今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、WWF ジャパンの気候変動・エネルギー・グループ・リーダーの山岸尚之(やまぎし・なおゆき)さんです。
山岸さんは、京都議定書が採択された1997年のCOP3をきっかけに気候変動に関心を持ち、立命館大学からボストン大学・大学院を経て、WWFジャパンに入りました。そして気候変動担当として、政策提言や国連会議でのロビー活動など、まさに気候変動の最前線で活躍してらっしゃいます。
そんな山岸さんは、昨年2018年の12月にポーランドで開催された、気候変動に関する国連の国際会議「COP24」の現場で動向を見てこられました。そこで今回は、温暖化の現状と、これから世界がどうやって温暖化に歯止めをかけようとしているのか、わかりやすく解説していただきます。
※まずは、温暖化が今どういった状況なのか教えていただきます。昨年2018年10月に、国連の研究機関IPCCが発表した「1.5度 特別報告書」によると、地球の平均気温の上昇を、産業革命以前と比べて1.5度に抑える場合と、2度に抑える場合とでは、大きな違いがあると書かれています。その解説をお願いしました。
「1.5度と2度、というと、一般的な感覚からすると、“たかだか0.5度しか違わないじゃないか”というふうに思われるかもしれないけれど、温暖化の影響という観点からいうと、やっぱり明確な差があります。例えばサンゴ礁を例にとりますと、2度まで上昇すると、もうほぼ全滅するだろう、という予測も述べられていますし、洪水によって被害を受ける人たちの数というのも、1.5度よりも2度のほうが多いんです。だから0.5度というのは、決して小さな違いじゃないんですよということも、この1.5度の特別報告書は述べていますね」
●実際としては、今、どうなんですか? このままいったら、例えば2030年とか2050年までには、どれくらいまで気温が上がっちゃいそうなんですか?
「この1.5度の特別報告書は、実は今の世界各国が掲げている目標を頑張って守ったとしたらどれくらいになるのか、ということも語っていて、その予測によると、2100年までに3度上昇すると言っています。まとめていうと、理想的には1.5度に抑えたい。国際的には今まで2度のラインで来ました。でも、今の各国の目標のままでいくと、多分3度になってしまいます、と。そういう結論が科学の側から出された、というのが昨年2018年10月の衝撃だったわけです」
●本当に衝撃的ですよね。0.5度でも全然違うっていう話だったのに、それがさらに3度まで上昇となったら! 例えば身近なところだと、最近は異常気象っていうのを肌で感じることが多くなってきているんですけども、これもやっぱり温暖化の影響というのは大きいんですか?
「そうですね。身近なところでいうと、それこそ去年2018年は、7月に東日本では凄く異常な高温が観測されたし、西日本では豪雨が凄かったですよね。通常、こういう単年で起きる事象に関して、温暖化の影響がどれくらいかっていうのは結構、言いにくいんです。なので公的機関もなかなか言わないんですけど、昨年はさすがに気象庁も、“7月の異常な高温であるとか、あるいは西日本での異常な豪雨は温暖化の影響が関与していると考えられる”ということを声明で言っていました。
同じように昨年でいうと、どんなニュースがあったのか思い起こしていただきたいんですけども、同じ時期にカリフォルニアで大規模な火事がありましたよね。あれもやっぱり温暖化の影響によって、(火事が)発生する件数、それから期間が増えてきているということが指摘されています。
さらにもっと身近なところでいうと、今、こうやってインタビューをしていただいている時点で、アメリカとかカナダで凄い寒波が襲っているんですね。凄く変な話なんですけど、これも実は温暖化の影響が噂されているというか、科学者は指摘をしているんですね。何でかっていうと、普通は冷たい空気が北極で留まって渦を巻いているんですけど、北極が異常に温まることによって、その渦がちょっと拡散してしまうんですね。すると、本来であれば北極の方で留まっているべき冷たい空気が、せり出してくる。その影響を受けて、現在のアメリカなんかは寒波の影響を受けているんじゃないかということを指摘する科学者も出てき始めています。
ですから、こういった形で、単に“地球のどこかで寒いから、温暖化じゃない”とかいう話じゃなくて、まさに公式用語で使われる“気候変動”と呼ばれる現象であることを認識しておくことが大事かなと思いますね」
●なるほど。世界中が取り組まなきゃいけない問題に、確実になってきているということなんですね。
「そうですね。本当に、日本も例外じゃないです」
※それでは、COP24でどんなことが決まったのかをうかがっていきましょう。まずは、2015年のCOP21で採択された温暖化対策の国際協定「パリ協定」について、どんな内容だったのか、改めて山岸さんに教えてもらいました。
「パリ協定では、“世界の平均気温を産業革命前と比較した時に、2度より十分低く、かつ1.5度に抑える努力もする”ということが言われています。これがパリ協定の凄く大事な目標ですね」
●その目標に向かって、温室効果ガスの排出量も具体的に数値が決められているんですか?
