今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、環境ジャーナリスト・竹田有里(たけだ・ゆり)さんさんです。
竹田さんは、岡山市出身。津田塾大学卒業後、TOKYO MXでニュース・キャスター、そして社会部の記者として活躍。現在はフジテレビの環境ドキュメンタリー番組「環境クライシス」のディレクターとしても活躍中です。
竹田さんは2018年にモンゴルの遊牧民を密着取材、一緒に生活し、彼らの実情を肌身で感じ、ジャーナリストとしてその模様を伝えてらっしゃいます。今回はそんな竹田さんに、モンゴル・ウランバートルの深刻な大気汚染、そして竹田さんが仕掛け人の「木製ストロー」などについてうかがいます。
写真協力:竹田有里
※今、モンゴルはどういった状況なのでしょうか。首都ウランバートルの驚きの現状から教えていただきました。
「モンゴルの首都ウランバートルって、実は世界ワースト1の大気汚染の都市とも言われているんですね。(大気汚染の程度が)世界の平均の25倍! 北京って大気汚染がひどいっていうイメージがありますよね」
●今、ニュースでも話題になっていますよね。
「(モンゴルは)北京の5倍なんですよ! そのぐらい今、大気汚染がひどくって、冬にモンゴルに行きますと、目の前の信号が見えないんです」
●そんなに……!?
「目にはサングラスをして、マスクをしていないと咳き込んでしまって会話もできない。そういった現状がウランバートルではあるんですけども、何でこんなことになっているのかと紐解いてみますと、遊牧民の生活にたどり着くんですね。今、遊牧民の数がどんどん減っていて、みんな遊牧を捨ててウランバートルに来るんです。何故なのか、それは“ゾド”って呼ばれる災害が起きているんですね。これは夏の干ばつで草が全然育たなくなってしまって、さらに冬は物凄く寒いんですね。冬になるとマイナス50度にもなるんですよ! 想像できますか!?」
●いや〜、全然できないですね!
「ペットボトルのお水を置いていたら、一瞬で凍ります。そういった極寒がずっと続いてしまって、結局、夏の間に草を蓄えられなくなってしまったんです。それで家畜がやせ細ってしまい、冬を越せなくなってしまう。そして春先になってバタバタと家畜が死んでしまう。
家畜って遊牧民にとってみれば財産です。お金と一緒。羊数頭と引き換えに、子供たちが学校に通う教育費を得る、というように、家畜と交換なんですね。そういった生活がもうできなくなっていて、遊牧民の方たちがウランバートルに来なきゃいけなくなってしまっている。そして職を探して……ということなんです。
今までは遊牧民の方って、暖をとるため、そして料理をするために家畜の糞を燃やしていたんです。でも家畜がないわけですから、安くて粗悪な石炭を買っているんです。ゲルっていう遊牧民用のテントがあるんですけど、それをいろんなところに立てて、暖をとるためにその石炭を燃やしているんですけど、その煙がもうウランバートルに充満していて、それで一気に大気汚染になっているんですよね」
●遊牧民の方たちを苦しめているゾドっていうのは、最近言われている気候変動の影響があるんでしょうか?
「そうですね。気候変動の影響によって、ゾドと呼ばれているものが、もちろん前からあったんですけど、ただゾドの発生回数がより多くなってきているということが言われていますね」
●当然、その気候変動に影響を及ぼしているのは、主に私たち先進国の暮らしですよね。
「そうですね。産業革命以降、どんどん気温が上がってきているのは、やっぱり先進国の国々が温室効果ガスをどんどん排出してしまったからと言われていますね。もちろん排出しないことが一番いいんですけど、ただ、“それを出すな”っていうのも、やはり経済活動の中で発展途上国の国々だって、ようやく今、これから発展していこうという状況なので、出さないわけにはいかないですけどね……。でも、先進国はある程度発展したわけですし、今度は発展途上国のために、何か力を尽くすというのが大事だなと思いますね」
●私たちの暮らしがモンゴルの遊牧民の方たちに影響を与えて、そしてそれがウランバートルの大気汚染につながっているって、悪い循環というんでしょうか、全部がつながっちゃっているんですね。
「そうですね、“負のスパイラル”という状況で、それを上手く断ち切るということが、私たち先進国の使命なんじゃないかなと思います。企業の皆さんだったり私たち生活者も、やれることはやっていかなきゃいけないんじゃないかなと思っていますね」
※竹田さんは、世界最南端のトナカイ遊牧民、ツァータン族の取材もされています。少数民族である彼らは今、どんな状況に置かれているのでしょうか。
