今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、「摘み菜を伝える会」の摘み菜伝承師・藤井文子(ふじい・ふみこ)さんです。
藤井さんは、兵庫県生まれ。子供の頃からヨモギ摘みなどの野草に親しみ、大学卒業後は山と渓谷社の編集長として数々の本を手がけ、摘み菜料理研究家・平谷(ひらや)けいこさんの本に携わったことをきっかけに、平谷さんが主宰する「摘み菜を伝える会」に参加。現在、フリーの編集者としての仕事の傍ら、野草の魅力を伝えるワークショップで講師を務めるなど、精力的に活動してらっしゃいます。
「摘み菜」はあまり聞き馴染みがない言葉かも知れませんが、実は私たちの身近にある「食べられる野草」のことです。今回は、そんな摘み菜の魅力を伝える活動をされている藤井さんに、摘んで食べられる春の野草や、美味しくいただく調理方法などうかがいます。
※それではさっそく、摘み菜とはいったいどんなものなのかうかがっていきましょう!
「世の中にはたくさん、“雑草”と呼ばれるものがありますよね。でも、雑草なんていうものは本当はなくて、みんな名前がついているんです。特に、そういう中から食べられる、それから昔からおじいちゃんおばあちゃんに伝わって食べられてきた、そういう野草を摘み菜と呼ぼうということで、“摘み菜を伝える会”の代表・平谷けいこさんが25年前に“摘み菜”と名付けて、会をスタートしました」
●例えば、野草以外にも葉っぱとか海藻とかはどうなるんですか?
「おっしゃるように木の葉っぱ、それから海の海藻、浜菜(はまな)と呼ばれる浜辺の植物、そういうのも全部含めて、食べられる野の花や野草を“摘み菜”と呼ぼうということで定義づけてはいます」
●食べられる摘み菜って、どれくらい種類があるんですか?
「世界的には、食べられるっていう定義をされているのが1万種あるんですね。そのうち、野菜とか、確立されているのが1000種。その中でもなおかつ、野菜とか出回っているのがまだ100種ぐらいしかないと言われているんですよ」
●えーっ!?
「となると、残りの900種。これって、摘み菜じゃん! ということです」
●じゃあ本当に、ごく限られた種類しか私たちは食べていないんですね!
「意外とそうなんですよね。新しい野菜とか珍しい野菜とか言われてはいますけど、私もその数字を見てちょっとびっくりしました」
●基本的に春夏秋冬、四季を通して何かしらの野草は食べられるんですか?
「そうです。それと、みなさん見ていただいたらわかりますけど、例えばヨモギなんていうのは、春のヨモギのワカメを摘んで、ヨモギ餅にしたりしますよね。ところが、夏になっても結構、若芽が出ていたりとか、秋になって花が咲きますよね。あの花って逆に、お茶にすると美味しいんですよ。あと、冬場になって赤いヨモギになると、何かの上にペタッと飾りにしたり、ピザにしたりすると食べられますので、そういう意味では春夏秋冬あります」
●じゃあ、ちょっとここからは具体的にオススメの摘み菜を教えていただきたいなと思うんですけど、何かありますか?
「ちょうど一斉に今から、摘み菜が芽吹く時期です。一番私が凄いなと思うのが、タンポポや桜が咲いたりとかはみなさんご存知だと思うんですけど、カラスノエンドウとかオオイヌノフグリはご存知でしょうか。ブルーの小さい可愛いお花が咲くんですけど、あれとかももう今からワッと咲きますから、もう今の季節はオススメがいっぱいです!」
●摘み菜は今が旬ですね!
「本当、そうです! ホトケノザとか、ヒメオドリコソウとか……」
●フキノトウとかはどうですかね?
「フキノトウはもう、ぼちぼち終わりかけですかね。東北の方に行くとまだあるんじゃないかなと思うんですけど。昨日、ちょっと面白いことを聞きまして……。フキノトウってみなさん、ちょっと芽が出たときに採りますよね。それを採ってふき味噌にしたり天ぷらにされますよね。昨日、ある先生に教えていただいたのが、東北地方ではもう少し茎が伸びて、“ちょっと薹(とう)が立っているんじゃない?”っていうぐらいのところを採って、それを塩漬けにして、茎のシャキシャキ感を味わいながら食べるそうなんですよ! 昨日、それを聞いて“ええーっ!?”っと思ったんです。今までは本当にフキノトウっていったら、芽だけを摘んでいたけれども、そういう摘み方もあるのかと思って……今が旬です!」
●結構、地域によっても楽しみ方っていうのは違うんですかね?
