月5日各放送分)、東北の復興支援を目的に環境省が進めるプロジェクト「みちのく潮風トレイル」をご存知ですか?
青森県八戸市から福島県相馬市までの太平洋沿岸をつなぐ、全て開通すると総距離900kmのロングトレイル。山の頂上を目指すピークハントではなく、道をつないで歩くトレイルなので、美しい海岸線から山道まで、歩くうちにどんどん景色が変わって、東北の森と海の恵みも感じることができるんです。
そんな「みちのく潮風トレイル」ですが、四角さんはいつごろ歩いたのでしょうか。
「私は2015年に初めて、八戸(はちのへ)区間を歩いたことをきっかけに、そのあと洋野町(ひろのちょう)の区間と宮古(みやこ)と大船渡(おおふなと)、新地(しんち)、相馬(そうま)と、(みちのく潮風トレイルの)全てを歩いてはいないんですが、少しずつ歩き進めています」
●歩かれてみて、どうでした?
「海が凄く綺麗で、“自分にとって海の色”を考えた時に、私は大船渡の海の色が凄く好きで、“あ、これが私にとっての海の色になるんだな”と思いました。けれど、“綺麗だなぁ!”って口に出したくなる一方で、この美しい海が津波を起こしたんだなって思うと、“美しいと感じていいのかな?”っていうような気持ちも同時に湧き起こってきて、凄く心がグラグラと揺れるんですよね。
でも、そんな気持ちも含めて自分の足で歩いて、目で見て、人に触れ、そうやって心を揺らし、動かしながら歩くことに意味がある道なのかなと思いました。ただただ、道が整備されて終わりなのではなくて、そこで何を感じて、何を持って帰るか。それがみちのく潮風トレイルの意味なのかな、と思いながら歩きました」
●私もいろいろ思うところはあったんですけど、地元の人たちは凄く、海だったり、その場所を愛しているんですよね!
「そうなんです! “来てくれてありがとう!”って言われたことが凄く印象に残っていて、私はたまたま大船渡の区間をひとりで歩いていたんですけど、海産物を売っている、お父さんとお母さんのお店があって、そこに立ち寄ったんですね。そしたら、“何しに来たの!?”ってまず言われて、“みちのく潮風トレイルっていうのがあって、穴通磯(あなとおしいそ)っていう所まで4時間ぐらいかけて歩こうと思っているんです”って言ったら、“そんな、歩いたら遠いから車で送ってあげるよ!”って言うんですよ(笑)。
でも、東京から歩きに来たし、“いえ、大丈夫です!”ってお断りしたんですけど、途中、歩き進めていたら車がスッて私の脇に止まって、おじさんが声をかけてくれたんですね。そのおじさんは、そのお店のご夫婦と同級生で、“さっきお店に寄った時に君の話になって、やっぱり送ってあげた方がいい、ということになったんだよ!”って言ってくれて、それで結局、お言葉に甘えて送ってもらうことにしたんですね。
そういう優しさが凄く身に染みたりとか、帰りに食堂に立ち寄ったら、“BRT(バス高速輸送システム)の駅まで送ってあげるよ!”って言われて、帰りも送ってもらってしまったりとか(笑)。歩く道なのに全く歩いていないんですけれど、ひとりになった時に胸がぐーーっと苦しくなって、でも温かくもなって、私はもちろん、何度もそこに歩きに行きたいなと思うんですけど、優しさって次から次に手渡されていくような……。
森の命って、朽ちても次の養分になって、命が巡り巡っているじゃないですか。それみたいに、みちのく潮風トレイルの中では、優しさがぐるぐる回っているような、森の循環のような感じがして、凄く温かい気持ちになりました。
私自身は、震災の時はニュージーランドにいたので、そのあと募金をするぐらいでしか、みちのくの、東北とつながる術がなくて、どうしていいかわからなかったんです。けど、私にとって、山歩きだったり、歩くという行為が一番好きなことなので、好きなことで繋がるのが一番自然なことなのかなって思えるようになって、また折々に訪れたい、大切な場所になりました」
※四角さんは、山で餅つきもしたそうですよ! どういうことなんでしょうか。
「奥高尾の景信山(かげのぶやま)という山なんですけど、その山頂にお茶屋さんがあるんですね。そこで予約をしておくと、杵と臼、蒸したもち米を用意してくれるので、自分たちはお餅につけて食べたい具、例えばアンコだったり、きな粉だったり、納豆を持ってくる人とか(笑)、そういうのをみんなで持ち寄って、餅つき大会ができるんです。
新年会だけではなくて忘年会だったり、お花見のシーズンだったりに、みんなグループでイベントとしてお餅つきができる山なんですけれど、びっくりですよね!? “人生初めての餅つきが景信山の山頂だったなんて!”と、嬉しい驚きでした」
●どうですか、山頂で食べる、つきたてのお餅は?
