今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、アウトドア系イラストレーター、スズキサトルさんです。
スズキさんは1973年、山形県生まれ。京都造形芸術大学卒。絵本制作とブッシュクラフトワークの活動をするために、東京から長野県・松本市に拠点を移し、現在、イラストや絵本の制作ほか、ブッシュクラフトや野営のワークショップなど幅広い活動を行なってらっしゃいます。そして先月『森の生活図集ースズキサトルのブッシュクラフトスキルワークブックー』という本を出されました。
今回はそんなスズキさんにブッシュクラフトや、実際に使える野外生活での知恵や技術をうかがいます。
※“ブッシュクラフト”とはなにか、教えていただきました。
「ブッシュクラフトは、日本語に直訳すると“野外の生活技術”という感じですね」
●“技術”なんですね。
「そうですね。昔の人たちがよくやっていたものを現代に活かして、みんなでアクティビティとして楽しむ感じですね」
●横文字なので、海外から来たものかと思ったんですけど、そうじゃないんですか?
「もともとは海外から来たものです。僕もこういうものを知ったのは、10年ぐらい前に、ジョン・リースさんのBBC(イギリスの公共放送)に(*)レイ・ミアーズさんという方がいらっしゃいまして、その方がきっかけでどんどん広まっていったんですね。だから、最近の言葉ですね」
(*)サバイバルの達人、ブッシュクラフトインストラクター、数々のドキュメンタリー番組を制作。
●昔からあった技術なんだけど、ジャンルとしては最近確立した、ということなんですね。
「そうですね。もともとサバイバルっていう意味もあるんですけど、サバイバルっていうのは危険なものから生還、脱出するっていうイメージなんですね。でも、ブッシュクラフトワークはどちらかというと、自分から自然の中に入って、自然のものを利用して楽しんで遊ぶというような、難しくない感じですね」
●へぇ〜! 例えばアウトドアを楽しむ方は、普通に山の中で遊んだりとかもすると思うんですけど、それとはまたちょっと違うんですか?
「そうですね、“いろんな自然のものから道具を作る”っていうことですね。外から道具を持ってくるんではなくて、ナイフとか、少ない物で道具を作っていくんです。例えば、焚き火で使うポットハンガーっていう、鍋を引っ掛けるものがあるんです。実際にアウトドアショップとかに行くと、すでに出来たものが売っているんですけど、それを使わないで、自然の木とか枝から自分で作って楽しむっていうことですね」
●自分で作ると、やっぱり楽しさ倍増ですか?
「そうです、そうです! “えー、何でそんなに面倒臭いことをするの?”って言われるんですけど、実際にやってみると凄く楽しくなっちゃってハマる人が多いですね」
●へぇ〜、そうなんですね。大変なところもあるんじゃないかなと思うんですけど……?
「そうです、確かに大変なんですけど、やっぱりそういうことをすることによって、自分の野外技術が向上するんですね。火起こしも上手くなりますし、ナイフを上手く使えると、魚を捌(さば)いたり何かを作ったりすることもどんどん上手くなってくるので、もっともっとキャンプが楽しくなっていきますね」
●スズキさんご自身が、このブッシュクラフトにのめり込んだきっかけみたいなものってあるんですか?
「もともと僕の親父がテンカラっていう釣りをやっていたんですね。僕は小学校の頃からずっと、親父と一緒に山に行ってキャンプしたり、そういうことをしていたので、もともと今の僕の野外技術っていうのは、その時のものが結構コアな部分にありますね。
もともとブッシュクラフトワークっていうのは西洋から来たものなんですけど、よくよく調べてみると日本にもそういう野外技術っていうのはたくさんあったので、僕はその日本の古来からある野外技術をもっと出していこうと、そして絵に残していこうという感じですね」
●小さい頃、自然の中で遊んでいたアウトドアの技術をいろいろ持っていても、大人になるとちょっと離れてしまったり、忘れちゃうことって多いと思うんですけど、スズキさんはそういうことはなかったんですか?
「実はですね、僕はちょっとアウトドアから離れていた時期もあったんですけども、やっぱり子供の頃に慣れ親しんだものっていうのは(忘れないですね)。自然に出てきたものが、山に入ったりキャンプだったり、そういうものでした。そういう遊びが自然に出来るっていうのもやっぱり、子供の頃にそういうことをやったっていう下地があるんで、すんなり教えることもできましたね」
※では実際に、どんなブッシュクラフトの技術があるのか教えてもらいましょう! まずは、この番組とも深く関係がある、火の起こし方から!
「基本的な、初歩のことなんですけど、“火起こし”ですね。僕らの中では結構、オーソドックスなんですけど、“フェザースティック”っていって、木を細切りに、鳥の羽のように割いて“ファイヤーストライカー”っていう、火花が散る道具があるんですけど、それで火を起こすんですね。マッチとかは使わずに火を起こすんです」
●マッチとか使わずに火って起こせるんですね!
「簡単に起こせますよ! キャンプでお父さんが火を起こすと“お父さん凄い!”みたいに、子供が喜ぶんですよね!」
●そりゃあ、カッコいいですよ! なんか魔法みたいですよね、ゼロのところから火が起きるって!
