今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンは、シリーズ「宇宙への挑戦〜最新テクノロジーがもたらす未来」の第1弾をお送りします。
今回はドラマ『下町ロケット』に登場する衛星のモチーフになった「みちびき」という衛星システムの可能性に迫ります。お話をうかがうのは、NECソリューションイノベータ株式会社・社会インフラソリューション事業部の神藤英俊(じんどう・ひでとし)さんです。
「みちびき」は準天頂衛星と呼ばれていて、地球上から見て、真上(90度)に位置するのではなく、60度ほどの傾いた位置にあるので、天頂ではなく、“準”天頂なんですね。実は、この傾きが重要なんです。そして「みちびき」は位置を測る衛星、つまり測位衛星で、現在4機が運用されています。複数飛んでいることも、とても重要なポイントなんですよ。
すでにこのシステムを使ったサービスは去年2018年11月から始まっています。ということはすでに私たちの頭上には「みちびき」が飛んでいるんです! 一体どんな軌道で飛んでいるのでしょうか?
「“準天頂”っていうのは、地球のほぼ真上にいる、という意味なんですが、4機のうち3機が日本の上空をカバーするような仕組みになっています。それがだいたい、1日に3機が入れ替わり立ち替わり日本の上空をカバーすることによって、24時間、必ず1機は日本の上空にいるということになるんです。
そしてもう1機は“静止衛星”と言いまして、動かないように見える衛星なんですが、こちらはフィリピンの上空ぐらいに位置して、日本からはだいたい60度ぐらいの高さに見える衛星になっています。この4機で構成されています。
アメリカのGPS衛星などは30機ぐらいあって、地球上をぐるぐる回っているんですけど、非常に早いスピードで回っていまして、30分ですぐにいなくなってしまうぐらいのスピードなので、安定して位置情報を得るためには、(「みちびき」の衛星が)日本の上空に8時間もいるというのは、非常にメリットが大きいということです」
●もう今、実際に運用されているんですよね。
「そうですね。昨年2018年の11月1日からサービスを開始しまして、24時間電波が流れています」
●具体的には今、どんなサービスが提供されているんですか?
「一番わかりやすいのは、スマートフォンとかカーナビでも受けられる衛星からの電波ということで、その位置情報を知るためのひとつのツールとして使われています。これはアメリカのGPSとかと同じ測位精度ですけど、日本の上空に長い時間いるので、衛星からデータを受ける機会が非常に多くなるというのが、ひとつのメリットになります。 なので、例えば新宿副都心のような高層ビルの間でも、衛星からの電波が届きやすいんですね。GPSとか他の国の衛星は、すぐに低い位置に行ってしまって、ビルの影になって電波が届かないなんてこともありますけど、みちびきからの電波はすぐに受け取れるので、そういう意味では、測位する仕組みとしては非常に品質の高いものが提供できるんですね。
それ以外に、他の衛星にはない機能としては、より高い精度を出すための“補強情報”と言われているものを出す機能です。そのひとつが、ドラマ『下町ロケット』でも話題になった、“センチ・メートル級のサービス”ということで、センチの精度を出せるものです。静止ですと6センチぐらい、移動時ですと12センチぐらいの精度が出るというものです。
もうひとつが、“サブメータ”と呼ばれているもので、だいたい1〜2メートル程度。測位精度としてはセンチには敵わないですけど、受信機自体が小さく軽く、安く提供できる、というものがあります」
●本当に『下町ロケット』でも感動したんですけど、数センチ単位でしか誤差がないって、凄いことですよね!
「そうですね。その、もと情報が、3万キロも上空からやってくる電波で、センチの精度が出せるっていうのは、なかなか体感しても“……本当?”みたいなところはあります(笑)。電波を受けられるところであれば、暗闇でもできますからね!」
●素晴らしい! 今、実際に例えば、(日常生活の中で)スマートフォンとかで地図情報アプリとか使うじゃないですか。そういう時にも、私たちは「みちびき」の電波を利用していることもあるということですか?