「トナカイの遊牧民が、モンゴルとロシアの国境沿いに住んでいるんですけど、そこにも私、行きました! 車で48時間かけて行き、そしてトナカイに乗って村まで行くんですが、そこで何が起きているかと言いますと、気候変動の影響で、今までは冬にちゃんと雪も降って、春にも降っていたんですね。それが春に雪が降らなくなってしまって、気温も上がってきて……。それでトナカイがどんどん死ぬようになってしまった。何でトナカイが死ぬかっていうと、今まで発生していなかったダニが(トナカイに)付くようになってしまったんです。気温が上がってしまってダニが付きやすくなって、トナカイはダニに対する免疫がないものですから、それで死んでしまったりだとか……。
あと、トナカイって雪の上だと走れるんですけど、ドロドロになった場所は走れなくって、遊牧しても日中は暑くなってしまってダメなので、夜に遊牧しに行くんです。そうするとオオカミもやって来るんですね。でも、トナカイはオオカミが来ても走れないわけですよ。それでオオカミに食べられてしまって、ということも多くって、それでトナカイの遊牧民の方たちは、気候変動の影響で住む場所がどんどん追われてしまっている状況ですね」
●あの……凄く浅い考えかもしれないんですけど、そういう方たちはトナカイを捨てて、家畜に適した別の生き物と暮らすことはやっぱり、難しいんですかね?
「それを私、聞いちゃったんですよ! そしたら木の枝を投げつけられて、“そんなバカな質問をするな! 自分たちは代々、トナカイを育てて、トナカイと一緒に暮らしてきたんだ。トナカイを捨てて他の家畜でとか、そんなの考えられない! トナカイとずっとこれからも生きていくんだ”と言われてしまって、今思うとですね、凄く浅はかな質問をしてしまった私は本当に後悔しているんですけども……」
●いやいや、私も同じことを思っちゃいましたから(笑)。もうちょっと飼いやすい羊とかじゃダメなのかなって思っちゃうんですけど、そうじゃないんですね。
「やっぱりそれがアイデンティティなんですよね」
※竹田さんは、インドでこんな人たちも取材されています。
「インドにゴラマラ島っていう、海面上昇がひどくて、ここ数十年で面積が半分になってしまった島に暮らしている人たちに取材に行ったりとかもしました。あとほかには、サイクロンの数がどんどん増えてきて、今まで住んでいた場所も奪われてしまって、モンゴル(のパターン)と一緒ですけども、大都市に行くしかない、と。そして大都市のスラムに住んでいたりだとか。
もう衝撃的だったのが、レイルウェイ・スラムっていう場所がありまして、線路の上で皆さん住んでいるんですよ! それで電車が来るとパァーって片付けて避難するんですけど、基本的には線路の上にキッチンや寝床があったり、というようなところで生活しているんです。
サイクロンで被害に遭った人たちはそこに移り住むんですけど、ただ皆さん、モンゴルの時もそうだったんですけど、本当に悲観的なところは全然なくてですね、むしろ笑顔が絶えない! 私たちが行くともうウェルカムで、“ピース!”ってしてきたりとか、笑顔で迎え入れてくれるんです。“なんでこんなにたくましいというか、笑顔でいられるんだろう?”と思って聞きますと、“もうしょうがないじゃん! だってもう、家もないんだもん! 今ある生活をどうやって楽しむかだよ!”と言ってくださって、かえってこっちが元気をもらっちゃったんですね。凄く不思議な感覚ではあったんですけどもね。
でもこれって本当に、専門家の皆さん誰に聞いても、“いや、インドやモンゴルで起きていることは、あなたの国、日本でだって当然起きることなんですよ”と同じようにおっしゃっているんです。なので凄く難しいんですけど、やっぱり日頃の生活の中から、その人の立場になれとは言いませんけれども、日頃の生活をちょっとずつ変えていって、何かしら次世代の子供たちのためにとか、ちょっとでもいいので地球のことを考えて生活していってくれればありがたいなって本当に思います」
※この番組では、2018年9月に緊急リポートとして、マイクロプラスチックによる海洋汚染の問題を取り上げました。
お話をうかがったグリーンピース・ジャパン・石原謙治(いしはら・けんじ)さんから、「プラスチックはこれまでに63億トンも廃棄され、そのうち9%しかリサイクルされていない」とか、「世界中の海にプラスチックのゴミが漂い、太平洋には日本の国土の4倍にあたるプラスチックゴミの塊がある」さらには、「東京湾のイワシの8割からマイクロプラスチックが検出されている」など、ショッキングな話に思わず息を飲みました。
その後も、世界中でマイクロプラスチック汚染の研究や検証は進んでいます。