「今世紀後半に、世界の温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにしましょう、ということを掲げています。つまり、CO2の排出量をゼロにするということは、今世紀後半には化石燃料を使わない世界にしますよ、ということを基本的にこの条約では言っているに等しいんですね。なので、このことを受けて、この業界ではよく“パリ協定では脱炭素化を目指している”と言われています。CO2を排出するというのは、要するに炭素を大気中に排出するということなので、“炭素を使うエネルギーではないものにシフトしていきましょう”ということで、脱炭素ということがパリ協定の目標としてよく言われますね」
●“脱炭素”、なかなかそこにいくには、難しい問題もありそうですね。
「そうですね。決して簡単なものではないということを、当然パリ協定を作った、世界各国の代表の人たちも十分に認識した上で、でも島嶼国(とうしょこく)とか後発開発途上国とかから、“やっぱりこれは作らないと!”という声も強く上がったし、当時はアメリカも、そして中国も“やっぱりこれは作らないといけない”という心でしたので、世界のみんなが合意をして作り上げたという、そういう意味で画期的な合意でしたね。
※では、そんなパリ協定を進めていくにあたって、今回のC0P 24でどんなことが決まったのでしょうか。
「わかりやすいところでいうと、パリ協定のもとで各国は、何かしらの温暖化対策の目標を持たなきゃいけないということになっています。パリ協定ができた時に、すでに日本もアメリカもヨーロッパも、そして後発開発途上国なんかも含めて、みんな何らかの目標を出しているんですね。でも、その出した目標って結構、書き方がバラバラなんですよ。これだと世界共通の仕組みとして、今後困ったことにもなりかねないので、書き方の中身、そして書かなきゃいけない中身っていうのも揃えていきましょう、という話し合いがされて、その一部がCOP24の段階で決まってきたんです。
基本的に、世界の全ての国々が同じ内容、同じ項目を書きましょう。もちろん、国によって中身は変わりますけど、でも書かなきゃいけない項目は基本的に同じにしましょうね、ということが合意されたんです。それが大事なことのうちのひとつでしたね。
もうひとつだけ一例として挙げるとすると、単に目標を作るだけじゃダメですよね。やっぱり実行しないと。じゃあ、その実行した目標と、その進捗ですよね。“みんなは温暖化対策、どれくらいやってるの?”ということを報告する仕組みについても、ルールをちゃんと決めておきましょうということがCOP24では記録されました。
また、国連に出したら、国連はどんな審査をするのか。各国がお互いに“お前んところはちゃんとやってるの?”と聞かれた時に、“うちはちゃんとやっています。なぜなら、○○という理由です”って説明するという、確認する仕組み、このルールも作られたんです。
これに関していうと、例えば途上国の中では一部、“うちの国ではまだ、統計が揃っていないんです”とか、そういう場合に関しては柔軟に対応してもいいですよ、というルールが決まりまして、そういう意味ではある程度、各国に対して配慮がある形なんですが、基本は全ての国に対して共通のルールを作る、そういう内容になりました」
※さて、今回のCOP24では「タラノア対話」が注目されました。これは一体、どんな対話なのでしょうか。
「タラノアっていう言葉自体は、フィジーの言葉らしいんですね。フィジーの中で、透明性があって、誰でも参加できて、かつポジティブな話し合いをする対話の形式のことをタラノアって呼ぶらしいんです。国連交渉って、ともすれば非生産的な議論が3〜4時間、下手をすると夜通し続いたりするんですけども、そういうんじゃなくて、お互いにストーリーを持ち寄ってポジティブに話す“タラノア”っていう精神を持ちこもうじゃないかということで、タラノア対話っていう名前がつきました。
じゃあ、何するための対話だったかといいますと、ずばり言うとですね、先ほどちょっとお話ししたように、世界各国が掲げている目標って足りないんですよ。だから、なんとかして引き上げないといけない。そのためのいいアイデアをポジティブな形で持ち寄って、COP24で出すためのお膳立ての対話、という意味だったんです」
●どんなアイデアが出てきたんですか?