「そうですね! これは練習すれば誰でも出来ますよ」
●私でも出来ますか?
「全然出来ますね、大丈夫です!」
●実は今、スズキさんに道具をいくつか持って来ていただいているんで、どういう風にやればいいのか、実際にやって教えていただくことって出来ますか?
「大丈夫ですよ!」
●この番組、“フリントストーン”っていうんですが……。
「そうなんですよね、まさにブッシュクラフトにはうってつけの番組名ですよね! フリントストーンっていうのは、“火打ち石”っていうことなんですけど、結構みなさん勘違いしているのは、石と石だけで火を起こしちゃうっていう風に思われる方が多いんです。
けど実はもう一個、“火打ち金(フリントスチール)”っていうものが必要になってくるんですよ。このスチールを、この硬い石、つまりフリントストーンで叩いて削って火花を散らすっていうことなんですよね」
●今、スズキさんが持っているスチールっていうのが、楕円形の鉄の輪っかなんですけど、そういう形のものが一番いいんですか?
「何でもいいですよ。もともと、こういう専門の火打ち金もあるんですけども、例えばノコギリの刃とかでもいいです。ステンレスはダメですけど、鋼(はがね)と言われるものだったら何でもいいです。他にも、例えばカナヤスリとか鉄鋼ヤスリでも火花を散らすことができます」
●なるほど。じゃあ、実際に見本を見せていただけますか?
「わかりました。この火打ち金も実際に売られているものなんですけど、これを火打ち石に当てるんですね。ちょっとやってみますね……」
パチン、パチン、パチン……。
●おっ、火花が散った! 結構、バチバチ散っていますね。ちょうど、町工場で鉄を加工して火花が散っているような、あれと同じ赤い火花が散っています……あっ!
「こういう感じですね」
●今、一緒に綿のロープの端を持って火を起こしていたんですけど、その端が、タバコの火がついたように、火がついていますね! 火がつくんですね〜、凄く感動!
「“アマドゥ”っていう、ツリガネタケを加工したものがあるんですけど、これに先ほどの火種をつけると……」
●あっ、火が移った!
「そして、“バードネスト”っていう麻縄をほぐしたものがあるんですけど、ここに入れて手で回すと、空気が入って、それで火を作っていくんですね」
●どんどん火を大きくしていくんですね! 自分で火を起こせるって、なんかちょっと、新しい力を手に入れたような、自分の自信につながりますね!
「そうですね。昔は火を起こせる人っていうのは、かなり位が高かったんですよね」
※自然のものを使ってどんな物を作るのか、気になりますよね。ということで、実際にスズキさんが作った道具を紹介してもらいました。まずは木で作るマグカップ、ククサです。
「これは今、大人気で、結構品薄だったりもするんですよね」
●お椀型のものに取っ手がついているような形で、意外と持つと軽いのでビックリしますよね。
「僕が今回持ってきたククサは、普通に売っている物と少し違うんですね」
●これはどういうふうにして作られたものなんですか?
「これは木の“コブ”を採って作りました」
●コブ!?
「このククサの形を見るとわかると思うんですけど……」
●ああ本当だ、ボコボコしてる!
「実は、原種のククサってこういう形なんですよね。要するに、これが普通に木についていたものなので。今回は木のコブも持ってきました」
●ククサになる前の、コブの状態も見せてもらえるんですね! 確かに、コブを使えば丸い形にしなくていいから、削る量が少なくていいですよね。
「これが“ブドウモク”っていう木のコブなんですけど、これはちょっと珍しいですね。そしてこれは、普通に樺の木からそのまま採って作ったククサですね。小さいほうのククサがブドウモクで作ったものなんですけど……」
●これ、普通に木のコブを切り取ってきていただいたものなんですけど、ここからククサになるのはちょっと想像ができないですね(笑)。
「でも、ちょっとこれ、見てください!」
●あっ、本当だ! 隣にククサとコブを並べると、それがわかりますね!
「そう、こういうことなんですよ。木工のククサっていうのは、材を切り分けて加工して作るんで、ああいう売られているような形になるんですけど、このククサっていうのはコブの形を全て利用して作ったので、(ククサの表面が)ボコボコした感じになるんですよね」
●でも、逆にボコボコしていることで、置くときに安定性がありますよね(笑)。
「意外と触り心地がいいんですよ(笑)」
●やっぱり、自然の素材を活かすっていうのがブッシュクラフトのポイントになってくるんですか?
「そうです。自然の物の形を利用して作るということですね。なるべく自然を活かすっていうことですね」
●他には、そういった活かす技術ってどんなものがありますか?
「ブッシュクラフトだと、あとはポットハンガーですね。僕のポットハンガーは竹を使っています」
●竹に穴が3つ空いていますけど・・・
「山をやっている方は、取っ手がないポットをよく使うんですけど、アルミだと熱くて持てなくなっちゃうんですよ。だけど、竹だと持てるんです」
●竹の節の部分を(ポットのふちに)引っ掛けるような感じで掴んでいるので、これだと取っ手代わりにもなるし、掴むこともできる……。うわぁ、理にかなってる!