最近の主だったニュースをご紹介すると、東京海洋大学などの研究チームが、太平洋のマイクロプラスチックの量は2030年までに今のおよそ2倍になる、とのシミュレーションを発表しました。また英国の海洋研究所の調査によると、沿岸に打ち上げられたイルカやクジラ、アザラシなど50頭すべてからマイクロプラスチックが発見されたと発表。さらにオーストラリアの研究グループは、人間の排泄物からもマイクロプラスチックが見つかったと報告しています。人体への影響はまだわからないということですが、怖いですよね。
そんな中、大手コーヒーチェーン店スターバックスが、2020年までにプラスチックストローの廃止を発表するなど、マイクロプラスチック対策のひとつとしてストローに注目が集まっています。
そんな中、竹田さんが手がけたのが、木製ストロー! 一体どんなものなのでしょうか。
「日本って、木のストローをインターネットで調べてみると、全然出てこないんですよね。“ウッド・ストロー”という形で、海外ではちょこっと出てきたりはするんですけど、でもなかなか日本のものは出てこないんです。“なんで日本にはないんだろう?”って、凄く不思議ではあったんですよね」
●それで、せっかく日本にいるんだから木製のストローを作ってみよう、というふうに思って始めたんですか?
「そうですね。去年2018年7月に西日本豪雨がありましたよね。もともとはその時に被災地の取材をした際、土砂崩れの現場を見て、“なんでこんなに土砂崩れが起きているんだろう?”って思いながら取材を進めていくうちに、どうやら山の森林管理がきちんとできていなくて、その影響で、土砂が崩れてしまっているということを知ったんですね。
それで、“これ、何でなんだろう?”と思って深めていくと、結局、林業でやっていける人たちがどんどん減ってきてしまっている現状があって、現地にいらっしゃる方も“もう、どうしようもない。だって、やれる人がいないんだもの”ということでした。
間伐材といって森林がきちんと成長していくために木を間引きしていく、その木のことなんですけど、その間伐材を何かに使うことによって、森林管理を上手く回せないかなと思ったことが(木製ストローの)きっかけなんですよね」
●そうだったんですね。“土砂崩れが起きるのは、木がないから起きるのかな”と思われる方もいるかもしれないですが、そうじゃない。ちゃんと管理して間引きをしないから、ああいう現象になっちゃっているんですね。
「なのでやっぱり、適正ということが重要なんです。(木が)ないっていうことでもダメですし、多過ぎてもよくないので、森林管理が一番重要なんですよね」
●そのために間伐材を有効活用しようと思われたんですね。
今でもそうですけど、割り箸を使わないように“My箸”を持って環境に配慮してっていう人も多いと思うんですけど、実は割り箸っていうのは間伐材を使うためにはよかった、という話もありますよね。
「そうなんですよね。やっぱり情報も錯綜していたりして、間伐材を使ったものが本当は多いはずなんですよね、割り箸って。それと同じで、木のストローだって間伐材を使えばいい話で、新しいちゃんとした木を伐採して作ろうということではないんです。ストローって、そんなに木は必要じゃないんですよね。きょう、実際に持って来たんですけど、ペラッペラなんですよ。これ、0.15mmにスライスした木なんですけど……」
*実際にスライスされた木を持ってみました。
●今、パリパリと音がしていますが、紙よりはちょっと厚みがあるんですけど、木目調でまさに木の皮という感じですね!
「そうなんですよ。それを作るのにも、そんな大した木の量は必要ないんですよね。なので間伐材で十分対応できるということなんです」
●なるほど。この薄い木を丸めてストローを作っているんですか?
「これを斜めにクルクルと巻いたんです。まっすぐに丸めてしまうと、隙間から空気が入ってしまって飲めないということも試作の段階であって、“どうやったら空気が入ってこないようにストローを作れるんだろう?”って考えたところ、斜めに巻こうということになったんです」
●なるほど。それで、持ってきていただいているのが……。
「こちらなんですけども、ご覧のように、木目が斜めに、らせん状に入っているんですけど、木目に平行に巻いていたものだと、ちょっと脆く感じませんかね?」
(竹田さんが木目に平行に巻いた試作品の木製ストローを手渡してくださいました)
●確かに! ちょっと押すと縦に亀裂が入っちゃいそうな感じがしますね。
(続いて、木目に対して斜めに巻いた木製ストローを持たせてもらって・・・)
それでこっちが、斜めにした木製ストローですね。なんだか、シュガースティックみたいですね(笑)。
「そうなんです! 中にチョコレートが入っているようなお菓子がありますけど、そういったものに見えるってよく言われますね」
●でも確かにこれだと、ちょっと今、潰すように押しているんですけど、弾力があってパキッと鳴らなそうな感じがしますね。木って結構、弾力があるんですね!
