今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、ネイチャー・クラフト作家の長野修平さんです。
長野さんは1962年、北海道生まれ。山の自然素材や海の漂着物などで暮らしの道具を製作。BE-NAURE SCHOOLのワークショップでも人気のネイチャー・クラフト作家です。また、ナイフのある暮らしを提唱し、アジア人でただひとり、スウェーデンの実用ナイフメーカー、モーラナイフ公認の日本・台湾アンバサダーに就任。
現在は神奈川県相模原の、道志川の森の中にある手作りの家「みのむしハウス」に家族4人で暮らし、アウトドア系雑誌を通じて、自らの手で創り出す豊かさと楽しさを伝え続けてらっしゃいます。
そんな長野さんの森の中のアトリエを訪ね、焚き火に当たりながら道具作り、そして家族との自然暮らしのお話などうかがってきました。
※長野さんの「みのむしハウス」。一言でいうとパッチワークのようなお家で、自然素材のものもあれば、昔おばあちゃん家で見たような、すりガラスの引き戸もあって、その異素材のバランスがなんとも絶妙でかっこいいんです。一体、いつ頃完成したんでしょうか?
「まだ実は、仕上がっていない! もう5年以上住んでいるのに、家の中は仕上がっていないところが多くて……」
●サグラダ・ファミリア(*)みたいですね(笑)。
(*スペイン・バルセロナにあるカトリック教会。着工から130数年経っても未だ建設中)
「そうそう! 1年間、トイレに扉がなかったんですから! もう、うちの家族ね、トイレに扉がなくても平気で用を足しちゃって(笑)。扉がついても1年ぐらいは開けっ放しでみんな、していましたね。でも、扉ができたら“ああ、いいな”って(思いました)。扉があるって普通、新築なら当たり前だけど、ないことの開放感のよさを含め、扉があるっていうことが凄いっていう。だから、ひとつひとつを手探り、手作りでやっていくと、その有り難みというか、よくキャンプに行ってから家に帰って、台所に入ると水が出て、電気がつくのが有り難いと思うのと同じで、日々そんなことを、家ではしていますね」
●そもそも、自分で家を造ろうと思ったきっかけはあったんですか?
「まず親父が、“男は3度、家を建てろ”って言っていたんです。3度、家を建てると、ちゃんと自分の家が建てられる。結構、両親の影響が大きいです。(僕は)北海道の山菜料理屋で生まれているんですよ。なので、小さい時から山に入って、そういった意味ではクラフトをやるのもそうだし、逆に両親の知恵をちゃんと自分が引き継ぎたいっていう気持ちもあるんですよ。親が苦労して、一代で山菜料理屋を築いたんですけど、やっぱりその苦労もしっかり見ていたし、それをその代で終わらせたくないし、それを見て知った以上は、次の代にそれを伝えていく義務みたいなものがあるというか……。
よく先住民族に、“ひとつの技を教わったら、それを次に伝えなきゃいけない義務がそこで生じたんだよ。だからあなたはその教わったことを、誰かに必ず伝えなさい。そうしないと、人間の知恵っていうのはそこで途絶えてしまうから”って言われたんですね。その言葉も凄く好きで、だからいつの間にか、両親がやってきたその知恵を僕が、僕なりにアレンジして引き継いで、それこそ今は、それを伝えている途中という感じです。家づくりもなんとなく、そういうところからきているのかなと思いますね」
●じゃあ、お子さんにもそういうことを見せていきたい、ということですよね。
「もう、見せるだけじゃなくて、一緒にやらせている! この家を造る時に、2階の部分かな、外壁を拾ってきた板で全部、ドリルで打ち付けているんですけど、小学4年生の娘も、2階の足場に上って電動ドリルで板を打ち付けていて、わりと様になっていましたね」
●どうでした、お子さんの感想は?
「自分の力ってここまであるんだっていうのが、凄く自信にもなっているのかな。女の子なのに、未だに薪割りもしょっちゅうやっているし、ツルハシを持って穴を掘るのも大好きですね」
●たくましいですね! 家もさることながら、この自然豊かな環境の中での暮らしというのは、どうですか?
「ここは1000平米ぐらいの広さがあって、家はあるけど裏は全部、雑木の森で、今はそこで焚き火をしていますけど、自分好みに森を保って、それを暮らしに取り入れることができているっていうのが一番楽しいです。今、飲んでいるお茶も、ここで春に採ったヨモギを天日で干したものをお茶にしているし、きょう、うどんを(みんなでお昼ご飯に)食べましたけど、それもここで採れたタケノコを天日干しして、水で戻して、それを出汁にして、タケノコ自体も食べて……。だから僕のフィールドは、庭でもないし畑でもないし、森でもない。そこを利活用する場所というか……。ここで採れた木でクラフトを作ることもあれば、きょうの(うどんと一緒にお昼ご飯として食べた)炊き込みご飯に入っていたムカゴもそうですね、今朝採ったものなんですよ。タンポポの葉っぱもね……タンポポの葉っぱ、食べました?」
●食べました! 私、苦いと思ってたんですけど、全然苦くなくて、シャキシャキと食感もよくて美味しかったです!