「そうですね。今、最新のスマートフォンでは、ほとんどがみちびきに対応していますので、みちびきの電波を受けているのは事実ですね」
●じゃあ、もしかしたら私たちが都会で道を探している時には、「みちびき」のお世話になっているかもしれないということですね! 今後、精度が上がったりはするんですか?
「すでに、非常に高い精度の電波は出ていますので、それに対応した製品がこれから市場に出てくると思います。それによってメリットが非常に大きく感じられる人たちも出てくるのではないかなと思います。
サブメータと言われている信号に関しましては、今ちょうどいろんな受信機に対応したものも出ていまして、価格も安いものですから、サービスとしてはいくつか始まっているというところですね。ホームページにも出ていますけど、ゴルフナビのような時計型タイプも非常にセンセーショナルな商品かと思います。これはメートル単位でわかるので、ホールまでの距離とか、方角も含めて一発でわかってしまうというのは、非常に便利なツールじゃないかなと思います」
●そうすると逆に、(ゴルファーの)技術が問われそうですね(笑)。
「そうですね、データは取れますけど、その通り体が動くかっていうのは別ですね(笑)」
※下町ロケットにも出てきました、“農機具”への活用も気になりますよね。ということで、「みちびき」を使うと農業でどんなメリットがあるのか、神藤さんにうかがいました。
「今までは農家だと、だいたいお父さんが(農機具を)運転するわけですけど、お父さんが体調が悪かったら刈り取れないとか、農業を始めるための最初のトラクターでまず、耕せないとか、いろんなことが起きてしまいます。農業って生きている植物、つまり生き物を相手にしていますから、やっぱりタイミングがあると聞いています。確か、『下町ロケット』でも(そんなシーンが)あったと思います、“きょう、ここで刈り取らなきゃどうするんだ!”と。そういった時に、お父さんの調子が悪かったら、無理してやっても事故を起こしたりといった原因になるので、お母さんとかアルバイトの方がボタンひとつでできれば、かなり違うと思います。
それからやっぱり、人手不足というのは農業だけではないんですけど、農業はすごく顕著な状況になっていますので、人手不足を解消するためにも自動で、もしくは半自動でやって、より効率を上げて、人がもっと注力しなきゃいけない部分、例えば農業のいろんな計画を立てることですね。“このあと、どうしようか?”とか、人間の頭じゃないと考えられないことがたくさんあると思うんですけど、そっちに自分の頭を使って、機械にはその間、自動でやってもらうっていうのが、凄く期待されているところだと思います」
●『下町ロケット』では、悪天候だったり暗い中でも自動で作業をしていましたけど、そういったことも可能になるんですか?
「そうですね、衛星の電波は24時間降っていますので、明るさは関係ないです。あとは安全基準ですね。『下町ロケット』にも、人が目の前に立ったら止まるシーンがあったと思いますけど、ああいうものも今、標準で入っていると聞いておりますので、そういうのもセットで使われるということだと思います」
●数センチ単位の誤差で自動運転ができるようになったというのは、「みちびき」の技術としてはどの辺が一番活かされているんですか?
「受信機もそうですし、みちびきの作る“補強情報”と言われている、精度を上げるための仕組み、こういうところが今まで他の衛星群にはなかったサービスのひとつではないかなと思います。測位精度が出せるものは、他の国の衛星には今はないので、おそらく世界でもナンバー1の測位精度ではないかなと思います」
●この精度が高い農機具が農家さんに使われることによって、人手不足の農業はこれから本当に明るい未来が感じられますね!
「受信機の値段が残念ながらまだちょっと高いので、もう少し値段が落ちてくれば、従来のものとそんなに大きく値段も変わらず、一般の方が購入できるようになるのではないかなと思います。ぜひそこに向けて、なかなかNECでは受信機を作っていないものですから、ストレートには言えないんですけれども、需要が上がれば供給の値段も下がると思いますので、これから期待が非常に見込めるところだと思います。
さらに、まだ受信機は大きいんですけど、ここ1年ぐらいで半分になって、さらに半分になって……価格も半分になって、半分になって……。じゃあ、ベースはいくらだ? っていうのはありますけど(笑)、だいたい100万円ぐらいだと聞いていますので、半分になっていくとコストパフォーマンスがいい形になるので、いろんな物に入ると思います」
●そうですよね、携帯電話とかも最初は大きかったですけど、どんどん使う人が増えることによって、軽く安くなってきましたもんね!