「これは僕のオリジナルなんですけど、こういう使い方もあるっていうことですね。要するに、自然の物を利用して作る。竹は凄く曲げやすいですし、加工もしやすいですから、こういうこともできますね」
※最後に、いざという時に役立つ、こんな野外スキルもうかがいました。
「僕も山に行くとよく、ケガをするんですよ。その時に、今まで散々いろんなことをやったんですけど、一番いいのが“消毒しない”っていうことですね。ちょっと語弊があるかもしれないですけど、例えば毒とかの場合は消毒したほうがいいですけど、すり傷とか切り傷の場合、傷口を濡らしてしまうとなかなか(傷口が)くっつかないんですよね。
なので、そこはもう止血するまでずっと押さえておく。血が止まったら、僕の本にも書いてあるんですが、ワセリンを塗ったラップを巻いて、それでずっと固定しておくんです。特に、すり傷なんかの場合はすごくいいですね。傷が残らないんですよ。湿潤療法っていうものなんですけど、これは最近、僕はよくやっていますね。実際に治りも早いですしね」
●今、ずっとはがさないタイプのカットバンとかありますけど、それと同じ感じですかね?
「まさにそうです! 例えばそこにガーゼとか貼っちゃうと、それを剥がした時に傷口もまた剥がれちゃうんで、傷の治りも遅くなっちゃうんですよね」
●サランラップだったら、どこのお家にもあるので、そこもいいですよね!
「意外とすり傷って範囲が広かったりするので、そういう時にはやっぱりラップのほうがいいかもしれませんね。小さい傷だと絆創膏でもいいんですけど、傷が大きい場合とかは有効ですね」
●もちろん、医療機関にちゃんと見てもらうのが一番だと思うんですけど、もしもの時にはそういう応急処置もある、ということですね。
「先に消毒しちゃうと、傷を治す自分の力も全部奪っちゃうので……。もともと、人間には持っているものがあるので、それを活かすっていうことですね。それもブッシュクラフトですね」
●本当に今、そう思いました! 自然の素材も活かすけど、人間のポテンシャルや能力も活かされているんですね!
「結局、一番僕が伝えたいのはそこなんです。もともと僕らが持っているポテンシャルを上げるのが一番いいなと思っているんですね。やっぱり、便利にしちゃうと体がそっちに合わさっちゃうんですよね。不便になると、今度はそれを補うために自分の方が変わってくるんですよね。それが凄くプラスになるというか……」
●ブッシュクラフトを始めた頃と今では、スズキさん自身はどういった変化がありましたか?
「やっぱり、全然違いますね! 僕はもうほとんど、先が丸くなっている靴を履かないんですよ。僕はほとんど地下足袋か、夏はサンダルやわらじとか履いていますね。山に行く時も、サーファーの方はよくわかると思うんですけど、リーフブーツっていう、海の中でサンゴ礁とかの上を歩く際に履くものがあるんですけど、あれで僕は山を登るんですね。普通に登ると痛いんですけど、昔の歩き方とか、ちゃんと歩き方を覚えたら全然痛くないし、凄く軽いしいいんです。
靴っていうのは、自分の足を守るために作られたんですよね。その代わり、もともと僕たちが持っている足の力を、どうしても押さえちゃう。それで例えば靴擦れとか、黒づめになったり、靴のトーが当たったりして……。それがなければ、足は守れないですけど、足の能力を解放するということですね。まあ、どっちがいいかはわからないですけど、僕は解放する方を選んじゃったんで(笑)」
●そもそも、靴に何の意味があるかなんて、あまり考えたことなかったです、履くのが当たり前なので(笑)。
「さすがに都会に行くと、(靴を履いていない人は)少数派なんで、おしゃれなお店とかはちょっと入れないんですけどね(笑)」
●でももう一回、道具に使われているというか、何でその道具を使っているかを考えてみることから始まるのかな、という気もしますね。では最後に、ブッシュクラフトを通して、一番伝えたいことをリスナーの皆さんにお願いします。
「ブッシュクラフトっていうのは、昔の技術を再現していることが多いんですけど、“最新のものが最善とは限らない”っていうことを、僕はよく言うんですね。それは別に、最新のものがダメっていうことではなくて、お互いにいいところを見つけてミックスしたらいいんじゃないかと思っているんです。全て、昔の方がいいっていうことでもないし、現在のものが全部いいっていうわけでもないし、そういうところを自分で見極めて、楽しんで利用していくっていう方がいいんじゃないかなと思いますね」
最低限の道具で、工夫する知恵やスキルを磨く。これって、いざという時にも凄く役立つ技術ですよね。物の備えではなく“知恵の備え”。私も始めてみようと思います。
笠倉出版社 / 税込価格 1,728円
イラストや写真をふんだんに使って道具の作り方や使い方を解説しているので、とてもわかりやすい!見ているだけでも楽しい一冊です。ぜひあなたも、この本で野外技術を磨きませんか。
詳しくは、スズキさんのHPをご覧ください。