「そうです! 春先よりも冬の方が(いいですね)。冬のほうれん草って霜が降りると甘みが増すって言うじゃないですか。西洋タンポポは苦いんだけど、日本タンポポは苦くないんですね。ああいう、自然に、勝手になるものを時々、ちょっとでいいんで食べていると、なんとなく僕は体が元気になっている気分になるんですよ。野菜よりも強いだろう、みたいな(笑)。あと、昔から東北のマタギの人が、“そこの土地で暮らすには、そこの土地のものを自分で取って食べることで、土地に自分が受け入れられてもらえる、そこで暮らす資格を自然に認めてもらえるんだよ”っていう言葉が凄く好きで、食べています」
※続いては、ナイフについて。昔は小学生でも鉛筆を削るために肥後守(ひごのかみ。折りたたみ式の刃物)を持っていましたが、今ではお子さんにナイフを持たせる機会はほとんどないと思います。ナイフのある暮らしを提唱している長野さんは、どのように考えているのでしょうか?
「日本は特に今、刃物の規制が凄く厳しくなってきて、なかなか難しいのが現状かなと思います。僕は今、火とナイフが使える公園をつくろう、というのを北九州市でやっていたりもしていて、そこではナイフを常備して、もちろんスタッフがつきますけど、子供たちがナイフを使えるんですね。以前、そこで僕がワークショップをやった時は、子供たちがバターナイフを作り、また、そこでは養蜂をやっているんで、親はハニースティックっていう、ハチミツをすくう棒を作りました。
この間は地元の小学校に、PTAだからって呼ばれて、ほとんどボランティアなんですけど、竹でアイスクリームのスプーンを作るっていうのを小学6年生全員にやったんですね。そしたら、後から感想文を全員がくれて、“家に帰ったらお母さんにアイスクリームを買ってもらって、そのスプーンで食べたらもう、サイッコーに美味しい!”とか書いてあって、ちょっとグスッときましたね。なんなんだろう、今、ナイフを使っちゃいけないとか、学校でも管理して、日頃ナイフを持っちゃいけないと言ったり……。
去年の春に、スウェーデンにモーラナイフっていうメーカーがあって、そこのアジア地域のアンバサダーになってくれっていう依頼が突然、来たんですね。実はスウェーデンって、木工の国なんですよ。僕が聞いた話だと、小学5年生にウッドカービングっていう、木を削るためのナイフがあるんですね。大人でも結構、手を切るぐらい危なっかしいナイフなんです。それを小学5年生全員に配るんですって! もちろん、バターナイフを削るところから、いろんなものを削る授業もやっていくんでしょうけど、“あなたはこのナイフを持って、一生、家で使ういろんな物を作って暮らしていきなさい”というような(メッセージがあるようなんです)。
実際、僕が前に知り合ったスウェーデン人のかたが“あ、5年生の時にもらった!”って言っていて、でも、おじいちゃんがその時にもらったものも、その人はもらって持っていて、今は2本あるっていう話がありました。なんか、凄くジーンとくるし、スウェーデンっていう国が羨ましいっていうか……。今、そうなったんじゃなくて、昔からただ続いているだけだと思うんですよ。
でも、日本も昔はナイフを普通に持って鉛筆を削ったりだとか、弓矢遊びをするために普通に削ったりだとか、普通にやっていたはずなのに、いつの間にか刃物を持つことが禁止になっちゃった。ただ、禁止になったからって言って、全部取り上げるんじゃなくて、やっぱりそれを使う機会をもっと、増やしていきたい!