「そうなんですよ。意外に木って伸縮性もありまして、固めていくと凄く頑丈になるんです。木って本当に面白い材質なんですよね」
※どんなきっかけで木製ストローを開発することになったのでしょうか。
「スターバックスだったり、外食チェーンが“ストローを辞めましょう”って言っていますが、紙のストローや竹のストローなど、いろいろあると思いますけど、せっかくだから、環境にもいいし、森林管理、いわゆる林業の支援にもなる。そして防災にもなるということで、“じゃあちょっとストローをやってみよう”というのが最初のきっかけだったんですよね」
●そうだったんですね。それでいろいろ苦労されて、この木製ストローを作って、それで今はどういう段階になっているんですか?
「今はもうちょっと品質を上げていこうと思いまして、例えば、接着部分をもう少し自然のものにしてみよう、ザ・ナチュラルなものにしようというところで、こんにゃくや山芋などで、粘着力があるのかどうかっていうテストをしたりとか、そういうことをしていますね」
●じゃあ、使い終わったらゴミとして捨てても……。
「何も(残ら)ないです。もちろん一番いいのは、ポイ捨てをしないことですけど、たとえポイ捨てされたとしても、今、海洋プラスチックの問題がありますけども、海にもちゃんと溶けるというか、馴染んでいくというもので、決して害にならないものというのを目指していますね」
●なるほど。この木の種類は何を使っているんですか?
「杉の木です」
●へぇ〜!
「なので、例えばこれから、杉花粉なんかがひどくなると思うんですけど、その杉の木も使えます。日本に杉の木っていっぱいあるんですけど、その杉の木が一番、このストローに合っているんです。ヒノキも試してみて、持って来たんですけど……」
●匂いたい!
「少し匂いが消えてしまったかもしれませんが……」
*ヒノキのストローを持たせてもらいました。
●……ヒノキ風呂の匂いがします!
「これは凄く日本っぽくていいなと思うんですが、やっぱり飲み物を飲む時に(ヒノキの匂いが)飲み物に移ってしまうという懸念から、今は杉の木にしています」
●杉の木のストローだと、水を通した時にも劣化したりとかはないんですか?
「ないですね! もちろん、3〜4時間もずっと浸けていたら、紙のストローと同じでちょっとふにゃってなってしまうんですけど、お茶だったりコーヒーを飲むぶんには全く問題ないですね」
●そうなんですね。この木のストローで飲むとどんな味がするのか、気になるところなんですけど(笑)。
「ぜひ試してみてください!」
●実際に木のストローを使っているんですよね。どうですか、普通のストローを使うのと味は違ったりしますか?
「味はそんなに変わりはしないですよね。あとは舌触りみたいなところですかね。口に触れた時に、紙のストローよりかはちょっと滑らか感があるというか、紙だと少しトイレットペーパーの芯を舐めているような感じだとよく言われると思うんですけど、そういったことが木のストローにはないので、凄く飲みやすいなと、ちょっと自負しております(笑)」
●幅広い年代に使っていただけそうですね!
「そうですね、お年寄りから小さいお子さんまで飲みやすいと思いますし、安心して飲んでいただけると思います」
気候変動によって様々なバランスが崩れてきてしまっているんですね。気候変動も海洋汚染も今、行動しなければ、取り返しのつかないことになってしまう。その前に何が出来るのか、今一度、考えてみたいと思います。
竹田さんが仕掛け人の木製ストローが、赤坂にある「ザ・キャピトルホテル東急」のレストラン「オールデイダイニング ORIGAMI」で試験導入されています。4月までに、ホテル内すべてのレストランやバーのプラスチック製ストローの使用をやめる予定とのことです。
そして、竹田さんが手がける環境ドキュメンタリー番組「環境クライシス」の第3弾が、3月23日(土)に放送される予定です。今回はインドネシアの都市水害や森林伐採などの現状に密着!
さらに3月28日(木)には、SDGsに関するトークショーがシティラボ東京で行なわれ、メディアの役割として竹田さんが登壇。開催時間は夕方5時から。他にも講談社の雑誌『FraU』の編集長や朝日新聞の編集委員が登壇します。