「そうみたいです。私が一番やっぱり摘み菜で面白いなと思ったのは、同じヨモギでも、ここの地域はこうだとか、例えばアイヌの方たちは儀式に使っていたとか、沖縄に行くとニシヨモギというのがあって、薬味としてお蕎麦の上にドーンとかけたり、ネギのような感じで使われていたりもして、それも楽しみのひとつなんです」
※それぞれの地域によって楽しみ方が違うのって、面白いですよね! なぜここまで地域差があるのか、藤井さんいわく、ひとつは気候による植生の違い。そしてもうひとつは、摘み菜が昔から暮らしの中にあったから。摘み菜の楽しみ方を知れば、それぞれの地域が見えてくるのかもしれません。
そんな摘み菜をいくつか藤井さんが持ってきてくださいました! さっそく紹介してもらいましょう!
「もう、一番美味しいハマダイコン! これは、葉っぱも茎も美味しいですので、このままサッと湯がいて炒めて食べたり、スパゲッティの上に乗っけたりとか……。アブラナ科ですから、どんな調理法でもいいですよ! 今、菜の花とかも出ていますが、同じような感じで食べていただくと美味しいです!」
●どんなところによく生えているんですか?
「ハマダイコンは川辺や海辺、水辺によく生えていますね」
●見つける目印というか、ポイントはありますか?
「小さなお花ですね。紫色や白色もありますが、アブラナ科ですので4枚の花びら、十字の花びらですね、この花が咲いていたら“見てください、採ってください!”ということですね。次はですね……これはみなさん、言われたらわかるものなんですが……」
●これは割と細長い葉っぱですけど、何でしょう?
「これがクコです」
●あ、クコの実!
「そうです! 赤い実がなって、みなさん干したのをよく食べられますよね」
●中華料理とかでよく出てきますよね。
「これは実はクコの木というか、木にはなっていなくて、もう枝が出たばっかりで、新芽のところは洗って生でも食べられて、美味しいんです! クコの葉っぱも美味しいです」
●クコって、中国じゃなくても普通に採れるんですね!
「日本の海辺にいっぱいあります、美味しいです!」
●クコの実は、火鍋風の鍋料理を自分で作るので、そこに入れるんですよね。じゃあこれ、食べても大丈夫ですか?
「大丈夫です! 上の方の、小さくて柔らかいのを摘んで食べてください」
●初めてです! 私、クコの実は凄く好きなんですけど、葉っぱを食べるのは初めてなんですよね! では、まずは芽を、柔らかいところから。小指くらいの小さい葉っぱなんですけど、これをじゃあ、いただきます……ん!? 普通にサラダ菜とかと同じ、全然クセがなくて食べやすいですね!
「ですから、自分でサラダを作るときに、レタスとか玉ねぎとか入れますよね。その上にクコの葉っぱをチラチラっと散らすととても可愛くって、あとハマダイコンの花とかを散らして食べたりとかしています」
●食感が柔らかいので、新芽というか、いいですね!
「美味しいのはそこだと思いますね」
●もう、すっかりハマっちゃって、他のも食べたいです!
「ありがとうございます! 私の一番のオススメはこれなんです。これは最近、相模湾の浜辺で見つけることができるようになったんですけど、ボタンボウフウと言います。葉っぱがボタンみたいになっているでしょ?」
●立派な大きな葉っぱがありますね!
「沖縄ではこれを長命草(ちょうめいそう)って言って、野菜として売られているみたいなんですけれども、これが野生で生えてきているっていうので、ちょっと驚きもしたんですね。セリ科なんですが、ちょっと食べてみてください」
●はい。じゃあ、柔らかそうな葉っぱを……あっ、セロリ!
「はい、そうです(笑)! セリ科なので、セロリの味がしますよね」
●でも、なんだろう……凄く生命力を感じるというか、なんか力が出てくる気がしますね!