だから僕は今、火とナイフでやっていますけど、ナイフに関しては特に禁止されている部分もあるので、いろんな形で体験する場を増やしていって、“台所で野菜を切るだけじゃない、実は刃物ってこんなこともできるんだ”という楽しみが増える、そんな日常になってくるんじゃないかなと思っています」
●子供たちにナイフを使わせるときに、こんなことを伝えておいたほうがいい、こんな使い方がいいよとか、いくつかポイントがあれば教えてください。
「基本的には、大人でも子供でも一緒なんですけども、まずナイフ自体を動かさないような削り方。材料を動かしてナイフを膝の上とかで握って固定するやり方とか、それに付随したやり方。要は、ナイフを振り回す感じで使わないっていうのが、削り方のポイントになりますね。
あとは必ず、ナイフを使う時に子供たちに言うことがあって、それは“ナイフを持つっていうことが、どういうことか”っていうのを尋ねるんですよ。それから、“ナイフを持てるっていうのは、お前はナイフを持つに値する人間って認められたから今、ナイフが持てるんだ。だから、自分がそういう人間じゃない、そうはなれないと思う人間は、持っちゃいけないよ。でも、今ここでナイフを使って、これから物を削るっていうことは、お前はもう、ナイフを持つに値するから、そういう自分の責任や、自分がそういう人間だっていう認識を持って、これからナイフを使いなさい”って言うんです。それを言うと結構みんな、ちゃんとします」
※実は、取材にうかがった日はBE-NAURE SCHOOL主催の「長野修平の焚き火クラフト 火で作る木製マグ『ククサ』作りと焚き火ランチ」のワークショップが開催されていました。マグカップ作りと聞くと、てっきりナイフや斧で切り出していくのかなと思うかたもいると思いますが、実はある意外なものを使っていたんです! それは、「火」。
木製のものに「火」と聞くと、なんだか燃えてしまいそうな気がしますが、逆にそれを利用して、飲み物等を入れる部分を調整しながら燃やすと、綺麗なお椀型になるんです。これならすべて削るより労力がかからないし、ナイス・アイデアですよね!
しかもこの火、番組でずっと応援している「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」の、古代式の丸木舟の製作でも、似たような方法で火が使われていたんです! 先人の知恵って本当に凄いですよね。
長野さんも、先人の知恵からヒントを貰ったりしているのかもしれません。改めて、ネイチャー・クラフトの楽しさについてうかがってみました。
「自分で野山に行って拾って、それを見て“これで何が作れるかなぁ”とか、そうやって考えていきながら自然素材と格闘していくうちに、だんだん“あ、この素材はこれに使えるな”とか、“これだったら、ちょっと削るだけでいい”とか、そういうのが自分なりに見えてくるっていうか、逆にそれが見えた時が一番、楽しいっていうか……。だから基本、素材ありきで物を作って、それを家で使っていくっていう、その流れが僕の中でのネイチャー・クラフトみたいなものになっていっているのかなぁ」
●例えば、どんな素材がどんな特性があって、どんな小物に適しているのかを教えてください。
「まず基本は、固いものは丈夫なもの、でもあまり加工できない。触って崩れるようなものは、逆に窓辺に飾るものとか、光を透かして綺麗だったら、窓辺に置いて光を透かすものにするとかっていうのが、ひとつの基本。その中でも、竹っていうのは(いいですね)。台所道具って菜箸(さいばし)とかヘラとか、竹(でできた物)が多いじゃないですか。竹って防腐、殺菌効果が凄く高い素材なんですよ。なので、竹は台所道具とかカトラリー(食卓用のナイフやスプーン、フォークなど)にも凄く向いています。
よく、竹を割ったような性格って言うじゃないですか。要は、鉈(なた)とかアックスっていう大きい刃物で縦にどんどん裂くように割っていけるので、それを効率的に使っていくと凄く簡単に作れるんですね。だから、簡単に作れて、台所でも安心して使えて、結構長持ちするんですよ。
千利休の茶杓(ちゃしゃく)って、竹でできた400年前のもので、未だに現存しているんです。あれは今、博物館に入っていますが、使い続けていれば実用として使えるぐらい丈夫になっていますね。(茶杓の)中に油が染み込んでどんどん硬くなっていくんです。使えば使うほど、よくなっていく。きょうも自然素材でカップを作っていますけど、それも使えば使うほど中に油が染みて硬くなって、丈夫になっていくんですね。だから、経年劣化じゃなくて、経てば経つほど丈夫になっていくっていうことなんです。
家で使う、それこそ鍋やヤカンなども、例えばテフロンのフライパンとかも僕の家にもあって凄く使いやすいけども、だんだんダメになっていくじゃないですか。でも例えばきょう料理したダッチオーブンとかっていうのは油が染み込んで、要は使い心地がよくなっていく。だから使えば使うほど、もう手放せない鍋に実は成長していくんですね。そういうものって凄く嬉しいし、ものを大事にして、大事に使えばもっとよくなるっていうか、そういうものが凄く好きになってきているかな。そういう物を作りたいっていうのもありますね」