「いろんなアイデアが出たんですけども、やっぱりもう本当に直接的に、島嶼国なんかは“自分たち自身が率先して目標を引き上げますよ”って宣言したところも出てきたんですね。フィジーとかマーシャル諸島は“自分たちがまず、引き上げます。私たちみたいな島嶼国にできるんだから、先進国のみなさんもできますよね?”っていうストーリーが出てきました。
そう言われると、やっぱりみんな、グッとくるわけじゃないですか。そんなストーリーが持ち込まれたりだとか、あるいは単に政府だけじゃなくて、企業とか自治体も、“こんなにアクションを取っているんですよ!”というストーリーもたくさん集まってきました。
ですから、“温暖化対策はもうこれ以上できないよ!”って政府が言う時には、だいたいその理由としては、“いやぁね、(自分の)国にそんな厳しい目標を持ち帰っても、企業とか自治体が困るんですよ”っていう話になるわけじゃないですか。でも今は、逆に企業とか自治体の先進的な人たちが“俺たちはこれだけやるんだ!”ということを国際社会に直接持ってくるんですよね。
そうすると言い訳をしていた人たちも“いや、あの……えっ、えっっ!?”みたいな感じになるわけですよ(笑)。現場の、本当にやる人たちが“俺たちはやる!”って言っているのに、政府の側が“できない、って言うのもちょっとなぁ……”という雰囲気を作り出す。そういうことを一生懸命、ポジティブな人たちがやっていたっていう、そういう対話ですね」
●確かに前回、パリ協定からアメリカが抜けた時に、州単位とか企業単位で“私たちは残りますよ!”っていう宣言をしたじゃないですか。今はそういう民間レベルで取り組んでいこうっていう流れがきているんですかね?
「そうですね。今、ご紹介いただいた、アメリカの“We are still in(私たちはパリ協定に留まる)”という宣言をした人たちっていうのは、まさにそういう代表例ではあるわけですよね。トランプ大統領が“パリ協定、やーだよ!”って言った時にそれが結成されて、(企業や自治体が)1200ぐらいが集まったわけですけど、今現在ですと多分3800ぐらいまで増えていますので、そういった活動っていうのは確実な広がりを見せている状況ですね」
●そういう話を聞くとちょっと明るい未来が見えてきますね!
「実は日本でも、似たような取り組みがあって、Japan Climate Initiative(気候変動イニシアチブ)っていうグループが、昨年2018年の7月に結成されたんですね。当初は100団体ぐらいだったんですけど、現時点で300を超える団体が参加してくださっていて、私たちWWFジャパンも、そういった気候変動イニシアチブをつくる運動の一役を担った団体です」
●そうですか! たくさんの人が、そういうことに関心があるということなんですね!
「そうですね、私が思ったよりもパリ協定が目指す脱炭素化っていうものに対して、賛同してくださる自治体とか企業さんっていうのが実は多かったんだなっていうのは、いい驚きでしたね!」
●そういった中で、日本政府はどうなんですかね?