「沖縄では、一枚それを採って1日食べると、1日寿命が伸びる。だから長命草って言われているみたいなんですよ。もう本当に普通に食べられていて、私もこれはそのまま食べる時もあるし、ジュースにしますね。リンゴとか人参とかと一緒に入れて、その中に一枚だけジューサーに入れていますね」
●確かに、グリーンスムージーとかに入れたらよさそうですよね!
「はい、これはちょっと驚きでした!」
●でもこれ、相当葉っぱがありますから、だいぶ長生きできますね!
「そうですね(笑)」
※摘み菜はどれくらい昔から親しまれてきたのでしょうか。百人一首にもある、こんな和歌から教えて頂きました。
「これは古今和歌集にあって、みなさんご存知かと思いますが、“君がため 春の野に出でて 若菜つむ”っていう句があるんですね。ちょうど旧暦の2月ですから、七草じゃないかなと思うんですけど、若菜を摘んでみんなで食べるという瞬間が、やっぱりこの時代からあったんだなということで聞いています」
●それだけ昔から私たちの暮らしに溶け込んでいたんですね。
「はい。若菜を摘んで、ちょうど春になる前に苦味を入れてデトックスをするとか、本当に昔の人は知恵としてそういうことを知っていたんだなということを、改めて感じますね」
●食べる以外にもいろいろな楽しみ方をしていたんですかね?
「そうですね。よく私たちが使うのは、お皿ですね。伊勢神宮にお供え物をするときには必ずアカメガシワっていう葉っぱが使われるとか言われますので、できるだけ葉っぱも“しきば”と呼んで使ったり、それから箸置きも、ちょっと硬い木質の摘み菜を摘んできて、それを箸置きにしたりとか、そういうことはずっとしています。それとあと、使われ方ですけど、摘み菜でいろんなものを染められるんですね」
●へぇ! 結構、しっかり染まるものなんですか?
「染まりますね!」
●緑色の他にも、いろんなバリエーションの色に染められるんですか?
「そうですね、ドクダミで染めると黄色く染まったり、クサギっていう青い実があるんですが、あれは本っ当に綺麗な、実の色のような青に染まります!」
●野草で青く染めることもできるんですね!
「だから古来の人たちは、そういう形でいろんなものを染めたり、お皿にしたり、野草と親しんできたんじゃないかなと私は思います」
●例えば、摘み菜を楽しむ文化っていうのは、海外にもあったりするんですか?
「はい。たまたまですけど、台湾に行って若い人たちと交流をしたときに、(台湾にも)ツユクサがあったんですね。ちょっと種類は違うんですけれども、そのツユクサを摘んで大福に練り込んだりとかしたら、みなさんに好評だったり……。
ただ、文化としてあったのは実はイタリアなんです。この間、“イタリアに行って摘み菜をします”って言ったら、現地の主婦のかたが何人かいらしたので、一緒に歩いたんですよ。そしたら、“これ、食べてるよ!”“あれ、食べてる!”って言っていて、意外だったんで思わず“えーっ!?”って言ったんですよ。それで“そういう(摘み菜の)会はありますか?”って聞いたら、交流会をされていて、びっくりしました! “今度、イタリアに行ったときに、日本ではこういう風に食べますとかっていう、交流会を一緒にしませんか?”と言ったんです。
(交流会に行って)見たら、タンポポですとか、イタリアではゴボウの葉っぱなんていうのも出ていましたね。“ゴボウって野菜じゃないの!?”なんて思うんですけど、その葉っぱは食べられるものだとか、タラッサコって言ったらタンポポだったりとか……。日本では食べない、あまり見たことはないんですけれども、シラタマソウっていうのがシレネっていう美味しい野草になっていたりとか……」
●パリエタリアとか、ちょっとイタリアっぽいですよね(笑)。
「そうですよね! 何だろうと思って調べてみたら、カベイラクサなんですね。日本ではイラクサってあんまり食べないんですけれども、しっかりこの新芽を食べて、(それが)デトックスだっておっしゃっていました。だから“一緒なんだ〜!”と思って、大喜びしました(笑)」
●食べ方はどうしているんですか?
「湯がいてスープにしたりとか、あとパスタのソースにするとかっていうのが多かったですね。驚きました!」
●それは驚きでしたね! イタリアといえば食のイメージがありますけど、そういう人たちをも虜にするのが摘み菜、ということなんですかね?