●今だと割と安く買えて、使い捨てでどんどん新しいのにしちゃうっていうことが多くなりつつありますけども、そういうふうに長く使っていくっていうのは、大事ですね。
「僕が好きなだけです。僕もそういう(使い捨ての物を使っている)時期もあったし。ただ、それをやった上で、“あ、こっちのほうがやっぱり、なんかいいな。自分はこっちのほうが好きだな”って思ったんですね。自然素材だし、プラスチック問題もある中で、木工製品だったらいいし。
なにより一番、僕がいいと思っているのは、素材を自然の中から持ってきた、あるいはそこから生まれたのがちゃんとわかる素材であって、かつ、木でできた物って、いらなくなったらどうするかというと、今、焚き火していますけど、最期はここに入れて燃やしちゃうんですよ。結構、燃やしちゃったものもありますよ。
だから、誕生から最期の後始末までを全部、自分が面倒を見られるというか……。そういうのは、家で使う物だとなかなかないじゃないですか。必ず要らなくなった物はゴミとして処理する。でも、それって誰かが代わりに最終処理をしてくれて、自然に還すのか、しょうがなく埋め立てるのか。それを最期の始末まで見られるっていうのは、なんとなく気持ちがいい、気分がスッキリする、合点がいくというか……。そういうのが暮らしの中にいっぱいあると、幸せだなと思っていますね」
※最後に、焚き火の魅力についてうかがいました。
「なんなんだろう、焚き火が好きな人、多いですね」
●なんか、見るだけで穏やかな気持ちになって、落ち着くんですよね。
「そうですね。焚き火って、お酒を飲む人も飲めない人も、喋る人も無口な人もひとつの輪にいて、寂しさを感じないもの。焚き火を見てて、目線を合わせないで会話もできるし、お酒を飲む人のペースでボーっと焚き火を見ていても間が持つし、今はもう夕暮れになってきていますけど、火が燃えていて暖かいと人も集まってくるし……。だから、いろんな効用というか、わからないぐらい、いろいろあるんでしょうね」
●しかも、私たちの祖先もこういう火をずっと見ていたから、DNAの中に火に対して何か落ち着く要素があるのかな、なんて思っちゃいますね。
「きょうやっていたワークショップも、火とナイフっていうのがひとつのテーマになっているんですよ。いわゆる電気もガスもない時には、その代わりは全部、火がやっていた。火があれば、焼くことで食べられるものは焼いて、お湯も沸かすことができてお茶も飲める。もちろん、体も温まるし、照明にもなる。
あと、いつもはこの焚き火の上に大きい肉をぶら下げておいて、(焚き火から)出る煙が勿体ないんで、勝手に燻製(くんせい)を作っているんです。丸1日〜2日かかるんですけどね。
あともうひとつ、人間の手では決して削れないものを削ってくれる、刃物。これがあることで、人間の暮らしっていうのは大きくステップアップしていくんですね。だから、火とナイフっていうものがあると、人間の暮らしは凄く豊かになったし、逆にそれがあれば、最低限のことが実は保てるというか……。
今、災害が多くて悲しいことも多いですよね。そういう時に火と刃物がすぐに役立つかっていうと、そうではないかもしれないんだけど、何もなくなった時に、“火とか刃物があればこんなことができる”っていうのを体験しておくことで、自分の奥底に自信みたいなものをみんな持ってくれると思うんです。自信ってやっぱり一番の美徳だし、何かあった時に一番、多分生き残るための力になる。“自分は生き残れるんだ。何か知恵を絞れば大丈夫だ”って思った時に一番、力を発揮できるんです。
僕は今回、木をナイフで掘って削って仕上げるっていう、それを“焚き火ククサ”って呼んでいますけど、両方の要素を十分に使うワークショップなんですね。きょうはみんなにその部分までは伝えていないんですけど、そのバックテーマというか、裏テーマは、僕はそこにあると思っているし、それをみんな今回のワークショップですぐに感じるか、いずれ感じてくれたら嬉しいなと思いますね」
●なかなか今だと、普通に都会で暮らしていると、火とかナイフって使う機会がないですもんね。
「そうですね。だから、どんどん増やしていきたいです! もう“変な人”って思われてもいいので、とにかくあの人は火とナイフだけでやっている、みたいな(笑)。そういう、ちょっと変な人がいるぐらいのほうが多分、現代社会では面白がってくれて“何だろう?”って興味を示してくれる人も増えてくれるんじゃないかなと思っていますけどね」
☆写真協力:BE-NATURE SCHOOL
長野さんを見ていると「自分の手で暮らしを作る」ことの楽しさや幸せが、ひしひしと伝わってきました。私も自分の身の回りにある道具や暮らしを、少し見直してみようと思います。
2月16日・17日に、UPI OUTDOOR鎌倉でウッドカービングの講座が行なわれる予定です。
長野さんのイベントや近況については、ぜひFacebookやInstagramをご覧ください。