「もう、たらふく食べて、美味しかったです! お腹いっぱいで、帰りは “お腹が重いなぁ……”って思うほど食べました(笑)。あと、富士山が凄く綺麗に見えていて、真っ白い雪をかぶった富士山とお餅の白さが同じだなって思えたりとか。
山に行くっていうのも特別な日で、自分にとっては神聖な自然と触れ合える、ちょっと特別な日なんですけれど、それとお餅つきっていう行事が重なって、“ああ、今日は素晴らしい晴れの日だな…!”って思いました。お腹がいっぱいになって、胸もいっぱいになって、幸せに満たされて帰りました(笑)!」
●(笑)。先ほど大福が大好きっていうお話をされていましたが、他に山に持って行く、お楽しみグッズや行動食はありますか?
「日本の伝統菓子の干菓子、その中でも落雁(らくがん)とか和三盆糖(わさんぼんとう)が大好きで、それがお気に入りの山おやつですね。日本の干菓子って、自然の風景だったり草花の形が可愛らしくって、季節の移ろいに合わせて模様が変わったりするんですよね。なので、秋には紅葉の模様だったり、キノコの形をした落雁を持って行ったりとかしますね。そうすると目でも自然を楽しめるんですよ。あと、和三盆の優しい甘さがスッと口の中で溶けて、すぐにエネルギーになるので、和菓子を持って行くようにしています」
●なるほど、日本の山には日本の和菓子が合うんですね!
「はい! 用意する時も楽しいし、旬の食材を食べるだけではなくて、目からも自然を楽しむという面では、“日本人ってもともと、凄くアウトドアな人たちなんだな”っていう気付きも、もらえました」
●四角さんが山からもらったものはたくさんあると思いますが、今までで一番の、山からの贈り物は何でしょうか?
「山からって、何も持って帰れないんですね。写真を撮ったりすることはできるけれど、形のない胸の中に残るものだけなんですが、それって“タネ”みたいだなと思うようになったんです。いろんな山で少しずつ持ち帰った、感動だったり嬉しさだったりといったタネが私の心の中で少しずつ芽吹いて、大きな木になってきているのを、山登り15年になって感じています。それは揺るぎないというか、風が吹いても倒れないような、しなやかな大きな幹になってくれているので、それをこれからも、山歩きを続けながら豊かな森に育んでいきたいなと思うようになりました」
●では最後に、リスナーの皆さんにメッセージをお願いします!
「一歩を踏み出して、電車に乗って会いに行けば、そこに山はあるので、これからも自分らしい一歩で、朗らかな一歩で山を楽しんでいただけたらなと思います」
●この本にもあるように、山登り12ヵ月、一年を通して楽しんでいただけると、いいですね。
「まだまだいろんな山があると思うので、皆さんにとっての物語を紡いでいただきたいですし、皆さんの12ヵ月をつなげていっていただきたいなと思っています」
*写真協力:四角友里
どんな季節であってもどんな山であっても、自分らしい山の楽しみ方を見つければ、その山は自分だけのとっておきの場所になるんですね。四角さんと山の物語のお話を聞いて、私も山に行きたくなりました。
山と渓谷社 / 税込価格1,620円
「1年を通して楽しむ37の山歩きガイド&エッセイ」です。今回のお話にも出てきた千葉県の大福山、高尾山、景信山、みちのく潮風トレイル等が写真とともに詳しく紹介されています。地図入りのガイド本としても役立ちます。ぜひ読んでください。詳しくは四角さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。
四角さんと、北海道大雪山のネイチャーガイドで写真家の大塚友記憲さんによるトークショーが11月2日(金)の夕方6時30分から、モンベル渋谷店の5階イベントスペースで開催されます。詳しくはモンベル渋谷店のホームページをご覧ください。