「はい! もうそれは大発見で、こういう交流ができるのが夢だったんです。資料を送ってもらって日本語と照合してみると、本当に私たちが食べているものと同じようなもの、ただやっぱりちょっと植生が違うので、形が違うとかはあるんですけど、まさかイタリアでこういうことができるなんて思わなかったので、“やった〜!”とか言って、ちょっと小躍りしましたね!」
※摘み菜を採る時には、こんなことに注意してください。
・根こそぎ採らない。一部だけをいただく。
野草は栄養価も高いので、少しだけで充分。
・公園など除草剤などが使われている所の摘み菜は、摘んではダメ。
・毒草もあるので、最初は知っている人と一緒に行なう。
特に、摘み菜を始めたては何でも食べてみたくなってしまいますが、これは危険。そのためにも、藤井さんは摘み菜の会を開催して仲間たちと楽しむことをおすすめしています。
そんな摘み菜の会に参加した子供たちについて、ちょっと驚きのこんな反応があったそうです。
「子供たちなんかとイベントでよく一緒に作るんですよ。そしたら、子供たちは自分が摘んでトッピングするわけですから、お野菜を嫌いな子たちも平気で食べるんですね。お母さんは大喜びで、“えっ、この子、普段は野菜食べないのに!”とおっしゃるケースが多くて、不思議とこうやって摘んで遊んで食べ物にすると、いいみたいですね」
●変な話、野菜より全然、野菜臭いというか(笑)、草の味がするのに、子供たちは喜んで食べちゃうんですね!
「そうなんです! それはどこに行っても一緒で、これが嫌っていう子は少なくってびっくりします。ヨモギが上にぼーんと1枚乗っていても“おいしー!”とか言っているんです。やっぱり、自分で摘んで乗っけるっていうのが楽しんでしょうね。でも、それが摘み菜を伝える会のひとつの願いなんですよ。子供たちにヨモギとか野草の味を伝えていく、摘んで食べるっていうことを伝えていきたい。ですから極力、イベントに来た子供たちには“自分で摘んで食べてみて!”って言っています」
●野菜だと、どんなふうに育っているのかもスーパーで買ってきちゃうとわからないですもんね。
「お魚も同じように言われますけど、特にお野菜は旬もなくなってきていますので、少しずつ摘んで食べてみて欲しいなと思います」
●じゃあ最後に、ぜひリスナーの皆さんに摘み菜を通して藤井さんが伝えたいことを教えてください。
「一番感じたのは、都会では摘めないんですよ。それはなぜかというと、自動車の排気ガス、それから犬の散歩、人の多さとかもありますので、改めて都会では摘めないということに気がついたんです。“野草なんてどこにでもあるじゃないか”って言うんだけれども、いざ摘んで食べるとき、やっぱり自然の綺麗なところや、残っているところへ行きますよね。そこでやっぱり、感じたんですよ。“摘み菜ができないと、日本ってダメだよね”って。やっぱり伝えたいのは、そこですよね。摘み菜ができる環境っていうのを守ることが、ひとつの大きな、これからの私のテーマになるのかなと思います」
●もしかしたら、摘み菜目線で世界を見ることで、生き物たちと同じ気持ちで世界を見られるようになるのかな、なんて思いました。
「かもしれないですね。それは、野菜では感じられないことですよね。摘み菜が摘める、摘み菜が元気に生きている。それは、やはり環境が守られている、自然環境が健全であるっていうことだと思いますね」
今まで綺麗だなと思って見ていた草花ですが、食べようと思って見てみたら、なんだか違った世界が見えてきました。あなたもぜひ一度、「摘み菜目線」で自然を見てください。きっといろいろなことを感じられると思います。
山と渓谷社 / 税込価格 1,620円
摘み菜の参考書として、藤井さんが編集された本はいかがでしょうか。摘み菜料理研究家・平谷けいこさんほかが書いた、摘んで楽しい、食べて美味しい摘み菜本です!
詳しくは、山と渓谷社のHPをご覧ください。
また、藤井さんのブログ「摘み菜ガーデン便り」もぜひご覧ください。イベントのお知らせもあり、こまめに更新もされていますよ!