「そういう面でいうと、日本政府の今のスタンスっていうのは必ずしも、すでに民間で起きている勢いを反映しきれていないんじゃないかなというのは、正直言ってありますね。去年2018年にエネルギーの議論とかもありましたけど、温暖化対策の大きな問題とされているのが、石炭火力発電所というのが凄く増えてしまっているという問題なんですね。
石炭っていうのはやっぱり、化石燃料の中でも一番CO2を排出するので、本来であれば一番最初に対策を打たなければいけないエネルギー源なんですけど、日本では逆に増えてきてしまっているし、これからも増やそうっていう計画がたくさんあるんですよ。なので、これがちょっと残念なポイントで、これに対して本来は政府の側から、“ちょっとそれは増やし過ぎです。なんとかして歯止めをかけましょう!”っていう政策が出てくるべきなんですけども、それが出ていないっていうのは、非常に残念ですね」
※最後に、私たちにどんなことができるのかうかがいました。
「もちろん、家庭の中でCO2を削減するための対策っていろいろありまして、温暖化対策のセンターであるとか省エネルギーセンターのウェブサイトに行っていただくとたくさん見ることができます。それをぜひ、ご家庭で実施していただくっていうのが、まず大事だと思います。
でもそれ以上にやっぱり大事なのが、社会に対しての働きかけを行なうっていうことですね。そう言うとちょっと難しいように聞こえますけども、もう本当に単純なことなんです。選挙に行くとか、あるいはニュースをちゃんと見て、温暖化のニュースがあったらチャンネルを変えないで見ておく。あるいは、何か物を買う時に、CO2の削減に貢献するような物を買ったり、そういうことをちゃんとやっている企業さんを峻別して選んであげる。そういうことが一番大事です。
投資をされている方であれば、最近だとそういう投資信託のファンドもあったりしますので、そういうので選ぶとか、いろんな選択肢がたくさん、実はそこらじゅうにあったりするので、その選択を通じて社会に働きかけるということを、ぜひ自分たちにできる温暖化対策として認識していただくのが、私たちにできることかなと思います」
●そういう温暖化について考えるのにぴったりなイベントをWWFさんで予定されているんですよね?
「そうですね。3月30日の午後8時30分から9時30分までの1時間、消灯する“EARTH HOUR(アース・アワー)”というイベントがあります。毎年開催しているんですけど、今年も開催します。その1日だけじゃなくて、その前後の週間も合わせてEARTH HOURの期間ということで、各地でいろんなイベントもやりますが、東京スカイツリーのあたりでのイベントとか、横浜みなとみらいでのイベント、そして広島でのイベントがありますので、ぜひWWFジャパンのウェブサイトを見て、“これだったら参加できるかも……”というものを探してみてください。できることがきっとあるので、それを通じて参加していただくとありがたいなと思います」
●消灯のリレーになっているって聞いたんですけど……?
「そうなんです。このイベントは世界各国でやるので、しかも8時30分っていうのは現地の8時30分なので、日付変更線から始まって世界をずっと一周していくような、消灯が世界中にリレーされていくようなイベントになっています。毎年、twitterなんかを見ていると、“今度はここで消えました!”みたいなことがアナウンスされていますので、ぜひそういうのも見て楽しんでいただけるといいかなと思います」
●世界の皆さんと一緒に、電力だったり温暖化のことについて考えるきっかけになりそうですよね!
「そうですね。1時間消灯するだけの行為かもしれませんけど、その瞬間にちょっとでも地球のことを考えるきっかけにしていただければなと思います」
☆この他の山岸尚之さんのトークもご覧下さい。
企業や自治体が温暖化対策に積極的に取り組んでいるのは心強いですね。そしてそんな企業や自治体を動かすのは、私たちひとりひとりの選択だと思います。どんな企業のどんな商品を買うのか。未来に繋がる選択を積み重ねていきたいと思います。
WWFジャパンでは随時、会員または寄付を受け付けています。一般会員でひと月500円から。会員になると会員証やパンダのキーチェーン、そして会報誌が特典として送られてきます。
また、お話にもあったイベント「EARTH HOUR」。世界中の人々が同じ日、同じ時刻に明かりを消して、地球温暖化防止と環境保全の意思を示すプロジェクトです。今年は3月30日(土)の夜8時半から9時半まで実施。誰でもその場で参加できるイベントです、ぜひご参加ください!