「そうですね。今、受信機のサイズがスマートフォンの2倍ぐらいの底面積なんですけど、これがスマートフォンサイズになって、さらには名刺サイズぐらいになって……っていうことを、開発している受信機メーカーさんからは、ほぼ、そういうロードマップで進むと聞いていますので、非常に楽しみなところかなと思います」
※これから活躍が期待される分野が災害時。準天頂衛星システム「みちびき」は、いざという時にこんなふうに活用できるそうです。
「位置情報以外に、メッセージを配信する機能、それからメッセージを受け取る機能も持っていまして、これも海外の他の衛星にはないサービスになっています。特に、位置情報以外に、災害危機の通報を受け取る仕組み、これを災危通報というんですけど、こちらのほうは、サブメータの中に織り交ぜて、一緒に降ってくるので、サブメータの受信機に対応しているものであれば、ソフトウェアを追加するだけで災危通報、つまり災害時のメッセージを拾いだすことができます」
●確かに、いつでもテレビとかいろんなメディアを見られる状況にはないわけですからね。
「特に、大規模な震災などが発生したあとは、一時的に停電だとか、インターネットも含めて使えなくなる時間帯がある程度発生すると思いますけど、その時にも衛星からの電波で、どんな地震、どれくらいの規模、津波が何分後にやってくるか、などが受け取れれば、それは非常に重要な情報じゃないかなと思いますね」
●通報以外にも、その衛星を使って何か自動的に解放する、例えば自販機の飲み物を飲めるようにするだとか、公衆電話がタダで使えるようになったりとか、そういう情報を送ることもできるんですか?
「送るというよりは、自動的にそういう装置が判断するんですね。今から2年ぐらい前ですけど、自動販売機を使って実証実験をやったことがあるんです。災害時のメッセージを受けて、受け取った自動販売機は自分の位置情報はわかりますので、それが該当する場所であれば、“今から自動販売機を無料のモードにシフトしよう”ということをやりました。それで、自動的にランプが全部、押せる状態になったというのを確認しています。
これは自治体さんが入れているものがほとんどなんですけど、災害時には1台ずつ自動販売機に連絡をして、“今からあなた、無料のモードになりなさい”と、700台ぐらい、3.11の時にやったと聞いておりまして、凄く大変だったと。それが、今回の“位置情報”を使うことで、衛星からいっぺんにデータが落ちてきますから、自分が該当するエリアだったら自動的に自販機のモードが変わるということが、将来的には可能になるのではないか、ということを実証実験ではやっています」
●もしもの時のために、空から見守ってくれる強い味方、っていう感じですね!
「そうですね!」
●あと、“衛星安否確認サービス”は、もしこれから災害が起こった時には、具体的にどういうふうに活用されていくんでしょうか?
「これは現状、避難所に人が避難するわけですけど、避難所ってたくさんあってですね、その情報を実際に人が集めるのって物凄く大変で、基本的には災害時は車では行けないので、歩いたり走って(避難所までやって)くると聞いています。例えば自分の管轄する自治体に避難所が100箇所もあったら、(情報を)集めるのに物凄く時間がかかってしまいますよね。
ところが、この送信機があればあっという間にデータを集めることができる。避難所に何人いるのか、男性が何人、女性が何人、怪我している人はいるのか、日用品として何が不足しているのかなどの情報までも入れることができるので、災害発生の直後に避難した人たちの情報を、かなり早い段階で自治体に集めることができます。
初動で、この避難所に何人いるかという統計が出ると、次は日本赤十字のかたや自衛隊、警察のかたがどこに向かえばいいかがわかるんです。今までは、どこに向かえばいいかがわかるまで、時間がかかってしまっていたんですが、そういうところがかなり解消されると考えています」
●今までよりも精度が高く、そういったことができる、ということですか?
「“早く”ですね。やっぱり初動が大事だということです。最初の72時間を越えると、なかなか厳しくなってしまうので、最初の72時間ですぐに人を派遣したり物資を運ぶということができるようになるのではないかなと思います」
●これは世界初のサービスなんですよね!
「そうですね。他の衛星ではこういうものはやっていないですね。大もとは3.11を受けて、こういう機能が追加されたと聞いています」
※実は、アウトドアの場面でもこれから活躍してくれそうなんです! 例えば、山登りの場面ではこんなふうに使えるそうです。
「山間部でも、空が全然開けていないと厳しいんですけど、かなり狭いところでも位置情報とかが取れます。GPSと完全互換の製品がまだまだ多いですけど、みちびきの電波を受けることで、今まで測位できなかったところでも測位できる。要は位置情報がわかるというものが、製品としてはもうだいぶありますので、そういうメリットはあると思いますね。
あとはやっぱり、スポーツでも使ってもらいたいなと思っていて、先ほども出てきましたサブメータの、1〜2メートルの測位精度のものを自転車につけるとか、そういう事業はいくつか始まっています。例えば、観光にも利用してみよう、とかですね」
●自転車につけて、どういうふうに活用するんですか?
「今の自分の位置がわかると、例えば観光情報をプッシュ配信で教えてくれる。ある街に入ったら、その街の観光情報を伝えてくれる。そして自転車で走っていって、また新しい街に入ったら、その街の情報が耳に入ってくる……。わざわざ自分で降りていろいろなことを確認しなくても、耳に直接入ってくるサービスも、いくつか始まっています」
●そういう楽しい可能性っていうのもたくさんあるんですね!
「そうですね。あと、最近よく言われているのは、イベントとかでも使われるケースが非常に多いんですね。インターネットで検索してもらうとわかるんですけど、ねぶた祭りの時に“山車(だし)が今、どこにいるか”とか、実はあれにもみちびき対応の受信機をつけて、アプリケーションを入れると、自分が見たい山車が今、どこにいるか、それがわかるんですね。これは実証実験ベースですけど、ほぼサービスに近いと思います。そういうことをやっている事業者さんもいますね」
●確かに、(ねぶた祭りは)凄い人ですもんね! すぐに見つけられると、すぐにそこに行けていいかもしれないですね! 本当に数センチ単位の誤差で位置情報がわかるだけで、私たちの暮らしがもっともっと便利に、楽しくなっていくんですね。
「そうですね。あらゆる分野で使えることが今後、期待されますので、動くものだけではなくて、止まっているもの、例えば先ほどの自動販売機って動かないじゃないですか。そういう使い方とか、いろいろあるんじゃないかなと思います」
*実は「みちびき」のシステムはこんな物との組み合わせも期待されています。
「ドローンでみちびきの精度が出たら、どんなことができるんだろうというのが、凄く楽しみでですね! 実証実験はもう、いくつかやってもらっている企業さんもあってですね、ピンポイントで離着陸ができるようになるんですね。今のGPSの精度ですと、例えば庭に降ろそうとしても、もしかしたら道路に行っちゃうかもしれないですけど、ピンポイントで自分の家の庭に降りてくる、というようなことができると思います」
●本当にドローンはこれから災害の時にも活躍できそうですし、それに「みちびき」が合わさったら最強ですね!
「そうですね! ピンポイントで物を運ぶ、その場所の状況を見るなどもできるようになると、非常に使えるものになるんじゃないかなと思いますね」
遥か宇宙の高度3万キロから、わずか数センチの誤差で測位できる日本のテクノロジー、本当に凄い。個人的には山登りの時に、「みちびき」の力で自分の位置が正確にわかるようになれば、かなり心強いです。今後、どんな活用がされていくのか、期待が膨らみますね。
「みちびき」について、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
また、NECの宇宙開発への取り組みについては、NECのオフィシャルサイトをご覧ください。